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夢のような物語に全俺が泣いた

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汚名返上の鉄拳制裁

「ここがギルドになる。
魔石とかの換金も兼用でやってるから、拾ったら持ってくれば金になるぞ」

翌日、ユウジさんからの説明を受けつつ、ギルドへと到着した。
中に入れば結構きれいで図書館みたいに静かだった。
待ち合いのロングチェアに受付等があり、見た感じが市役所みたいな構造だ。

「嬢ちゃん、ひさしぶり」

ユウジさんはつかつかと受付の前に歩いていき、眼鏡の女性に話しかけた。
耳がとがってる辺り、エルフなのだろうと推測する。

「あら、お久しぶりですユウジさん。
今日はどうしましたか?」

「冒険者登録を頼む。こっちの少年がそうだ」

「あ、ども…ケイ・ウタルです」

ユウジさんに紹介され、俺は一歩前にでる。
女性は俺をじっと見つめた後、ニッコリと笑った。

「はい。私はエイナ・チュールと言います。
登録事項を確認した後、ここギルドについて説明をいたします。お時間は大丈夫ですか?」

「はい。お願いします」

「承りました。ではお名前をお願いします」

「ケイ・ウタルです」

こうして冒険者に必要な質問が始まる。
簡単な受け答えをしていく中、所属ファミリアは何処かと聞かれ、ゼウスファミリアと答えたとき、
エイナさんを含めた全員が顔を強ばらせた。

「もう一度聞きます。
貴方の所属するファミリアは何処ですか?」

何がいけなかったのだろうか?
彼処の主神はゼウス様だと言っていたし、間違いはないはずだ。

「ゼウ「ラドクリフファミリアだ」…ユウジさん?」

「こいつはゼウスと言う名前が記憶に焼き付いていて離れない。
一度はトラウマになったが、ファミリアと聞くだけでゼウスを連想してしまうんだ」

もう一度ゼウスと言おうとしたとき、ユウジさんが割って入り、そう言った。
エイナさんがそうですか…と悲しそうな顔をした後、顔をあげて質問を続け始めた。

「………はい。以上で登録を終わります。
貴方に何があったかは存じません。ですが…これから先頑張ってくださいね?」

マジで何があったゼウスファミリア…。
俺どんな位置付けされたんだよ。

「それではギルドについて説明します。
まずは――――――――」













「結構かかったな」

外はもう暗い。
辺り一面に街灯が灯り、商業者達は店じまいをしていた。

「あの、何でゼウスファミリアの時…」

「ゼウス・ファミリアはもう存在しないからだ。
過去、ヘラ・ファミリアと言うファミリアとツートップで最強を誇っていた探索系ファミリアなんだが…
15年前、古代モンスターっつー陸の王者(ベヒーモス)海竜覇王(リヴァイアサン)を倒した際、
隻眼の黒竜に敗れて主力団員が全滅し、ゼウスとヘラは当時対立していたロキとフレイヤに追放されてオラリオから姿を消したんだ」

「じゃああの人は誰なんですか!?」

「正真正銘、ゼウスだ。
この世界のゼウスはもういないが、あのゼウスは本物なんだよ。
所謂別世界のゼウスってところか…。
この世界ではゼウスファミリアは消滅したってことになっているから、俺たちはゼウスの名を使えない。
よって俺の名前を入れてラドクリフファミリアってことにしてんのさ」

「でもそれってユウジさんの…」

「そう。一応ながら俺も神の一人として存在するからな。
龍属神王 ユウジ・A(アルハザード)・ラドクリフ…仮の名前を使うには丁度良いのさ。
ま、俺はこの世界で赤志の名前を使ってるから神だろうがダンジョンに潜れるってな」

わははは、と笑うユウジさん。
色々と疑問はつきないけど…その内分かるんだろうな。

「さて、小腹すいたし、彼処で飯でも食うか」

「あ、はい」

ユウジさんは話を切り上げて一際賑わう建物を指差して歩いていった。

「いらっしゃいませ!席へご案内させて頂きます!」

出迎えてくれたのは人属の少女。
大体今の俺より2歳くらい下の明るそうな人だ。

「さて、金は気にしなくていいから好きに注文しな」

「あ、ありがとうございます…」

「…なぁ。敬語やめねえ?
確かに俺はお前さんの何百倍ほど生きてるが、ただそれだけの事なんだよ。
ゼウスも言ったようにもっとフレンドリーに行こうや」

「あー…分かった。それじゃユウジと呼ばせてもらうよ。
改めてよろしく」

「おう」

なんと言うか気さくな人だ。
最初見たときは強者足り得る風格を持っていたのに外に出てみれば何の影も見当たらない。
実力を隠しているのか、はたまたこれが素なのか。
どちらにせよ、いい人であると言うことだけは分かった。

「注文は決まったかい?」

そう言って来たのは大柄なおばさん。
その豪快な表情は出来る人を連想され、忍○の食堂のおばちゃんを思い出させる。

「あ、えっと…このお薦めってやつで」

「俺は前来たときと同じやつな」

「あいよ!
それにしても久し振りだねぇ。あれから姿も見せないで…一体何してたんだい?」

どうやら知り合いのようだ。
おばさんはユウジに話しかけ、親しげに会話を盛り上げる。
俺は話に入れないので料理を待つことにする。

「すみません、隣宜しいですか?」

「ん?ああ客か…良いですよ」

「冒険者さん。こちらへどうぞ」

「し、失礼します…」

先ほどの少女に連れられ、俺の隣へ座ったのは昨日の白髪少年だった。

「君は…」

「あ、貴方は!あの時はすいませんでした…僕一人だけ何もしなくて…」

目があった瞬間に謝り倒す少年。
腰が低いと思いつつも謝罪を制止させる。

「いや、あの時はお互いに助けられたんだ。
それで良しとしよう、な?」

「あ…はい。それで…あの人、アイズ・ヴァレンシュタインさんは…何か言ってませんでしたか?」

「へ?あー…悪ぃ、あんまり覚えてねぇんだわ」

「そうですか…」

何だろう…この少年の目は?
何かにつけて不安なのか…それでいて真っ直ぐなのか…。
たぶんこう言うのを純粋って言うんだろうな。

「……あ」

「ん?」

ふと、少年が何かを見つけた様に声をだし、俺もつられてそちらの方へ向いた。
そこには団体での集まりがあり、その中に昨日の女性の姿が。…犬耳の奴もいる。

「なぁアイズ。そろそろあの話しても良いんじゃねぇか?」

「あの話?」

どうやら祝勝会の様な物らしく、それぞれに酒などをの見交わす。
その一方で犬耳がアイズ?さんに話を振った。
まぁ俺には関係ないと言うことで目線を戻して前を向

「あのトマト野郎と小心野郎の事だよ」

――こうと思ったがその場でストップ。
明らかに最初の単語に聞き覚えがありすぎた。
甦るのは昨日の記憶。あの時、あの犬耳に言われたことは確実に覚えている。
どうやら隣の少年も、体を強ばらせた辺り見に覚えのありそうな話なのだろう。

「それってミノタウロスのことだよね?
17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げ出していった?」

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよぉ。
俺達が泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたのによ~」

耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。
だが、心の何処かで塞ぐな、と言われているかのように動かない。

「それでよ、いたんだよ。
いかにも駆け出しって言うようなひょろくせぇ冒険者のガキどもが!
抱腹もんだったぜ?兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!
1人は立ち向かおうとしてたけどよ、そいつも変に高そうな盾しか持ってねぇでやんの!
盾で何ができんだよって明らかに初心者な風格丸出しだったぜ!
もう1人もう一人で可愛そうなくらい震え上がっちまって顔をひきつらせてやんの!」

身体中が火であぶられたように熱くなる。
ビンゴ…昨日の事に間違いはない。

「ふむぅ? それで、その冒険者どうしたん? 助かったん?」

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

「……」

ヴァレンシュタインは答えなかった。
それは俺達の事を考えての事だろうか?それとも、ソウヤさんの殺気の事だろうか?

「それでそいつら、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトみたいになっちまったんだよ!」

「うわぁ……」

「アイズ、あれ狙ったんだよな? そうだよな? 頼むからそうと言ってくれ……!」

「……そんなこと、ないです」

ヴァレンシュタインは否定する。
実際否定してくれてありがたいが、あの犬には怒気が高まる一方である。

「それにだぜ? そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ……もう1人なんて仲間に助けてもらうみたいに逃げやかがってよ……ぶくくっ!
うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

どっと笑いに包まれる店内。
その反対側にいる俺達は大きな壁に隔たれているような気がした。
まるでそこだけ違う世界のように…静かで、影が射すように。

しかしあの犬は忘れているのだろうか?
ソウヤさんの殺気を受けたことを。

「しかしまぁ久々にあんな情けねぇヤツラを目にしちまって、胸糞悪くなったな。
1人は泣くし、もう1人は実力も考えないで立ち向かおうとするし」

「……あらぁ~」

「ほんとざまぁねぇよな。ったく、実力がわからないくせに立ち向かおうとするわ、あげくのはてに泣きわめくわ。そんなことするんじゃ最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」

もういい限界だ。
今すぐアイツの口を塞いで地面にめり込ませよう。
そう思い立ち上がろうとすると、方を捕まれて椅子に戻される。
振り向けばユウジさんが首を降って「まだ待て」と言っていた。

「ああいうヤツラがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

だんだんと周囲の音が消えていく中、
あの狼人ウェアウルフの声だけが不思議と耳の中に入ってくる。
怒り浸透…もはやアイツのみの言葉しか俺の耳が受け付けないようだ。

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツラを擁護して何になるってんだ?」

「それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミって言って何が悪い」

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎どもを。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ? あのガキどもと俺、ツガイにするなら誰がいい?」

「うるせぇ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどのの雄に尻尾振って、どの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

「黙れババアッ。……じゃあ何か、お前はあのガキどもに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、第一級冒険者のお前の隣に立つ資格なんてありはしねぇ」

仲間に止められるなか、次々に罵倒を乗せる犬野郎。
そして次の言葉が隣の少年に大ダメージを送る事になった。


「雑魚じゃあ、第一級冒険者アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」


ガタンッと、椅子が倒れる音がした。
隣の席から少年が立ち上がり、勢いよく店から出ていってしまう。
そうか。あの少年はヴァレンシュタインに憧れを抱いていたのか。

「ベルさん!」

少年を追いかけていく少女を端に見て、俺はユウジさんに視線を移す。

「ミアちゃんや。あの少年の勘定はあいつら持ちになるから気にすんな」

「ちゃん付けはやめとくれ。
どういう事かは知らんが、揉め事だけは止めとくれよ?」

「安心しろって。被害に逢うのは彼処のファミリアだけってな…」

ユウジさんはニヤリと笑って俺を見る。
その目は「喧嘩売ってこい」と言っていた。
俺は頷いてから立ち上がり、真っ直ぐに犬野郎の場所へと歩いていく。
しかしその前に一言言っておかなくてはならないことがある。
それを思い出して俺はヴァレンシュタインの前に止まった。

「アイズ・ヴァレンシュタインであってるよな?」

「…そうだけど」

「昨日はまぁ…助かった。
正直敵うかどうかは分からなかったからな」

「君は…白い子と一緒にいた…」

「そうなるな。ただ…鮮血シャワーだけは勘弁してほしかった」

「…ごめん」

ああ。この人は素直なんだな。
しかしその横の犬野郎と来たら…

「おいテメェ」

に始まり、

「アイズと話してんのは俺だぞ!」
「無視してんじゃねぇぞ!」
「話聞いてんのかクソガキ!」

まぁチンピラの様な言い回しを散々に送ってくる。
俺はゆっくりと犬野郎に向き直り、一言、こう告げた。

「表に出ろ犬野郎…」

「あぁ?テメェ…昨日のゲボ野郎じゃねえか…」

「黙れよ駄犬。ワンワン吠えやがって…躾がなってねぇんじゃねえのか?」

「んだとゲボ野郎!」

まさに一触即発。
お互いに胸ぐらを掴み合い、いざ殴ろうとしたところで腕を捕まれた。

「ま、ここはお兄さんに預けなさいな」

止めたのはユウジさんだった。

「っ……何で止めるんだよ」

「(まぁ待ってろ…)なぁロキさんや?」

「何やアンタ?」

「ユウジ・アカシ。しがない冒険者で…【最強】を拝命してるよ」

ざわっ、と店内に喧騒が走る。
【最強】。その名の通り、もっとも強き者を指す言葉であり、その称号を名乗るものは確実に目立つ。
男なら一度はなってみたいその称号をあっさりと名乗り上げたユウジに疑不の念を送る者達が多くいた。

「【最強】…なぁ。
それで?その最強さんがウチに何の用や?」

「なぁに、簡単なことだよ嬢ちゃん。
俺と賭けをしよう…勝てば官軍負ければ屍。
勝者にはタダ飯、敗者は今この店にいる全員の勘定を受け持つんだ。
勝敗が決まったあとも、どれだけ頼み、どれだけ飲もうが会計は敗者が全て支払う。
簡単でシンプルだろ?」

「ほほぉ…賭けねぇ?
一応聞いとくわ。勝負の内容は?」

「この喧嘩を利用しようか。
こっちの少年はうちのファミリアでね。
そこの駄犬に怒りを持っているわけだ…。そっちの駄犬もその気なようだし、
どちらかが倒れるまでってのを条件にしようか?」

…そういうことか。
行きなりの喧嘩で騒動を起こすよりも、正式な場所でやらせる。
敗者は屍…確かに、金をスルって言う意味ではそう言うようにとれるしな。

「あんさんはどうしたいんや?ベート」

「はっ!こんな雑魚に負けるわけねぇだろ!当然やるに決まってる!」

「そうか。その勝負、受けるで」

「グッド…では始めようか」

ユウジさんはそう言って指を鳴らした。
その瞬間、俺と犬野郎が光に包まれ、その場から姿を消した。









ユウジside

「なっ!?」

「消えたっ!」

「ちょ、アンタ何したんや!」

奴さんらが口々に騒ぎ立てる。

「慌てんなよ。
会場をこの場所にするわけにはいかんだろうが。
二人は別空間に転送した。その様子は…っと。このモニターで見れる」

俺は再度指をならし、魔法でモニターを出す。
そこにはケイと駄犬が向かい合っている映像が写されていた。

「よし。お二人さん、聞こえるか?」

俺はモニターに向かってそう言った。







ケイside


『お二人さん、聞こえるか?』

気がついたら芝生の、生い茂る空間にいて、犬野郎と対峙していた。
そこへ聞こえてきたユウジさんの声。

「聞こえます」

『よし、じゃあ開始の合図で始めてくれ。
準備は良いか?』

「はい」「ふんっ…」

俺は腰を落とす。
今は武器を持っていないが犬野郎は腰に二つのダガーをぶら下げている。

『始めっ!』

「だらぁ!」

「はあっ!!」

ユウジさんの開始の合図でお互いに飛び出した。
 
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