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晃とクロ 〜動物達の戦い〜

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4部分:第四章


第四章

「無理だろうな」
「それじゃあ結局そこしかないよね」
「嫌なのかい?」
「あそこあんまり好きじゃないから」
 晃は憮然とした顔で答えた。
「幽霊出るって言うし」
「あそこはそんなの出やしないよ」
 クロはそれに対して笑って返した。
「マムシがいるだけでな」
「余計危なくない、それって」
「そのマムシも俺達の方にいるから。大丈夫だって」
「人間の言葉を話す蛇?嫌だなあ」
「そんなこと言ったら俺だってそうだぜ」
「だから嫌なんだって」
 そうは言いながらもクロと一緒に部屋を出た。そしてその足で裏山に向かう。横と後ろ、そして上にはクロと同じく人の言葉を話せる動物達がひしめいていた。
「こいつか、クロ」
 烏の中の一匹がクロに尋ねてきた。
「その人間ってのは」
「ああ、そうだよ」
 クロはその烏に答えた。
「詳しいことはもう話したよ」
「大丈夫か、こいつで」
 烏は晃をジロリと見ながら言った。
「如何にも頼りなさそうだけれどよ」
「おい、聞こえてるよ」
 晃はその烏に言った。
「人間語で話してるからな。わかるよ」
「おっと、いけねえ」
 烏はそれを聞いて思わず言葉を引っ込めた。
「そうか、言葉が人間のものになってるんだったな。いけねえいけねえ」
「随分な物言いだね、全く」
「まあ気にするな。あんたはまだ子供なんだからな」
 烏は今さっきの自分の発言を誤魔化すかの様に返す。
「頼りなくても。仕方ないさ」
「とてもそう考えているふうには聞こえなかったけれど」
「おや、そうかな」
「調子がいいなあ。何か烏っていうよりも九官鳥みたいだ」
「呼んだかい?」
 すると晃の右肩に別の黒い鳥がやって来た。
「おいらは元々人間の言葉がしゃべれたんだけれどね」
「九官鳥もいたのか」
「他にも結構いるぜ」
 クロがそれに答えた。
「鳥だけじゃなくさっき言ったマムシとかな」
「うん」
「犬に俺と同じ猫も。鼠もいるぜ」
「本当に色々といるんだね」
「色々といた方が何かと助かると思うぜ」
「どうしてなんだい?」
「その方が色んなことができるからな。まあそこは俺達に任せてくれよ」
「僕はいるだけかな」
「いや、人間もいてくれた方がいい」
 クロの声が険しくなった。
「相手が人間だからな」
「そういうものかな」
「人間にしかわからないこともあるんだ。その時は頼むぜ」
「うん、それじゃ」
 そして裏山に着いた。晃と動物達は頂上に向かいそこの大きな木の下で話をはじめた。進行役はクロであり晃はその後ろでその大きな木の下に背をもたれかけさせ、胡坐をかいて話を聞いていた。
「皆いるよな」
「ああ」
 白い犬がクロの言葉に答えた。
「皆いるぜ」
「とりあえず住職さんに悪い奴の脳味噌を食わされた奴以外はな」
「そうか、ならいいな」
 クロはそれを聞いてまずは頷いた。
「じゃあ話をはじめるぜ」
「おう」
 彼等は話をはじめた。それは人間語によるものであった。
「最近住職さんはどうしてる?」
 クロはハムスターに尋ねた。
「今のところは大人しいよ」
 ハムスターはクロにこう答えた。
「墓場は漁り続けてるけれどね」
「そうか、今は大人しいのか」 
 クロはそれを聞いてまずは頷いた。
「墓場を漁ってるってことはまたいらんことを覚えるんだろうけれどな」
「今のうちに何かしておくかい?」
 シェパードが言ってきた。
「向こうに動きがないのならさ」
「いや、今は止めた方がいいぜ」
 先程の烏がそのシェパードに言った。
「さっき住職さんのお寺の上通ったんだけれどな」
「ああ」
「警戒が半端じゃねえ。俺も同僚に襲われてえらい目に遭った」
「烏にか」
「他にも結構いたぜ、雀とかな」
「私の親戚かしら」
 それを聞いた雀の中の一匹が困った顔を作る。
「かもな。あと下には犬とか猫もいたし。随分といたぜ」
「けれど数はこっちの方がずっと多いぜ」
 シベリアン=ハスキーがここで言った。
「数で一気に押し切れば」
「相手を見てそれ言える?」
 だがそれを柴犬が否定した。
「あの住職さんよ。今じゃライフルまで持ってるそうよ」
「ライフル」
 それを聞いたスコティッシュ=ホールドが顔を青くさせた。
「そんなものまで持ってるの?」
「らしいわ。この前街で買ってたそうだし」
「それでも坊さんかよ」
「もう人間の脳味噌食べてる時点でまともな人間でもないわよ。だからそんなの持っていても平気なんでしょ」
「そんなものかね」
 こっちに言わせればこうして動物が人間の言葉を話している方が不思議だよ、と晃は話を聞いて思っていたがそれは顔には出さなかった。そして黙ったまま話を聞いていた。
「ライフルか」
「どうすればいいかな、そんなもの持ってたら」
「当たると痛いよね」
「痛いどころか死ぬよ」
 隼が皆に言った。
「下手しなくても」
「どうしようか、そんなのだと」
「困ったなあ」
「ライフルか」
 晃はそれを聞いて呟いた。
「どうした、御主人」
 クロはその言葉に反応して顔を晃に向けて来た。
「何か考えでもあるのかい?」
「いや、そのライフルだけれどね」
「ああ」
「どういったライフルかな。それによって違うんだけれど」
「散弾銃だったかな」
「散弾銃か」
 それを聞いた晃の顔が微妙に変わった。
「まずいな」
「そんなにまずいのか」
「弾が広い範囲に飛び散るからね。すごく危ないよ」
「じゃあどうすれば」
「そうだね。まずはそれを何とかしないと」
 彼は言った。
「向こう側の動物達にさ。こっちに寝返ってるのとかいるかな?」
「スパイかい?」
「うん。向こうがこっちのことを知ってればこっちにも紛れ込んでいる可能性もあるけれどね」
「それなら俺かな」
 カナヘビが声をあげた。
「君がかい?」
「ああ、向こうにツレがいてな。そいつとの付き合いであっちにもちょこちょこ言ってるんだ」
「そうか。ならその散弾銃のある場所を調べておいて」
「それをどうするんだよ」
「それをまず押さえるんだ。そうすれば住職さんは銃を使えなくなる」
「ああ」
「後はこっちの方が数はずっと多いんだろ?作戦を立てれば勝てるよ」
「作戦!?」
「そうさ、まずはね」
 晃は動物達に対して話をはじめた。そしてカナヘビからの話を聞いた後でまた動くことになったのであった。
 後はそのカナヘビからの報告がやって来るのを待つだけである。クロは晃の部屋でそのことについて話をしていた。
「あれで本当にいいんだよな」
「多分ね」
 晃はそれに答えた。
「銃を押さえたら。半分は成功したも一緒なんだ」
「カナヘビの情報待ちか」
「彼が無事なのが第一条件だけれど」
「ああ、それなら心配ねえよ」
 クロはそれに関しては太鼓判を押した。
「あいつあれでもかなり素早いんだ、カナヘビの中でもな」
「そうなんだ」
「きっと上手くやってくれるぜ。まあ見てなって」
「うん」
 そう話した時だった。ここでそのカナヘビが部屋にやって来た。
「ああ、ここにいたんだ」
「おっ」
「噂をすれば」
 その当のカナヘビが出て来た。そして晃とクロの前に出て来た。
「探したよ、ちょっとね」
「それで首尾はどうだったんだい?」
 クロが尋ねた。
「まあ帰って来たってことは上手くいったんだろうけど」
「ああ」
 カナヘビはそれに応えて晃の学習机の側にまでやって来た。
「ちょっと紙とペン借りていいかな」
「ああいいよ」
 晃はそれに頷いた。
「けど何に使うの?」
「何って」
 カナヘビはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「紙とペンっていったら決まってるじゃないか」
「書けるの?」
「勿論」
 彼は晃の問いに得意気に頷いた。
「人間の言葉も話せるしね」
「それとこれとは別なんじゃないかな」
「おいおい、何言ってるんだよ」 
クロはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「俺達は脳味噌を食べたんだぜ」
「それは知ってるって」
「脳味噌を食べたらな、その能力が備わるんだ」
「ということは」
「そうさ、ものを書くことも出来るようになるんだよ」
 クロは遂にそれを言った。
「俺だって書くことは出来るぜ、特にこいつはそれが上手いんだ」
「そうなの」
「まあ見てなって。見ればわかるからよ」
「うん」
 晃はクロに言われるまま自分達の前にカナヘビが紙とペンを持って前に出て来るのを見守っていた。そしてカナヘビはそこでものを書きはじめた。
「これがな」
 見れば地図を描いていた。描きながら説明をしてきた。
「住職さんのいる寺だ」
「うん」
 見れば非常に詳しく書かれていた。玄関から庭、寺の中の間取図まで。二階、軒下についても描かれている。そして物置にマーキングがされた。
「銃はここにあったよ」
 カナヘビはそのマーキングをした物置を指し示して言った。
「この中にね。あったよ」
「よし、そこか」
 晃はそれを聞いて会心の声を出した。
「じゃあまずそこを押さえれば」
「いや、止めた方がいいね」
 しかしカナヘビはこう言って彼を制止した。
「どうして?」
「あのさ、落ち着いて考えてみてね」
「うん」
「重要なものを置いておくとなると守りを固くするよね」
「まあね」
「住職さんだって同じだよ。それも相当ね」
「それじゃあ」
「そうさ、物置の周りには怖い奴等が一杯いるんだ」
 カナヘビの声が剣呑なものになっていた。
「ドーベルマンやら毒蛇やら鷹やらがね。だから迂闊には近寄れないよ」
「まずいな、それは」
「そんなのが守っていたら手出しは出来ないだろ?だから迂闊なことは出来ないって」
「困ったなあ、どうすれば」
「何だよ、困ったのかよ」
「そう言われてもなあ」
 クロの言葉にも本当に困った顔をして返すだけであった。
「それだと攻め込んでも守られてその間に住職さんが銃を持ち出すし」
「まあそうだろうね」
「一緒なんだよ。じゃあどうすれば」
「向こうの動物達が動かなければいいんだけれどね」
「けれどそんなの無理だぜ」
 クロが言った。
「それこそ全員に眠り薬でも入れなきゃな」
「病院から失敬する?」
「いや、それはよくないよ」 
 晃はこう言ってカナヘビを制止した。
 
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