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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇

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8部分:第八章


第八章

「すぐにここから帰った方がいい」
「さもないとひょっとしたらあんたも」
「生憎だけれど」
 涼しげでありかつ冷徹な声で返すのだった。
「そうはいかないのよ、私は」
「何だ?あんたひょっとして」
「警官にでも見えるかしら」
 楽しげに彼等に対して問うた。
「どうかしら、そこは」
「そうだなあ」
「警官ねえ」
 若者達はその問いにはかなり首を捻るのだった。そこから彼等が沙耶香をどう見ているのかがすぐにわかる程であった。
「全然見えねえな」
「なあ」
 そしてそれを言葉にも出した。
「というかあれだろ?」
「探偵か?いや、そうでもないな」
「やることは大して変わらないわ」
 楽しげに述べた。
「探偵とね」
「それもあれかい?よくある小説みたいな」
 洒落のわかる話になってきた。所謂アメリカンジョークめいているとでも言うべきか。少なくとも若者達あ軽い口調にはそうしたものを出そうという気持ちが見られた。
「妖怪とか異常犯罪者を退治する」
「そういう感じか」
「どちらかというと日本のね」
 沙耶香はまた笑って述べる。その妖しい笑みで。
「話みたいになるわね」
「ふうん、そういやあんた日本人だったか」
「ええ」
 この問いに頷く。話がそこに戻っていた。
「その通りよ。それもまあ関係あるかしら」
「だったらここは任せていいか」
「何かあんたこういうのに強そうな感じだし」
「確かに馴れてはいるわ」
 自分でも笑って述べたのだった。
「女の子の扱いと同じ位ね」
「しかもレズときた」
「どうしたもんだよ、この人」
 沙耶香の言葉に顔を見合わせて苦笑するのだった。
「じゃあ。とりあえずここでわかりそうなのは」
「警察行ってもあまりわからないと思うぜ」 
 若者達はこう忠告してきた。
「今そっちが一番困ってるからさ」
「そうなの」
「ああ。当たるんなら他のところにしな」
 こう沙耶香に忠告するのだった。かなり打ち解けた感じになっているのは沙耶香の妖しさがかえって興味をそそられたからであろうか。少なくともその黒い花を思わせる美貌は彼等の目と心によく残った。
「わかったわ。それじゃあ」
「またな、日本人の姉ちゃん」
「ええまた。今度会う時は」
「会う時は?」
 彼等はそこに問う。
「一緒に飲みましょう。それでいいかしら」
「ちぇっ、ベッドじゃないのかよ」
「ケチだなあ」
「今は男はいいのよ」
 沙耶香はうっすらと笑って彼等に言葉を返した。
「今はね」
「んじゃまあ機会があれば」
「そっちもな」
「そうね。気が向けばね」
 笑ってまたしても言葉を出す。
「そちらもね」
「何かせちがらいけれどいいか」
「そうだな。じゃあね、お姉さん」
「またね」
 明るい別れになった。その後で沙耶香は少しスタジアムの前に残った。そうして懐から何かを出してきたのであった。
 それはあの黒百合であった。その手に持っている百合をまずは空に投げたのであった。
 
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