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塔の美女

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6部分:第六章


第六章

「断じて。それだけは」
「だから言っておるじゃろうが」
 その憎悪の声をダルタニャンに告げる。
「貴様は所詮。わらわの糧となるに過ぎぬとな」
「諦められませんか」
「そんなことは元よりないわ」
「それでは」
 ダルタニャンも断じて引くつもりはなかった。そうして再び剣を振るう。両者の攻防は激しさを増す一方だった。しかしその時だった。
 扉が壊された。何か重い衝撃を持つもので。
「!?一体」
「何事じゃ」
「御主人様、御無事ですか!」
 これはダルタニャンがよく知る声だった。
「私ですよ!私が来たからにはもう大丈夫です!」
「ジャン、来たのか」
 扉は次々と壊されていく。見ればハンマーで破壊されていた。彼がよく知るジャンらしい元気はいいが強引でかなり荒っぽいやり方だった。
 そのやり方で扉を完全に壊し部屋の中に入って来た。やはりその両手にハンマーがあった。
「ここに」
「全く。何かあってからじゃ遅いんですよ」
 ハンマーを手にしての言葉だった。
「間に合って何よりでしたよ」
「しかし。相手は」
「悪魔ですか?死霊ですか?」
「死霊だよ」
「何だ死霊ですか」
 それを聞いても特に驚いた様子はなかった。ごく自然の顔であった。
「それなら大丈夫ですね」
「死霊だって聞いても驚かないのか」
「ええ、全然」
 本当に平気な様子のジャンだった。
「そんなの怖がっていたらどうしようもないじゃないですか」
「相手が化け物でもかい?」
「御主人様の飛び込む先なんていつも滅茶苦茶ですから」
 笑ってこう言う。
「死霊とかでいちいち驚いたり怖がったりできませんよ」
「僕はそんなに無鉄砲なのか」
「少しは自覚して下さい」
 自分のことは棚に置いている。
「そういうところも。いいですね」
「わかったよ、全く」
「わかって下さったらいいです。それじゃあ」
 あらためて彼が言う死霊に顔を向けるのだった。
「この何か凄く偉い人を何とかすればいいんですね」
「そうだよ。とりあえず右腕は何とか斬ったけれどね」
 しかしそれでもだった。ディアナは全く衰えてはいなかった。
「まだ全然。衰えてはおられないね」
「そうですか。なら」 
 主の言葉を聞いたジャンは早速動いた。
「これなら・・・・・・!」
「!?」
「どうやら凄く身分の高い人でしょうけれどそれでも」
 姿形からそれを察しているジャンだった。
「御主人様の危機、勘弁して下さいね」
「!?それは」
 ジャンが投げたのは十字架だった。先程ダルタニャンが彼に与えたあの銀の十字架だ。彼は今それをディアナに対して投げつけたのだ。
「まさか」
「そのまさかですよ。死霊ならこれで!」
 十字架を投げ終えた姿勢で言う。
「かなりの痛手を負う筈です!」
「ぬうっ!」
 ジャンのその読みは当たった。十字架はディアナの胸を撃ちそうしてその胸を焼いた。その熱さで身体を焦がされもがき苦しみだした。
「ううう・・・・・・」
「効いている」
 ダルタニャンはもがき苦しむディアナを見て言った。
「十字架が。効いているんだ」
「御主人様、今ですよ」
 ジャンはすかさずといった勢いで主に声をかけてきた。
「今です、早く」
「うん、そうだね」
 彼もまた従者のその言葉に頷くのだった。
「今こそ。ではディアナ様!」
「なっ!」
「お覚悟、御無礼をお許し下さい!」
 一気に突撃し突きを繰り出した。もがき苦しむディアナにそれを避けることはできなかった。心臓を貫かれ。遂に動きを止めたのだった。
「おのれ・・・・・・」
「お休み下さい」
 憎悪と憤怒に満ちた顔の彼女に対して言った言葉だ。
「もう。怨みや憎しみなぞお忘れになって」
「ぬかせ・・・・・・」
 歯噛みしながら言うディアナだった。
「まだ、まだわらわは」
「憎悪は何も生み出しはしません」
 剣を抜きつつ静かに述べるダルタニャンだった。
「そう、何も」
「わらわは。決して諦めぬ」
 だがそれでもディアナは言い続けていた。
 
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