マンホールの中
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2部分:第二章
第二章
「御前一人でな」
「何か引っ掛かる言い方だな」
「事実を言っただけだ」
しかし翔の態度は変わらない。その言葉も。
「そのままな」
「じゃあ本当にマンホールの中に世界があったらどうするんだよ」
昇も引かない。殆ど売り言葉に買い言葉になっていた。
「その場合はよ」
「その場合はか」
「そうだよ。どうするんだよ」
「その時は一緒に行ってやる」
こう言う翔だった。
「そのマンホールの中にな」
「言ったな、じゃあ本当にだぞ」
「もっともそんなものがある筈がないがな」
この考えは不変だといった言葉だった。
「絶対にな」
「じゃああった時に楽しみにしてろ」
昇もまたその言葉を変えはしない。最早殆ど喧嘩であった。
「絶対にな」
こんな話をしていた。そんな雨の日の下校時間だった。そしてこれから数日後だった。彼等はまた一緒に下校していた。この日もまた雨だった。
「最近雨が多いな」
「全くだ」
翔はこの日は穏やかに彼の言葉に頷いていた。
「いい加減嫌になってくるよな」
「雨も多過ぎると鬱陶しいだけだ」
二人もここでは意見は一致していた。
「どうにかならないものかな」
「まあ仕方ないよな」
しかし昇はそれを受けたようにして言葉を出した。
「雨が多いのもな」
「仕方ないか」
「天気なんてそれこそ誰にもどうにかすることなんてできないさ」
そしてまた言う昇だった。
「だからな。あれこれ言っても仕方ないな」
「随分と物分りがいいな」
翔はそんな昇の言葉を聞いて述べた。やや嫌味さがあるがそれでも昇はそれについては何も言わずそのまま言葉を続けるのであった。
「この前はあんな馬鹿なことを言っていたのにな」
「マンホールのことかよ」
昇はすぐに彼が何のことを言っているのか察した。
「この前っていえばよ」
「そうだ。高校でも言っていたな」
二人が通うその高校でも言っているのだった。昇はもうそのマンホールの中の世界のことばかり言うようになってしまっているのである。
「今日もだったな」
「今日もそうだし昨日もだったよな」
昇は自分のことを振り返りながらそう述べた。
「そういえば」
「おかしいとは思わないのか?」
真顔で昇に問うてきた。
「それが。そんなありもしないことで」
「あるかも知れないだろ」
しかし昇はまだ言うのだった。諦めることのないように。
「そうだよ。それであれからもまだ調べたんだよ」
「ネットでか」
「そうさ。それでまた一つわかったんだよ」
そのマンホールのことをまた話すのだった。
「面白いことがな」
「それで何がわかったんだ」
信じてはいないが馬鹿にはしていない顔で昇に問うてみせた。
「ネットで」
「マンホールの世界に入れるのはな。普通の日じゃないんだよ」
彼が言うのはこのことだった。
「普通の日じゃな」
「じゃあどういう日なんだ?」
「雨が降ってな」
まずは雨だった。
「激しい雨が数日降ってそれからマンホールを開くとな」
「行けるのか」
「ネットじゃそう書いてあったぜ」
誇らしげにこう翔に語るのだった。
「そうな」
「そうか。よかったな」
ここまで聞いて如何にも信じていないという表情を見せるのだった。
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