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異人

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2部分:第二章


第二章

「ない筈はないだろう、絶対に何かある」
「それが何かですが」
「口裂け女はポマードだったな」
 校長先生はまた口避け女を出してきた。この謎の妖怪の弱点はポマードでポマードと叫べば逃げると言われていたのだ。ついでに言えばベッコウ飴が好物だったという。
「そうでしたね、確か」
「では今風でムースか何かか?」
 思いつきだがこう言う校長先生だった。
「それなら」
「どうでしょうか。それはわかりませんが」
 教頭先生もわかりかねていた。
「そうなるかもですね」
「とにかくだ。弱点は絶対にある」
 校長先生は断言する。
「妖怪ならな。それがわかれば違うな」
「そうですね。本当に」
 二人は学校から帰る前にそんな話をしていた。それが何処からか街に流れた。すると急に異人の弱点が出来た。雄吾はまた学校の帰り道に美香に話をするのだった。
「ムースが嫌いなんだって」
「ムースってあの整髪料の?」
「うん、そうらしいよ」
 そう美香に話す。
「何でもね、異人はクリームが好きらしいんだ」
「クリームが好きなの」
「それでムースとクリームを間違えて食べてから。それが大嫌いになったらしいんだ」
「何か間抜けな話ね」
 美香はそう答えて雄吾の話に首を傾げさせた。
「それってとても」
「僕もそう思うけれどムースが嫌いなのは本当だよ」
 それでも美香にこう言う。
「だからさ。一つどう?」
「くれるの?」
「だって。若しかしたら一人の時に異人に襲われるかも知れないじゃない」
 真剣な顔で美香に対して言う。
「だからだよ、はい」
「有り難う」
 美香は少し考えた後で雄吾の差し出したそのムースを受け取った。
「じゃあ何かあった時にね。使わせてもらうわ」
「絶対に使わないと駄目だよ」
 雄吾はそこを念押ししてきた。
「さもないと。そのまま殺されるからね」
「斧で真っ二つよね」
「隣町の子がそれで殺されたらしいよ」
 噂話がまた出る。こういった話では伝聞が伝聞を呼ぶ。そうして犠牲者が絶対に出るのである。
「頭から真っ二つにされてね。道に転がっていたらしいんだ」
「真っ二つに!?」
「うん、真っ二つ」
 そう美香に言う。
「だからさ、美香ちゃんも気をつけてね」
「え、ええ」
 怯える声で雄吾に対して答える。それと共に今手に持っているムースが非常に頼もしく思えるのだった。
「わかったわ。それじゃあ」
「夕暮れ時に出るからね」
 まだ日は高い。それで二人はまだ安心していた。
「その時になったらね」
「家の中には入って来ないわよね」
 美香はふとそれを心配した。
「家の中に入って来られたら」
「家の中までは追って来ないそうだよ」
 雄吾はそう答えた。
「何でも。出るのは街中だけで」
「家の中までは追って来ないのね」
「うん。それで家の中まで入れば助かるってさ」
 また一つ妙な話が出る。しかしそれが何故かまでは話されないのだった。
「とにかくさ。何かあっても助かる方法はあるから」
「諦めたら駄目なのね」
「何かあったら僕もいるから」
 ここで雄吾は急に美香を守ると言い出した。
「いいね、怖がることはないよ」
「うん」
 二人はそんな話をしながら家に帰る。そうしてそれから毎日一緒に登下校をするのだった。
 
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