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Fate/Modification 〜13人目の円卓の騎士〜

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第1部 旅立ち
  第2話 食事って大事だよね

 
前書き
第2話です。
駄文です。
良ければゆっくり読んでいってねッ‼︎ 

 
西暦6世紀?
ウェールズ エクター卿邸宅

拝啓、天国の御師匠様。
貴方の不出来な弟子はタイムスリップなんて言う、とんでもない事をしでかしてしまいました。
今はアーサーと名乗る男装少女に助けられ、ウェールズのエクター卿の屋敷に居るみたいです。

「先ずは腹ごしらえをしましょう。
父達が帰ってくるまでまだまだ時間がありますから」

とアーサーに食事の御誘いを受けたので、その料理を待っています。
女の子からの御誘いなんて初めてだから内心ドキドキしてます。

そう言えば、今は西暦6世紀頃らしいです。
正直泣きそうです。
どうやって帰ればいいんでしょうか。
ってか帰れるんでしょうか。

「遅くなりました、食事にしま……ど、どうしました?」
「いや、人生に悲観してただけだよ……」

ぼろぼろと滝の様に涙を流す俺を見てたじろぐアーサーであった。

「さあ、新鮮な猪の肉です。
あ、ナイフはお持ちですか?」
「ナイフ? ……投影すればあるけど?」
「投影? ……ま、まぁ、こちらをお使いください」

ゴトッ。

おおよそ、食事には似つかわしくないナイフ…もとい短剣が、これまた食事時には似つかわしくない音を立ててアーサーの手によって俺の前に置かれた。
刃渡25cm程、革の柄と革の鞘に包まれた片刃の短剣で、もっぱら狩猟や戦闘に使うであろう物品を目の前に置かれた俺は、短剣とアーサーの顔を数度見直して押し黙った。

「……食事だよね?」
「はい、そうですが?」

我介さずといった感じで何事もなく席に着いたアーサーは、目の前に置かれた巨大な猪の肉を、自身の腰から抜いた短剣で豪快に斬り裂き、木製の皿にドカッと、盛り付けた。

短剣を手に取り、肉に突き立てる。
固く、中々裂けない肉に四苦八苦しながら、自身の皿に盛り付けて、手掴みで一口食べてみた。
血抜きはされているが、申し訳程度の塩のみの味付けに、思わず眉をひそめる。

「どうしました?」
「……厨房に案内してくれるか?」
「……構いませんが……」

はっきり言って不味すぎる。
これなら一昔前の軍用缶詰の方がマシだ。

せっかくだ、アーサーに未来の料理を食べさせてみよう。

アーサーに通された厨房には、数人のコックと思しき男がおり、アーサーを見るなり直立不動で出迎えた。

「料理長、すみませんが厨房をお借りして構いませんか?」
「はい、アーサー様」

アーサーの目配せでコック達が道を開けた。
その前を通って、蒔釜の前に立ちながら、俺は腕の裾を捲った。

先ずは食材と調味料の確認だ。

猪の肉が目分量で10kg。
ほぼ燻製。
次に黒胡椒、塩、ハーブ各種。
量が少ないのであまり多用は出来ない。
次にエール、ワイン、山羊の乳、水。
それなりに量がある。

次に調理器具。
これはもう御察ししてください…みたいなレベルだ。
鍋や釜はあるが、包丁やまな板なんかありもしない。

俺は少しばかり思考を巡らせ、魔術回路を開いた。

同調開始(トレース・スタート)

師匠直伝の投影魔術で包丁とまな板を作り出し、徐に肉に手を置いた。


◉◉◉


「参りました」
「だから何がだよ……」

私、アルトリアことアーサーは今、猛烈に感動している。
舌に絡む肉汁と香ばしい香り。
黒胡椒のピリッとした辛さも程よいアクセントになっている。
これが今まで食べていた猪の硬く臭みの強い肉塊と同じ物だと誰が信じられようか。
否、誰もが否定するだろう。

「所で、貴方はこの後どうするのですか?
行く当てはあるのですか?」
「さぁてな、名前は忘れたが…生きて行く術を忘れた訳じゃない。
気儘に戻る方法を捜すさ」

彼は肉を掴んだ手を、懐から取り出した布で拭いてエールを仰いだ。

「なら、我が屋敷に仕える気はありませんか?」
「は?」
「帰る方法について私がどうこうできる訳ではありませんが、生きて行く以上、金銭の類はなくてはなりません。
私が貴方を雇い、身仕度を整えてからでも遅くはないでしょう」
「……まぁ、一理あるな」

彼の同意を得た私は、暫く思考を巡らせた。
雇い入れる、と簡単に言ったが、父や兄が許すだろうか?
父を説き伏せることは出来るだろうが、兄…ケイを説得するのは難しいだろう。
替えのエールに口をつけながら、私は思考の海に沈んでいった。


◉◉◉


「ダメだッ‼︎ 俺は許さんぞアルトリアッ‼︎」

その夜、帰って来た父や兄、母と共に壁に寄りかかって話を聞き流している彼について話し合いを始めて直ぐに、兄…ケイが怒声を張り上げた。

「何処ぞの馬の骨とも分からん奴に〝従者を任せる〟だとッ⁉︎
然もこの男はお前の秘密を知っていると言うではないかッ‼︎
100歩譲ってお前が女児の身で騎士となる事は許そうッ‼︎
だが、こんな男にお前を任せる訳には行かんッ‼︎」
「彼の強さは本物ですッ‼︎
私は今日…つい先程、手合わせをして頂きましたが、手も足も出なかったッ‼︎
それに彼の強さには迷いも邪念もありませんでした……。
私は彼を従者にすると決めたのですッ‼︎」
「まだ元服前だというのに、何を言っているんだお前はッ‼︎
幾らお前の願いでもそれは絶対に私達は認めないぞッ‼︎
そうですね、父上ッ‼︎」
「ん、んん⁉︎ ……う〜む……」

父、エクターは顎鬚を摩りながら目を逸らし、隣でニコニコ微笑んでいる妻を見た。
家令である父と、次期当主である兄を説き伏せなければ彼を従者にする事は出来ない。
無論、彼を信じられない気持ちはわかる。
だが、彼と剣を打ち合ってわかった。
彼は悪徳を働くサクソン人の様な野蛮人でもなければ、盗賊の様な蛮族でもない。
彼の剣には決定的な力強さと、身を削る程の努力が見て取れた。
彼が悪徳を働くなどあり得ない。
その気なら昼間の内に私を襲えた筈だ。
だが彼はそうしなかった。
今までの態度が嘘である可能性もあるが、私は彼を信じた。
誰に対しても手を差し伸べ、救済を与え、武を極める。
其れこそが騎士の本懐である筈だ。

騎士を目指すのであれば、彼を救うのも……私の目指す騎士道の、避けては通れない道なのだ。

「私は賛成します」
「んむ⁉︎」
「母上ッ⁉︎」

母が微笑みながら申し出を受け入れた。
兄と父の顔が驚きに満ちた。

「あの頑固で真っ直ぐで、私達に意見もした事ないアルトリアが押す男性ですもの。
私はアルトリアの意思を尊重します」
「ん……」
「何を言うのです母上ッ⁉︎
こんな馬の骨にアルトリアを守れる筈がありませんッ‼︎」
「ケイ、我が息子。
貴方はそろそろアルトリアから自立しなさい。
アルトリアとてもう15……色めき立つのも仕方ない事でしょう」
「「「な……ッ⁉︎」」」

母の言葉に父と兄と一緒に勢い良く立ち上がる。
話題の種である彼は、我介さずと不思議な紙巻きのタバコを吸いながら遠い目をしている。

「は、ははは…母上ッ‼︎ 何を仰いますかッ⁉︎
わわわ、私は女を棄てた身ッ‼︎ ここ、恋など……私がそんな物にうつつを抜かす訳が……」
「そ、そうです母上ッ‼︎ 騎士として生きる為に、アルトリアは女である事を棄てると我々の前で誓ったではありませんかッ‼︎」
「…………」

発言に真っ向から否定する私達を見ながら、母はコロコロと笑った。

「ふふ、でもアルトリア……今の貴女は昔の私そっくりなのですよ。
ねえ、貴方?」
「…………」

立ち上がったまま気絶した父に話しかけながら母は真っ直ぐ彼を見た。

「それにケイ、彼の素姓に疑問を持つのなら、彼と剣を交えてみればよいではないですか。
騎士にとって剣とは己の心そのもの。
剣を携える者同士、決闘で語り合うのが筋でしょう」
「そ、それは……そうですが…………」
「決まりですね。
……貴殿も剣を携えている身、異論はありませんね?」
「……ええ、まぁ。
…構いませんが……」

流石の彼も驚きを隠せない様で、大きく見開いた目で私達を見ている。

「では明日の朝、街の広間で大々的に決闘を行います。
武具は何を使用しても結構。
騎馬を用いても構いません。
真剣同士で、存分に語り合うのです。
いいですね?」
「わかりました……母上」
「了解した、精々期待に応えられるよう武を示そう」

こうして、兄ケイと彼による決闘試合が執り行われる事となった。 
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