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黒魔術師松本沙耶香 客船篇

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15部分:第十五章


第十五章

「必ずね」
「必ずですか」
「そう、断ち切れるものなのよ」
 言葉を少し変えてみせたのだった。彼に気付かれないように、だが無意識に訴えるようにしてだ。微妙に変えて語ってみせたのだ。
「自分によっても人によっても」
「人によってもですか」
「貴方も奥さんも今その因果が断ち切られるわ」
 その言葉を出したその時だった。沙耶香の影の剣が闘っている異形の影を貫いたのだった。それで全てを終わらせたのである。
 異形の影は消えた。沙耶香はそれを見ていなかったがそれでも彼に告げるのだった。
「そう、今みたいにね」
「今、ですか」
「貴方も奥さんも因果は断ち切られたわ」
「それは本当ですか?」
「すぐにわかるか」
 信じられないといった顔で言った彼に対しての言葉である。
「すぐにね」
「まさか、そんな」
 沙耶香のその言葉を今度は否定しようとした。しかしここで、出会った。
 不意に携帯が鳴った。それは彼の携帯だった。
「!?今度は一体」
「早速ね」
 沙耶香は前を見たまま笑って述べた。
「来たのね」
「来たって何が・・・・・・これは」
 彼はその携帯のメールを見てだ。驚きの声をあげた。そのうえで沙耶香に対して言うのだった。
「あのですね」
「奥さんのことね」
「何故それがわかるのですか?」
「勘よ」
 ここではこう言うだけだった。
「勘でわかったのよ」
「勘、ですか」
「だからそれは気にしないで」
 言葉を微笑まさせながらの言葉だった。
「それで奥さんは」
「目を覚ましたそうです」
 こう沙耶香に告げるのだった。
「今しがた」
「そう、よかったわね」
「全く。嘘みたいな話です」
 彼は嬉しさを噛み締めていた。
「こんなことになるなんて」
「嘘ではないわ。奥さんは助かるのね」
「もう命に別状は無いそうです」
 喜びに満ちた言葉はまた出された。
「嘘みたいな話です」
「嘘じゃないわ。ただ」
「ただ?」
「携帯はそこで出していると」
 まだ海に向かって顔を出している姿勢の彼に対しての言葉であった。
「危ないわよ」
「あっ、そうですね」
「海に落としたらそれで終わりだから」
 このことを彼に言ってみせたのである。余裕は明らかに沙耶香の方が持っていた。今の男にはそうした余裕は全くなかった。
「だから。そこから離れてね」
「はい、とにかくこれで」
「楽しい船旅になるわね」
「今回はこの客船は出港しないのですね」
「そうよ。ここにあるだけよ」
 停泊したままだというのだ。沙耶香はそのことも知っていた。だがそれでもいいというのだ。今の彼女は出港しての船旅にはこれといって興味を持っていないのである。
 そしてである。彼女は静かに言うのだった。
「それじゃあ後は」
「はい、まずはですね」 
 彼は身体を起こした。そのうえで身体を船の方に向けてだ。一転して明るい顔になってそのうえで沙耶香に声をかけるのであった。
「一人で祝います」
「またバーで飲むのね」
「今度は美味い酒が飲めます」
 喜びそのものの言葉だった。
 
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