| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

少年少女の戦極時代・アフター

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

After19 前哨戦


 ざっ、ざっ、と土と草を踏みしだく音だけがしていた。

 咲に気づかれない程度に視線を流す。

 咲の顔は強張っている。緊張しているのだろう。ロード・デュークとこれから戦うかもしれないから、というだけではなく、未知の惑星に立っていることそのものに。
 そこまで悟って、しかし、戒斗は咲に声をかけなかった。
 咲が自分から何も言わないのだから、他人の下手な励ましや慰めなど欲しがっていないのだろう。

 しばらく歩いて、戒斗たちは開けた場所に出た。

 そこには、森にあるにはそぐわない、何かの砲台らしき兵器が据え付けられていた。
 ドームから伸びる砲口は空に向けられている。それだけのシンプルな外観だ。

「ひょっとしてこれ、舞さんを撃ったレーザーの発射台とか?」
「大いにありうるな」

 戒斗は砲台を軽く撫でた。当然だが、冷たい金属の感触がした。

(ここまで密林が続いてきたんだ。おそらくこの星は全体がヘルヘイムの森に近い環境で、こういった機械文明は発展してないと考えられる。ないはずの技術。持ち込んだとしたら、ロード・デュークという線が一番濃い。奴もこの星にとっては異星人か? ――いや。小難しいことを考えるのは別の奴の役目だ。今はただ進むだけだ)

 戒斗は踵を返した。
 咲が慌てたように小走りで付いて来た。

「あれ、もっと調べなくていいの? ヘキサに乗り移ってるけど、舞さんのバリア、はね返した兵器だよ?」
「ああ。おそらく俺が食らった対インベス用の矢と同じ造りだろう。だが、今は舞たちと合流するほうが先決だ。舞の案内がなければ右も左もないからな」
「うーん。まあ、戒斗くんがそう言うなら。紘汰くんも心配だしね」

 咲の口を突いて出た葛葉紘汰の名に、ちり、と何かが体内で焦げついた気がした。

「どしたの? ヘンな顔」
「元からこういう顔だ」
「えー、そうかなあ」
「――咲」

 戒斗は足を止め、ふり返って咲と正面から向き合った。
 咲は小首を傾げて戒斗をまっすぐ見上げている。

(警戒心がなさすぎる)

 その咲に、前にバスターミナルでしたように頬を指先で撫ぜ、顔を近づけ――

「戒斗、咲ちゃん、無事!?」

 草を掻き分けて舞と光実が現れたことで、盛大に肩透かしを食らった。

「舞さん! 光実くん!」

 わーい、と咲は舞に抱きついた。本人はヘキサに抱きついたつもりなのだろうが。舞も舞で、コドモに懐かれて嬉しいのか、ほややんとした顔で咲を抱き返している。

「無事合流できて何より。そうだ。僕たち、ここに来るまでに例のレーザー兵器の本体を見つけたんです。また舞さんや、紘汰さんを狙い撃ちされるなんて許せないんで、変身して壊しておきました」

 光実は満面の笑みだ。
 この笑顔の光実を深く追及してはいけない。1年半に渡る付き合いから、戒斗は相槌を打つのみに留めた。

「それならさっき俺たちも見たぞ。特に手は出さなかったが」
「え!? そんな。そうと聞いたら黙ってられません。ちょっと壊しに行ってきます」

 光実は戦極ドライバー片手に回れ右。慌てて舞が止めている。

「さっきみたいに近くに住んでる動物たち驚かせたらどうするの」
「ごめんなさい……」

 飼い主に怒られる犬。まさにそんな光景だった。

(どいつもこいつも付き合いきれん)

 戒斗は無言で踵を返して元来た道を歩き出した。

 ここで舞と光実の言い合いを聞いているくらいなら、自分があの砲台に戻って破壊したほうが、話が早いと思ったからだ。






 戒斗がいつのまにかレーザーの砲台を壊して戻って来てからは、光実と舞も加え、咲たちは4人で大樹を目指した。

「わあっ」
「すごい――」

 辿り着いたのは一面見渡す限りの澄んだ湖。
 湖の中心に、水に根を張るように、色とりどりの花を咲かせる大樹が生えていた。

 咲は人生でこれほどに神秘的な風景を見たことがない。

「ここにあたしたちが閉じ込められた場所に通じるクラックがあるの。ここから入れる次元の狭間に、紘汰とあたしの本体がある」
「中から破ることはできないんですか?」
「何度も試したけど、肉体ごとはだめだった。だから入る時は、必ず外に一人でもいて、タイミングを合わせて外からクラックを開いてもらわないといけない」
「中に入る人と外で待つ人とで別れなきゃいけないのね」

 舞は首肯した。

「なら話は早い。咲。光実。次元の狭間にはお前らが入れ。俺の力で外からクラックを維持する」
「で、でもでも。あのロード・デュークとかオーバーマインドが来たら。戒斗くん一人じゃアブナイよっ」
「ならお前らでロード・デュークを足止めできるのか?」

 これには咲も光実も口を噤まされた。

「奴はオーバーマインドの中でもオーバーロード級だ。ならば同じオーバーロードの俺が残るのが一番いい。違うか?」
「……ちがわない」

 やるせない顔で俯く咲。

「気をつけてね、戒斗」
「分かってる。さっさと行って帰って来い」
「……やっぱり戒斗は変わらないわね」

 舞が掌を上げた先にクラックが開いた。

「ミッチ。咲ちゃん。変身して。この中は生身じゃキツイから」

 咲は光実ともども肯き、戦極ドライバーを装着し、ドラゴンフルーツとブドウの錠前を開錠した。

「「変身」」
《 ドラゴンフルーツアームズ  Bomb Voyage 》
《 ブドウアームズ  龍・砲・ハッハッハッ 》

 紅白と()(すい)の戦装束がそれぞれ咲と光実を鎧い、彼女たちを月花と龍玄へ変えた。

 舞と共に、いざ突入――という時だった。


『で。そこで簡単に行かせる私じゃないって、分かってるんじゃないかな』


 ソニックアローの雨が降り注いだ。

 誰より速く、戒斗が反応した。戒斗はロード・バロンに変異し、周囲の植物を籠のように編み上げた上で、網目を超えたソニックアローは杖剣で斬って捨てた。

 植物が引いていき、矢を放った主の姿が露わになる。

『ああ。このタイミングで邪魔をするとしたら、貴様しかいないな』

 ロード・バロンは杖剣を構え、ロード・デュークと対峙した。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧