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古城の狼

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21部分:第二十一章


第二十一章

「ウォッ!」
 僕には二体来た。まず一体を屈んでかわす。だがそこにもう一体来た。
「まずいっ!」
 僕は横に転がってそれをかわした。だが遅かった。その牙が襲い掛かる。
「こうなったら!」
 僕は右手で護った。狼の牙がそこに来る。
 しかしそれは幻影だった。牙は僕をすり抜け向こうに行った。
「助かったか・・・・・・」
 だが神父はそうではなかった。剣を持つ左腕を傷付けられていた。
「グウウ・・・・・・」
 床に血が零れ落ちる。神父は傷口を右手で押さえている。
 かろうじて剣はまだ持っている。しかしその傷では満足に振れないことは明らかであった。
「これで剣は使えなくなった」
 一体に戻った彼女はそれを見て満足気に笑った。
「あとはゆっくりと時間をかけていくだけ」
 そう言うと間合いを取った。
「さあ、覚悟はよろしいですか?」
 そう言うと僕に向かってきた。
「ウワッ!」
 牙が右手を襲った。右の甲が切られた。
「かすっただけでか・・・・・・」
 傷口からは骨が見えている。牙も狼のものより遥かに鋭い。
 彼女は間髪入れず再び来た。今度は右肩をやられた。
 速い。まるで鎌ィ足だ。到底かわせるものではない。
「如何でして?私の牙は」
 彼女は着地して言った。
「見事なお味でしょう」
 まるで猫が鼠をいたぶるのを楽しんでいるような、そんな声だった。
 本来狼はそのような習性は無いのだがやはり魔性の者だけあり習性が異なっているようだ。彼女は明らかに僕達を嬲りものにして楽しんでいる。
「ええ。確かに」
 僕は強がって言った。皮肉を込めようにも出来なかった。
「それは何より」
 彼女はそれを言葉通り受け取った。圧倒的な力を持っている為の余裕であろう。
「しかしまだまだ終わりではありませんわよ」
 そう言って再び間合いを開いた。
 この時僕はその動きを見て気付いた。
 速い。そしてしなやかだ。だがそれだけではない。
 動きは狼の動きそのままである。そう、狼の。
(当然と言えば当然か)
 僕はそれを見ながら思った。この時あることに気付いた。
(狼と同じというと・・・・・・!)
 狼もまた無敵ではない。僕はそれを思い出した。
 大学で犬の生態について教えてもらった。犬の最大の武器は牙だと。
 しかし逆にそれが犬の最大の弱点だと。
 牙を使うには絶対に噛まなくてはならない。その時に隙が出来る。
 今目の前に牙が迫る。鋭い牙だ。
 その牙に触れてはならない。しかしその中には何も無いのだ。
「そこだっ!」
 僕は叫んだ。そして奥方の口の中に右手を突っ込んだ。
 その瞬間奥方の目が笑った。一気に噛み切り飲み込むつもりだったのだろう。
 しかしそれは出来なかった。口は開いたまま閉じることは出来なかった。
 僕はその舌を掴んでいたのだ。これならば力が入らない。
「・・・・・・・・・」
 彼女はそれから必死に逃れようとする。だが出来ない。舌を完全に掴まれているからだ。
 僕は左に持つナイフで彼女の喉を掻き切った。喉から鮮血が噴き出る。
「な・・・・・・」
 神父はそれを呆然と見ていた。僕はその彼に対して叫んだ。
「神父さん、今です!」
 彼はその言葉に我に返った。そして剣を再び構えた。
 そしてその剣を彼女の腹に突き立てた。赤い鮮血が飛び散った。
 
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