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万華鏡の連鎖

作者:fw187
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夢幻界の断片
  魔界の刻印

「…此処は、何処だ?」

 新たに《目覚めた》異世界は静寂な闇黒に満ち、何も応えぬ。

(僕は、来た事がある。
 夢の中で、暗黒回廊を抜けて、《あの人》と会った)

 無限マイナス1個の人格が棲む領域、潜在意識の裡で呟く声の主。
 東海公子や夢幻公子の潜む若者、沖田総司の魂魄と接触を試みる。

 彼の記憶には魔物、精神生命体、怨霊、歴史改変を企む時間犯罪者が蠢いていたが。
 執拗な拷問に耐える剛毅な第一級サイコ戦闘士、ケイルローン・ヴァンダレス。
 牢獄惑星ケルロン幽閉中の夢幻戦士、沖田総司の守護者《ガーディアン》に見覚えがある。

(ルナン!
 お前は私の知らぬ前世、転生先でも私を護ってくれていたのか!?)
 青竜星アトラン出身の拷問者から、救わねばならぬ。
 沖田総司の記憶を探り夢の回廊、暗黒回廊の先に精神感応移動。

 《宿主》の周囲に幾重もの罠を張り巡らせ、夢幻公子と対立し悪夢を統べる女神○○〇〇。
 悪夢を統べる女神ヒプノス、は中原には馴染み深い存在だが。
 ヒュプノスの一族、意地悪な夢の精霊を率いる夢幻神将の敵対者なのか?

 のろのろと誰何する牢獄惑星ケルロン警備の牢番、人造の妖怪は念波の一閃で消滅。
 沖田総司の記憶に倣い、下手に思念波が触れると爆発する罠も軽々と跳躍《リープ》。
 二重三重に戦士を縛る魔法陣、念鎖《サイコ・チェーン》の破壊は警報を触発する筈だが。
 混沌の暗幕《カーテン》が覆う虜囚、不屈の信念と無限の誠実を秘める漢の瞳が輝いた。

(公子!
 封印を解かれたのですか!?)
(私の名は、アルド・ナリス。
 沖田総司の記憶を辿り、貴殿の教唆を賜りたく参上致した者です)

 思考が閃き、心象《イメージ》を喚起。
 ルナンの容貌と鷹の瞳を兼ね備える勇者に掌を翳し、治癒の光を注ぎ込む。
 サイコ戦闘士を縛る黒の魔法石、念鎖が掻き消された。

(感謝する、アルド・ナリス殿。
 精神測定《サイコメトリ》の術を用い、事情は理解した。
 貴方の探求心、知性、想像力《イマジネーション》に敬意を表する。

 世界生成の鍵は、強靭な《意思》。
 多元宇宙の礎もまた、ある賢者の描いた魔法陣に他ならぬ。
 カリンクトゥムの扉が遮る渾沌界、矛盾に満ちた領域からの浸蝕は常に繰り返されている。

 ランドックの帝王が星の海を渡る要諦、王冠の正面で燦然と輝く《ユーライカの瑠璃》。
 王剣の柄頭となる《オーランディアの碧玉》、王錫を飾る《ミラルカの琥珀》。
 《ルーエの三姉妹》を揃え、暁の女神五人姉妹に助言を望め。

 時間犯罪者の操る複製体、赤い目の曲者《まがいもの》は魂を持たぬ。
 《魔の胞子》に冒された犠牲者同様、救済の術は無い。
 聖都ヤガ地下迷宮に蠢く《新しきミロク》、操り人形の眼に彼等の痕跡が見える。
 悪夢を統べる女神ヒプノス、夢幻宮廷の反逆者も強力な精霊達を従えているからな。
 精神遮蔽《サイコ・バリヤー》を超越する盗聴能力者、妖魔の類も油断は出来ぬ。
 夢幻界の随所に貴方を欺く道標、友の貌で騙し罠に導く陥穽が仕掛けられている模様だ。
 灯明寺を護る《はざま衆》、土蜘蛛の《眼》に遭え。
 結城大和では話にならぬ、《西を鎮める男》と縁の深い情報通に詳細を聞くが良い)

 ルナンに酷似の剛毅な瞳が黒太陽、光も捕える重力場と化す。
 赤や青の光が闇の領域に舞い、複雑な模様を描いた。
 記憶の蓋を閉ざす扉、蝶番が弾け飛ぶ。
 《飛ぶ》時の感覚が蘇り、アルド・ナリスは再び時空を越えた。


「私は聖王家の一員、アルシス王家の正統後継者アルド・ナリス。
 失礼とは思うが、私が此処に留まる事の可能な時間は限られている。
 貴方は、私を御存知であろうか?」

 前々回の夢では、実に惜しい事をした。
 加賀四郎は様々な事象を理解しており、幾らでも喋ってくれそうな気配だったのに。
 残念無念の思いを雄弁に物語る表情が、妙に強烈な印象を残している。

 何としても続きを聞きたかったのだが動揺して、夢から覚めてしまった。
 今回の夢も何時覚めるか分からず、世辞の遣り取りに費やしている時間は無い。
 慣習となっている腹の探り合い、相手の本音を暴く為の韜晦や陥穽の類は無用。
 率直に名乗り、返事を待つ。


「ほう、加賀四郎を知っておいでか」
 妙に見覚えのある新たな遭遇者は、ナリスの思考を口に出されたかの如く無造作に応えた。

「こりゃ失礼、加賀四郎とは昔馴染みでね。
 人間族として野々村修造を名乗り、安西雄介の面倒を見た事もある。
 今は夢幻界の灯台とも云うべき《はざまの寺》、燈明寺を預かり鬼燐坊道円を名乗っとるがね。
 みずちの若長と同じ魂を持つ御方の様だが、先住者ではなさそうだな」


 《時渡り》を名乗る黒瞳黒髪の少女に導かれ、《白い世界》を訪れた《記憶》が唐突に甦る。
 モース博士に酷似する高齢の医師、白嶺と名乗る男が沖田総司を診察した場所。
 『国立超医学研究所』の看板を掲げる建物は《カイサール転送機》、古代機械とは完全に別物。
 クリスタル市内に聳える《白亜の塔》に近い建築様式、科学水準ではないかと思われるが。
 ランズベール侯爵の愛娘シリア姫を連想させる金髪の少女、《まりあ》の焼菓子は絶品だった。

 ナリスは記憶を辿る事に時間を費やさず、単刀直入に尋ねた。
(先住者、とは?)

「嘗て日ノ本の物質界に接する次元界、気界に存在していたサイコ・エネルギー生命体さ。
 一時は人間族に神と崇められていたが、次元嵐で魔界が崩壊した際に四散してしまった。
 加賀四郎は神州の三名刀の一、『加賀四郎丸』に由来する人間族の賢者。
 先住者を斬るを以って人剣と呼ばれる剣の民、禍津神一族の見者だよ」

(調整者を、知っているのか?)

「一口に調整者と云うても、夢幻界は広汎でな。
 調整者を僭称する様々な種族がおり、同族を離れた導師もおる。
 儂が知るだけでも数段階、高次元世界も含めれば無数の調整者が活動中じゃ」

(数段階?)

「アリシア星系の第3惑星ランドック、生体と科学の一致を極めた銀河帝国が第1段階。
 108人の公子を筆頭とする調整者一族、天帝の支配する銀河帝国が第2段階。
 大宇宙そのものと一体となり大宇宙意識体へ進化を遂げた存在、調整者集団が第3段階。
 先住者の長老格、大天狗に星紀5677年と記された巻物を寄越した存在かも知れぬが。
 真相は闇の中、カリンクトゥムの扉を超え菩薩に会った者に聞くが良いよ」

(会ってみたい、第3段階の調整者と話をしたい)
 迸る様に湧き出る思考を読み取った鬼燐坊道円、土蜘蛛一族の《眼》が光の渦と化した。

「現時点の兜率天は無人、菩薩《ボーディサッタ》が姿を消して久しい。
 だが、お前さんは時渡り、次元間移動能力者じゃろ?
 時を遡り、沖田総司の《飛んだ》軌跡を辿る事も容易い筈だ。
 或いは魂の転生先、夢幻公子と同居した際の記憶を思い出せば良い。

 豹頭王グインの裡に草原の戦士、ヴァン・カルスの記憶が甦った時の様にな。
 お前さんは既に、対面しておるのだよ。
 沖田総司の潜在意識に宿り、多重人格の中に紛れる形ではあったがな。
 此処は《はざまの世界》である故、未来の《記憶》を《思い出す》事も可能じゃ。

 さあ、ゆけ。
 そして、戻って来い。
 喪われた魔界を甦らせ、加賀四郎の夢見た理想郷《アルカディア》を創り出す為にな」

 何かの《キーワード》が、引き金となったらしい。
 己の裡に眠っていた感覚が蘇り、ナリスは再び《飛んだ》。 
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