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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇

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32部分:第三十二章


第三十二章

「気付いたらね」
「これで私達の時間は終わりなのですね」
「楽しかったわ」
 そのブロンドの美女から身体を離しての言葉だった。ベッドからも起き上がりそうしてそのベッドから離れた。
 一糸まとわぬ姿で右手の親指と人差し指を鳴らした。するとそれで服を着た。
 部屋を出るとまた一人の美女が待っていた。赤がかった金髪の少女が彼女を出迎えてきた。その彼女もまた依子に捕らえられていた美女の一人だった。
「あの」
「わかっているわ」
 こうその少女に返す沙耶香だった。
「お客様ね」
「はい、そうです」
「丁度いいわ。では朝はね」
「朝は」
「クロワッサンを頼むわ」
 それだというのである。
「それとオムレツをね。それをね」
「オムレツをですか」
「そしてワインも」
 朝もワインをだというのだ。
「御願いするわ。白をね」
「白をですか」
「そうよ。一本ね」
 本数も指定するのだった。
「いえ、三本よ」
「三本ですか」
「二人来るから」
 だからだというのだった。
「一人ずつね。だから」
「それで三本ですか」
「ええ。そして」
 少女に顔を向けてあらためて告げてみせた。
「次は貴女よ」
「私ですか」
「ええ。それともう一人頂くわ」
 少女のその目を覗き込んでの言葉だった。
「それでいいわね」
「はい、では御願いします」
「それではね」
 少女に誘われ階段を降りる。そうして食堂に入る。そこではもう一人待っていた。茶色の髪と碧の瞳の少女がそこに待っていた。彼女が沙耶香に対して言ってきた。
「今用意をしておりますので」
「そうなの」
「ではその間に」
「わかったわ。ではここで待たせてもらうわ」
「畏まりました」
 こうして広く後ろの白い壁にルノワールを思わせる豊満な美人画を背にして食堂の真ん中の席に座った沙耶香だった。暫くすると速水がモンテスと共に来たのだった。
「おはようございます」
「こちらにおられると聞きましたので」
 速水とモンテスはそれぞれ沙耶香に言ってきた。
「それでこの仕事での最後のお話に」
「参りました」
「来てくれて有り難う」
 その二人に微笑んで応えた沙耶香だった。二人は彼女と向かい合って座るのだった。
 ここで朝食のオムレツにクロワッサン、それにワインが運ばれてきた。それを食べながら話をするのだった。
「暫くこちらに留まれるのですね」
「ええ、そのつもりよ」
 こうモンテスに答える沙耶香だった。左右にその二人の少女を立たせている。二人共何時の間にか黒と白のメイド服を着させられている。
 そのメイド達に囲まれながらだった。沙耶香はモンテスの言葉に応えた。
「この娘達を皆楽しんだら」
「それからは」
「ルーブルに行くわ」
 そうするというのだった。
「それで本当に四日かけてね」
「回られるのですか」
「そのつもりよ。それでだけれど」
 速水に顔を向けてきた。右手に白いワインが入ったそのグラスを持ちながら。
「どうかしら」
「私を御供にというのですね」
「ええ、そうよ」
 まさにその通りだというのである。
「今はそうした気分だから。どうかしら」
「願ってもない申し出です」
 速水はまずは微笑んで彼女に言葉を返した。
「ですが」
「駄目だというのかしら」
「残念ながらです」
 心からそう思っているのがよくわかる返答だった。
「今日で日本に戻らないといけません」
「仕事なのね」
「はい、最初から決まっていました」
 だからだというのである。
「それは」
「そう。なら仕方ないわね」
 それを聞いて沙耶香もそれ以上は言わなかった。彼を気遣う様にして述べたのだった。
「それならね」
「またの機会ということで」
「ええ。またの機会にね」
 そしてこうも述べたのだった。
「一緒になりましょう」
「はい、それでは」
「それでですが」
 ここでまたモンテスが沙耶香に言葉をかけてきた。
「この屋敷に留まられるのですね。暫くは」
「ええ、そうよ」
 まさにそうするというのである。
「昼はここで夜はホテルでね」
「左様ですか」
「過ごさせてもらうわ。昼も夜も彼女達の相手をさせてもらうわ」
「またそれは」
 この沙耶香の言葉と考えに流石に閉口するしかないモンテスだった。ここでは同性愛というものの是非については話の外であった。
「何とも」
「それからルーブルよ」
 美女達との宴が終わってからだというのだった。
「巴里を後にするのは一週間程後かしら」
「そこまでは御自身のお金で、ですね」
「そのつもりよ。お金には困っていないから」
「報酬が尋常なものではないからですね」
「その通りよ。お金にはね」
 それについては何の不安もない沙耶香だった。速水もそうであるがこの仕事は危険が大きく表のものではないだけにそれだけに報酬も尋常なものではないからだ。それこそ一度の事件の解決で数千万の報酬を手にするのである。だから困ってはいないのである。
「何もね」
「では。それで」
「ええ。それじゃあ」
 右にいるその少女を見る沙耶香だった。
「貴女と」
「はい」
「それと」
 今度は左にいる彼女も見るのだった。
「貴女が。これからの私の相手よ」
「わかりました」
「それでは」
 少女達は顔を微かに赤らめさせて沙耶香の言葉に応えるのだった。それは恥ずかしさよりも宴を前にした悦び、それもまだ少女だが女としての悦びを期待する顔であった。
「御相手を務めさせて頂きます」
「是非共」
「そういうことでね。それじゃあ」
「はい、わかりました」
「それでは」
 速水とモンテスが彼女の今の言葉に応えた。
「私達はこれで」
「去らせて頂きます」
「また会いましょう」
 目を細めさせてその二人に告げたのだった。
「導きがあればまた」
 こう述べてから席を立ち二人の美少女達を己のベッドの中に誘うのだった。二人もその部屋を去り屋敷を後にした。後には食べ終わった食器と空けられた三本のワインのボトルがあった。だがそれもすぐに片付けられ後には静寂だけが残った。遠くで少女達の嬌声が聞こえてきた。


黒魔術師松本沙耶香 妖女篇   完


              2009・11・27
 
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