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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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8部分:第八章


第八章

「だからこそね」
「御礼は必要ないというのですね」
「そうよ、それはいいわ」
 また言う沙耶香であった。
「受ける仕事についてはね」
「ではそのことはわかりました」
「ええ。それでだけれど」
 沙耶香は自分から話を変えてきた。
「その鏡は何処にあるのかしら」
「鏡ですか」
「それとも。既に鏡の世界の中に入っているのかしら」
 ふと言葉が変わった。あえて変えてみせた感じであった。
「若しかして」
「それもおわかりなのですか」
「今度は勘ね」
「勘ですか」
「そうよ。鏡は全てその鏡の世界につながっている」
 このことも話してだった。その鏡の世界についてだ。
「それなら。その中に入ればそれこそね」
「ありとあらゆる鏡に、なのですね」
「そういうことよ。それなのね」
「そうです。既に入ってしまいました」
 春香は暗くなってしまった顔でこくりと頷いた。そうしてそのうえで沙耶香に対して語ったのである。その鏡のことをである。
「ですから。もうそれは」
「わかったわ」
 すぐに応えた沙耶香だった。
「それでね。もうね」
「おわかりになられたとは」
「鏡の向こうにいるのなら」
 沙耶香は考える顔になった。そのうえでの言葉であった。
「乗り込むだけよ」
「乗り込まれるといいますと」
「何度も言うけれどこの依頼は確かに引き受けたわ」
 このことをまた言ってみせた。
「そして」
「そして?」
「必ず解決するわ」
 今度の沙耶香の言葉はこれだった。
「安心して見ていることね、貴女は」
「では私は」
「貴女は自分のお仕事に専念してくれればいいから」
「それだけでいいのですか」
「事件が解決したら私はまたここに来るわ」
「そうされるのですね」
「ええ。確かな証拠を持って」
 こうも言ってみせた。言葉には偽りは全く見られなかった。
「貴女の前に戻って来るから。わかってくれたかしら」
「はい、それでは」
 春香も応えた。確かな言葉で。
「その様に御願いします」
「そういうことでね。さて、では」
「もうお仕事をはじめられるのですね」
「そうよ。鏡は何処にでもあるものだから」
「では。また」
「ええ、また来るわ」
 春香に別れを告げてそのうえで席を立ち屋敷を後にする。その時に見送りに来た彼女に対して言った言葉は。
「その終わってからだけれど」
「はい」
「楽しみましょう」
 その琥珀の輝きを見せる切れ長の目を細めさせての言葉であった。妖しい美貌にさらに艶美なものが宿った。そうした笑みであった。
「その時はね」
「まさか貴女は」
「そうよ、貴女と同じ」
 こう返してみせたのであった。
 
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