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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン21 鉄砲水と愉快な奇術師

 
前書き
いつまでたってもこの人の二つ名が安定しない。
『愉快なトリックスター』だとちょっと長いのが難点。 

 
 修学旅行も無事………無事?とにかく終わり、ほんの一時だけアカデミアに平和な時間が来た。といっても光の結社が消えたわけではない。これまでやっていた腕づく力づくでの勧誘とは名ばかりの洗脳が幾分穏やかになり、目に見えて強引なことはしなくなったというだけだ。そんなある日の午後、新しく作ってみた蒸しパンが蒸しあがるのを待つ間に彼女はやって来た。

「先輩、今少し時間ありますか?」
「あれ葵ちゃん。斎王様、のところで金魚のフンやってなくて大丈夫なの?」

 斎王様、の発音のポイントは一文字ずつ区切るように、なおかつたっぷりと嫌味を込めることです。光の結社ならほぼ9割がた今のでキレます。もっとも葵ちゃんはさすがにその辺の構成員とは格が違うのか、一瞬怒りに口元をゆがませながらもすぐに持ち直した。ちっ。

「………まあいいでしょう。今日は先輩に聞きたいことがあってきたんです。ついでにそこのショートケーキ買おうかとも思ったんですが、急に買う気がなくなりました」
「ごめんなさい訂正しますから許してください」
「私が言うのもなんですが、もうちょっとプライド大事にしたらどうですか?」
「そうは言ってもねー、現ナマって大事よ?」
「なんでそんなまっすぐな目なんですか。らちがあきませんね、本題に入らせてもらいますよ?今朝、行方不明だった鮫島校長を見つけたそうですがそこのところ詳しく教えてください」

 なんだ、という気持ちが顔に出ていたのか、怪訝な顔をする葵ちゃん。でも、僕の気持ちだって少しは考えてほしい。投網を担いで海に行ったら海岸に倒れてる校長がいたので慌てて保健室に担ぎ込んだ、その程度の話を一日中出会う人全員にする羽目になっている僕の気持ちを。

「………ってわけで、別に特別なことなんて何もないんだけど」
「どこの世界に校長が海から流れ着くのが普通な学校がありますか。なんか先輩、しばらく見ないうちに図太くなってません?」
「どの口がそんなことを。初めて会った時はあんなにしおらしかったのに」
「そういうこと平気で言っちゃうのが図太いって言ってんですよ」
「むー」

 一瞬切り返したと思ったら、間髪入れず切り返された。残念ながら口では葵ちゃんに勝てない。

「まあ話戻すけど、本当に特に言うことなんてないんだって」
「んー……みたいですね。先輩嘘つくの下手ですし、なにかおかしなところがあればあっさりばらすと思ったんですけど。じゃ、この辺で私は帰りますね。先輩もいつか斎王様の素晴らしさがわかるといいんですけど」

 言いたいだけ言ってさっさと帰ってしまった。結局何一つ買ってかなかったし。

『全校生徒の皆さん、校長の鮫島です。これから大事な発表がありますので、講堂に集合してください』

 噂をすれば何とやら、か。それにしても校長、見つけた時は弱ってたのにもう復活するとかさすがデュエリストだ。





「………というわけで、今日からこのデュエルアカデミアを舞台とし、若きデュエリストたちがメダルをかけて腕を競い合う大会、ジェネックスの開始を宣言して。近日中にこの企画に賛同したプロデュエリストもこの島にやってくると。で、それまでの間に少しでも腕を磨くもよし、自らのデッキを強化するもよし。ただし、メダルを持っている生徒は最低でも一日一回のデュエルが義務付けられますので、忘れないように………でオーケー?」
『………ああ、そんなところだな』

 なんだかいっぺんに情報を詰め込んだのでパンク気味になった頭を冷やすこともかねて、チャクチャルさんにジェネックスの内容を確認しつつ、ついさっき配られた銀色のメダルをクルクルと回してみる。片面に『GX』と描かれた―――――なんでもGeneration(世代) neXt(次の)という意味が込められているらしい、決して高級品ではないもののどうしようもない安物ではない、ごく普通のメダルだ。全校生徒プラスアルファの分だけ用意してるはずなのにこのクオリティを保てるなんて、やっぱりバックに海馬コーポレーションがついてるだけのことはある。

『そ、それで、マスター。最初の相手は誰にするんだ?』

 チャクチャルさんのもっともな疑問に、腕を組んで考える。十代は大物(プロ)狙いで船で来るにしろヘリで来るにしろ確実に通ることになる港で待ち構えてるし、翔は早々に1年に無理やり勝負を挑んで逃げ切ろうとしている。剣山は剣山で頑張ってるし、その他の僕の知り合いもほぼ全員今日はデュエルを終えている。

「出遅れちゃったからねぇ。うーん、どうしようか」
『何か、心当たりは?』
「心当たり、ねえ………」

 知り合いの顔をつらつらと思い浮かべる。どうせ最初なんだから、十代みたいにプロを狙うのもいいかも。どうせ負けたらメダルは総取りされるんだし、どこかでプロに当たるなら最初からいってみたい。と、そこまで考えた時、もっと先に会っておくべきだった人の顔が頭に浮かんだ。気まずいからあんまり会いたくはないけど、どこかで謝らないといけないのはわかってるしね。

「よっこらせ、と」
『む?』
「まあね。ちょっと行ってくるよ。稲石さんに会いに」

 稲石さん。元は豪華だったが今は見る影もない廃寮住まいの幽霊。身元も死因すべてが不明というよく考えたらとんでもなく怪しい人ではあるけれど、面倒見のいい人だ。ちょっと先代ダークシグナーのせいで荒れてた時期に喧嘩して以来会ってないけど、そろそろ仲直りしたいとはだいぶ前から思っていたことだ。思っていたことではあるのだが。

「………とはいってもねぇ」
『そんなに、躊躇、するような、ものかね。もう、門の、前まで来て、10分は、経つぞ』
「いやー、だってさぁ……すっごい入りづらいんだよね、最後に会った時はなんかすんごい生意気なこと言っちゃったし」

 ぐずぐずするのがよくないのはわかってるつもりなんだけど。そんな思いを読み取ってチャクチャルさんがため息をついたのが聞こえてきたその時。

「ああもうまったく、黙って見てればじれったい!いつまで人の家の前で立ってるつもりなのさ、自分に用があるんでしょ?だったら通すから入っといでよ!」

 2階の窓から声がして、門がポルターガイスト的な何かでギイィ、と軋みながら開く。どうやら、ずっと見られてたらしい。夢想や葵ちゃんもそうだけど、この人にもあの2人とは別ベクトルで敵わないなあ、と思って軽く肩をすくめる。

『マスター』
「何?」
『どんなに格好つけてもだいぶ情けないことに変わりないぞ』
「いや別にそういうんじゃないからね!?」





「んで?」
「え、えっと」

 廃寮の一室。水道はとうの昔に止まってるはずなのにどこからか稲石さんが淹れてきたコーヒーが湯気を立て、僕が手土産に持ってきた蒸しパンが小皿に切り分けておいてある。お互いに全く手を付けていないのを尻目にファラオがむしゃむしゃと蒸しパンを食べる音を背後に聞きながら、真剣な顔で僕と向かい合う稲石さん。この重い空気を少しでも和らげるため、蒸しパンと一緒に持ってきた小包を取り出す。

「とりあえずこれ、童実野町のお土産ね」
「へー、あそこ名産品なんて洒落たものあったっけ。で、なにこれ」
「線香」
「………」
「線香」

 聞こえなかったのかと思ってもう一度繰り返すと、すんごいジトーッとした目で見られた。せっかく無理してちょっと高いやつ買ってきたのに、なにもそんな目で見ることないだろうに。

「………」
「………?」

 なぜか何もしゃべらない稲石さん。あれ、もしかして選択ミスっただろうか。幽霊へのお土産なんだからもうこれしかない!っていう勢いで買ってきたんだけど、これについても謝ったほうがいいんだろうか。

「もういいよ、うん……。悪意がないのが一番性質(タチ)悪いんだけどね」

 ため息をつきながら悟ったように言う稲石さん。やっぱりまずかったのか、とちょっと反省していると、それに、とさっきまでとはうってかわって心底安心したような顔でもう一度口を開いた。

「君も、もういつもの遊野清明に戻ったみたいだしね。それなら、それが一番いい。わざわざ自分たちの方でもプレゼント用意してたんだけど、もう必要ないみたいだしね」
「プレゼント?あれでも稲石さんってここから出られないんじゃ」
「ふふ、内緒。ね、大徳寺センセ」
『そうなんだニャ。でもよかったニャ、修学旅行で何人普通の生徒がいなくなるのかってハラハラしてたのは杞憂だったみたいで何よりですニャ』

 うわびっくりした。後ろを見ると、幽霊屋敷と化した廃寮にふさわしい半透明の人影が1つ。

『お久しぶりニャ、清明君』
「どうもです、先生。相変わらず元気そうですね」
『ぼちぼちってとこだニャ。それより、外では鮫島校長が新しいことを思いついたみたいだけど、もうちょっと詳しく教えてほしいニャ』

 なんでも、大徳寺先生が話を全部聞き終わる前にファラオが飽きてフラッとその場を離れてしまったため何が起きているのかイマイチわかってないのだという。そういうことならとジェネックスのことを一通り話すと、おお、といった感じで大徳寺先生が手をたたいた。

『そういえば、そんな感じのメダルをこの間ファラオがその辺で拾ってたニャ。清明君、せっかくだからここで一回戦をしていかないかニャ?』
「へ?えっと」

 悪い話じゃない。多分だけど大徳寺先生とそのマクロコスモスデッキはプロにも引けを取らないほどの実力があるし、前回は辛うじて僕が勝ったけどあの時みたいにお互い色々なものを背負わないで純粋なデュエルがしてみたいとは常々思っていた。だから………。

「ぜひお願いします」
『うんうん、じゃあ二人とも頑張ってニャ。さーファラオ、この間お前が見つけたお宝のところに案内してくれにゃ』

 そう満足そうに言ってファラオの中に引っ込むと、どこかへ出かけて行ってしまった。えー……いや別に稲石さんも強いしそれはそれでいいんだけど、なんか、なんかもやもやする。次元デッキを相手にする気だったのにいきなり相手がゴーストリックに変わったってのはなんかすんごいもやもやする。

「えっと………言いたいことはわかるよ。でも待ってる間じっとしてるのもなんだし、ね」
「そですね。それじゃ、デュエルと洒落込みましょうか」
「「デュエル!」」

 なんだかよくわからないノリでデュエルが始まったが、始まった以上全力で戦うまでだ。

「その意気やよし。でも、先攻は自分のターン。モンスターをセットして、ターン終了」

 稲石さんお得意の、セットモンスター。だけど僕は知っている、あの人のデッキに守備力の高いモンスターはほとんどないのだ。

「だったら、このカードだ!ツーヘッド・シャークを召喚して、アクア・ジェットとのコンボで強化!」

 ツーヘッド・シャーク 攻1200→2200

「このモンスターは自身の能力で2回攻撃ができるよ。バトル、伏せモンスターに攻撃!」

 ツーヘッド・シャーク 攻2200→??? 守800(破壊)

 2つある顎のうち片方の牙が、伏せモンスターをしっかりと噛み砕いた。だけど、一瞬見えたあのモンスターの姿は確か。そう思っている間にもフィールドに吹雪が吹き荒れ、ツーヘッドの姿がゆっくりと氷漬けになっていく。

「はい残念。ゴーストリックの雪女の効果によって、このモンスターを戦闘破壊したモンスターは裏守備になって表示形式の変更もできないよ」
「くっ……ターンエンド」

 稲石 LP4000 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:なし

 清明 LP4000 手札:4
モンスター:???(ツーヘッド・シャーク・伏せ)
魔法・罠:なし

「さて、と。自分のターン、ドロー。ふんふん、このカードか」

 ツーヘッドにかけたアクア・ジェットが無駄になったのは痛いけど、このモンスターは守備力も1600ポイントある。リクルータークラスの攻撃力なら返り討ちにできるはずだ。

「グレイヴ・オージャを召喚。そして魔法カード、シールドクラッシュを発動。フィールド上の守備モンスター1体、ツーヘッド・シャークを破壊してダイレクトアタック」

 ツーヘッドが守備モンスターを破壊するビームに狙い撃たれ、がら空きになったところに岩人形のごつごつした拳が襲い掛かる。身を守るカードは場にはなく、その攻撃をまともに腹に受けてしまった。

 グレイヴ・オージャ 攻1600→清明(直接攻撃)
 清明 LP4000→2400

「ぐっ……先手を取られたか」
「ふふ。カードを伏せて、ターン終了さ」
「まだダメージは浅いね、ドロー!オイスターマイスターを攻撃表示で出して、この魚族モンスターの召喚をトリガーに手札からシャーク・サッカーを特殊召喚。さらにフィールド魔法、ウォーターワールドを発動!」

 水属性モンスターを前のめりな性能にする特別な海の力を受けて、牡蠣の戦士が力を増す。右手に握った牡蠣も、心なしか生き生きとしているように見えた。

 オイスターマイスター 攻1600→2100 守200→0
 シャーク・サッカー 攻200→700 守1000→600

「グレイヴ・オージャに攻撃、オイスターショット!」

 投げつけられた牡蠣が、岩のボディを削り取る。一瞬遅れて、岩人形の体が爆発を起こした。

 オイスターマイスター 攻2100→グレイヴ・オージャ 攻1600(破壊)
 稲石 LP4000→3500

「このままサッカー、ダイレクトアタック!」
「おっと、そりゃよくないね。リビングデッドの呼び声を発動、墓地に眠るゴーストリックの雪女を蘇生召喚させてもらうよ」

 ゴーストリックの雪女 攻1000

 再び現れた雪女の攻撃力は、1000。ウォーターワールドの力を受けたサッカーでもわずかの差で倒すことができず、僕の手札にリビングデッドにチェーンして発動できるサイクロンなどのカードはない。

「攻撃ストップ、サッカー。だったらカードをセットして、これでターン終了」

 今伏せたカードはポセイドン・ウェーブ。次の攻撃を一回無効にできるうえに、場に2体の魚族モンスターがいるおかげで1600ポイントのバーンダメージというおまけがついてくる計算になる。さっきの攻撃が通っていればなおよかったんだけど、まあ贅沢は言ってられないよね。

 稲石 LP3500 手札:2
モンスター:ゴーストリックの雪女(攻・リビデ)
魔法・罠:リビングデッドの呼び声(雪女)

 清明 LP2400 手札:1
モンスター:オイスターマイスター(攻)
      シャーク・サッカー(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「うーん、だったらこれかな。ゴーストリックの魔女を召喚して、効果発動。オイスターマイスターには守備表示になってもらうよ」

 金髪の少女がほうきを振り、牡蠣の戦士ががくりと片膝をつく。あ、まずい。何がまずいって、裏守備にされると場の表側表示の水・魚・海竜族の数でダメージが決まるポセイドン・ウェーブの効果が半減してしまう。

 ゴーストリックの魔女 攻1200

「それじゃあ、バトル!雪女でオイスターマイスターに攻撃」

 ゴーストリックの雪女 攻1000→???(オイスターマイスター) 守200→0(破壊)

「そのまま魔女で攻撃!」
「くっ……トラップ発動、ポセイドン・ウェーブ!その攻撃を無効にして、800ポイントのダメージを受けてもらうよ」
「おっと、だったら自分もカード効果だ。手札のアチャチャチャンバラーは効果ダメージが発生するとき、手札から特殊召喚して相手に400のダメージを与えることができる」

 清明 LP2400→2000
 稲石 LP3500→2700
 アチャチャチャンバラー 攻1400

 水の壁が魔女の攻撃をはじいた、と思う間もなく、その横から飛んできた刀身が燃えている脇差が僕の体をかすめる。それを投げつけたのは、稲石さんの場に突然現れた歌舞伎役者のように顔に隈取(くまどり)をあしらった武士。稲石さんのデッキ、相変わらずビートなのかバーンなのかロックなのかよくわかんない。まあ人のことは言えないんですけどね。

「魔女の攻撃は止まったけど、これはどうかな?アチャチャチャンバラーでシャーク・サッカーにもう一度攻撃!」

 アチャチャチャンバラー 攻1400→シャーク・サッカー 攻700(破壊)
 清明 LP2000→1300

 燃える日本刀の一撃が、シャーク・サッカーを切り裂く。ごめん、だけどこれはどうすることもできない。

「メイン2、雪女と魔女を自身の効果で裏側守備表示に変更。さらに永続魔法、うごめく影を発動。300ライフポイントを払うことで、自分のセットモンスターをシャッフルして位置を変えることができる」

 稲石 LP2700→2400

 クロッシュに引っ込んだ雪女と魔女が、手品よろしくひとりでに宙を舞い位置をクルクルと入れ替わる。まずい、次の攻撃でうまいこと魔女を倒せればいいけど下手に雪女に突っ込もうものならまた強制的に裏守備にされる。とことん地味だけどいつの間にかこっちのライフが減っている、それが稲石さんの恐ろしさだ。

「ターンエンド」
「くっ……ドロー!僕のフィールドにモンスターがいない時、このカードはリリースなしで通常召喚できる!第2の神、メタイオン召喚!」

 時械神メタイオン 攻0

「へぇ、新しいカード?面白い顔だね」
「いいの、男は顔じゃないからね。メタイオン先生でアチャチャチャンバラーに攻撃!」

 時械神メタイオン 攻0→アチャチャチャンバラー 攻1400

 メタイオン先生が指先から炎を放ち、2つのクロッシュもろともフィールドを焼く。日が収まると、そこにはもう誰ひとり立っていなかった。

「ダメージが……ない?」
「その通り。メタイオン先生は戦闘でも効果でも破壊されずに自分の受けるダメージを0にして、さらにバトルが終わったときに相手モンスターを全部バウンスしてその数×300のダメージを与えることができるのさ。もっとも、次の僕のスタンバイフェイズにデッキに戻るけどね」

 稲石 LP2400→1500

「くうっ、やるね。だけど、そのおかげでもう一度こっちにアチャチャチャンバラーが戻ってきたからね、効果発動!効果ダメージの発生によりこのカードを特殊召喚して、400ポイントのダメージ!」
「ぐっ!」

 再び投げつけられた一閃が、メタイオン先生の横をすり抜けて僕に突き刺さる。

 アチャチャチャンバラー 攻1400
 清明 LP1300→900

「ま、まだまだっ!カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 稲石さんの手札はゴーストリックの魔女と雪女の2枚。手札に何があるかわかってるんだから、次の動きもある程度予想がつくってもんだ。

 稲石 LP1500 手札:2
モンスター:アチャチャチャンバラー(攻)
魔法・罠:リビングデッドの呼び声(対象なし)
     うごめく影

 清明 LP900 手札:0
モンスター:時械神メタイオン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「自分のターン、ドロー。おっと、このカードか。モンスターをセットして、ターン終了さ」
「僕のターン、スタンバイフェイズにメタイオン先生がデッキに戻って、と」

 稲石さんのふせたあのモンスターは雪女かな。だとすれば、こっちにわざと攻撃をさせようとしている。だけど、そう見せかけておいて全く別のモンスターを伏せているのかもしれない。もしかしたら魔女という可能性もなくはないし、それならここで攻撃したほうがいい。こりゃ、下手に先生出したのは間違いだったかな。

「なんにせよ、今できることをやるだけかな。白銀のスナイパーを召喚!」

 召喚したところで一度動きを止め、もう一度セットモンスターを見る。本当に、ここであっちを攻撃すべきだろうか。せっかく攻撃力で勝ってるんだから、アチャチャチャンバラーをとりあえず破壊すべきではないだろうか。だけど、もしあの伏せモンスターが雪女か魔女、はたまた別のゴーストリックなら次のターン反転召喚してくるだろうし、そうしたらゴーストリック特有の『他にゴーストリックの仲間がいない限り召喚できない』制約もパーになって勝負の流れを完全に掴まれてしまう。そんな迷いを読み取ったのか、稲石さんがふっと笑う。そのドヤ顔が何だかイラッときて、そのおかげで吹っ切れた。

「ええい、もう!じっとしてるなんてらしくない、伏せモンスターに攻撃するよ!」

 白銀のスナイパー 攻1500→??? 守600(破壊)

 あっさりと攻撃は通った。スナイパーさんが無事ということは、あのモンスターは雪女ではない。じゃあいったい、と思う間もなく、稲石さんがモンスターゾーンから外したそのモンスターをこちらに見せた。

「その、カードは……!」
「メタモルポットのリバース効果、発動。お互いに手札をすべて捨てて、カードを5枚ドローするよ。清明、君なら絶対この場面では攻撃してくると思った。ギリギリ魔女でも破壊できない守備力1200のモンスターを引いたあたり、運も強い。だけど、まだ自分の方が読みは上だったね」

 何も言い返せない。手札を捨てることなく5枚ドローできたけど、まったくそれが喜べない。なにしろ、次にターンの回ってくる稲石さんもまた5枚のカードを引いたのだから。
 せめて、せめてこの5枚のカードで防御策を。そう思ってばっと目を通す。レベル4以上のモンスターによる直接攻撃を封じるトラップカード、バブル・ブリンガー。それに守備力3000、だけどウォーターワールド適用下では2600の壁になる罠モンスター、メタル・リフレクト・スライム………今はこれしかない。

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 稲石 LP1500 手札:5
モンスター:アチャチャチャンバラー(攻)
魔法・罠:リビングデッドの呼び声(対象なし)
     うごめく影

 清明 LP900 手札:3
モンスター:白銀のスナイパー(攻)
魔法・罠:2(伏せ)

「さあ、自分のターン!この手札なら、一気に勝負を決めさせてもらうよ!」

 やれるもんならやってみろ、こっちには2枚の防御札が残ってるんだ。そう言い返したいところだけど、それができなかった。稲石さんほどの実力者相手に、この2枚だけでどこまで持ちこたえられるか。

「まず、召喚僧サモンプリーストを召喚。このモンスターは召喚した時守備表示になるよ」

 召喚僧サモンプリースト 攻800→守1600

「サモンプリーストの効果。1ターンに1度手札の魔法カードを捨てて、デッキからレベル4以下のモンスターを特殊召喚。もっとも、この効果で呼び出したモンスターはターンの間攻撃できないけどね。テラ・フォーミングをコストにさあおいで、ゴーストリック・マミー」

 サモンプリーストが長ったらしい呪文を不気味な口調で唱えると、天井からドスンと尻もちをついてミイラ男が落ちてきた。打ち付けたらしい腰をさすりながら、ここはどこだと言わんばかりにあたりをきょろきょろと見回す。

 ゴーストリック・マミー 攻1500

「マミーは表側表示で召喚する限り、自分は1ターンに1度召喚権とは別にゴーストリックを通常召喚できる。さあ出ておいで、猫娘!だけど無論、これだけじゃないからね?さらに魔法カード、受け継がれる力を発動。自分のモンスターを1体リリースすることで、エンドフェイズまでその攻撃力を別のモンスターに加算する。マミーの力を猫娘に!」
「これで攻撃力はスナイパーさんを……」

 ゴーストリックの猫娘 攻400→1900

「バトル、猫娘で白銀のスナイパーに攻撃!」

 猫ならではの素早さでスナイパーさんの懐に潜り込み、鋭い爪で連続して引っ掻く。遠距離専門のスナイパーさんは、あんなに間合いを詰められるとどうしようもない。

 ゴーストリックの猫娘 攻1900→白銀のスナイパー 攻1500(破壊)
 清明 LP900→500

「アチャチャチャンバラー、止めの一撃!」
「チャンバラーのレベルは3だからバブル・ブリンガーは効かない………だったらこっちだ、メタル・リフレクト・スライム!守備力2600の壁でその攻撃は防ぐ!」

 メタル・リフレクト・スライム 守3000→2600 攻0→500

 これでこのターンは凌げるから、返しのターンでこの氷帝メビウスをアドバンス召喚して。そんな計算は、あっさり崩された。

「速攻魔法、ディメンション・マジックを発動!場に魔法使い族モンスター、この場合サモンプリーストがいることで発動できて、モンスター1体をリリースすることで手札の魔法使いを特殊召喚し、さらに相手1体を破壊する!攻撃を止めたアチャチャチャンバラーをそのままリリースして、2体目の魔女を特殊召喚!」
「そんな!?」
「悪いね、清明。ディメンション・マジック第二の効果で、スライムを撃破させてもらうよ」

 魔女の魔法を浴びたスライムが蒸発し、シュウシュウと音を立てて消えていく。レベル3の魔女には、これまたバブル・ブリンガーも効果がない。

「まだバトルフェイズは続いているからね。ゴーストリックの魔女でダイレクトアタック、ヒス・オブ・メイジ!」

 ゴーストリックの魔女 攻1200→清明(直接攻撃)
 清明 LP500→0





「むー………負けた負けた、完敗だぁ」

 完敗だ。読みの差で見事に負けた。何をしても予想済み、といった感じで対処されて、そのまま押し切られた。もうぐうの音も出ない。

「ふふ、お疲れ様」
「ちぇっ、もうリタイヤか。はいコレ、稲石さんの分ね」

 負けた者に対していつまでも文句を言うわけにはいかないので、潔くGXのメダルを投げ渡す。それを稲石さんがキャッチしようとして、取り損ねて床に落とす。そこに目をやったところで、ちょうどファラオが帰ってきた。

「あ、お帰りなさーい」
『ただいまだニャ。メダルを持って……来た………ニャ?』

 ふわふわと出てきた大徳寺先生の視線が床に落ちたメダルの上で止まる。そのままじーっとメダルを見ていたが、幽霊だから暑さ寒さは関係ないはずなのにその顔にたらりと汗が出てきた。
 まさかこの人、何か間違えたんじゃ。その思いを裏付けるように、タイミングよくファラオがくわえていたメダルをペッと吐き出す。
 そこには、『DX』の文字が彫られていた。……どうみてもパチモンです、本当にありがとうございました。誰だこんなの作ったの。

『ま、まあ、今日の勝負はノーカンってことで、清明君もこれから大会頑張ればいいニャ!怒られる前に逃げるニャ、ファラオ!』
「あ、先生!?」

 ファラオを急かして半ば無理やり部屋から出て行った大徳寺先生。稲石さんが床のGXメダルを拾い上げ、なぜかそれを僕に差し出す。

「ま、大徳寺センセもああ言ってたしね。今日のはノーカンってことで、しっかりやるんだよ」
「で、でも」
「そもそも自分がもらったって、よく考えたらここから出られないんじゃどうしようもないからね」

 グイッとこちらに押し付けられたメダルを見る。本当に、受け取っちゃってもいいんだろうか。

「律儀だねえ。だけどその律義さはちょっと独りよがりかな。逆に聞くけど、自分と君が逆の立場だったとして。ここで返そうと思ったものをさらに突き返されて本当に嬉しいかい?」
「……うーん」
「それじゃあ、こうしよう。実は君たちが修学旅行に行ってる間にこの島で地震があってね。ただそれが妙に不自然で、どれだけ調べてもこの島だけ、それもごくごく一部分でのみしか揺れてないみたいなんだ。校舎はその部分に引っかかってないから、自分たち以外は誰も気づいていない。大徳寺センセが錬金術の力で割り出したその震源地を教えるから、そこで何が起きたのか調べてきてよ。メダルはその報酬の先払い。これなら納得いくんじゃない?」
「うん、そういうことなら、まあ」

 僕だって本音を言えば、ここで大会を終わらせたくはなかったからメダルを返してくれたのは素直に嬉しい。だけど、それでいいのかって思いが抜けきらなかった。そこまで読んだうえでああいうことを言ってくれたんだろう。僕が迷いなくメダルを受け取れるように。なんか聞いてるだけでものすごく怪しい話ではあるけれど、きっと何とかなるだろう。手を伸ばしてさっきまで僕の物だったメダルを再びつかむと、稲石さんが空いた手で1枚のカードを取りだした。

「それと、これも。君のデッキはなかなか前のめりだからね、このカードもあげよう」
「え?」
「いいから受け取っときなって。こっちは君と自分の仲直りの印さ」

 じっくりと見る。確かにこの効果、僕のデッキの守りのカードとして十分な能力を持っている。いや、十分以上の素晴らしい性能だ。

「稲石さん、ありがとう!大事にするよ!」
「何、いいってことよ。それじゃ、またね」
「はーい!」

 こうして、ジェネックス初デュエル………に、なるのかなこれ。とにかく初っ端から負け試合という散々な結果に終わってしまった。それにしても稲石さんの話、気になるな。ものすごく限定的な範囲での地震、ね。この島すら覆えないほど狭い範囲って、それってもはや地震じゃないよね。それにさっきはスルーしてたけど、どうも今日はチャクチャルさんの様子がおかしい。なんだか妙に疲れてるというか、弱ってるというか。今は稲石さんの頼みの話もあるしもう少し様子を見るけど、考えることがいっぱいだ。
 いったん頭を使うのをやめ、稲石さんにさっき書いてもらった手書きの地図を見る。バツ印がついたところが震源地とのことだけど、この位置には行ったことがある。弱小カードとレッテルを張られたものたちが捨てられていた、古井戸。万丈目や十代と一緒に潜ってカードを拾い集めた井戸のあたりだ。 
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