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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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挿話 私のはじめての家族

/Milla

 ミュゼはその場に座り込んだ。

「また何もなくなる……私にはもう……」

 私にはただ黙ってミュゼの肩を抱くしかできなかった。

「ミラ」

 私たちの前に立ったのはヴィクトルだった。

 ああ、そんな目で見るのか。君が、私を。
 ならばこれは私の最後の意趣返し。

「2000年前にすでに答えは出ている。人が人として、精霊が精霊として生きようとする以上、共に生きることはできない。だからこうして二つの国は隔てられたんだ」
「ああ。よく分かっている。我々は本来交わってはならない異人同士だ」

 何だ。分かっているのか。ヒドイ男だな、君は。

「ミラ、ミュゼ」

 君も、か、フェイ。君も私たち姉妹を憐れむか? マクスウェルとして生まれながら、愚かにも道を踏み外したと嗤うのか?

「お願い、あるの。あなたたちにしかできないこと。新しく生まれてくるちっちゃい精霊たち、守ってあげてほしいの」

 私たちが――?

「いつか必ず、交わらなくても、一緒に生きていける世界になるから。それまでこの世界を支えて?」
「必ず、か」
「〈証〉を立てて誓ってもいい。信じて、しか、言えないけど」

 精霊に〈証〉を立てれば、特殊かつ強固な制約を自身に課す。いつかヴィクトルが言った通り、呪いにも等しくなることもある。
 それでも君は分かってて言ってるんだろうな。共に居られはしなかったが、ずっと〈槍〉の中から見てきたから、分かるよ。

 立ち上がる。フェイを、ヴィクトルを、厳しく見据えた。

「君の言葉を信じるわけじゃない。人が精霊を害することがあれば、私たちは第二の『リーゼ・マクシア』を造り上げる」

 ミュゼに手を差し出す。ミュゼは私の手を取り返し、立ち上がって後ろから私に抱きついた。

 マクスウェルが私たちの上に漂ってきた。もう、本当に、止められない。

断界殻(シェル)のマナを使えば、ミラよ、再び人となる道もあるぞ』

 再び人に? もしそうなったなら、私は、「人」の私が共に在りたいのは――

「ミラ様!」

 ふり返る。イバルがもどかしげに、私に向けて叫んだ。

「ずっと、長くおそばに置いていただいたのに、お役に立てませんで……俺は至らぬ巫子でした。ですがっ。ですが、ずっと忘れません。あなたの『巫子』であれたことを、誇りに思います」

 巫子、か……それがお前の答えか、イバル。お前は私が「マクスウェル」の道を往くことを疑わないのだな。

 マクスウェルを見上げ、首を横に振った。人にはならない。私はすでに精霊の主、ミラ=マクスウェルだ。

『そうか。精霊たちを見守ってくれ』

 肯いた。未練がないと言えば嘘になるが、それが私が選んだ生きる理由だ。

 マクスウェルの体が光となって消えていった。

 星空が消え、青空が世精ノ途(ウルスカーラ)に広がる。世精ノ途(ウルスカーラ)だけではない。ここから見晴るかす全ての地に、マナの雪が降りしきる。
 見渡す限りの、青い世界。ああ、何ていとしいんだろう。

「イバル。最後の命令だ。私の隣に」
「は、はいっ」

 隣に立ったイバルの手を握る。そんなに驚いた顔をするな。いくら私でも傷つくぞ。

「よくよく心に刻め。これが私が護ってゆく新しい世界だ。光に、雨に、風に。姿はなくとも、私はいる。お前と人を、未来まで見守っているよ」

 ふわりと浮かぶ。ミュゼが呼んでいる。私も精霊界に行かねば。だが、イバルの手を離しがたくて、つい手を繋いだまま浮いてしまった。

 イバルの手。私の髪を梳き、私の傷を手当てし、私を守ろうとして剣を握った手。ああ、久しく手を繋いでなかったから忘れていた。

 私の、もう一人の、はじめての、家族。

 私は今、ちゃんと笑えている?

「いってきます」

 手を離したイバルが笑い返してくれたから、きっと、ちゃんと笑えていたんだと思いたい。 
 

 
後書き
 ミラとイバルの関係はあくまで家族愛でした。
 マクスウェルにならない選択も、このミラならありだったかもしれません。
 それでも「巫子」として主人のためにと告げた言葉で、ミラは覚悟を決めました。

 手を繋ぐシーンですが、指までは絡めていませんし、どちらも泣いていませんよ。 
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