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晃とクロ 〜動物達の戦い〜

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5部分:第五章


第五章

「それじゃあ泥棒だよ」
「けどよ、勝つ為にはそんなこと言っていられる場合じゃないぜ」
 しかしクロはこう言ってそれに反論した。
「住職さんはこの町を自分のものにして脳味噌や内臓をもっと食おうとしてるんだぜ。そんなの相手にしなきゃならないってことはわかってるよな」
「わかってるよ。けど」
「けど。何だよ」
「やっぱり悪いことは」
 言葉を濁していた。盗みが出来る程彼は手段を選ばない人間ではなかったのである。これは非常によいことだがこの場合は不利になることであった。
「じゃあ他のやり方を考えてくれよ」
 クロは突き放したように言った。
「俺達は勝たなきゃいけないんだからな」
「わかってるよ、それは」
 憮然とした声で返す。返しはしたがそれでもどうすればいいのかわかりはしなかった。その日は結局カナヘビから情報を聞いただけでそれ以上の進展はなかった。彼は学校に行きながらどうすればいいのか考えていた。
「どうしようかな」
 学校に行っても考え続けていた。授業のことも頭にも耳にも入らずそのことばかり考えていた。
「どうにかしなくちゃいけないし」
 考えてもどうにもなるものではなかった。とにかく閃きもなかった。考えも次第に煮詰まって来、彼自身もどうしたらよいのかわからなくなってきていた。あれこれ悩んでいるうちに給食の時間となり次には掃除の時間になった。晃の学校では給食の後昼休みとなり五時間目の前に掃除があるのである。
「じゃあ頼むぜ」
「ちぇっ、しょうがないな」
 じゃんけんで負けて教室のゴミ捨てになった。ゴミ箱を持ったまま校舎の外にある焼却炉に向かった。
 焼却炉ではもう煙突から煙が派手に出ていた。そこれゴミ捨て当番達が列を作って並んでいた。そしてそこに順番にゴミを放り込んでいた。
「おう、今日は御前かよ」
「はい」
 焼却炉はサッカー部の先輩が当番としていた。そして放り込まれたゴミを鉄の棒で奥に押し込んでいた。焼却炉の中では火が派手に燃え盛っていた。
「早く入れな」
「わかりました。それじゃあ」
 先輩に言われるままにゴミを焼却炉に入れる。ゴミはすぐに火の中に消えて派手に燃え盛った。
 晃はそれを見ながらぼんやりとしていた。だがここで先輩が声をかけてきた。
「おい、入れ終わったんだろう」
「あっ、はい」
 言われてはっと気付く。
「早く行け。後がつかえてるんだからな」
「わかりました。それじゃ」
 先輩に言われてようやく我に返った。そして焼却炉から離れてそのまま教室に戻った。
「派手に燃えてたなあ」
 晃はさっきまで見ていた火のことを思い出していた。
「それだけゴミが多いってことかな」
 今日はとりわけ派手に燃えていた。だからこんなことも考えていた。
 焼却炉の火のことを暫く考えていた。
「火か」
 そう、火であった。ここで彼はあることに気付いた。
「待てよ」
 はたと立ち止まり呟く。
「これで」
 そして密かにある作戦を思い立った。家に帰ると早速その準備に取り掛かるのであった。
 遂に作戦決行となった。その前日晃は動物達を集めてまずは家で作戦会議を開いた。
「まずはね」
 寺とその周りの地図を開きながら言う。
「主力はこうして寺を遠回りに囲むんだ」
「その指揮は俺が執るんだな」
「ああ、頼むよ」
 シェパードが名乗りをあげた。晃はそれに応えて頷く。
「そして問題はここなんだ」
 寺の裏山を指し示した。
「ここを抑えたいんだ」
「そこに何かあるのかよ」
 クロがここで問う。
「ほら、真下に住職さんのお寺があるのよね」
「ああ」
「ここから。あることをしようと考えてるんだ」
「あること?」
「そうさ、策があるんだ」
 そう言ってニヤリと笑う。
「策がね。任せてよ」
「その策って何なんだよ」
「いいから。その時になってからのお楽しみ」
 彼は言う。
「これで。かなりうちの勝率はあがるからね」
「それじゃあそっちには俺と御主人と僅かな数で行くか」
「俺はどっちに行けばいいんだ?」
「夕方に攻めるからね」
 晃は応えた。
「まだ目の方は大丈夫だよね」
「ああ、まあな」
 烏は答えた。鳥目を心配しているのだ。
「その時間だとな」
「よかった、それじゃあ君は裏山の部隊と主力の連絡を頼むよ」
「任せときな」
 翼で胸をドン、と叩いて応えた。
「後は。明日の夕方だね」
「全面攻勢だな」
「本当は夜に仕掛けたかったんだけれど」
「俺達に気を使ってくれたんだな」
「うん。やっぱり君達の力も欠かせないから」
 烏に対して言う。
「皆で攻めよう。そして住職さんをやっつけるんだ」
「おうよ」
 戦いへの備えは整った。そして程なくしてその日になった。夕方になり晃達は家を出て住職さんの寺に向かった。
「こうして見ると無気味な寺だよな」
「そうだね」
 寺が見えてきた。晃はクロの言葉に頷いた。そして寺を見据える。
 古ぼけ、まるで廃墟の様であった。寺の庭には墓石やそとぼが立ち並び、何処からか烏や犬の鳴き声が聞こえて来る。それはまるで三途の川の様であった。赤い太陽が寺と墓場を照らしている。夕陽は何処か血に似た色になっていた。
「化け物でも出てきそうだね」
「っていうか化け物を倒しに行くんだぜ、俺達は」
「住職さんをだね」
「まずは鉄砲を何とかしなくちゃな」
「そう、その為にもまず」
「作戦、見せてもらうぜ」
 シェパードが率いる主力は寺の周りについた。そしてそこで烏の連絡を待つ。
「いいかい」
 晃達はもう裏山に入っていた。彼はそこで烏に語り掛けていた。
「もう向こうに行っておいてね」
「もうかよ」
「うん。合図をするから」
 晃は烏に対して囁く。
「その合図は?」
「爆発さ」
「爆発!?」
「うん、そうさ」
 そう言って頷く。
「いいかい、爆発が起こったら彼等に伝えてね。すぐにお寺に飛び込めって」
「それだけでいいんだな?」
「それだけで充分だから。頼むよ」
「わかった。それじゃあそうするよ」
「うん、それじゃあね」
「ああ。じゃあな」
 烏は飛び立ちシェパード達のところに向かった。そして晃はクロ達と共に裏山の頂上に着いた。そこからはお寺の全てが見渡せた。
「よし、思った通りだ」
 彼はお寺を見下ろして呟いた。
「ここからなら。確実にやれるぞ」
「なあ御主人」
 クロが彼に声をかけてきた。
「何?」
「ここから策を使うんだよな」
「そうだよ」
「一体どんな策なんだよ。確かに見晴らしはいいけれどさ」
「石でも投げ込むつもり?」
 雀が尋ねた。
「そんなことしてもあまり効果はないわよ」
「石なんか投げないよ」
 彼は不敵に笑ってこう応えた。
「じゃあ何をするのよ」
「もっといいものを使うのさ」
「それがこれ?」
 晃が背中に背負うリュックを指差した。
「そう、これ」
 応えながらそのリュックを下ろす。
「これを使うんだよ」
「さっきから気になってたけどそれ何なんだよ」
 クロも問う。
「それが策ってやつみたいだけれど」
「まあ見てなって」
 応えながらリュックを開ける。
「これを使って。ドカーーーーーーンとやるんだから」
「ドカーーーーーーーンか」
「そうさ。まずはこれ」
 最初に出したのはかんしゃく玉だった。
「これをね。こうするんだよ」
 まとめて掴み、それを下に投げ込んだ。お寺の中でかんしゃく玉が炸裂する。
「そして次はこれ」
「それは?」
「鼠花火さ」
「僕がどうしたの!?」
「いや、これはそういう名前なんだよ」
 鼠と聞いてキョトンとした顔になったハツカネズミに言った。
「これは。花火の一種なんだ」
「花火」
「そう、これが僕の作戦なんだ」
 ここでニヤリと笑った。
「これで。勝ってみせるよ」
「ここから投げるだけで?」
「投げ込むだけで充分さ。ほら見て御覧」
 鼠花火を投げ込む寸前でクロ達に対して下を指差しながら言う。
「かんしゃく玉を投げ込んだだけでもう大変な騒ぎになってるよね」
「確かに」
「急に火花が周りに出たからね」
「それが僕の狙いだったのさ」
 誇らしげに言う。
「これが?」
「そうさ、これで向こうの動物達を驚かせて混乱させる。それが狙いだったんだ」
「じゃあその鼠花火もそうだね」
「そうさ、そしてこれだけじゃない」
 鼠花火を寺の方に投げ込みながら言った。既に寺では鼠花火が派手に暴れ回り、動物達を混乱状態に陥れていた。
「まだあるのかよ」
「ああ、今度はこれさ」
 次にはロケット花火を出して来た。時折鼠花火やカンシャク玉を投げ込みながらそれを地面に突き刺していく。
「これをね。こうするんだ」
 そこに火を点けていく。そして点火した花火が寺の中に飛び込んで行く。これまでにない爆発が起こった。
「爆発・・・・・・」
 それは烏も見ていた。今まではまだ爆発とは言えないものであったが今度は違っていた。完全な爆発であった。それを見て彼も動いた。
「今だぜ」
 シェパードに声をかける。それまでただ花火の炸裂を呆然と眺めていたシェパードはそれを見て頷いた。
「よし、行こう」
「ああ」
 烏もそれに応えて頷く。寺の周りを囲んでいた動物達が一斉に雪崩れ込んだ。
 
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