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異人

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1部分:第一章


第一章

                      異人
「あのさ」
 小学校の帰り道。草尾雄吾はクラスメイトの女の子木村美香に不意に声をかけてきた。雄吾は背の高い大人びた子供で美香は背の低い茶色の長い髪の女の子だ。二人並んで歩いているとどちらも同じ六年生にはちょっと見えなかった。
「最近出るらしいね」
「出るって何が?」
「お化けがだよ」
 雄吾はそう美香に告げた。
「ああ、あれ!?」
 美香は雄吾の言葉を理解したのかその可愛らしい顔を急に曇らせていく。
「聞いてるわ。何か凄く大きな人が夕方に出るのよね」
「そう、それで小さい子供をさらっていくんだ」
 雄吾も強張った顔で話す。本当に存在していると信じて疑っていない顔であった。
「それでそのさらった子供だけれど」
「どうなるの?」
「北朝鮮に連れて行かれるって噂だね」
「嘘、それって凄く怖いわよ」
 子供達の間でもこの国のことは知られているようだ。さながら特撮の悪役のような扱いであるが外れではないのが実に恐ろしい話である。
「そんな人がいるなんて。警察は何やってるのよ」
「それが手が出せないらしいんだ」
 ここからがそうした話の凄いところである。
「何でもその手に何でも切る鎌を持っていてね」
「うん」
「百メートルを一秒で走って車を持ち上げたりするらしいんだ。だからとても手が出せないんだって」
「そうなの」
「そうさ。だから子供達も絶対に逃げられないんだって」
 そういう話になっている。実際のところそれが本当かどうかはわからない。
「それで北朝鮮に連れて行かれるらしいんだ」
「それでそのお化けってどういう格好しているの?」
「凄く背が高くてね」
 夕伍はとりあえず聞いた噂を元に話す。
「髪が金色で目が青くて」
「外国の人?」
「そうらしいんだ。鼻が高くてとても怖い顔をしていて」
 こうした存在が怖くない顔をしていない筈がない。
「口がとても大きいらしいんだ。名前は異人さん」
「外国の人って意味ね」
「昔に日本に来た外国の人の幽霊らしいんだ」
 経歴まであった。
「日本に連れて来た子供が病気で死んでおかしくなってね。それでお化けにまでなったそうなんだ」
「その人が私達をさらうのね」
「だからさ、美香ちゃん」
 ここで雄吾は真剣な顔になる。
「一人になったら駄目だよ、絶対にね」
「ええ、わかったわ」
 二人はそんな話をしながら家に帰る。既にこの異人さんの話は学校の先生達の間でも問題になっていた。子供達が怖がっているので皆気にしていたのだ。
「こうした話は何時でもあるな」
 校長先生は教頭先生を前にして校長室で困った顔をしていた。絨毯の上にある校長の席も今は随分と座り心地が悪く感じられた。
「口裂け女とか人面犬とか。またか」
「しかし校長、今回も本当にいるようです」
 教頭先生はあえて本当にいると言った。
「どうやら」
「そうか。今度もか」
 校長先生もそれを受けて本当にいると応えた。
「困ったな、実際にいるとなると」
「はい、子供達に被害が出ます」
「どちらにしてもあれだよ」
 校長先生は困った顔のままで述べる。
「子供達が怖がっている。何とかできないか」
「一応警察の方から集団登下校を勧められています」
「それだな、後は親御さんの協力か」
「はい。塾や習い物の往き帰りには付き添いで」
「うむ。まずはそう対策をして」
 口避け女の時のことを思い出していた。その時の対策を踏襲していた。
「それで行くか」
「しかし、話が大きくなっています」
 教頭先生はまた言う。
「一人だったのが三人になったりしていますし」
「最近では鎌ではなく巨大な斧を持っているそうだな」
「それで子供達を真っ二つにするそうです」
 話がさらうのから殺すといったものにもなっていた。何故か尾ひれがついてきているのだ。
「真っ二つか」
「それを聞いて子供達もさらに脅えて」
「困った話だ、全く」
 校長先生はそれを聞いてまた苦い顔になった。
「噂を消すことなぞできんしな。どうしたものか」
「その異人に弱点はあるのでしょうか」
 教頭先生はふとそれを言ってきた。
「どうなのでしょうか、そこは」
「さてな」
 校長先生は少し首を捻ってからまた答えた。
 
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