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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百十二幕 「当方に迎撃の用意あり」

 
前書き
やりたいことが沢山ありすぎて本当に何も進まない、恐ろしい状況です。
定期報告から半月オーバーですが、いざ! 

 
 
人は何かの力なしには何事も成し得ない。
巨万の富を得ようとすれば、そのために商売や労働を、或いは他者から富を奪うに見合った能力がなければ夢に終わる。知力、魅力、腕力、体力、努力。全ては力への意思に始まる。だからこそユウも力を貴び、求めた。

来たるべき戦いに備え、為すべき策を講じた。その結果、ユウはある結論に辿り着いた。

「不良喧嘩大原則第四項……一人で駄目なら多数でボコれ!!」
(身も蓋もない……しかも、それ負けフラグ………)

グッと拳を握りしめて力説するユウに簪は少々困惑したが、同時にちょっとだけ安心した。発見した時はあんな様子だったから、そのまま一人で溜めこんでしまうのではないかと不安に思っていたのだ。元々ユウは割と無茶をする傾向にあるし、そのまま勝手に出歩いてしまうのではないかと心配していたのだ。

それに、理由は何であれこうして友達に頼ってもらえることも嬉しい。タッグトーナメント以来何だかんだで手助けが出来ていなかったため、借りを返すいい機会になる。
だが、少々疑問も浮かんでいた。

「……ねぇ、ユウ。多人数なのはいいけれど……そういう話なら、先生たちにも伝えた方が……」

唯でさえ現在はこちら側の戦力がばらけまくっている。現在宿に残っているのは訓練用の非実弾武装を抱えた訓練用IS数機に風花百華と打鉄弐式、後は真耶の教員用ラファールくらいのものである。簪としてはイレギュラーな相手に対処するには少々心細かった。

「タイミングからして、その襲撃者と所属不明ISに関連性がある可能性は……高い。あちらがISを持ち出す可能性も、大いに理解できる。でも……それなら尚更、数は増やした方が……」

訓練機はともかく真耶と千冬は学園でも指折りの実力者だ。おまけに千冬の方はISに乗らずとも生身でISを撃破できるクリーチャーの一種(←おい)である。戦力としては申し分ない。なのになぜそれを真っ先に自分に話したのだろうか。その疑問に対しユウは首を横に振った。

「いや、それじゃ駄目なんだよ簪。今回は僕と君の2人でやる……」
「ど、どうして……?」
「あの人はほぼ確実にぼく個人を狙ってる。というよりも他の事には興味がないように思える。つまり、山田先生なんかが出てきて俺にちょっかいをかけにくくなったらすぐに撤退して次の機会を伺ってくるかもしれない。次はより確実なタイミングを図るとか、ね」

確かにユウのいう事は一理あった。ジョウ達が不在になる一瞬のタイミングを的確についた電撃襲撃をやってのけたのだ。次に仕掛けてくるときはこちらにとって更にシビアなタイミングを狙ってくる可能性がある。そうなってしまうともう対策も仲間との連携もあったものではない。襲撃されるリスクは高いが、逆に向こうが攻め込みやすい今こそが迎撃するのに最高のタイミングなのだ。

逃げれば何も選べない。大人を刈り出しても得られるものは少ないだろう。だからこそ打って出て相手の目的やデータを収拾する。ただ追い払うだけなら簡単だが、相手の要望にも応える程度の隙を用意しつつ戦うには、教師陣にこの話をしない方が都合が良かった。
ユウは拳を握りしめ、真剣なまなざしで簪を見る。

「これは唯の自衛じゃない、情報戦でもあるんだ。ここで黙って引き下がって何も得られないんじゃ僕だって自分に納得できない。このままあの人に心まで負けたままじゃ駄目なんだ……!!」

自分が弱いことを認めるのは別にいい。でもあれだけ言いたい放題言われて身も心も打ち負かされたまま何もしないのでは、ユウはユウでなくなってしまう。努力に努力を重ねて積み上げた自分を自分で否定する気はユウには更々ない。
譲れない一線。そこに妥協を挟むような男ならばユウは今まで兄を追いかけられていないだろう。だからこそ残間結章という男は自己を保っていられるのだ。

が、そんな彼の本音(のほほんじゃないよ)を聞いた簪はジトっとした目線をユウに送った。

「……私怨丸出し」
「うっ……!」
「自分勝手、自己中心的」
「ううっ……!!」
「猪突猛進………いのしし馬鹿」
「うぐっ………!?」

前にもこんなやり取りしたような、とデジャヴを感じる。(第六三幕参照)
要は負けず嫌いに理由が附属しただけである。そんなリスクが高い割に独りよがりな作戦に親友を突き合わせるなどとてもではないが褒められた内容ではない。ムシが良すぎたか、とユウは項垂れる。だがそんな彼に予想外の言葉がかかった。

「でも、いいよ……付き合う」
「えっ!?ほ、本当!?」

一応言っておくと別に付き合うの意味を勘違いしたりと言う思春期な事はしていない。

「ただし」
「ただし?」

びしっとユウに指を突きつけた簪は、ちょっと恥ずかしそうにこう続けた。

「貸しひとつ。夏休み内に……倍にして返すこと。……宿題」
「ば、倍って言われても………何をどうやってだい?」
「それは、自分で考えて。そして準備が出来たら……誘って」
「ハードル高い宿題だなぁ……こんなにきついのは兄さんのせいで宿題やってない事に気付いた夏休みの終わり以来だ」

正解のない課題と言うのはどんな難題にも勝るとも劣らない。とりあえず後で皆が帰ってきたら相談してみるか、と決めたユウは、条件付きとはいえ自分の無茶に付き合ってくれると言ってくれた親友に頭を下げた。

「全身全霊を尽くすって約束するよ。お返しも戦いも両方だ」
「それでこそ、ユウ。そんな前向きなユウが……私は好き」
「え」

さらりとそう言ってはにかんだ簪の笑顔……その天使のような微笑みに、ユウは「好き」と言う発言も相まって頭をオーバーヒートさせてしまった。思春期特有のものなのか、それともユウに免疫がなさすぎるのか、はたまた簪が迂闊すぎるのか。
フリーズするユウに困る簪。二人の非常に無駄な時間はその後数分間続いた。



 = =



で、なんやかんやでユウの予想通りの展開になったのだが……。

「………なんで二人とも顔が赤いのカナ?不純異性交遊?」
「「違います!」」
「ユウちゃんそういうおしとやかな子が好みなの?」
「違………わないけどさ」
「私達、親友、だから……!」
「あら、彼女ではないの?うーんそれはそれでちょっと残念なような安心したような……?」
「何で赤の他人の貴方が残念がるんですか!!」

その台詞にあからさまにショックな顔を見せるなんちゃってくのいち。これでも国家レベルのVIPを襲撃したレベルの高い犯罪者なのだが、その緊張感のなさにユウは「僕はこんなのに負けたのか」と頭を抱えた。

「むむむ……てっきり愛の力で限界突破とか言い出すのかと戦々恐々してたのに……ちょっとそっちの眼鏡っ子!ちょっとユウちゃんにチューしなさい!ほっぺまでなら百歩譲って特別に許すわ!!」
「しませんから!!というか簪に何を訳の分からない事を吹き込んでるんです!貴方にそんな権限ないでしょうが!!」
「ち、ち、ち、ちゅー……?……ふにゅう」
「ああッ!!簪にチューは刺激が強すぎたのか気絶した!?ちょっと簪!君がここで気絶したら話し合いとか仕込みとか全部無駄になっちゃうから!!お願いだから起きてぇぇぇーーーッ!!!」


しばらくお待ちください………


状況改め、簪とユウはその不審者くノ一と正面から相対した。

「まさか普通に歩いて僕の前に現れるとはね……まぁいいさ。来ることは分かってた」
「ふぅん、お友達を増やして対抗しようっての?正直ちょっと残念な回答よねぇ……根性なしに拍車がかかったんじゃない?」
「世の中勝てば勝ちなんですよ!持てる手段を全部尽くして勝てりゃあそれでいいんです!それに――人数集めても勝てない時は勝てませんしねッ!!」

どーん!と完全に開き直っているユウに簪は若干あきれ、くノ一は予想外の展開だったのか若干複雑そうな顔をしている。求めていた結果ではないが、間違いでもないから怒るに怒れないといった雰囲気だろうか。

あの人は本当にユウに対して特別な感情があるんだ、と簪はちょっと意外そうに思った。
あれはなんというか、どちらかというと保護者が子供の能力を試している雰囲気だった。とてもではないが確かにテロリストには見えない。

――本当に戦う必要のある相手なのだろうか?
更識の人間としては偽造された態度だと疑うべきである。今も体は隙を見せないように適度な緊張感を保ち続けている。だが、本能的な部分が「彼女は決して敵ではない」と確信的な感情を抱いている。自身の今までには抱きえなかった感覚に簪は戸惑いを覚えた。
何より、他人の感情や雰囲気をこれほど濃厚に感じられることが不思議な感覚だった。

そんな簪の戸惑いに反し、ユウは既にやる気満々で拳を翳す。
その拳が量子化の光に包まれ――次の瞬間、桜色の閃光が駆け抜けた。

「先手必勝!」
「ちょ……生身相手にいきなりIS使っちゃうの!?お母さん息子のバイオレンスな一面にびっくり!!」
「勝手に人の母親の名前を語るなっちゅーの!!」

最初の正拳突きを身を翻して躱すくノ一に合わせて回し蹴り。それを受け止めるように足を合わせたくノ一の足に、量子化の光が瞬いた。ガキィン!!と金属同士がぶつかり合う異音が響いた。
音の正体、くノ一の足を覆う甲冑のような装甲を、ユウは眉一ず動かさずに見つめた。

「……やっぱり持ってたんだ、IS」
「そりゃユウちゃんと遊ぶには必要でしょ?最初はユウちゃんが全然ISを使わないから私も使わなかったけど、どうやら今度はやる気になったみたいだし!」
「…………」
「…………」
「え?2人してなにその無言。無視って邪険に扱われるより気まずいんだけど」

……最初の襲撃時にユウがISを持っていないという致命的かつ間抜けすぎるミスを犯したことには気付いていないらしいくノ一。そんなつもりはなかっただろうが地味にユウの心とプライドを抉っている。足を弾いて距離を取りながらユウはその羞恥の顔を必死で誤魔化したし、簪もユウの名誉のために努めて冷静な風を装った。
まさか今から真剣勝負するときになって「実は部屋に忘れてきてただけでした!」などと恥ずかしくて言える筈もない。こんなことを言ってしまえば空気ぶち壊しもいいところだし、相手に変な弱点を与えてしまう事になりかねない。この真実は青春の一ページとしてこっそり仕舞っておくのが正解だ。

幸いにもくノ一はその件については勘付かなかったらしく、話題は別の方向へむかった。

「それで、そっちの眼鏡っ子ちゃんは参加するの?しないの?しないんなら怪我しないようにとっとと帰って欲しいんだけど。あんまり中途半端に出て来られても不愉快なだけだし邪魔だもの」

酷くフラットで、氷が滑るように冷え切った声が、殺気とも威圧感とも知れない重圧として簪にぶつけられる。構う価値もない、すぐさま失せろと空気が告げる。その威圧感には覚えがある。
本気を出した楯無――怒った父――ユウを守る時のジョウ――そんな、人生で出会った「勝てない敵」の纏うそれ。微かに指が震え、踵が地面を離れて後ずさりそうになるほどの本能的危機感。圧倒的な場数と実力の差をそれだけで察せるほどに高い壁を、直ぐに理解した。

だが――引けない!

「……ッ!……打鉄弐式ッ!!」
「へぇ……?」

打鉄弐式を素早く展開し、強く睨み返す。
迫力なんて無いかもしれないが、それでも戦意は揺るがさない。

未知の敵に立ち向かうには大きな勇気がいる。それは、かつてのゴーレム襲撃事件で彼女の身に染みた大きな教訓だった。あの時、佐藤さんの言葉がなければ今の簪は腰を抜かして逃げていたかもしれない。それほどに本来の簪は脆く、臆病で自信のない人間だった。
怖いことから逃げて、越えられない物に嫉妬して、その癖して詰らない意地を張って。
だが、佐藤さんはそんな私に進むべき道をくれた。

『私に自分らしさや人としての在り方を教えてくれたモノ達に恥じないようにありたい。だから、私は怖くても強がりを続けたいんだ』

その道と交わったのがユウ。そして鈴。

『『簪は返してもらう。そしてシャルはぶっ飛ばす!!』』

気が付いたら対抗心を燃やす相手がいて、心を許す友達がいる。
そしてなにより――憧れの存在であるヒーロー達に縋らずとも敵に立ち向かえる自分が心の中にいる。

頑張れ、簪。負けるな、簪。ユウの手伝いも満足に出来ないんじゃ最高に格好悪いぞ。そんな風に自分を叱咤激励してる。とてもぶきっちょで下手くそな応援だけど――私はそれでいいと思う。

「私は、ユウの友達だから。中途半端でここにいる訳じゃ……ないもん。そんなに凄んだって、怖くないもん……!」
「よく言った簪!さあ、この変人くノ一に一泡吹かせてやろう!!」

風花の左拳と打鉄弐式の薙刀、夢現が同時にくノ一に突き付けられた。
  
 

 
後書き
ちなみにくノ一さんはぐっと拳を握りしめて一生懸命に「怖くないもん!」って言ってた簪さんに若干ながら胸キュンしていた模様。 
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