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ラコーン=ナイ

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第三章

「本番もジャージとかな」
「やっぱりアウトだからな、それ」
「流石にそれはないな」
「ださいな、ジャージは」
「練習ならいいけれどな」
「そうだろ、だからな」
 それでだとだ、プンミーも言った。
「本番の時の服の用意もしような」
「あんな服何処にあるんだ?」
 ここでクラスメイトの一人がプンミーに問うた。
「それで」
「踊りの時の服か」
「ああ、あるか?」
 問うのはこのことだった。
「何処かに」
「作るか?」
 これがプンミーの提案だった。
「俺達で」
「服をか」
「ああ、冠とかな」
「どうやって作るんだよ」
「細い竹を曲げてその上に金の色紙を撒いてな」
「演劇部の衣装みたにか」
「そうして作らないか?」 
 これがプンミーのアイディアだった。
「服もな、派手な柄は無理でもな」
「一色でか」
「ああ、安い生地で作ろうな」
「そうしようっていうのか」
「それでどうだ?」
「そうだな、安い生地というかな」
 そのクラスメイトもプンミーの言葉を聞いて言った。
「余りものを使ってな」
「作ろうな」
「借りられればいいけれどな」
 ここで別のクラスメイトが言った、すると。
 これまで見ているだけだった、先生がだ。すっと皆のところに来てだった。
 クラス委員にだ、そっと一枚の紙を差し出した。
 そこに書いてある住所と電話番号を見てだ、先生達は気付いた。
「この住所と電話番号って」
「先生、ひょっとして」
「服を借りられるですか」
「そうした場所ですか」 
 先生は言葉では答えなかった、ただ微笑んで首を縦に動かすだけだった。それが先生の返答であった。
 その返答を受けてだ、彼等は。
 その場所に電話をした、そこは貸衣装屋でだ。
 生徒達から話を聞いてだ、まずは店に来る様に言ってきた。そして彼等が実際に店に行くとだ。店の親父は笑ってこう言った。
「そうか、あの人の紹介か」
「はい、先生の」
「先生の紹介で来ました」
「こちらに」
「あの先生の紹介ならいいよ」
 太った顔の親父は気さくな笑顔で生徒達に答えた。
「ただで衣装を貸すよ」
「ただ、ですか?」
「宮廷舞踏の衣装」
「僕達にですか」
「ただで貸してくれるんですか」
「その服ならうちに百着はあるんだ、それに学生さんのやることにはサービスする」
 親父は笑顔で彼等にこうも言った。
「それにあの人の生徒さん達ならね」
「あの、先生って」
「ただの学校の先生よね」
「それでどうして」
「店長さんがそこまでしてくれるんですか?」
「あの人は同じ学校の先輩なんだよ」
 笑ってこう言ったのだった、生徒達に。
「同じ部活で何かとよくしてもらったんだ、ムエタイ部でね」
「先生ムエタイ部だったんですか」
「いつも喋らないで笑っているだけなのに」
「ムエタイですか」
「それをされていた人ですか」
「そうだよ、大学卒業してプロにまでなったね」 
 そこまでの強さだったというのだ、先生は。
「凄く強くて。けれど優しい人でね」
「店長さんもですか」
「よくしてもらって」
「それで」
「今も恩を感じているよ。その人の紹介ならね」
 一も二もなく、という口調での言葉だった。
「遠慮なくだよ」
「有り難うございます」
「じゃあ使わせもらいます」
「文化祭に」
「そうさせてもらいます」
「いい服だよ」
 宮廷舞踏のその服はというのだ。 
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