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マンホールの中

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3部分:第三章


第三章

「それはな」
「全然信じていないんだな」
「激しい雨が数日だな」
 翔は今度はこのことを指摘してきた。
「ネットではそう書いてるんだな」
「ああ、そうさ」
 また答える昇だった。
「そう書いてあったんだよ」
「じゃあ今日開けたらどうだ」
 こう昇に提案する。
「今ここでな」
「ここでか」
「そうだ。もう何日も激しい雨が降っている」
 これはその通りだった。もう数日も雨が止まない。先程二人が話していることそのままである。とにかく雨は止まず降り続いているのだ。
「それだと丁度いいな。マンホールを開ければその世界に行くことができるぞ」
「開けろっていうのかよ」
「そこにあるしな」
 翔が指差したそこにあった。そのマンホールが。
「あれを開ければ行ける筈だぞ」
「じゃあ今から開けるぞ」
「勝手にしろ」
 翔は開けるにしろ好きなようにしろと告げた。
「御前が信じるんならな」
「よし、それじゃあな」
 昇は笠をさしたままであったがそれでもマンホールに向かいそこにしゃがんだ。そうしてそのままマンホールに手をかける。その間翔はそっと彼の側に来てその笠を左手に持ちそれで雨がかからないようにした。そうしてそのうえで彼がマンホールを開けるのを見るのだった。
 マンホールは程なくして開いた。その中には。
「何か見えたか?」
「いや」
 昇は開けたマンホールの中を覗きながら答えた。
「何も」
「だろうな」
 翔は昇のその言葉を聞いて述べた。
「そんなことだと思った」
「最初から信じていなかったのかよ」
「じゃあどうやって信じろというんだ?」
 顰めさせた顔で返した言葉だった。
「そんな話。一体どうやって」
「けれどな。実際に書いてあったんだよ」
 それでも昇としては反論せずにいられなかった。そのマンホールを開けたまま。
「本当なんだぞ」
「書いてあることだけが真実じゃない」
 翔の言葉はそのまま真理であった。
「むしろ嘘の方が圧倒的に多い」
「そんなものかよ」
「特にネットだろ。ネットはそれこそ嘘と真実が入り混じってる」
 しかも複雑にである。それがインターネットというものだ。
「それでどうしてそんな書き込みが信じられるんだ」
「けれど本当だろ?」
 それでも昇は言うのだった。まだそれでも。
「俺はそう思うんだけれどよ」
「本当だったら今マンホールから何か出て来るな」
 翔はここでもまたはっきりと言うのだった。
「違うか?それは」
「出るかも知れないだろ?」
 彼も引かなかった。引けなくなったと言ってもいいが。
「ひょっとしたらよ」
「じゃあ俺も覗いてやる」
 翔もここで彼を完全に諦めさせるつもりになっていた。それで前に出たのだった。
 今度は二人でそのマンホールの中を覗き込む。そこは相変わらず真っ暗闇で中には何も見えることはない。そう、その筈であった。 
 だが二人が同時に覗き込んだその瞬間にであった。不意にマンホールからやたらと目の大きいぶよぶよとしたものが出て来たのであった。
「んっ!?」
「何だこいつは」
「いやあ、どうもどうも」
 それはよく見たら人間に似ていた。しかし顔はやけに大きくかなりたるんでいる。それを見る限りあまり人間には見えはしなかった。
「お客さんですか?これはまた」
「お客さんってまさか」
「俺達のことか」
「違うんですか?」
 そのぶよぶよとした人間のようなものはまた二人に言ってきた。
 
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