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3部分:第三章


第三章

「私でないと相手にはならない」
「だからなのですか」
「半蔵様が」
「安心しろ。私でなければ相手にならないが」
 それでもだとだ。半蔵は話していく。
「私は必ず勝つ」
「だからですね」
「それでは」
「行って来る」
 こうしてだった。彼は自ら弟を消し謀反を事前に潰しに向かった。彼は三河のある森の中に入った。その奥に進むとだった。
 木々、夜の月明かりの木々の中でだ。声がしてきた。
「兄者か」
「そうだ」
 漆黒の忍者装束の半蔵は声に応える。
「私が来た」
「わしを殺しに来たか」
「だとしたらどうする」
 半蔵はこう声に返した。応えるその中に緊張がある。闇の中でお互いに気配を探り合いそのうえで隙も窺っているのである。
「言っておく。わしはだ」
「家康殿の為にか」
「そうだ、家康様の為にだ」
 謀反を潰し弟を殺す、そう言うのである。
「そうするからな」
「無駄な話だ」
 声は半蔵のその言葉を一蹴してきた。
「そんなことをしてもだ」
「意味がないというのか」
「武田様は強い」
 だからだと。武田のことも言う声だった。
「徳川殿では相手にならぬ」
「だから謀反に乗ったのか」
「左様。兄者もどうだ」
 声は笑いながら半蔵に誘いをかけてもきた。
「悪いようにはならぬぞ」
「家康様を裏切りか」
「主を替えるのは戦国の常だ」
 それはその通りだった。実際に主を何度も替えている者も多い。それは忍の者でも同じだ。戦国の世は裏切り、鞍替えが常なのだ。
 だからだとだ。彼は言うのだった。
「よいではないか。武田様にだ」
「悪い話ではない」
 半蔵も武田のことは知っている。その強さをだ。
「しかしだ」
「しかしか」
「わしは徳川様の忍だ」
 だからだというのだ。
「そのわしがどうして徳川様を裏切れる」
「忠義か」
「左様、それだ」
 半蔵は忠誠心の強い男だ。それが彼だった。
 家康への忠義故にだ。彼は声に言うのだった。
「だからわしは裏切らぬ。そしてだ」
「わしを消すか」
「行くぞ」
 闇の中で声に告げる。
「そうするぞ」
「ではだ」
 こうしてだった。両者の闘いがはじまる。夜の森の中でだ。半蔵は駆ける。月明かりも碌にない木々の間を駆けだ。そのうえで。
 手裏剣を投げる、。十字の手裏剣が唸り声をあげて闇に消える。だが。
 反応はなかった。そしてだ。
 またあの声がだ。彼に言ってきたのだった。
 
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