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黒魔術師松本沙耶香 仮面篇

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7部分:第七章


第七章

 沙耶香は一旦マンハッタンからクイーンズに戻った。ここに先程沙耶香が利用したケネディ国際空港がありまた多様な民族が居住している。アメリカにおいてもとりわけ民族構成が複雑な場所でもある。沙耶香は一旦ここに戻ったのである。行く先はシェア=スタジアムの方だ。大リーグニューヨーク=ヤンキースの本拠地でもある。
 丁度この前でも事件が起こっているのだ。駐車場で真夜中若い銀行員の女性が殺された。しかもその顔を奇麗に切り取られてだ。後には血を流し頭を半分程なくした亡骸が転がっていたという。沙耶香はその事故現場に来たのである。
「ここね」
 現場に着くとまずは辺りを見回す。今日は試合もなく球場の周りは至って静かである。通り掛かる者も殆どいない状況であった。
「犠牲者が出たのは」
「あれ、姉ちゃん」
 ここで沙耶香に声をかける者がいた。若いアジア系の男達である。この辺りには中国系や韓国系の大きなコミュニティーもあるのだ。
「今日は試合ねえぜ」
「悪いけれど帰りなよ」
「生憎だけれど試合を見に来たわけじゃないのよ」
 そう応えて男達の方を見る。するとそこには学生風の三人の若者達がいた。目が細く背は普通位だ。顔立ちは何処となく中国人を思わせた。
「ここでね。事件があったわよね」
「ああ、その話か」
 若者達はその話を聞くと急に暗い顔になった。
「あんた占い師か何かか?けれどあれこれ調べるのはよくないぜ」
「一応言っておくから」
 こう沙耶香に注意してきた。
「事件のことは知っているけれど」
 沙耶香はまた彼等に答える。
「顔が切り取られていたのよね」
「知ってるのかよ」
「ええ。話は聞いているわ。そのうえで来たのだし」
「物好きだねえ、また」
 若者達は沙耶香のその言葉を聞いて呆れた顔になる。それと同時にあることに気付いた。
「あれ、あんたも」
「アジア系か」
「日本から来たのだけれど」
 うっすらと笑って若者達に答える。
「用事でね」
「マスコミか何かかね」
「それにしては格好が変じゃないか?」
 若者達は沙耶香が日本から来たと聞いてあれこれヒソヒソと話をした。だがそれをすぐに打ち切りまた彼女に対して言うのであった。
「まあいいさ。それよりもな」
「ええ」
 沙耶香もその彼等に応える。
「本当にあんまりここに来ない方がいいぜ」
「特に夜にはな」
「出るのね。犯人が」
「そうさ。噂では」
「ピエロが」
 沙耶香はその言葉にピエロを出してきた。
「出るのね。そうなのね」
「そこまで知ってるのか」
「情報が早いっていうか」
「当たりね。目撃例は聞いているわ」
 また言う。彼女は東京で既にかなりの話を聞いている。だからこそ述べることができたのだ。
「犠牲者の側を。不気味なピエロが刃を手に消え去ったって」
「そうだよ」
 若者達は沙耶香のその言葉に頷いた。その顔は恐怖のせいかかなり引き攣っていた。
「あんた知っているのかよ」
「だったらわかるよな」
「あまりこの事件に関わらない方がいい」
 沙耶香は静かな声でこう返した。
「そういうことね」
「ああ」
「こんな殺し方ってよ、間違っても普通の人間じゃねえぜ」
 若者の一人が顔を背けて言う。そこには血生臭いものに対する露骨な嫌悪があった。それも通常の神経の人間ならば当然のことであった。むしろ沙耶香の方が異常なのだ。元々夜の世界に住んでいて闇を愛する彼女の方がだ。
 
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