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ダンジョンにSAO転生者の鍛冶師を求めるのは間違っているだろうか

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一時的パーティー結成

 「邪魔よっ!」
 『ギュアっ!!』

 暴走列車の如き少女の進路を阻むように角から現れたゴブリンが、ほんの一瞬で首足処(しょそくところ)を異にされていた。
 飛んできた頭部を難無く手で払い落としながら、飛び血を避けた。
 SAOでは血が出ることはなく、血の生臭さにはまだ耐性ができていないから、できるだけ血に汚れないようにしている。

 「遅いわよっ」

 前方で手に持つ刀をぶんぶん振りながら、少女が俺を呼ぶ。

 「急ぎすぎじゃないか?」

 と言って、俺は少女の残したゴブリンの胴体を太刀で刺して灰にしてから駆けた。
 現在地は四階層。
 ダンジョンに潜ったときから少女はこの調子だった。
 工房に箱を置き、俺がダンジョンに潜る支度をしている間も、何だか目を輝かせていて、その訳を訊けば、俺のことで最近はダンジョンに潜っていなくて、うずうずしていたらしい。
 戦闘狂だろうか。
 多分違うだろうな。
 ここの世界の冒険者は高みを目指すことに生き甲斐を感じている者が多いそうな。
 きっとこの少女はその部類だと思われる。

 「殺るならきっちり後処理をしてくれないか?」

 少女に追いついた俺はモンスターを殺しっぱなしにする彼女に言った。
 さっきので俺が後処理を押し付けられたのは五匹目だ。
 お節介な俺の担当のアドバイザーいわく、『殺るなら、残すな。残すなら、殺るな。だからねっ!絶対に魔石を回収するんだよ!!』ということなんで、無視するわけにもいかずにきっちり処理している。
 少女には俺が魔石を破壊しているように見せているからばれないと思うけれど。

 「一つや二つぐらいいいじゃない。ちょっとした肩慣らしよ。さっさと行くわよ」
 「へーい」

 一つや二つじゃないけれど、聞き入れてくれそうにないから、素直に従って、走り出す少女を追い掛けた。
 まあ、後処理と言ってもたいした手間じゃないしな。
 以後は肩慣らしが終わったのか、通り魔的な殺戮は止めて、大人しく目的の階層まで走ってくれた。


    ◆ ◆ ◆


 それで、目的の階層がここ、十三階層だ。
 十三階層と言えば、大方何をするかはわかるだろう。
 採掘しに来たのだ。
 そのために今回は予め小型鶴嘴を、採掘した鉱石を入れるために背負って来ているバックに入れている。
 それと、装備しているのはいつもの剣ではなく、武器カテゴリー《カタナ/オオダチ》の《蒼龍》。
 念のために、ソードスキルは発動しないようにスキルをセットしていない《カタナ》にカテゴライズされている武器を装備しているのだ。

 「だけど、よくそんな長い得物を振れるわね」

 落ち着きを取り戻した少女が十三階層を歩いている途中に訊いてきた。
 それも当然で、この《蒼龍》は刀の部類の中では一番長い大太刀と呼ばれる刀で、刃渡りが、驚くことに一,二メートルもあるのだ。
 とは言っても、SAOで時々使っていたから全然不便とは思わない。

 「まあね。だけど、業物だぞ」
 「あんたが鍛えた太刀じゃないの?」
 「違うよ。極東にいる旧友に打ってもらったんだ」

 俺は真実をそのまま答えた。
 極東にいる旧友というのはSAOで懇意にしていた日本人の鍛冶師だから、嘘じゃないと思うけれど、少女はまさかVRMMOゲーム内で打ったものとは思わないだろうな。

 「それに、あんたの剣術ってどこの流派よ?あんな剣筋とか構えなんて見たことないのだけど」
 「…………我流」

 少しばかりの逡巡の末に答えた。

 「我流……ね。それにしては無駄のない動きだったけど、まあ、そんな大太刀を使っている流派なんて見たことないからそうなるわね」

 ただ苦し紛れの返事だったけど俺が意図せず、少女は納得してくれた。

 「それと、あんた、いつも一三階層に来てるの?」
 「え、ああ、そうだけど、勿論他の冒険者と一緒に来ている」

 俺は一瞬何を意図して訊いたのかわからなかったけれど、すぐに思い当たって答えた。
 冒険者のほぼすべてがLv.1らしく、Lv.2が最低条件である一三階層以降の階層に鍛冶師の俺が単独で下りてきていることを訝しんでいるのだろう。

 「あ、そう。まあ、当たり前よね。それで、採掘場所は何処なのよ?」

 その俺の返答に興味なさ気に答えて言った。

 「もうすぐだよ」

 と答えたのが見慣れたルームを通り過ぎてところで、通路を言葉を交わさずに通り抜けて、半球形のルームにたどり着いた。

 「あ……」
 「先を超されたわね」

 のだけど、既にいつもの採掘ポイントに先客がいた。
 防具のエンブレムを見るに【ヘファイストス・ファミリア】の者ではないみたいだ。
 全員で五人いて、うち三人はせっせと鶴嘴を振り下ろしていて、残りの二人はモンスターが来ないか見張っていた。
 その二人が俺達に気付き、一人がこちらに駆け寄ってきた。

 「すまないが、冒険者依頼でしばらくここにいるので、他を当たってくれないか」

 申し訳なさそうでも偉そうでもない口調でその男の冒険者が俺達に言った。

 「そうさせていただくよ」

 鉱石がよく採れるから、かぶるのも当然で、俺は気を悪くしないけれど、俺の懸念は隣にいる少女が果たして受け入れてくれるかだった。
 勝手な思い込みかもしれないけれど、少なくない時間を共にしたこの少女の人となりは大凡(おおよそ)把握しているつもりだ。
 その俺が想像した少女の発言は、
 「黙りなさいっ!私達が採掘するのだからどきなさいっ!」
 だ。
 もしこんなことを言い出したら、引っ張ってでも移動するつもりだ。
 俺はこのお転婆では済まされない娘の所為で既にめんどくさいと思っているのにその悩みの種に更に他派閥とのいざこざを加えることだけは避けたいのだ。

 「そう。仕方ないわね」

 しかし、俺の黒い憶測を裏切って少女はなんでもないように答えた。

 「そうか。ありがとう、それとすまないな」

 俺達の返事を聞いて、少し安堵した風の男は礼と謝罪を口にして、四人の元に帰っていった。
 しかし、余りの素直さに驚いてしまった。
 何で素直に従ったのだろう?
 俺だとこんなにしつこいというのに。
 何が違うんだろう?
 と、男の背を追うように見詰めている少女の横顔を不躾に眺めながら思っていると、

 「それで、どうするの?」

 その背を見送ってすぐに少女が俺に向いて言った。

 「あ、ああ。二番目のスポットがあるからそこに行こう」

 反射的に目を逸らして答えた。

 「じゃあ、さっさと行くわよ」
 「へーい」

 俺はいつの間にか付き人のように少女を先導するように歩き出した。


    ◆ ◆ ◆


 二番目のスポットは何度か行っているので、迷う事なく辿り着けた。

 「早く済ませなさいよね」

 俺がルームの壁に鶴嘴を振り下ろしている後ろで少女がつまらなさそうに言う。
 その声音には少し苛立ちが窺えた。
 機嫌の悪い少女が発する重い雰囲気に何だか居心地が悪かったので、適当に話し掛けてみた。

 「それにしても、あの時、お前が怒り出さないかひやひやしたよ」
 「悪かったわね。私だって誰彼構わず無茶を言ったりしないのよ」

 刺のある声で言われた。
 一応怒りは覚えたけれど、それを押さえてたみたいだ。
 全然顔に出てなかったけど。
 ていうか、俺に無茶言ってる自覚はあったのかよ。
 
 「他のファミリアとことを構えると、皆に迷惑をかけるでしょ?」
 「だけど、俺だと迷惑はかけないからしつこいのか」
 「違うわ。皆のためだからしつこいのよ」
 「俺もその皆に入りたいんだけど」
 「直接契約を受け入れたならね」
 「なら、いいや」

 と、退屈と少女の苛立ちを紛らわすために声をかけながら、鶴嘴を振り下ろしている間に続々と鉱石が姿を表していた。
 別のときなら手放しで喜んだけど、今回はこれをバッグに詰めて地上まで運ばないといけないのだ。
 まあたいした重量じゃないだろうから気にはしないけれど。

 「こんなものかな」

 採掘した山のような鉱石をバッグに詰み終えて言った。

 「鉱石ってこんなに採れるものだった?」

 いつとなく近くにいた少女がバッグを覗き込んで言う。

 「今回はラッキーだっただけだと思うけど」
 「そう…………じゃあ、私が持ってあげるわ」

 ちょっとの沈黙の後に軽い感じで少女が言って、そのバッグを背負いはじめた。

 「え?いや、それは俺の役目だろ」
 「いいから、私が持つと言ったら持たせなさい」

 楽になるから別にやぶさかではないけれど、鍛冶師はもっぱらパーティーにおいてサポーターの役目をするのが当然で前衛を任せている少女に荷物持ちをやらせるのはお門違いなのだ。

 「わかったよ」

 だけど、まあ、やりたいのならやらせればいいし、危なくなったら、助ければいいのだ。

 「別にいいでしょ?それでも気に入らないなら私があなたのご機嫌を取ろうとしていると思っていいわよ」

 けらけらと笑いながら言う少女からは俺のご機嫌取りをしようとしている感じはしなかった。

 「気に入らないわけではないよ。じゃあ、まあ、お願いします」
 「任せなさいっ。さあ、行くわよ」

 今から登山しに行くような大きなバッグを背負っているとは思えない軽やかさで歩いて行く。
 俺はその後ろを少女の気まぐれに小首を傾げながらついていった。

 『キュイッ!!』

 ルームを出て通路を進み、たどり着いたルームに兎モンスターの《アミラージ》の群れに出くわした。
 見た目は本当に兎そのまま。
 しかし、その前足に握られているのは天然武器(ネイチャー・ウェポン)というモンスターがダンジョンから提供される武器の一つ、石斧だ。
 その石斧を持つアミラージが俺達が来るのを知っていたように三体待ち構えていたのだ。

 「なんだか少ないわね」
 「俺が片付けてもいいけど」

 荷物持たせているわけだから今だけでも前衛のまね事でもしようかと思ったのだけど、

 「いいわよっ。前衛は私だしっ。さっき背負ったばかりだけど、荷物だけ置いていくから見ててよ」

 そう言ってバッグを下ろすと、前に進み出ながら音もなく抜刀すると、中段に構えた。
 その一連の動作は研ぎ澄まされた刀のように洗練されていてダンジョンに潜ってから何度か見ている俺はまた目を奪われる。
 俺のソードスキルを見よう見真似で模倣したなんちゃって剣術なんてくすんで見えると思う。
 顔は見えないけれど、少女の背中から感じる気は、いつも少女から感じるものとは掛け離れているものだった。

 「イヤァッ!!」
 『キュッ!!』

 鋭い発声とともに少女が不用意に間合に入ったアミラージ一体を俺の目でぎりぎり追える速さで正中線に沿って斬り裂き、左右に切断した。
 そして、そのまま瞬く間もなく、飛来した石斧を屈んで避けると、ここぞとばかりに肉薄してきた一体のアミラージを屈んだまま切り返しの水平斬りで断末魔を上げる間も与えず、上下に切断した。
 そのアミラージが倒れるのを見送ることなく、少女は駆け出すと、先ほどの投擲で得物を失っていた後方のアミラージをすかさず間合に捉え、袈裟斬りの一撃のもとに屠った。
 この一瞬の間に殲滅。

 「すごいな、お前」

 その少女に純粋な称賛の言葉を送る。

 「まあね。もう何年も死合っているモンスターだからってのもあるけど、ほとんどはあんたが打った刀のおかげよ」

 その称賛の言葉を半分しか受け取らず、少女は刀についた血糊を払って言った。
 そう言えば、それは俺が打った刀だったけか。

 「そうか」

 少女の感謝の言葉らしき台詞に素直に答えられず、おざなりな返事となる。
 しかし、返事を欲していたわけではないようで、俺の返事を聞いている風もなく、アミラージの魔石を回収していた。
 少し言葉に詰まった自分が馬鹿馬鹿しくなって、俺は少女から目を離そうとした。
 その時。
 視界の端でルームの奥にある通路の闇の中で何かが微かに動いたのを見た。

 「ミナト!どけえっ!!」

 そのシルエットを捉えた俺は反射的に叫んで、疾駆していた。
 俺の叫びに、予想に反して何故かびくっと肩を跳ね上げて固まってしまった少女の向こう、通路の闇から予想通り石斧が回転しながら飛来していた。

 「!」

 それを知覚した瞬間、視界がぶれた。
 いや、光景が一瞬何かと入れ代わったような気がした。
 だけど、その光景が何なのか俺はわからなかった。
 しかし、その疑問に付き合う時間はなかった。
 疑問を切り捨てて、俺は大太刀を上段に構え、石斧の進路に身体を滑り込ませるが早いか、真っすぐ斬り下げた。
 打撃と見紛う斬撃に石斧は粉々となる。
 それを見て俺は何故か達成感からくる嬉しさとともに殺意に駆られた。
 相反するような感情の葛藤に苛まれながら、通路の奥を見据えると、俺の殺気に当てられたアミラージが鳴き声を上げて逃げだした。

 「待ちやがれっ!!!」

 足を踏み出して、走り出そうとしたが、唐突に手首を掴まれて足を止めた。
 振り返ると、怯えの色を湛えた目で見上げてくる少女がいた。
 この時自分が初めて激情に駆られていたことに気付き、気付いたことで自分の中でいつの間にか燃え上がっていた炎が萎んでいくのを感じた。

 「どうしたのよ?」

 少女が似合わない震える声で訊いてきた。

 「何でもない」

 はずがないけれど、俺にはこう答えるしかなかった。
 自分でも自分に何があったのかわからなかった。
 この世界にきてから理性を圧倒するような燃えるような激情に駆られたことがなかった。

 「何で避けなかった?」

 それよりも俺は何かにせき立てられるようにずっと心に置いていた質問を口にした。

 「…………………………あんたは今朝うなされて叫んだことを覚えていないだろうけれど、あんたは……その……『ミナト、どけ』……って叫んだのよ」

 言うべきか否かを考えていたのか苦渋に満ちた顔でしばらく閉口した末に少女が言った。

 「………………は?」
 「全く意味がわからなかったし、今もわからないけれど、そんなことは関係なくて、ただ同じ声で同じことを叫ばれてびっくりして動けなかったのよ」

 顔に疑問符を浮かべる俺を置いて、少女は説明し終えた。
 勿論未だ少女の言っていることの意味がわからなかった。
 少女に言われて俺は確かに『ミナト!どけっ!!』と叫んだことを思い出した。
 だけど咄嗟のことで、俺はその叫びに何の感情が介在していたのか今ではわからなかった。
 互いに互いの発言の意味がわからず、黙り込む。
 しかし、沈黙の間は続かず、どちらからともなく何か言い出すこともなく、少女がバッグを背負い、歩き出し、俺はその後を追った。
 地上にたどり着くまで俺と少女の間には解析不可能なぎくしゃくとした空気があった。 
 

 
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