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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン20 鉄砲水と冥府の姫と

 
前書き
新制限、皆さんはもう見たでしょうか。
タイダル、お前のいなくなったデッキはなんだかすごく寂しいです。
メインデッキの単純戦闘力がガタ落ちしました。
手札からおもむろに現れてガイウスを叩きのめしてくれたり、フィールドで強化して植物姫をぶち倒してくれたお前のことは忘れません。
適当な魚送り込んで初手ダブルフィンしたり、シーラカンス落としての蘇生コンボしたり、単純にアーチャー落としたりなどの固有効果使ってのさまざまなコンボを生み出してくれたお前のことは忘れません。
エラッタされて返ってくるいつの日かまで、デッキにはお前のためのスペースを1枚空けてずっと待ってます。
とりあえずゆっくり眠ってください。お疲れ様でした、タイダル。 

 
「おいおいおい、どーなってんのこれ」

 もう数十回目になる『おかけになった電話は、電波の届かないところか、電源が切れて………』という電子音声に、電話を放り出したくなる。昨日ミスターTを返り討ちにしてから1日、結局宿泊先のキャンプに行く気力もなくずるずると自分の家で泥のように眠っていた。一応チャクチャルさんが根回ししておいてくれたおかげで捜索届とかは出てないはずだから、その点は安心できる。その根回しとやらは具体的にどうやったのかはすごく気になるけど。人に迷惑かけてないだろうか。若干不安だ。
 ただその根回しに行ってきたチャクチャルさんが、一つ気になる情報を掴んできたのだ。それが、他にも数人が行方不明だということ………具体的にはエド、翔、剣山、そして十代である。なのでとりあえずエド以外の全員が学校から持ち込んでるはずのPDAに連絡をつけてみたのだが。

『おかけになった電話は………』
「もういいよ」

 聞き飽きた電子音声に受話器を放り投げ、ここに来るとき持ち込んだ荷物をまとめる。

「なんだ、もう行くのか?学生は忙しいな」
「さすがに儲かってない店の店主は言うことが一味違うねー。少しは商売っ気出さなきゃ本気で潰れちゃうよ?」
「おうなんだ、お前の癖に親を心配するなんて珍しいじゃねえか。こりゃ今日は雪だな」

 軽口をたたきながらも、親父の顔は固い。多分僕も似たような感じだろう。今回だって、友達が行方不明だと言ったら店をさぼってまで探そうとしてくれたのをこっちが引きとめたのだ。なにせ相手はデュエルを仕掛けてくるんだから、非デュエリストが不用意に首を突っ込んだりしたらどうなるかわかったもんじゃない。なんのかんのといってもやっぱり僕の唯一の肉親が相手なんだから、なおさらのことだ。

「じゃ、行ってくるよ」
「………おう。またな」

 特に長々と話したりはしない。お互いにそういうタイプじゃないし、改まって話すのはちょっと照れくさい。そのまま振り返らずに歩き出すと、ぴょこっと横に人影が現れた。

「清明、私も一緒に。ってさ」
「夢想………」

 一瞬断ろうかと思ったけど、僕もいい加減夢想との付き合いも長いからよくわかる。彼女は自分がこうと決めたら何言ったって聞きゃしないから、説得しようと考えるだけ無駄だ。なので、

「そうは言ってもねー、僕もあてなんてないんだけど」

 とだけにとどめておく。

「なら、駅に行ってみない?だって」
「駅?」
「うん。もし童実野町の外に出たなら、駅員の人がおぼえてるかもしれないし。清明もそうだけど、この制服ってわりと派手じゃない?ってさ」

 自分の着ている真っ赤な制服を見ると、なんだか妙に納得できた。なるほど、確かに一理ある。それに、ここからなら一番近くの駅まで5分とかからない。

「さっすが夢想。十代たち、いるかなー」





「赤い洋服で腕にデュエルディスク付けた人かい?そういえば今朝見たねえ、2人組でしゃべってたんだけど、ここから隣町まで行くって言ってたっけか」
「あらま。あ、ありがとうございました」

 まさかとは思ったけど、まさか一発目でビンゴするとは。ラッキーというかなんというか、なんかちょっとできすぎてるような気もする。とはいえ他に手がかりがあるわけでもないので、とりあえず切符を買う。夢想の分も合わせて2枚。高い。

『そこで二人分買うあたり律儀というかなんというか』
「(やっぱ見栄は張りたいからね。まだ生活費にまでは手つけてないしギリギリオッケー。それより、頼んでた方はどうだった?)」

 頭の中に割り込んできたチャクチャルさんとこれまた頭の中で会話しながら、同時にそんなそぶりを見せないように夢想とも喋る。精霊が見えるってのは便利だけど不便だ。ちょっと気を抜くとすぐに何もないところと会話してる危ない人扱いされる。

「はいこれ、夢想。次の電車っていつだっけ?(このままでも問題ないよね?)」
「ありがとう、だってさ。でも清明、お金大丈夫なの?」
『問題はないが、だからこそ怪しいな。町全体を感知してみても、引っかかるものはまるでなし、だ』
「ま、なんとかね(そりゃまた………で、十代たちもいない、と)」

 ここで夢想との会話を切り上げる。最初は何とかなるかとも思ったけど、やっぱ無理だ。あのまま二つの会話を同時に続けてたらどこかで脳が限界になっていただろう。

「(少し整理させて。昨日までは確かにいた4体の帝が今朝になったらきれいさっぱり消えていて、その上十代たちとエドも消えてると。チャクチャルさん、十代たちの方はともかくとして、帝があっさり消えたことについてはどう思う?)」
『おそらくそれぞれのカードの使い手が誰かに倒されたのだろう。と言いたいところだが、あの帝どもは明らかに精霊としての能力が暴走しかかっていた。もしカードの使い手が倒れでもしたら、それこそストッパーがなくなった精霊が暴れまわってもおかしくないほどにな。だが何の痕跡も残さずに消えていったところをみると、十中八九昨日のミスターTだろうな。おおかた元は普通の帝だったものに無理やり力を注ぎこんで強制的に進化させたのだろう』
「(それでミスターTを倒したからそのブーストが切れて、暴走しなくなったってこと?)」

 そう聞くと、腑に落ちなさそうにしながらも肯定するチャクチャルさん。だったら、別に何もおかしなところはないと思うけどなあ。

『それ自体はな。私が言いたいのはそこじゃないんだ、マスター。ミスターTを倒せば帝にかけられた強化が切れるというならば、なぜ奴はわざわざデュエルを挑んできた?確かにあの場面でマスターが負けるようなことがあれば、同時に私の存在もナスカに封じることができただろう。だが、そのためにわざわざ本人が直接出てくるというリスクを冒した理由がどうも納得できない』
「そりゃそうだけど………でも、なんか昨日だってミスターT分裂して増えてたじゃん。あれも分身だったんじゃないの?」
『自分から仕掛ける側じゃないから今一つよくわかってないみたいだな、マスター。闇のゲームは命どころか魂まで賭けたゲーム、分身を身代りにたてられるほど甘いものではない。もっともミスターTの場合は生まれが特殊だからしばらくすれば自動で蘇ることができるが、それでも決してノーリスクではない』
「他の人に闇のゲームなんてやらせたくなかったとか………?」
『そんな人間に優しい感性なんて持ち合わせていると思うか?』
「とりあえずチャクチャルさんが大嫌いな相手なのはよーくわかった」

 そこで駅についたので、また話がいったんストップする。ふと視線を感じたのであたりを見回すと、なんだか近くの乗客全員がじっとこちらを見ていた。よくわからないまま睨み返すと、慌ててさっと目をそらされる。奇妙な空気のまま降りると、隣の車両からこっそりと夢想が降りてきた。ついさっきまで隣にいたのに、まさかこれも光の結社が何か仕掛けたとか。どうもよくわからないことばかり起きるからすごく不気味だ。





「来たのはいいけど、どこから探そうかね」
「う、うーん。あれ、もしかしてあそこにいるの………ってさ」

 駅前の広場に噴水があり、そこには大時計が備え付けられている、そこの前に立ち、時間を見ている赤い制服と黄色い制服の2人組がいた。

「十代、こんなところで………」

 何してんの、とは言えなかった。僕の声に振り返った赤い制服の男は、後ろから見ると十代と同じ茶髪だったがその顔はまるで別人だった。もう一人も振り返るが、こちらは知らない人だ。

「よう、遅かったな」
「だがさすがは三沢さんだぜ、本当にこいつらここまで来やがった」
「三沢!?まさか君たち!」
「「その通りだ!」」

 そう言い放ち、二人が来ていた制服を脱ぎ捨てる。そこから現れたのは、もはやおなじみとなった白づくめの格好。なぜか髪の色まで急に白くなったのはどういうわけだ。

「あれ、光の結社なの?ってさ」
「ふふふ、その通り」
「今、童実野町にお前らみたいな邪魔な奴がいたら斎王様の計画に支障が出るんでな」
「三沢さんに相談して、お前らを街の外におびき出すための作戦とそのためのデッキを考えてもらったのさ」

 夢想の問いに片方が得意げに言うと、もう片方がその後を続ける。どこかで見たことあると思ったけど、そうだ。迷宮兄弟のノリとよく似てるんだ。もっとも目の前の2人は、息こそぴったり合っているものの顔や体格はまるで似ていない。でもあの二人、どこかで見たことあるようなないような。

「さあ、大人しく俺らとデュエルを……」
「あーっ!!」
「なんだいきなり!」
「思い出した!君らあれか、元万丈目の金魚のフンやってた取巻(とりまき)慕谷(したいたに)か!」

 同年代とはいえとくに話をしたわけでもないし万丈目も特に昔の話はしたがらなかったからすっかり忘れてたけど、そうか。この二人もいつの間にか光の結社側に行ってたのか。そうかそうかと一人で納得したのだが、どうやら本人たちはそれがお気に召さなかったらしい。

「金魚のフンだと?許さんぞ!」
「よせ、取巻。三沢さんに作ってもらった俺たちのアンチデッキならいくらこの二人が相手でも太刀打ちできないんだ、今はせいぜい好きなだけ言わせてやれ」

 全部筒抜けなのは放っておこう。それにしても、三沢が作ったアンチデッキか。きっとガッチガチにメタってあるんだろうなあ、嫌だなあ。

「そ、そうだな。よし遊野清明、お前の相手はこの取巻様が……」
「じゃ、そこの君は私が相手するから、清明はそっちお願いね、ってさ」
「「え」」

 ………さらっととんでもないこと言うなあ、夢想は。可愛い顔してえげつない。まあ僕だってアンチデッキの相手なんか好き好んでしたくないし、ここは彼女に話を合わせよう。

「あー、えっと、さ、さーこい慕谷!この遊野清明が相手だ!」
「え、おま、ちょ……」
「取巻、だっけ?私に挑むんなら、それなりの覚悟はしてもらうからね、だって」
「こ、こんなはずじゃ……」
「それじゃあ、デュエルと洒落込みましょうか。なんだって」

 夢想、割と本気で怒ってるな。何がそんなに気に食わないのかはわからないけど。一応僕も怒ってるっちゃ怒ってるけど、単に夢想と二人でいられるのを邪魔された恨みだからなあ。それなりの代償は払ってもらうし当然そこを譲る気はないけど、夢想はなんで怒ってるんだろうか。僕と同じ?まさかね。

「「「「デュエル!!」」」」

「やってやる、やってやるさ……!俺のターン、月風魔を召喚!さらに装備魔法、竜殺しの剣を装備。これで攻撃力は700ポイントアップし、さらに戦闘するドラゴン族を破壊する効果を得たぜ。これでターン終了だ。クソッ、こいつが相手じゃ傀儡虫の効果が使えやしねぇ」

 月風魔 攻1700→2400

「(ねえチャクチャルさん、今言ってた傀儡虫ってどんなのだっけ)」
『ふむ。手札から捨てることで悪魔族かアンデット族のコントロールを1ターン奪うモンスターだな』

 なるほど、夢想のワイトやら龍骨鬼やらの対策か。で、竜殺しの剣でドラゴネクロ対策もばっちりと。悪くはないけど、多分それだけじゃ夢想相手でも負けてたと思うぞ。

「もっとも、今の相手は僕だけどね。ドロー!ハリマンボウを通常召喚して、そのままリリース。水属性モンスターをリリースすればこのカードは特殊召喚できる!出てきて、シャークラーケン!」

 シャークラーケン 攻2400

「俺の月風魔と攻撃力が同じだと!?相打ち狙いか」
「慌てなさんなっての。ハリマンボウが墓地に送られたことで相手モンスター1体の攻撃力は500ポイントダウン、さらに手札と墓地の水属性モンスター、シャーク・サッカーとハリマンボウを除外!唸れ、タイダル!」

 タコのような触腕を持つ鮫と並び、水色のドラゴンが羽を広げる。月風魔の持つ対ドラゴンの剣を前にしても一歩も引かずに睨みつけるその姿は、まさに王者としての貫録を持っているように見えた。

 月風魔 攻2400→1900
 瀑征竜-タイダル 攻2600

「ま、まだだ………まだ次のドローで」
「あー?やだなあ、そんなもんさせるわけないでしょ。魔法カード、アクア・ジェット発動!魚族モンスターのシャークラーケンの攻撃力は、このカードの力で1000ポイントアップするよっと」

 シャークラーケン 攻2400→3400

「ひ、ひぃっ」
「バトル、シャークラーケンで月風魔を攻撃!」

 シャークラーケン 攻3400→月風魔 攻1900(破壊)
 慕谷 LP4000→2500

「これでとどめだ、タイダルのダイレクトアタック!ウェイブ・オブ・タイダル!」

 瀑征竜-タイダル 攻2600→慕谷(直接攻撃)
 慕谷 LP2500→0

「はい、一丁上がりっと。夢想ー、そっちはどんな感じ………うわぁ」

 無事にデュエルも終わり、チラッと隣の夢想のフィールドを見る。もっとすさまじいことになっていた。





 清明がデュエルを始めたのと同時に、夢想の戦いも始まっていた。

「本来はアンチ水属性のデッキなんだけどな、こうなったらやってやるさ!俺のターン、魔法カード、融合を発動!手札のベビー・ドラゴンとワイバーンの戦士を融合し、ドラゴンに乗るワイバーンを呼び出すぜ!このモンスターは相手フィールドの表側モンスターが炎、地、水属性の時のみ直接攻撃ができる!さらに龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)を発動、墓地の通常モンスターであるさっきの2体を除外することで、融合召喚!出てこいや、始祖竜ワイアーム!」

 ドラゴンに乗るワイバーン 攻1700
 始祖竜ワイアーム 攻2700

 瞬く間に並ぶ2体のモンスターを見て、やや夢想も目の前の敵に対する認識を改める。思ったより、あくまでも最初に思ったより、という程度にはこの男は強い。

「ここでカードを伏せて、ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー」
「今だ!永続トラップ発動、メサイアの蟻地獄!このカードがある限り、レベル3以下のモンスターはエンドフェイズごとに破壊されるぜ。本来なら遊野清明用のカードだったが、考えてみりゃワイトにだって十分効くなぁ」

 ドヤ顔での語りが、彼女の苛立ちに油を注ぐ。最初のうちは1ターンぐらい様子を見ようかとも思ったが、そんな情けをかける気も消え失せた。

「魔法カード、手札抹殺を発動、って。手札を捨てて、その枚数ぶんだけドロー。さらに暗黒界の取引を発動。お互いカードを1枚引いて、1枚捨てるんだって。魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動、手札のモンスターカードを1枚捨ててデッキからレベル1モンスター、ワイトキングを特殊召喚するみたい。それとこのターン通常召喚してなかったから、ワイトキングを通常召喚」

 ワイトキング 攻7000
 ワイトキング 攻7000

「ちょ、ちょっと待ってくれよ………なんで攻撃力7000が2体も後攻1ターン目で並ぶんだよ……」

 無論、彼女は不正などしていない。たまたま初手に手札抹殺とワイト3枚にワイトメア2枚が来て、暗黒界の取引で引いたワイト夫人をそのまま捨て、偶然引いたワン・フォー・ワンのコストにたまたま手札にあったワイトプリンスを使っただけである。どこからどう見てもオーバーキル以外の何物でもないが、その数字の大きさがそのまま彼女の怒りを物語っている。

「ワイトキング2体でドラゴンに乗るワイバーン、始祖竜ワイアームに攻撃、ってさ」
「ぎゃあああああっ!?」

 取巻 LP4000→0

「ふーんだ、だって。馬に蹴られて死んじゃいなさい、だってさ。あ、清明、こっちも終わったよ」
「うう………」

 放心状態でその場に座り込む取巻を見て、とりあえず、夢想のことは絶対怒らせないようにしようと固く誓った。あんなの実戦で喰らったらさすがに僕でも心が折れそうになる。

「ったく、それにしてもこれで振り出しか。十代たち、どこ行っちゃったんだか」

 正確に言えば電車賃の分だけマイナスだけど、これに関しては今更どうしようもないのですっぱり諦めることにして、とりあえず念のためにもう一度だけ連絡をつけてみる。数回のコール音が鳴り、そのまま電子音声に………

『あ、清明!一体どこ行ってんだよ、探してたんだぜ?』
「じゅ、じゅじゅ十代!?今どこにいんの!?」
『お、おう。えーっと、今は俺たちのキャンプ地にいるぜ。もっとも、俺もついさっき帰ってきたばっかだけどな。昨日からいろんなことがあったんだ、アカデミアに戻ったら色々俺の武勇伝を聞かせてやるぜ!だから早いところこっちまで来いよ。じゃあ、また後でな!』

 そこで通話が切られた。でもとりあえず電車賃をせびる相手が見つかったので、そこはまあよかったとしよう。
 ………無事で、よかった。

「帰ろっか、夢想」
「ねえ、清明。その前に少しだけ付き合ってくれる、だって」
「?」





 どこか寂しそうな顔の夢想によくわからないながら黙ってついていく。駅の裏手に回り、そのまま少し進む。

「ここは……」
「ごめんね、変なところに付きあわせて。でも、ここに来たらどうしても寄りたかったの、ってさ」

 そこは、小さな墓地。ささやかなスペースにいくつかのお墓が立ち並んではいるが、周りに生えた木のおかげでうまいこと電車に乗っているときには見えないようになっている。
 その中の1つ、特に目立つわけでもないごく普通の墓の前に立ち、夢想が静かに手を合わせる。年月のためかややかすれた表面にはなんとか見えるぐらいの字で河風家之一族、と彫られていた。
 なんとなく空気を読んで僕も手を合わせること10数秒、夢想がゆっくりと口を開いた。

「ねえ、清明。私の喋りかたって、清明はおかしいと思う?ってさ」
「え?」
「お願い、正直に答えて。って」

 いきなりの質問に虚を突かれる。だからだろうか、それとも墓地という空間のよくわからない空気に呑まれたのか。割と正直に思うところを話していた。

「そりゃまあ、最初はそうも思ったさ。でも入学してからかれこれ1年以上たって、もうすっかりそんなのどうでもよくなったよ。どういう喋りかただろうと、何を考えていても、それ全部ひっくるめての夢想だからね」

 ちなみに今のセリフを一言にまとめると慣れた、である。でもちょっとぐらいカッコつけた言い回しにしてもいいじゃない、どうせ他には誰も聞いてないんだし。
 そんな答えを聞いた夢想はほんの少し笑って、それからまた真剣な顔にもどった。

「私のお父さんとお母さんは、今ここにいるの。私が物心ついてすぐのことだから、もう二人の声も覚えてないけどね、だって」
「えっと………」

 なんて言えばいいのかわからない。物心ついた時にはもう母親がいない、という点では僕と同じだけど、それでも僕には親父がいた。口も性格も悪いけど、商売(菓子作り)を仕込んでくれたりもした。結局何も気の利いたことが言えないまま口を閉じると、それを待っていたかのようなタイミングでまた話し始める。

「交通事故だったんだけど、その時の車には私も乗ってたの、って。今でもぼんやり覚えてるんだ、その時の感覚は。それで、それから一か月ぐらい、私は喋ることができなくなったの。お医者さんは事故のショックだって言ってたけど、だって」

 僕の母親が死んだときはどうだっただろうか。あの親父が泣いてるのを見たのは、後にも先にも事故の知らせを受け取ったその時だけだ。それだけしか覚えてない。

「ここから先の話は信じてもらえないかもしれないけど、最後まで聞いてね、だって。その時に私は、声を聞いたの」
「声?」
「そう。その声は私に、事故のショックのせいで私が一生喋ることはできないけど、ある条件さえ受け入れてくれればその代用策を出してくれるって言ったの、だって。まだ小さかった私は、その取引を喜んで受け入れたんだ。それで、今でもその取引は続いてるの、ってさ」
「取引……」

 どうしよう。去年散々不思議なものを見てきてるから一概に嘘とは言い切れない、というか多分夢想の話は本当なんだろう。ただ口がきけないのを直すほどの力を持った奴のする取引なんて、絶対ロクなものじゃない。嫌な予感がすごくする。

『ちなみに私は死人(マスター)を蘇らせたけどな』
「(ちょっとチャクチャルさん静かにしててね)」
『命の恩神に対して雑な扱いだな、まったく………とはいえ、確かにその手の取引はだいたい裏があるだろうな』

 最後に不安をかきたてるようなセリフを残し、チャクチャルさんの気配が頭の中から引いていく。

「私が何か喋りたくなると、その内容を話すことのできない私に代わってその取引の人が代わりに私の口を動かしてくれる。そのかわり、いつか必要になったときに私が1つ言うことを聞く。なんだか改めて口に出すと………ううん、出してもらうと信じられない話だけど、全部本当だってさ。私のこの変な語尾は私本来の物じゃなくて、私が言いたいことを代わりに喋ってもらってる、いわば伝言としてついたもの、ってさ」

 なんだか複雑な話になってきた。僕にとってこの世のあらゆる難しい話は専門外なんだけど、明らかによからぬ話なのは感覚的にわかる。世の中皆チャクチャルさんみたいにほぼ無償で何かしてくれるほど甘いわけではないのだ。
 でも、僕にはどうすることもできない。ダークシグナーとして生まれた僕は、いいことか悪いことかは別として普通の人にはできないたくさんのことをできるようになった。それでも、チャクチャルさんやその夢想の取引相手とやらのような『本物』には遠く及ばない。

「私の話はこれで終わり、だってさ。ごめんね、変な話を最後まで聞いてもらって。さ、帰りましょ」

 重い雰囲気を振り払うように明るく、夢想が墓に背を向けて歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 その後ろ姿を追いかけて少し歩き、途中で振り返って河風家の墓をもう一度見る。

「僕は、どんなことがあろうとも、夢想のそばにいたいもんだね。この先どうなるとしても、そこは譲らないよ」

 改めて自分の思いを口にすると、なんだか気が引き締まったような気がした。よし、僕もそろそろ帰ろう。
 ………そのあと帰りの電車賃が1人分しかないことが発覚したため夢想に切符を押し付けて歩いて童実野町まで行くことになったのはまた別のお話。 
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