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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇

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25部分:第二十五章


第二十五章

「これでまずはよしですね」
「残ったカードは遊軍ね」
「というよりはトラップです」
「トラップ」
「館の怪しい場所にね。潜ませます」
「そのうえで相手を探る」
「果たしてかかるかどうか」
「かかればそれでよしだけれど」
「かからなければそれはそれでまた手を考えなければなりませんね」
「そうね。まずはそれで」
「はい。・・・・・・んっ!?」
 話を終えようとしたところで速水は急に声をあげた。
「どうしたの?」
「庭に」
「庭に!?」
「はい。若しかすると」
 速水の顔が急に曇っていく。
「くっ」
「あまりいいものが見えていないわね」
「はい、残念なお知らせです」
 速水はその曇った顔を引き攣らせて言った。
「四人目です」
「そう。庭ね」
「はい、今から行きますか」
「ええ。じゃあ行きましょう」
「はい」
「ちょっと」
 沙耶香は鈴を鳴らした。そしてメイド達を呼び戻す。
「何でしょうか」
「食事は終わったわ。それでちょっと庭に出たいのだけれど」
「庭にですか」
「あまり言いたくはない話だけれどね」
「・・・・・・はい」
 その言葉を聞いてメイド達も何の為に庭に出るのか察した。暗い顔になり俯いた。
「それでは御気をつけて」
「ええ。後片付けは頼むわね」
「はい」
「デザートも素晴らしかったですよ」
 速水が最後にメイド達に対して言う。
「チョコレートアイス。絶品でした」
「やはりアイスはヨーロッパのに限るわね」
 沙耶香も言った。
「気品が違うわ」
 デザートへの賛辞を残して二人は庭に出る。夜の庭は暗闇の中に消え何も見えはしない。ただ薔薇の濃い、眩暈がする様なまでの香りがそこに立ち込めていた。
「場所ですが」
「今灯りを点けるわね」
 沙耶香は目の前で親指と人差し指を弾く。するとそこに青い炎が姿を現わした。
「火ですか」
「ええ、貴方にも」
 速水の前でも指を弾く。するとそこにも火が姿を現わした。
「これで暗くないわよね」
「有り難うございます」
「そしてその場所だけれど」
「陰です」
 速水はまずこう言った。
「そして北です」
「やっぱりね」
 それだけ聞いて沙耶香はそれが何処なのかわかった。
「そこにどうなっているの」
「仰向けに寝ています」
 速水は探る顔で述べた。どうやらその場面が今の彼にははっきりと見えているらしい。
「薔薇の棘で首を絞められています」
「薔薇の棘で」
「はい、今から行きましょう」
 火の灯りを頼りに現場に向かう。その現場をさらに火を増やして照らすとその中に仰向けになった一人の少女の屍が浮かび上がった。
「メイドの娘みたいね」
「そうですね」
 速水は沙耶香の言葉に頷いた。それは制服でわかった。
「見れば奇麗な娘ですが」
「あと少しで擦れ違った男も女も振り向く程になれたでしょうに」
 その少女はかなりの美貌の持ち主であった。栗色の大きな瞳に黒い髪を肩で揃え、鼻は高く唇は小さく赤かった。小さい形のいい顎に長い首を持っていた。だがその首には薔薇の棘が巻き付き、唇からは血を流して事切れていた。栗色の瞳は空を見詰め、光はない。そのモデルと言っても通用するような高く見事な身体の周りには黒薔薇が無数に置かれていた。
 
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