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ダンジョンにSAO転生者の鍛冶師を求めるのは間違っているだろうか

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回想


 ギルドを出た後は偶然でも少女に鉢合わせしないようにという考えでもって気ままにダンジョンに潜った。
 気の向くままにダンジョンの一三階層を歩き回り会敵したモンスターを気の向くままに――そして勿論、周囲に冒険者がいないことを気をつけながら――屠ったり、鉱石の出そうなところで気の向くままに小型鶴嘴を振るって採掘していた。
 そんな暇つぶしを、全く頼りにならない自分の時間感覚で、四時間ぐらい経ったかなと感じたところで引き上げた。
 外に出てみれば、空が茜色に染まっていた。
 もしかしたら、絶対時間感(?)を掴めてきたかもしれない。
 そのまま工房にではなく、宿に帰った。
 工房に帰って少女と鉢合わせしたら、どんなめんどくさいことがあるかわからない。
 だったら、明日はどうするのかって?
 まあ、どうせ工房で俺を待ち伏せしていると思うけれど、行かなければいいのだ。
 一日も休まずに通勤をしていたのだから数日休んだところでは何も言われないだろう。
 流石に有休とはいかないけれど。
 というわけで、宿に直帰した俺はシャワーを浴びてからベッドに潜り込んだ。
 そして、これからどうしようかと何度目になるかわからない思考を巡らしている途中、気付かぬまに俺は睡魔の手中に落ちていた。


    ◆ ◆ ◆


 「俺が道を切り開く、ミナト、お前だけでも逃げろっ」

 俺は手に馴染んだ相棒の片手重直剣と大楯を構えなおして少女にだけ内容が聞こえるように叫んだ。

 「嫌ですっ!あなたを置いてなんて!!」

 俺の策がまるわかりになるというのに精一杯の大声で返答をするのはストレートの黒髪がよく似合うすらりとした少女。
 少女は右手に大太刀、左手に小太刀を持っていて、防具らしき防具は小袖袴の下にある籠手、胸当て、脛当だけだ。

 「おうおうっ、美しいね~。自分の命を顧みず身を庇い合う男女の美しい愛情って奴かっ?「「「「ギャッハハハハハハハハ」」」」」

 そしてそんな俺と少女を(はや)し立て哄笑(こうしょう)するプレイヤー五人。
 全員が全員顔を隠すような防具を身に纏っている。
 その五人に俺と少女は高聳(こうしょう)する迷宮区の壁を背後に五メートルの間隔を挟んで取り囲まれていた。
 五人は馬鹿にした台詞とは裏腹に全く油断ない身のこなしで俺達に逃げる隙を与えない。

 「くっ!」
 「だめですっ!熱くなったら、あっちの思惑通りですっ」
 「わかってる!」

 横から必死に語りかける少女の声でどうにか収める。

 「ふ~、楽しかったぜ。これで思い残すことはねえ。他のプレイヤーが来る前に()っちまうぞ」

 落ち着きを取り戻した俺にからかいがいがなくなったのか、リーダー格とおぼしき、プレイヤーが持っていた曲刀を振り上げて、部下に指示した。
 その曲刀は俺の仲間の血を吸っている。

 「うぃ~す。もう、ちょろいっすよ」
 「だな。それよりもあの女と遊びたかったな」
 「まだそんなこと言ってんのか?まあ上玉に違いねえがな!ギャハハハハハっ!!」

 耳にも入れたくない台詞を吐く部下四人の動きに合わせて俺はソードスキルの予備動作に移った。

 「俺は三秒後に突進して隙を作るっ。その間に逃げろっ」

 敵を見据えたまま先程と同じ声で隣の少女に叫ぶ。

 「だめですっ!トキワはHPゲージがもう数ドットしか残っていませんっ!」

 しかし、いややはりと言うべきか、俺の内心も知らず、大声で叫び返してくる。
 俺の視界の端に見えるゲージは確かに数ミリしか残っていない。
 しかし、そんなこと俺にどうでもいいことだ。
 それよりも、そんな俺のHPゲージよりも残り少ないお前のHPゲージの方に俺は死ぬほど恐怖しているのだ。

 「そんなこと知ったこっちゃないっ。逃げなければ俺はお前を絶対に許さないっ!絶対にだ!」

 俺は叫び、宣言通り三秒を数えたと同時に予備動作を完成させ、ソードスキルを発動させた。

 「トキワーーーーーっ!!!」

 血のように紅い淡光に包まれた体が弾頭のように打ち出される瞬間、背後からの少女の絹を裂くような絶叫を聞き終えることもなく、俺は腕に小さな衝撃を感じた。
 次の瞬間、確かな加速度で進んでいた体が乗っている電車が急停車したようにがくっと制動した。

 「なっ?」

 俺は自分がこんな時に気が遠くなるほど繰り返してきたブーストモーションがアシストを阻害したのかと疑ったけれど、違った

 HPゲージの下、見慣れたアイコンがいつの間にか表示されていた。
 アイコンが示すのは麻痺状態のデバフ発生。
 そのアイコンは何も悪いことはしていませんよというような何食わぬ顔でそこにいた。
 気付けば体に何の力も込められない。
 だけれど、ソードスキルを阻害したことによる硬直時間の途中のために倒れることもできなかった。

 「やっぱり、突っ込んできたなぁ。こう追い込まれた奴らって決まってやることが同じなんだ?読まれてるってのによ」

 アイコンから揺れる視線を前方に向けると、部下四人の後ろ、リーダー格がつまらなさそうな顔で言った。
 曲刀を握っていたその手にはいつの間にか小型のナイフ、否投剣があった。
 それを見て、俺はすべてを悟った。
 リーダーが部下だけを行かせたのは観戦のためではなく、縮まる包囲網を突破するために突進技のソードスキルを発動した俺を麻痺状態を引き起こす投剣で阻害するためだったのだ。
 視線を落とすと、俺の推理を裏付けるようにナイフが腕に刺さっていた。
 つまり、俺は完全にあのプレイヤーの手の上で踊ろされていたのだ。
 顔を上げると、俺の心中を読み取ったのかリーダー格のプレイヤーが醜悪に口端を吊り上げた。

 「じゃあこれで、お前はしまいだ」

 そして、器用に投剣を中空に向かってくるくると投げ上げていた手を止めて、構えた。
 先程の攻撃で既にHPゲージは一ドットしか残っていない。
 あの投剣が外れることもない。
 つまり、俺はもう死ぬ。
 こんな余りと言えば余りにも情けない死に方で。
 冷静であれば、こんな薄っぺらな罠になんか引っ掛からなかった。
 ただあんな状況で冷静になれるほど俺は冷徹ではなかった。
 つまり、俺はリーダーの器などではなかった。
 いかなる状況でも取り乱してはならないリーダーにはなり得なかったのだ。
 そんな俺をあの世で待ってる仲間に何て言われるのだろうか。
 わからない…………けれど、せめて、ミナトを逃がしたかった。
 こんな時に神は何を見ているのだろうか?
 なんで奇跡が起きないのだろうか?

 と、リーダー格が腕を振り上げて必殺の投剣を投げるという一瞬の時間のうちで俺は意味のないことで頭をいっぱいにする。

 だからだろうか、俺は気付かなかった。

 傍を一陣の風とともに最愛の少女が通り過ぎたのを。

 「ミナトっ」

 少女が突如として俺の前に現れた――そう感じた。
 少女は俺の方を向いて、大の字になって俺を庇っていた。

 「よせっ、ミナト!!!!どけええええええええ――」

 俺は唯一思い通りに動く口を開けて、絶叫した。
 なのに、少女は笑みを浮かべていた。

 それを知覚した瞬間、ナイフが刺さったときの音とは思えない爆音に意識が途切れる。


    ◆ ◆ ◆


 「ちょっと、どうしたのよっ!!」
 「うぅー、ああっ?」

 くらくらとする意識の中、裂け目のような細い揺れる視界に顔の輪郭を捉えた。
 だけど、その輪郭が余りにもフニャフニャで誰だかわからない。
 というか、くらくらするのはその人物が俺を揺らしているからだった。
 指が()り込むほどの強さで両肩を掴まれて前後に揺さぶられていた。

 「や、やめてくれっ。は、吐きそうっ」

 その激しさや、寝起きだったこともあって、吐き気を催した俺はその人物に言った。
 すると、その人物は何も言わず、手を止めてくれた。
 ゆっくりと見開き、目が回っているようになかなか定まらない焦点を揺さぶっていた人物の顔に合わせていると、その頭上に、例に漏れず、NPCの黄色いカラーカーソルが浮かび上がる。
 まだ、字がぼやけてていて読み取れなかったけれど、輪郭が確かになってきた顔とその左右から生えている黒い触手からおおよそそれが誰かわかった。
 ただ何故こいつがここにいるのかがわからなかった。

 「何でお前がいるんだ」

 少しばかり不快な(わだかま)りのようなもやもやを頭に感じながら、俺は起き上がってその人物、もとい例の少女に訊いた。

 「えっと、そ、その、中に人の気配がなくて聞き耳立ててたら、急にあんたの叫び声が聞こえて、あ、慌てたのよね」
 「?」

 その少女は何だか落ち着かない様子で、俺と目を合わせず、あちこちに目を泳がせて答えた。
 のだけれど、少女が俺に何を伝えようとしたのか全くわからなかった。
 ていうか、俺の質問に対する返答になっていない。

 「だ、だから、管理人呼ぶのもどかしくてドアを…………蹴り破っちゃったのよ」

 罰が悪そうに尻すぼみに答えた少女から目を離して、ドアの方に向けた。

 「あちゃ…………」

 そこには見事に蹴り開けられたドアがあって、凝視せずとも鍵の部分が壊れているのがわかった。
 何故ならその部分がノブごと打ち抜かれたようになくなっていた。床に視線を走らせると、案の定、元々はノブと鍵の部品だった破片が散らばっていた。
 ていうか、さっきの爆音はこれか、なんて考えたけれど、
 てっ、あれ、俺は何か夢見てたのか?
 …………全然記憶に残っていない。

 「俺なんて叫んでたかな?」
 「へ?あっ、その、よく聞き取れなかったわ」

 てっきり叱られるか怒鳴られかと思っていたようである少女は俺のただの質問にしどろもどろと答えた。
 だけれど、その顔や声音を見ていると、何かを隠しているように思えた。

 「まあ、いっか。それより、何でここにいるんだ?」
 「見つけたのよ」

 さっきのしどろもどろな口調などではなく、きっぱりとした口調で、いやまるで予め用意していた解答を言うように少女は言った。
 先程のそわそわした雰囲気は刹那に跡形もなくなくなっていて、泳がせていた視線も俺に据えられていた。

 「お、おう。どうやって?ここを知っている人なんて少ないはず何だけど」

 それに気圧されるも、言葉を続ける。

 「勘よ」
 「………………女の何とかというあれ?」
 「そうよ。女の勘よ」

 毅然とした態度が少女の言っていることが本当であるように聞こえさせる。

 「ふ、ふーん。それで今日は何の用?」

 何だか何を訊いても自分の納得するような答えは返ってこないだろうと、考えて、話題を変えた。
 しかし、変えるならもっと考えるべきだった。

 「何の用だって?」

 少女が眉を吊り上げて、八重歯を剥き出しにし、瞳に怒りをたぎらせながら俺に迫った。
 不動明王も斯くやと思える形相で、背後からは大火炎が見えた気がした。
 あ、やばいと、思ったのはつかの間、

 「あんた私に嘘をついた揚句に放置したでしょっ!!!」

 少女は極限までに息を吸い込むと、鼓膜が破れると思ったぐらいの声量で叫んだ。
 咄嗟に耳を押さえたけれど、コンマ一秒遅れて、矢のような少女の怒声が鼓膜に刺さった。

 「痛つつー。ごめんごめん、まさかここがばれるとは思っていなかったから」

 叫ぶが止んだところで、俺は謝った。

 「ばれなかったらどうするつもりだったのよ!!」
 「数日後にお詫びの品として最高傑作を送ってそのまま身を隠そうかと…………」
 「あ、あんたね――」

 俺の返答についに青筋を額に浮かび上がらせた少女が次の怒声を装填したところでそれを遮るように、

 「あのー、お客様…………って、あれ」

 男の声が扉の方から聞こえた。
 その男は時々見かけているからすぐにこの宿のスタッフだとわかった。
 他の客からの苦情で駆け付けたのだろう。
 男は開けっ放しになっているドアのところで佇んでいて、その視線は中破したドアとその破片が散らばった床を行ったり来たりしていた。
 その様子を俺はどうしようかと思いながら、少女は万引きがばれた学生のような、しまった、というような顔で見ていた。
 まあ、この後の展開は概ね想像がつくと思う。
 まず、俺と少女が平謝り。
 少女は悪気はなかったみたいだし、俺が何ごとか叫んだからやったことのようだから、弁償代は肩代わりした。
 弁償代といってもドアの買い替え代金だけで、別にこの出費は痛くない。
 オラリオの東地区にある保管庫(セーフポイント)に預けている収入が食費でしかほぼ消費しないのでほとんど手付かずの状態で残っているのだ。
 少女が俺の申し出を何度も固辞して自分で全額払おうとしたけど、ファミリアが困窮しているのだからと、丸め込んで払った。
 ちなみにそこの宿からは半年の出入り禁止を言い渡された。
 宿からすればドアをぶち破るだけでは飽き足らず、叫び散らされて客との信頼を傷つけられたのだから正当な処置だと思う。
 安くて気に入っていたけれど、もう気まずいから来ることはないと思う。
 まあ、というわけで、少女を残して一度保管庫に向い、弁償代を下ろして、とんぼ返り。
 機嫌の悪い宿主に弁償代を払い、そそくさと後にして俺はメインストリートを歩いていた。
 隣では少女が俯いて、俺が頼んで持って行ってもらった箱を抱えながら、歩いている。
 騙されたというのに律義にも自分のホームに持ち帰り、持ってきてくれたのだ。

 「申し訳ないわね」

 ずっと黙ったまま絶賛落ち込みキャンペーン中の少女がしばらくしてぼそぼそと言った。
 謝ることに慣れていないようだった。
 まあ、そうなんだろうけれど。

 「気にしないでいいよ」

 と、定例句になっているような励ましの言葉を口にしながら、俺は未だに頭に残る正体不明のしこりに意識を省かれていた。
 意識は至ってはっきりしていて、寝ぼけているわけでもないのに俺は起きたときから感じていた(もや)が以前として頭の中の一部を占拠していた。

 「そうはいかないわ」

 殊勝なのかなんなのか好評により落ち込みキャンペーンが続いていた。

 「そうか…………」

 叫んだり落ち込んだりとせわしない奴だと思いながら、どうしようかと思う。
 このまま工房に向かってどうするのか?
 この落ち込み具合から流石にまた直接契約がどうのこうのとは言わないだろうし、失態を挽回しようときっと何か手伝わせろと言うのだと思う。
 だけれど、今特に手伝ってほしいことなどないのだ。
 少女から身を隠す以外には。
 それに、工房で手伝ってもらうにしろ、俺が工房ですることとなど現実世界の真理に真っ向から反逆しているような奇想天外な鍛冶しかないのだ。
 そういう理由で、工房には行きたくない。
 なら、筋の通った理由で、また別のところに行かなければならない。
 となると、俺に思い付いたアイデアは一つだけだった。

 「そんなに落ち込んでるなら挽回のチャンスを与えてもいいよ」

 何か上からな言い方になったけれど、

 「えっ、本当!何をすればいいの?」

 少女は全く気にするわけでもなく、顔をパァーと明るくさせて言った。
 本当に騒いだり落ち込んだり明るくなったりと大忙しな奴だと思わず苦笑しながら、

 「ダンジョンに一緒に潜ってくれないか?」

 と、言った

 「いいわ、任せなさいっ」

 そしていつかの日のように胸を張って言ってくれた。 
 

 
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