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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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第百十九幕「夏は人を変えるのだ」

 
前書き
原作と矛盾した設定とか出てくるけど、何もかも間違ってるかもしれないから問題ないのです。そう、それこそが作者の逃走経路! 

 
 
 姉さんも分からないが、時々この人も分からない。
 箒は千冬に対してそう思う事がある。

「そうか……一夏のISの腕が黒く、な……」
「あの後白式を調べてみましたが、ログには何も残っていませんでした」

 千冬は物憂げに海の方に目をやり腕を組んだ。
 絶対に何か知っていると箒は直感する。動揺するでもなく、考えるそぶりも見せない。つまり、この状況をあらかじめ予測できていた事の証左だ。
 姉程ではないが、その含みのある態度は少々苦手だ。昔はそれほどでもなかったが、千冬は歳を重ねるごとにそんな態度が増えていった印象がある。

「織斑先生……いえ、千冬さん。貴方は一夏の身に何が起きているのかご存じなのでは――」
「――仮に、だが」

 千冬の声が、箒の質問を遮る。

「もしも、どのような敵でも打倒しうる強力無比な力を持ったとしたら……その力を人は何と呼ぶ?」

 千冬らしからぬ婉曲な物言いだった。
 いつも全てを真正面から見極める強い眼差しも、今は箒ではなく遠くの誰かに向けられている。

「……人の為に振るわれるなら、それは英雄でしょう。逆に力に溺れ外道に堕ちるのなら、それは悪です」
「そうだな……私は世界一を取った時、ブリュンヒルデの称号を越えて『神』と勝手に崇められたことがある。逆に、IS普及の煽りで社会に居場所を無くした者には『悪魔』とも呼ばれた。正と負、白と黒、神と悪魔………力にはいつだって両面性がある」
「一夏の異変の時に現れる黒い色は、その悪魔の方だと?」
「それは違うな……本来、黒とは何者にも染まらぬ自由の色でもある。問題はその自由の使い方をどうするか………」

 言葉を切った千冬は、箒に背を向けた。
 その背中は、心なしかあの頼もしさを感じない一人の女性のそれだった。

「いつか力に目覚めるのは分かっていたことだ。こうなった以上、私が責任を持って教えることになるだろう………夏が明けた頃にはお前も一夏も全てわかることだ。今は自分の事を考えておけ」

 吉と不吉で言えば、後者を連想させる小さな予感が箒の胸に注がれる。
 入学以来騒がしくも楽しかった日々……そんな大切な時間が、何かのきっかけで失われるような予感。人はそれを、変化と呼ぶ。

「みんなに」

 つい、確認せずにはいられないとばかりに言葉が口を突く。

「みんなに………地元の夏祭りに、来てほしいです。今年は私が舞を踊る予定なので」
「……………」
「みんな、来ますかね。来て………くれますよね?」
「来てほしいなら約束をしておけ。夏休みは学生の特権だ」

 千冬は、否定も肯定もしなかった。



 = =



 夏休みは遊びの時期。
 そう思っていた時期が、彼等にもあった。
 しかし――もう、そうも言っていられない事情が彼等にはある。

 事件翌日、ベルーナと佐藤さんが同じ布団で寝ていることが発覚して「セウト!?」「むしろセフト!!」「そして二人の運命がアウフ・ヴィーダーゼン!」「意味わかんないし意味が通ってないわよ!!」と訳の分からない騒ぎになった後の、帰りのバスの中での話。

「お姉さまは夏休みはどのように過ごされるのですか?私、気になります!」
「ちょっと宇宙に行ってくる予定ですわ」
「え、ちょっと待ってくれセシリア。それブリティッシュジョークじゃなくてマジな奴か?」

 一夏の問いにセシリアはにっこり頷いた。

「ええ。実は連合王国宇宙庁の依頼で……なんと!IS初の有人宇宙飛行という空前絶後の栄誉を賜ったのよ!!……じゃなくて、ですわよ!!」
「ですわを忘れるほど嬉しかったんだね……でも凄いよセシリア!まさか同級生が世界に羽ばたくなんて………あっ、そういえば世界に羽ばたいたのは佐藤さんが先だっけ?」
「いやいやいやいや!確かに私いろいろと羽ばたいちゃったけど、まだ人類史には名前刻んでないからね!?」
「だが、佐藤さんならいずれ刻む気がするぞ」
「それは言えてるかも……風花が強化された今でも佐藤さんに勝てるイメージが全く湧かないんだよね」
「………みんなして私の事を何だと思ってる訳?」
「「「「何って、佐藤さんとしか………」」」」
「……………もういいです」

 すっかり概念と化した佐藤さんは反論する気力もなくしてがっくり項垂れた。
 早速佐藤さんの所為で急激にランクが下がった風になってしまったが、15歳のアストロノーツなど世界の度肝を抜くトンデモナイ事である。公式記録での最年少宇宙飛行士が25歳であることを考えると、成功すればそのまま世界記録やギネスまっしぐらだ。
 ちなみにアストロノーツとはアメリカで訓練されたでの宇宙飛行士のことで、ロシアだとコスモノーツ、中国だとタイコノーツである。セシリアはイギリスで簡易的に宇宙飛行士としての訓練を受けたためこれらには当てはまらないが、英語圏の出身という意味ではアストロノーツと呼べるだろう。

 実はイギリスは世界で3番目に人工衛星の打ち上げに成功した国だったりするが、近年は宇宙開発に関わりつつも独自の動きは全く見せていなかった。
 しかし、ISの登場と共に状況が一変した。ISのスキンバリアーと絶対防御が宇宙放射線まで防げ、エネルギーのある限り決して空気漏れも起きないことが理論的に証明されたISは、最初に束が言い出した通り宇宙開発に最適だったのだ。これによって連合王国宇宙局の暴走が始まった。

「この前ニュースか何かで言ってたな。確か今度、宇宙飛行士の居住が可能な宇宙ステーションを打ち上げるんだろ?すげぇ話だよなぁ、他国が宇宙開発から離れたタイミングにそんなもの作り上げるなんて」

 一夏は素直に感心していた。IS開発に金が裂かれて宇宙開発が滞るこのご時世に、連合王国はIS開発と同時進行でそれを作り上げたのだ。しかも、今までずっとアメリカ主導だった宇宙開発でアメリカを完全に後手に回らせるこの本気具合。
 しかし、母国で「宇宙におけるIS運用計画」にバリバリで参加していたセシリアの熱意はそんな言葉で満足する程大人しくはない。

「より正確には!ISの量子格納機能を利用してこのわたくしが単身宇宙に登り!ISを媒介に衛星軌道上に宇宙ステーションを衛生軌道上に設置するのよ!!……じゃなくて、ですわよ!!というか、そもそもBTも元は武装ではなく宇宙での柔軟な運用を想定して作り上げられたもの!最初からわたくし達は地球など眼中になかったのですわ!!おーっほっほっほっほっほっほ!!」

 普段なら絶対しない絵に描いたような高飛車笑いに、周囲も苦笑いする他ない。
 セシリアが宇宙を目指していたのは周知の事実だが、こんなにも子供っぽく浮かれているセシリアは全員が初めてお目にかかる。それほどに子供っぽくも熱くセシリアはこの時を望んでいたのだろう。
 彼女の無邪気な笑いは、むしろ普段のクールな感じとのギャップでとても可愛らしかった。佐藤さんの脳内永久保存フォルダに追加される程度の笑顔である。
 ともかく、セシリアは夏休み中に宇宙に旅立つために母国へと舞い戻るらしい。

「他に予定ある人はいますかぁ?折角の夏休みなんで皆で遊びに行こうと思って!皆さんのスケジュールに合わせるために聞いておきたいんですが……」

 セシリアから具体的にそれほど母国にいる予定なのかスケジュールを聞いていたつららの問いに、ぱらぱらと手が挙がる。
 最初に挙げたのはユウ。続いてジョウも手を挙げた。

「ごめん、夏休みいっぱい武者修行する予定だからあんまり時間は取れないよ」
「俺は教務補助生の仕事の関係で不規則になる。いつの時間も行けるかもしれないし、行けないかもしれないってところかな。ま、その時でないと分からないから期待はしないでくれ」

 忍者襲撃の関係で己を鍛え直すことを誓ったユウは、本気で今年の夏休みを修行に注ぎ込む所存だ。
 ジョウはは当然裏の仕事も多大に含まれてるし、個人的な用事も含めてそう言わざるを得ない形だ。
 更に、鈴とラウラも手を挙げる。

「ちょっと実家に帰って確かめなきゃいけない事があるの。夏休みの始め1週間くらいは無理かな……」
「私も一度母国に戻る。軍人としての仕事など色々あってな。だが、特定の日に予定を開けることは可能だから、そっちに合わせようと思うぞ」
「ほえ~……想像以上に皆予定が入ってますねぇ。他の皆さんは?」

 残ったのはシャル、簪、一夏、箒、佐藤さん、そしてその横で寝ているベルだ。
 まず佐藤さんだが……

「まだ日程まで決めてないんだけど、ベル君と一緒に一回イタリアに行く予定かな。皆の日程を聞いてから決めよっかなーと思ってるよ」
「つまりベルの親に早速報告か!もう婚約とは想像以上の展開の速さ……日本はロリコン文化だけでなくショタコン文化でさえ世界の先を行く……!」
「違うっちゅーの。つーかベル君は同い年だっちゅーの。会う予定はあるけどそーいうのじゃないから!」
「でも佐藤さん、とうとうベルと一緒に添い寝まで始めてるじゃん」
「いや、あれは一時の気の迷いというか……」
「ん、んん………」

 横でおねんねしているベルが微かに唸ったことに気付いた佐藤さんは直ぐに話を打ち切ってベルの身体をせっせと正し、毛布代わりにかけていた上着のずれを修正する。そしてベルの顔が安らかなものに戻ると、安心したようにホッと一息ついた。

「ふう……で、何だっけ?」
「あ、もういいです。お幸せに………」
「???」

 この一瞬で明らかにベルーナとの周囲に不可侵領域が発生するレベルで甲斐甲斐しい佐藤さんに、周囲はそれ以上の追及を打ち切らざるを得なかった。これ以上口を出すのは野暮と言うものである。

「あ、僕も一回実家に帰るけど、佐藤さんと一緒で時期はいつだっていいかな。長居するつもりもないし」
「俺は実家の方に戻って千冬姉に剣術の練習してもらうことになったけど……遊びに行く時間があるかは千冬姉次第かな」
「私は……基本的には、暇。スケジュールは言われればいつでも………はぁ」

 前半二人に反して簪の落ち込み具合が酷い。
 原因はユウの武者修行によって人生初の親友と過ごす夏休みが早速セピア色になってしまったせいだ。鈴も親友だが、最初の一週間はいないので夏休みの最初が一番辛いという意味不明な状況。こうなると簪の夏休みは独り屋敷に籠って宿題しながらIS弄りという圧倒的不健康な生活が待っている。

「う~ん………そうなるとあんまり何度も集合は出来そうにありませんね………かくいうつららも月鳥のテストで結構日数取られますし………」
「あの……皆!」

 そこで、ずっと黙っていた箒が突然口を開いた。

「8月16日は……空いてるか?」
「16日………まぁ、その頃には日本に戻って来れますわね」
「つららのスケジュール的にも問題なしです」
「……16日って言えばウチの地元で夏祭りやる時期だよな?」
「そ、そう!それだ!!夏祭り!!………その夏祭りには神に奉げる舞があるんだ。今年は私がそれをする。だから……皆、観に来ないか?」
「………箒?」

 一夏は、箒の様子がおかしい事に気付いた。セシリアも、シャルも、その場の皆がその声にどこか違和感のようなものを感じた。まるで、今生の別れを覚悟したような――今、ここで集まっている皆が、もう二度と今の形に戻れなくなるような未来を予感しているような。

「……16日だね?分かった――16日に間に合うように一度修行を切り上げておくよ」
「16日かぁ……それじゃイタリア行きは早めにしておこっかな」
「了解した、スケジュールに書きこんでおく」
「舞って見たことないから楽しみにしてるよ、箒!ついでに君の彼氏の顔も見れると嬉しいな?」
「………必ず来いよ!約束だからな!!」
「何だ、そんな大げさに。別に新学期が始まればまた会えるだろう?」
「あ、ああ……そうだよな。また会える」

 苦笑いしながらラウラに肩を叩かれた箒の憂いは――結局その日は晴れる事は無かった。
  
 

 
後書き
どうにも更新を再開してからというもの、将来が不安になるような事ばっかり書いてる気がします。
夏休み……リアルでは終わってしまいましたが、彼等にとっては人生で一番長い夏休みが始まります。 
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