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少年少女の戦極時代・アフター

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After3 土を泳ぐ殺人魚 ①


 城乃内秀保は、ラッピングされた一輪の白菊を持って、噴水公園に着いた。

 公園は遊び回る小さな子どもたちと、木陰のベンチで噂話に忙しい母親たちで賑わっている。城乃内の存在は、この場ではさぞ浮いて見えるだろう。
 だが、お構いなしに階段を下り、公園の人工水流の前まで行った。

 ――初瀬はここで死んだのだと、咲から聞いた。

 表面的には、初瀬亮二は行方不明者として扱われている。他でもない城乃内が、行方不明者の掲示板に初瀬の写真付き情報提供の紙を貼った。

 彼の墓はどこにもない。墓参りに行こうと思えば、彼の最期だったというこの場所しか思いつかなかった。

 コウガネとの決戦の前、城乃内は呉島貴虎に真相を聞かされた。


 “初瀬亮二はインベスになって、ユグドラシルに処分された”


 城乃内はこっそりマツボックリのロックシードを取り出した。
 城乃内自身の戦極ドライバーとドングリのロックシードは、かつての戦いで戒斗に破壊されてしまったから、手元にあるロックシードはこれだけだ。

(何も知らない人からすれば、初瀬ちゃんってほんっとバカな奴とか思われるんだろうな。でもね。俺は、黒影の名前も格好も、初瀬ちゃんが一番似合ってたと思うよ。なんて、お前が言えた義理じゃねえだろ! とか言われそうだな。うわー、すっげえ簡単に想像ついた)

 城乃内は人工水流の傍らに白菊を捧げてすぐに立ち上がり、噴水公園を後にした。

 帰ったら行方不明者の掲示板から、初瀬の情報募集の紙を剥がそうと決めて。



 ささやかな献花の帰り道で城乃内は、集団で下校するセーラー服や学ランの生徒を何度も見た。
 この近くで何か事件があったか。城乃内は昨日チェックしたネットニュースを思い出し、思い当たった。

(そういやこの地区だっけ。若い女の子ばっか狙ってるっていう本土の連続殺人犯の目撃情報があったっての。あー、だから集団下校)

「あれ、城乃内くんだ」

 下からした声は聞き覚えのあるものだった。

「咲ちゃんじゃん」

 去年から伸びていない身長の低さのせいで、セーラー服が似合わないことこの上ない。

「今日はシャルモンのお仕事ないの?」
「そう、シフトない日。そういう咲ちゃんこそ、友達とか一緒じゃないの?」
「さっきまでは同じ地区の子たちと帰ってたよ。うちの方向こっちだから、別れたけど」
「ふーん。あ、じゃあ俺が家まで送ろうか。どうせ俺も帰るだけだったし」
「わあ、ありがとうっ」

 ふと思う。成人男性の自分とセーラー服の咲が並んで歩いて、むしろ城乃内が通報されやしないか、と。
 しかし、まあ、と思い直した。それはそれで、シャルモンの従業員だと説明すればこの上ない身分証明になるだろうから、構いやしない。


 いやあああぁぁぁっっ


 ぴた。城乃内と咲の足は同時に止まった。

「今のって」
「うん」
「「悲鳴!?」」

 城乃内たちは走り出した。悲鳴が聞こえればその音源である場所に駆けつけるのは、もはやアーマードライダーとしての習い性だった。

 悲鳴の源はすぐ見つかった。

 50メートルと離れていない廃れた公園の茂みに隠れるように、一人の女子が首から下を()()()()()()()()いた。こんな光景は、海水浴の砂浜でふざけて体を砂に埋めた時くらいにしか拝めまい。

 さらに恐ろしいのは、その女子の頭の角度からして、彼女が土中に()()()()()埋められている点だ。


「待ってて! すぐ出して……」
「だめだ、咲ちゃんッ!!」

 城乃内は咲を引き留め、腕で目隠しをした。

「見ちゃ、だめだ」

 ――女子はとうに事切れていた。目を剥き、その目からは血涙が滴っている。その状態で彫像のように動かない。

 ヘルヘイム災害から、あれ以上に凄惨な光景はこの世にない、と思っていた城乃内の価値観を揺らがすほど、女子の死に様は惨かった。

 駆けつけたはいいが、こればかりは城乃内にも咲にも何もできない。せいぜい110番する程度だ。

 咲を公園の外に出してから通報しようと思い、見たくはないがもう一度その女子の死体を向いた時だった。妙な物が目に付いた。

 小さな三脚に載ったスマートホン。
 ちょうどあの埋まった女子の顔と同じ高さにセットされている。

 ――本土から沢芽市に逃亡してきた連続殺人犯。
 ――犯行の特徴は、被害者の体が不自然に地面や壁にめり込んでいた点。

(何で気がつかなかったんだ。そんな人間離れした犯行なんて、ただの人間にできるわけない。できるとしたら、人間じゃないモノ――オーバーマインドくらいじゃないかよ!)

 城乃内は量産型ドライバーを出して装着した。

「城乃内くん?」
「咲ちゃん。落ち着いて聞いて。もしかすると、今この場に、オーバーマインドがいるかもしれない」

 咲はひゅ、と息を呑んだが、すぐに自ら城乃内の腕を抜け出て、戦極ドライバーを装着した。
 背中合わせになり、どこかにいるかもしれない敵を探す。

「――あのさあ。人がちょっと充電器買いに行ってる間に現場荒らすの、やめてほしいんだけど」 
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