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ウイングマン スキャンプラス編

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■1■ 約束

1.
くるみの元にりろとの対談の話が持ち上がったのは先週の話だった。
アイドル雑誌の企画で、歌番組の収録の後にマネージャーから相談された。
りろもくるみと並んで人気のアイドルだったが、タイプがずいぶんと違うので一緒に競演する機会も少なかった。
くるみはりろの正体までは教えられていなかったが、特別な能力を持っているということは知っていた。それを悪用することはしないということも知ってはいたが、少しばかり遠巻きに見てくるみサイドからは積極的に接触は避けていたのだった。
しかし、今回は対談場所が仲額中という話で、くるみはそれに心が動かされた。
くるみは健太が受験だということで遠慮して、自分から会うことを控えていた。
しかし、雑誌の取材で仲額中に行くという大義名分があれば、そのついでに健太に会っても問題ないだろうと解釈した。
それにくるみには仲額中に行くのならついでにやりたいことがあった。

そのもうひとつ目的とは……。
小川美紅に会うことだった。
健太には彼女がいて、それが美紅だということをくるみは知っていた。
美紅とは何度か顔を合わせたこともあったし、あいさつくらいなら言葉を交わしたことはあった。
しかし、きちんと話をしたことはなかった。
別に避けているというわけではなかった。単にタイミングがなかったからだけだった。
ただ、くるみとしては以前から話をしてみたいと思っていた。
もしかしたら、自分のライバルになるかもしれない相手でもある。
興味がないわけがなかった。
中学生くらいの男女交際なんて思いつきのレベルで始まるものだ。
深い意味なんてないことはよくある話だ。
かく言うくるみ自身もまだ17歳で、ほんの2年前までは中学生だったのだ。
仕事が忙しくてくるみ自身が誰かと付き合うということはなかったが、些細なきっかけから惚れた晴れたの話をする友達の話をいくつも聞かされていた。
だから健太が今、現在誰と付き合っているか、ということ自体は大した問題だと思っていた。
ただ、現時点では確実に小川美紅という少女が自分をリードしていることだけは紛れもない事実だった。
敵を知らなければ戦いようがない。。
「いきなり宣戦布告ってのも悪くないしね」


くるみとりろの対談は授業が終わり、生徒たちが下校してから行われることになっていた。
生徒たちが帰ってからでないと、パニックになる。人気絶頂のアイドルが中学生の中に無防備にやってこればただでは済まない。パニックにならないための予防措置である。
しかし、くるみは授業が終わる頃に仲額中にやってきた。
サングラスこそしてはいるが、大した変装はしていない。
茶色のダッフルコートに身を包んだちょっとオシャレな女子高生のプライベートスタイルといった感じだ。
くるみとしては自分が芸能人だからと言って必要以上に変装をするのが気恥ずかしいのだ。
もちろん自分が見つかることでパニックになる可能性も認識している。
ただ普通にしていればそれほど気づかれることもないことを経験で知っていた。
だから、校門の見える建物の陰に身を潜めながらも、自然なたたずまいを意識しながら、帰る生徒たちをチェックしていた。
くるみは下校門から友人たちと下校する美紅の姿を見つけるとその後をつけた。
「この前、探偵の役をやったことが活きるなんて思わなかったな」
そんな独り言を言いながら、美紅たちの後方5メートルくらいの距離で後をつけた。



その頃、健太は図書室にいた。
いつもなら美紅と一緒に下校している。
しかし、今を時めく人気アイドルから会って欲しいと言われれば、言い訳の一つでも考えて会うのが男心だ。
美紅には図書室で勉強してから帰ると伝えた。
くるみとりろの対談が終わってからちょっとお茶するだけなのだけれど、久しぶりのくるみと会えるのだ。
健太はこれから来るであろう楽しい時間を楽しむためにも、図書室で勉強しているわけだ。
しかし、くるみのことが気になって勉強に身が入らない。
「あああ、勉強が手につかないよ~」
健太は頭を抱えた。
「リーダーっ!」
そんな健太をたまたま借りた本を返しに来ていた桃子が見つけた。
健太がくるみと約束していることは美紅にも言ってないトップシークレットだ。
別にやましいことをするわけではないけれど、美紅にも内緒にしている話だ。
それに、さすがにトップアイドルのスケジュールを簡単にもらすわけにもいかない。
その気持ちが裏目に出た。
「お、おう。ピ、ピンク」
あからさまに動揺したかのような声を出してしまった。
「どうかしたんですか?」
桃子は不審に思った。
「え? ああ、うん。家だと漫画とかあって気が散るから図書室で勉強をしようと思ったんだよね、ハハハ……」
その引きつった表情に桃子はさらに不信感を強めた。
「リーダー、何か隠してますよね」
「そ、そ、そ、そんなことはないよ」
健太は隠し事が下手だった。
声まで裏返っている。健太も今の状況はヤバイと思った。
このままではボロを出すのも時間の問題だということが直観でわかった。
それなら早いうちに対処しなければならない。
「じゅ、受験勉強に集中したいから、またな!」
健太は強引に話を切り上げた。
桃子は怪しいと思いながらも、そこで健太に食い下がるようなキャラではなかった。
ただ、そのまま何もしないようなタイプでもなかった。
「私も勉強していこうかな」

健太は冷や汗をかいたが、それを否定するわけにもいかなかった。
「そ、そうか……」
とりあえず、自然にふるまうことを心掛けた。
くるみとの約束は対談が終わってからの後の話だ。
それまでは図書室にいなければいけないのだ。
「ピ、ピンクも夕島高校狙いだっけ?」
とりあえず何もないと思って、切りのいいところで桃子には帰ってもらうという作戦に決めた。



2.
美紅は三差路でと友達と別れて1人になった。
「今、ね」
少し歩いて周りに人気がないことを確認してくるみは美紅の背後から声をかけた。
「小川さん?」
不意に自分の声をかけられて美紅は振り返った。
そこには見慣れないダッフルコートを着た女子高生くらいのオシャレな女の子が立っていた。
「どなたですか?」
見覚えのない女性に少し戸惑いを見せた。
比較的に内向的な性格の美紅にとって、女子高生の知り合いはアオイしかいなかった。
ただ声には聞き覚えがあった。
「私よ。お久しぶりっていうのかな?」
そう言ってくるみはサングラスを取った。
「くるみ……ちゃん?」
美紅は驚いて一瞬言葉を失った。
目の前には今を時めく人気アイドルがいた。
「どうして……?」
まず疑問がうずまいた。
と、同時に年上の人間をちゃん付けで呼んだことに気づいて恥ずかしくなった。
「あ、ごめんなさい……美、美森さん……」
くるみは慌てる美紅を見て、少しおかしくなった。
「ハハハ、くるみでいいわよ。子供にもそう呼ばれてるから私は気にしないわよ」
そういうと美紅に顔をちかづけてマジマジと見つめた。
「ふむふむ。広野君は面食いなのね。下手なアイドルよりかわいいわね」
くるみの声は少し冗談めいてもいたが、本気のようにも聞こえた。
現役の人気アイドルからのお墨付きはそれなりにうれしくもあった。
しかし、それよりもどうしてくるみが自分の前に現れ、接触してきたかが知りたかった。
「私に何か用ですか?」
「小川さんって淡泊なのね。現役にアイドルに褒められたのにうれしくなかった?」
くるみは少しいじわるそうに質問を返した。
「い、いいえ、うれしいですけど、くるみちゃんが私なんかになんの用かなって思って……」
美紅は困った顔で訂正をした。
それを楽しそうな顔でくるみは見ていた。
「立ち話も何だから、どこかに入らない?」
そう言うと美紅の手を引いて近くにあった喫茶店に入った。
「あの……校則違反なんですけど……」
しかし、美紅はくるみの行動にとまどっていた。
「小川さんってマジメなのね。私、これでも有名人だからさ、誰に見られてるかわからないじゃない?」
くるみは紅茶を注文し、美紅も同じものを頼んだ。
「そんなに緊張しなくてもいいわよ。私ね、一度、小川さんと話をしてみたかったんだ。ただ、それだけよ」。
そう言うとたわいのない話を始めた。
どんなテレビを見るのかとか、好きなスポーツとか、本当に普通の話だった。
1時間くらい話したところで、くるみは腕時計を見た。
「そろそろ行かなくちゃ。私、これからりろちゃんと対談のお仕事があるから」
そう言って2人分のお金を払うとお店を出た。
「ごちそうさまでした。とっても楽しかったです」
美紅はくるみの後に続いて店を出ると深々と礼をした。
そして、くるみは学校の方に戻っていった。

角を曲がりくるみが姿が見えなくなった。
美紅もそれを確認して家に向かって歩き始めたところだった。
「きゃああああああっ!」
くるみの悲鳴が聞こえたのだ。
慌てて美紅はくるみの方に向かって走った。


くるみの前には褐色の肌のエキゾチックな衣装を着た小柄な女性とプラス怪人が立っていた。
褐色の女性はライエルの部下でプラス怪人の開発を行っているヴィム、と彼女が開発した最新型のプラス怪人、スキャンプラスだった。
「オッケーオッケー! その驚き方、いいねえ!」
スキャンプラスはノ軽快なトークでくるみを迎えた。
驚いたくるみは、持っていたリュックを投げつけた。
そして、来た道を急いで引き返そうとした。
すると反対側にはヴィムが出て、くるみの行く手を妨げた。
「ちょっと一緒にきてくれないかしら?」
くるみは立ち止まった。
この怪人の仲間だということは並の人間でないことは想像に難くなかった。
顔色が蒼白に変わった。
その時――
「そうはさせないわっ!」
ヴィムの後ろから美紅が姿を現した。
「くるみちゃんは私が守るわ!」
そういうとポケットからWの形のバッジを取り出した。
そして、バッジを胸に着けて、ウイングガールズに変身した。

「お前はウイングマンの仲間か……」
ヴィムはそう言うとニヤリと笑った。
 
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