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獣皮パーカー

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第六章

「ですから脱いでいますが」
「外ではですね」
「あの服のままです」
「そうなんですね」
「はい、今もそうです」
 こうミヒャエルに話す。
「私達は着ています」
「あの服が一番暖かいんですか」
「冷気も風も遮断して。しかも水にも強いですから」
「アザラシやセイウチの皮だからですか」
「裏の生地の毛もいいです」
「天然の毛もですね」
「あれで顔に氷の結晶が付きません」 
 そうなることを防いでいるというのだ、毛が。
「ですから」
「この服はですね」
「私達にとっては最高の防寒服です」
「今もなんですね」
「そうなんです」
「成程、そうですか」
「それで今も着ています」
 村長はミヒャエルに全て話した、そして。
 あらためてだ、彼とアスカイネンに笑ってだった。
 出しているコーヒーを指し示してだ、こう言った。
「では」
「はい、このコーヒーをですね」
「熱いうちにどうぞ」
「外は寒いですからね」
「また外に出られますから」
 それ故にというのだ。
「これで暖まって下さい」
「では」
 こうしてだった、ミヒャエルはアスカイネンと共にコーヒーと菓子も楽しんだ。そうしてであった。二人は仕事を終えて村を後にした。
 そしてオフィスに戻ってからだ、ミヒャエルはアスカイネンに言った。
「あの服が一番なんだな」
「あそこでもな、けれどな」
「けれど?」
「獣皮パーカーを今も着ているのはあの人達だけじゃないからな」
「他のイヌイットの人達もな」
「ここの近くの村のイヌイットの人達もそうだよ」
 彼等もというのだ。
「獣皮パーカーを着てるさ、カリブーの皮でな」
「アザラシやセイウチじゃなくてか」
「フェアバンクスは内陸にあるだろ」
「だからか」
「断熱効果がある方がいいからな」
「だからカリブーの服か」
「ああ、そうなんだよ」
 カリブーの皮で作った獣皮パーカーだというのだ。
「そうなってるんだよ」
「同じ獣皮パーカーでも地域によって違うんだな」
「いぬいっとの人達同士でもな」
「そこも面白いな」
「そうだろ、イヌイットの人達同士でもな」
「そのことも面白いな」
 こう話すのだった、ミヒャエルも。
「じゃあ今度その村に行ってみるか」
「仕事以外でか」
「そうしようか、ワイフを連れてな」
「ついでにパーカー買って着てみるか?」
「悪くないな、それも」
 まんざらでないといった顔で返したミヒャエルだった、そして彼は実際に後日ロザンナと共にその村に行って獣皮パーカーを見て買った。そうして二人共外に出る時はこの獣皮パーカーの暖かさを楽しんだのだった。


獣皮パーカー   完


                          2015・6・25 
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