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ウイングマン スキャンプラス編

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■3■ 捜索

1.
くるみはヴィムに捕えられてしまった。
美紅が動けない状態だとわかると、完全に戦意を喪失してしまった。
さすがに普通の人間に対抗するすべはない。抵抗をすることもなかった。
ヴィムは乱暴なことはしなかった。
くるみはヴィムの指示に従って、十字架のようなカプセルに入った。
十字架はプラスチックのような素材で足、腕が次々と固定された。そしてカプセルに閉じ込められるとスキャンプラスに指示を出した。
「そっちはもういい」
ヴィムにそう言われるとスキャンプラスはヴィムの元に駆け寄った。
そして、手からヴィムのブラジャーを取り出した。
手の上にデータが転送されてきたような感じだ。
スキャンプラスのビームによって姿を消した物質は、消滅したわけではなかった。
データ化されてスキャンプラスによって再び物質化することが可能だったのだ。
ヴィムはブラを装着するとくるみの方を見た。
「では、さっさとこいつのデータを収集するぞ」
ヴィムの視線の先には、下半身はプリーツスカートながら上半身はブラジャーだけの、半裸の姿のくるみだ。
くるみは恐怖から完全に戦意を喪失し、抵抗する気力もなかいように見える。
アイドルと言えど、普通の人間なのだから仕方がない。
美紅はくるみを何とかしたいとは思うのだが、何もいいアイデアが思い浮かばなかった。
今の状態では恥ずかしくて戦えない。
でも、それは人に見られていれば、という話だ。
ここは密室だ。
どういう仕組かはわからないが、現在は完全に壁に覆われているようにしか見えない。
そして、そこにいるのはくるみとヴィムとプラス怪人だ。見られて恥ずかしがる男性の姿はない。プラス怪人を動物か何かと解釈すれば恥ずかしがる必要はないかもしれない。
「よしっ!」
そう思って立ち上がろうとした。
しかし、やっぱりできなかった。
踏ん切りがつかなかった。
やはりスキャンプラスの存在が気になって戦うことができなかった。
そして、もう一度よく考えてみると、こんなときにうってつけの策があることに気づいた。
ガ―ディングポイント!
エッチな攻撃をしてくるプラス怪人が多いので考え出された対抗手段だ。
裸にされたときに、見られると恥ずかしい部分を衣類のように隠してくれるガードシステムだ。
先日のマグネットプラスとの戦いですでに使用済だ。
使えることはわかっているから安心だ。
あの格好も下着同然だから恥ずかしいことに違いないが、今の状況を考えればその恥ずかしさは雲泥の差だった。

張り付けられたくるみに背を向け、ヴィムは機械を操作し始めた。
「おい、服が邪魔だ。さっさとデータ化しろ!」
スキャンプラスに命令した。
「はいっ!」
ヴィムの命令のままにくるみに向けてビームを放った。
まずはスカートが消え、完全にくるみは下着姿だ。
「早くやれ!」
実験が始まったらヴィムは完全に研究者の顔になっていた。
美紅は完全にノーマークになっていた。
ヴィムもスキャンプラスもくるみに対して向いていた。
その様子に、今がチャンスだと考えた。
ガ―ディングプポイントを発動するためには立ち上がって右手を上げて宣言をしなければならない。
それを今の格好でやれば、あられもない姿を晒してしまうことになる。
しかし、今なら!
ヴィムもスキャンプラスも自分の方を見ていない。
ならば恥ずかしがる必要はない……かもしれない。
美紅は意を決して立ち上がった。
そして、右手を上げて高らかに宣言した。
「ガ―ディングポイントっ!」
美紅の声はこの部屋の中に響き渡った。

胸も下半身もまったく隠してはいない。
足元はウイングガールズのコスチュームのブーツのままだが、それ以外は一糸もまとっていない。肝心なところは何一つ隠せてはいなかった。
響き渡る美紅の声に、作業に集中していた思わずヴィムも、くるみにビームを放とうとしたスキャンプラスも振り返った。
戦意喪失して意識が朦朧としていたくるみだったが、その声に希望の光を見出したのだ。
しかし――
「…………」
何も変化は起きなかった。
美紅は右手を上げ颯爽と立ち上がったはいいが、何の変化も起きはしなかった。
「あれ?」
視線を感じ恥ずかしくてたまらない。
しかし、賽は振られてしまった。
ここまでやってしまったら、やっぱなし、なんてことは言えない。
手遅れだ。
さすがに、すべてをさらけ出している現状は恥ずかしすぎる。
せめてもと、左手で股間をそっと隠した。
それは焼け石に水だったが、もう一度、宣言をしてみた。
「ガ―ディングポイント!」

やはり何も変化は起きない。
ヴィムもスキャンプラスも不思議そうな顔をして美紅を見ている。
美紅の表情から完全に予定外の展開になっていることはわかっていた。
くるみは再びがっくりと肩を落とし、顔を伏せた。
どうして、ガ―ディングポイントが発動しないの?
美紅は泣きたくなった。
必死に何度も「ガ―ディングポイント」と叫んでみたが、やはり何も起こらなかった。
しかし、何も起きないと確信するとヴィムには美紅の声が耳障りに響いた。
「うるさい、黙らせろ!」
ヴィムがそう言うとスキャンプラスは背筋をただした。
「はい、わかりました!」
そして慌てて美紅に向けて拘束具を放った。
ガ―ディングポイントが発動しないことで、美紅も気力が尽きたのか避けることもなかった。
そして、簡単に十字架に張り付けられてしまった。
美紅は、くるみと同様に十字架のような台に手足を固定されている。

美紅を拘束すると、スキャンプラスはくるみの前に立った。
そして、くるみに向かってビームを放った。
くるみのスカート、ブラジャーと順々にデータ化されて消えていく。
美紅はすでにブーツをのぞけば全裸になっているので、スキャンプラスがビームを放つことはなかった。
美紅が拘束された十字架は手の部分が内側に折れ曲がり長方形のポッドのように変形した。
衣服がない分、くるみに先行する形で美紅の作業が開始された。
透明のカプセルが美紅の体を覆い、完全にポッド化すると、その上下から白い気体が黙々と出てきた。
その気体は睡眠ガスだったようで、美紅は意識をすぐに失った。
「広野君、助けて……」
くるみも全裸にされるとポッドに閉じ込められると、同時に睡眠ガスによって眠らされた。

ヴィムは無言で作業に入った。




2.
久美子がくるみと美紅が入るのを見たという喫茶店の上空に、健太と桃子はやって来た。
「あれ?」
桃子の記憶は的確で、迷うことなく喫茶店に着いたのだが、そのすぐそばには見たこともない建物が建っていた。
「あんなところにあんなのあったっけ?」
桃子は疑問に思ったのだが、この辺りに詳しくない健太は警戒する様子もなかった。
健太はその言葉が聞こえていなかったのか、喫茶店の方に近づいていく。
「リーダー、あっちの建物が怪しいです!」
桃子が指差す方向を健太も見た。
確かに健太もその建物は見た記憶がなかった。
ただ、この近辺は通学路から外れているので、あまり詳しくはなかった。
「そう?」
それほど大きな町ではないので、何度か来たことはあったが、その時の記憶を思い起こしてみても、確かに見覚えはなかった。
だが、知らない間に新しい建物が建っているなんてことはない話ではない。
「リーダー、この建物、絶対に怪しいですよって!」
桃子はピンときたのだ。
正解を見つけたかのように、目を輝かせている。
その言葉の根拠は別になかったが、桃子は一直線に見慣れない建物の方に向かった。
健太は喫茶店から見るべきだとも思ったが、バラバラに動かない方がいい。
そのインスピレーションにかけてみるのも悪くないかもしれないと、桃子の後に続いた。
「そうだな。とりあえず調べてみよう!」



その頃、アオイは仲額高校の教室で補習の授業を受けていた。
「ああ、なんで地球の勉強ってこんなに面倒なのよ……」
ディメンションパワーがあれば簡単に対応できてしまうが、地球の生活に馴染もうと決めたのだ。ディメンションパワーに頼っていてはいけない。
「まあ、ケン坊も今頃、勉強してるんだろうし、仕方ないか……」
窓の外を眺めながら、ため息をついた。



ヴィムは無言で美紅とくるみのデータ収集を始めた。
モニターをには美紅の情報から流れてきた。
ポッドは眠らせる以外にも体重や身長、脈拍などの情報を読み取ることができた。
そして、スキャンプラスだ。
ポッドの上に被さるように抱きつくと体を上下に動かし始めた。
スキャンプラスのお腹が白い光を発し、裸の美紅をぼんやりと照らした。
その動きに合わせて微電流のようなものが流れ、気を失っているはずの美紅もピクピクと動いて反応している。
「よし、いいぞ」
スキャンプラスが動くと美紅の身体的な情報が次々にヴィムの端末に集まってくる。
「この仮設研究所でできることは限られているのに、なかなか優秀じゃないか」
ヴィムは美紅の情報を見ながら満足げな笑みを浮かべた。
そして、くるみの方のポッドを見た。
完全に一糸まとわぬ全裸にされてポッドの中で眠らされている。
そして、モニタの上に出ているカウンターの数字を見た。
「しかし、ウイングマンがいつくるとも限らない。急いだ方がいいな」
美紅はある程度の基本情報を得ることはできた。まだ中途半端だが、今回の目的はアイドルの調査だ。くるみを調べなければ本末転倒だ。
ヴィムはスキャンプラスに新たな指示を出した。
「そいつはもういい。こっちの女をスキャンしろ」
スキャンプラスは美紅のポッドからくるみのポッドに移動した。
そして、美紅のときと同じようにくるみのポッドに抱きついて体を上下させた。
ヴィムのモニタにはスキャンプラスが読み取ったくるみのデータが次々と送られてくる。
しかし、それよりも美紅のデータが気になっていた。
「こんな小娘に手こずっていたのか……」
スキャンプラスの方をチラと見た。
「やっぱり、こいつがウイングマンに勝てるとは思えないな」
独り言だったがスキャンプラスにその声が聞こえた。
戦いではいいところ見せれなかったが、データのスキャンに関しては自信があったし、自分が役に立てている感触を得たので、平常心に戻ることができた。
「私は戦闘用じゃないですからねー!オッケーオッケー。急いでデータ集めますよー!」
そう言うと今までよりも激しくし体を上下させた。



3.
桃子が怪しいと言った建物の前に着地すると健太は一旦変身を解いた。
ウイングマンは変身できる時間に限度があるからだ。
桃子も着地して建物を見上げた。
「やっぱり、こんなビルなかったですよ。私、今朝もこの近く通っているんですから!」
桃子の自信満々に言い切った。
健太も建物の周りを歩いてみて、桃子の予想が正しいと確信した。
普通の雑居ビルを装って入るが、すべてのカーテンで閉め切られていて人のいる気配が感じられない。何か機械が動いている音がするのだが活気が感じられない。
これだけのビルで無人というのは廃墟以外では考えにくい。しかし、廃墟というには新しすぎる。
健太と桃子は2人でビルを調べたが、入り口が閉じられていて入ることができない。
「確かに怪しすぎる……」
活気は感じられないが機械が動いているのだ。何かに使われていることだけは確かだ。のしかし、入り口を調べたが扉が閉じられている。地上からは入るすべがなかった。
「リーダー、上に扉がありましたよ」
桃子は屋上を指差した。
入り口があるのならそこから入るしかない。
「チェイン……」
変身しようとする健太を制して、桃子は健太に抱きついた。
「ちょ、ちょっと……」
桃子の行動に動揺するがそれが勘違いだとすぐにわかった。
「まだ変身するのは早いですよ。飛ぶだけだったら私がいれば大丈夫です!」
そう言うと健太を捕まえたまま飛び上がった。
「わ、わ、わ~っ」
いきなり体が宙に持ち上げられたのと桃子の胸がお腹辺りに当たるのを感じて、少しばかり慌てたが、それも一瞬だった。
「はい、着きましたよ」
健太としてはもうちょっと長くてもよかったかな、とも思ったがそんな素振りを見せるわけにはいかない。
「そうだね、とりあえず中に入れるかな?」
屋上に飛び出た入り口に手をかけ、ドアノブを回してみた。
ガチャガチャ。
「あ、開いた……」
不用心なのかそれとも罠なのか、健太は用心をしながら、なるべく音をたてないように静かにドアを開けた。
「いくぞ。敵が何をしてくるかわからないから、注意をして」
後に続く桃子にも注意を促した。
迂闊に行動できない。
だいたいライエルたちがどういう理由でくるみを狙っているのか理由がわからないのだ。

階段には電気がついていない。真っ暗だ。
さすがに電気をつけるわけにはいかないので、慎重に一歩一歩歩みを進めた。
罠だとすれば階段を降りる最中にも何かをしかけてくるはずだ。
しかし、何も起きることなく2人は階段を降り切った。
「単なる不用心なだけか……」



 
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