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女人画

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2部分:第二章


第二章

「不可思議だと思われますか?これは」
「それを不可思議と言わずして何と言いましょう」
 こう述べるしかない話であった。
「そういったことを不可思議と言わずして」
「そうですね。こういったことが複数起こっているのです」
「それが三桁ですか」
「そうです。公にはされていませんが」
 だがそれでも事実は事実なのだった。残念なことに事実は全てが公にされるとは限らないのである。
「マスコミには報道されていません」
「マスコミは最近信用をかなり失墜させていますが」
 マスコミは自分達にとって都合のいい情報しか流さないというのは残念なことに多くの人間が指摘することである。由々しき事態ではある。
「ネットでは公にされていなくとも」
「ええ。話が出だしています」
「やはり」
 聞く方はそれを聞いて頷き納得した声をあげた。
「そうですか。やはり」
「一刻の猶予もなくなりましたので」
「それで私に事件の解決を依頼したいというのですね」
「宜しいでしょうか」
 話す方もその声が怪訝なものになってきていた。
「それで。報酬ですが」
「お幾らで」
「一千万、いえ」
 一千万はすぐに否定された。
「それを前金として」
「前金ですか」
「成功したならばもう一千万。これでどうでしょうか」
「合計で二千万というわけですか」
「そうです」
 単純な計算として出て来る答えであった。
「それで。如何でしょうか」
「はい、それでは」
 聞く方はあっさりとした感じでその金額で納得したのであった。
「それで御願いします」
「そうですか。引き受けて下さるのですか」
「随分奇妙な話です」
 彼は言った。
「そう。解決せずにはいられない程の」
「解決せずにですか」
「世の中というものは常識だけではできておりません」
 彼は言うのだった。
「時として非常識も加わるものです」
「時としてですか」
「そうです」
 こう述べるのであった。
「そして私はその非常識にこそ興味があります」
「それにこそ、ですか」
「常識だけで解決できるのならば世の中は何と詰まらないものでしょうか」
 こうも言うのだった。
「そうれではないからこそ面白いのではないでしょうか」
「ふむ。そうですか」
「それが私の考えです」
 また述べたのであった。
「それこそが」
「そうです。この間三郎の」
 ここで彼の顔が浮かび上がった。黒い髪を奇麗に分けた細面の美男子である。背広の上からトレンチコートを着ており知的な笑みを浮かべている。
「考えです」
「では。宜しく御願いしますね」
「はい。確か大島氏の住所は」
「奈良です」
「そうでしたね」
「はい。奈良市にいます」
 その住所まで述べられたのだった。
「わかりました。それではその奈良市に行きますので」
「御願いしますね」
 こうして依頼は届けられたのだった。こうして役はすぐに奈良市に向かった。助手の相模逸郎も一緒である。二人は京都で探偵事務所をしているのだ。
「奈良市ですか」
「そうだ。奈良市ははじめてだったか?」
「そういえばそうですね」
 逞しい顔立ちで髪を短く刈った黒い皮ジャンのその若者が間の言葉に応えていた。
「学生時代は来たことがありますけれど」
 そんな話を二人の事務所がある京都から奈良に向かう電車の中で話をしていた。京都駅から近鉄で特急に向かい合って座りながら話をしている。
「こうしたことで行くのは」
「私もそうだな」
「役さんもですか」
「奈良は土蜘蛛が有名だが」
「ええ」 
 文字通り巨大な蜘蛛の妖怪である。源頼光と戦ったことでも有名だ。
「それでも妖怪変化の類は案外少ない」
「京都に集まっていますからね」
「京都はまた特別だ」
 車窓から見える景色を眺めつつ述べる。席はゆったりとしていてそこから穏やかな面持ちで外を見続けている。
「またな」
「そうですね。あそこは人の心が複雑に蠢いてきていますから」
「妖かしの者達はそうした場所にこそ集まる」
 緑の田や家々が見えるその景色を眺めつつ言う間だった。
 
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