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夢のような物語に全俺が泣いた

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裏路地の一幕

「――ほぉ?何時もより大分ましじゃねぇか」

とある夜の裏路地で、三人の男達が私の手からから金銭袋を取り上げる。
私はその反動でその場に倒れてしまい、三人を見上げるようにしていた。

「だが、まだまだ全然足りねぇな、アーデ。
お前みたいな役立たずのサポーターが、俺等ソーマファミリアの一員でいられるのは誰のお陰だ?」

三人の男の中でも特に体格の良い男、カヌゥ・ベルウェイが私の頭を足蹴にする。

「ぼ、冒険者様のお陰です…」

「わかってんなら…死ぬ気で稼いでこいやぁ!」

カヌゥは足を振り上げ、私のを蹴り飛ばす

「っ――――…………?」

事は出来なかった。
私はいまだに来ない衝撃を不振に思ったのか恐る恐る顔をあげた。
そこには今日、今回のターゲットである白髪の少年と共にダンジョンを駆けたもう一人の冒険者が、降り下ろしたであろう男の足をしゃがんだ状態で受け止めていた。

「な、何だテメェはぁ!!?」

カヌゥが声をあげて後ずさる。
いきなり現れた男性――ケイ・ウタルはゆっくりと立ち上がり、リリルカを立たせた。

「どうして…ここに…」

私、リリルカ・アーデはそう呟く事しか出来なかった。







「どうして…ここに…」

未だに信じられないものを見るかのように俺を見上げてリリルカはそういった。
俺がここにいるのは単なる尾行だ。
今日のパーティを解散した後、リリルカを尾行していたらいつの間にかすっかり夜に。
もう諦めるかなと思っていたところでこの出来事だから正直びびった。

「一応、ベルが認めたパーティーメンバーだからな。
それに――――」

俺は未だにそこにいる男三人に殺気を送る。
3人は震えながらにして何も出来ないでいるようだった。

「――話したいことがあるしな。
だから、逃げるなよ」

「っ……はい」

リリルカは力なく返事をした。
大方もう言い逃れは出来ないとか思っているんだろうが、別にそんなシリアスなお話じゃない。
とりあえず今はこの三人をどうにかするのが先だろう。

「さて、死にたくなければ消えろ。
死んでも良いならかかってこい。お前らごときが束になろうと、リリルカには触れることすら叶わないと知れ」

「ひ…ひぎゃあぁぁ!!」「助けてくれぇぇ!!」

「お、おいテメェらぁ!!?」

取り巻きのようだった二人が逃げ出し、一人残される男。

「…ここで打開策を出してやる。
一つ。お前が今後、リリルカに接触しないと誓うのならば、何もせずに見逃してやる。
その場合、接触した瞬間にお前は魂を抜かれる。
二つ。無謀にも俺に挑み、この場で生涯を終える。
その場合、お前には一切の情も掛けられず無惨に切り刻まれて死んでいくだろう。
さぁ、選べ」

俺は服の下に手を伸ばし、紅く煌めく炎の魔剣を取り出した。
魔剣フランヴェルジュ。
炎を司るその刀身は、暗闇を明るく照らし、一噌の存在感を出している。

「わ、わわわかった…もうアーデには近づかねぇ!
だから見逃してくれぇ!」

「……………去れ」

「ひぃぃぃ……!」

男は逃げ去っていった。
俺は再びリリルカに向き直り、目線を合わせるように屈んだ。

「取り合えず、話を聞かせて貰おうか?」

リリルカは渋々ながら言葉を紡ぐ。
まるでそれは、喧嘩をした原因を母親に話すような面持ちで。












さて、リリルカから聞いた話を纏めようと思う。
まずリリルカの両親は数年前にダンジョンで死亡。
理由はソーマファミリアの主神であるソーマが製造する神酒に魅了されてしまい、
その神酒を求める余り無謀な行動に出たらしい。
結果は死亡をもたらし、リリルカは一人ソーマファミリアに取り残され、当時冒険者だったリリルカは已む無くサポーターへと転身したようだ。

ソーマファミリアは一定期間内に決められた額を上納しなくてはいけない決まりが出来ており、行く宛のないリリルカはこれまでの生活過程で培ってしまった冒険者への恨みを蓄積し、終には窃盗を余儀なくしていたようだった。

「そして今回目をつけたのがベルだった、と」

「…はい。ベル様のもつナイフはヘファイストスのお手製だと聞きました。
そのナイフなら、高く売れるのではないか、と思って…」

「残念ながら、ベルのナイフは高額にはならないだろう。
刃は死んでるし、ベル以外が使えばそれこそガラクタに豹変する。
刀身に刻んである神聖文字も、解読出来るのは神だけだし、売却してもその意味は理解されない。
あれはベル専用のナイフなんだよ」

「……そんな…」

「ま、この際ベルの事は後回しにしろ。
今はお前さんの事についてだ」

今はベルのナイフは関係がない。
割りと簡単な話、もうベルから盗ろうとするな、と釘を指しておいたに過ぎないのだから。

「ソーマファミリアを、どう思っている?」

「……なんで……そんなこと聞くんですか…?」

「良いから答えろ。
その答えによって今後の対応は変わってくる」

まぁソーマファミリアに殴り込みに行くぐらいしか無いだろうけど。

「私は…辛いです。
リリはサポーターとしてやって来ましたが、冒険者から受ける屈辱は耐えがたいものですから。
リリは冒険者が嫌いです。
常に自分の事しか考えず、危なくなったらリリを囮にしようとします。
今までにも、何度かあったことです…。私は…リリはもう疲れました…」

思っていた異常に重かった。
サポーターってそこまで蔑まれる職業なの?
ぶっちゃけあり得なくね?

「ソーマファミリアから脱退したい…とは思わないのか?」

「出来ませんよ…。
ソーマ様は…神酒を造ることにしか興味はありません。
実質、ソーマファミリアを取り仕切っているのはザニスと言うLv2の冒険者で…
その男には会いたくも、近づきたくもありません」

何とも面倒くさいファミリアだ。
つーかLv2が取り締まるって…Lv2以上の冒険者はいないのか?

「はぁ……正直アホ臭いとしか言いようがねぇな」

「………」

「ま、取り合えず今日はしっかり眠れ。
明日もベルに付いていくんだろう?」

「…そのつもりでした。
でも、もう…」

「だったら伝言を頼む。
明日は用事が出来たから一緒に行けないってな。
リリルカは俺の代わりにベルに付き添え。いいな?」

「………ど、どうしてですか!
リリは盗人何ですよ!?それなのにどうしてベル様に付き合わせるんですか!
リリは…」

「自分が盗人だと自覚し、それでいて後ろめたさを感じる。
その時点でお前はまだ頑張れる。
盗人である前に、サポーターなんだろ?」

「………分かりました」

「よし。なら今日はもう寝ると良い。
っと、こいつは返しとくぞ」

そう言って俺は金銭袋をリリルカに手渡す。

「えっ!?これって…」

「盗みってのは誰かに気づかれずにするもんだぜ?」

俺はニカッと笑いながらその場から姿を消した。
後に残されたリリルカは、しばらくの間放心していた。
 
 

 
後書き
ゆ 
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