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lineage もうひとつの物語

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冒険者
  アリ穴四階 part2

カラーン───

大きめの広場にある岩場の陰、アレンの手よりこぼれ落ちたグレートソードが地面に転がり乾いた音をたてる。

「握力の限界を超えておったか」

見ればアレンの両手の指がつり上がり痙攣を起こしているのが見える。
顔には苦悶の表情が浮かび痛みに堪えていた。

「大変!グレーターヒール!」

アーニャが駆け寄りその両の手を自らの手で優しく包み込み癒していく。

「緊張の糸が切れたんじゃろう。あの闘いでは無理もない。よくやった」

アーニャのヒールによって痛みは退いたが疲労により座り込むアレンを労った後、ガンド、ウォレスも武器を立て掛け腰を降ろす。
武器を落とすことのなかった二人だが流石にその疲労は見てとれる。

「アーニャ、ありがとう」

アレンの顔から苦悶が抜けたのを見てとったアーニャは安堵し、次にサミエルと目線を交わす。

「アーニャさん、後で頼みます」

サミエルの一言で覚ったアーニャは頷くとサミエルに向け杖を構えた。

「ヒールオール」

サミエルを中心に半径3m程の魔方陣が展開され、顔色が突然悪くなったかと思うと同時にメンバー全員の疲労が軽減された。
ヒールオールは術者を除いたパーティーメンバー全員の回復をすることができるが術者の体力を奪ってしまう欠点がある。
乱戦でヒールオールを使いパーティーメンバーを守ったあと敵の攻撃をくらい命を落としたウィザードは決して珍しくない。
体力の低いウィザードの疲労感は前衛職にはわからないだろう。
使いどころの難しいヒール魔法ではあるが安全地帯での使用に関しては魔力効率が良い為使われることが多い。
アーニャに後で回復を頼んだのはヒールオールを使うのは自分だという先手を打つためであり、女性に疲労させる訳にはいかないという紳士的な考えがサミエルにあってのことだろう。

「もっかいいくからその後にお願い。ヒールオール」

アーニャの返答を待つことなく唱えられた魔法はメンバーの傷を癒し体力を殆ど回復させることができた。

「グレーターヒール」

「アーニャさんありがとう。お陰で楽になったよ」

アーニャの魔法により回復したサミエルはお礼を言うとその場に座り込む。
魔力回復促進のためメディテーションを唱え、更にブルーポーションで回復量を底上げするとアーニャとサミエルは瞑想に入った。

ガンドとウォレスは帰還するかどうかを相談している。
“帰還する“というのはこの場合帰還スクロールを使って地上へ出るかどうかということだ。

「その場合、他の奴等にこの事を報せるのが遅くなるが仕方ないか」

昨夜の情報交換で大アリだけの集団がいるというものはなかった。
尤も今日出会っている可能性は大いにあるが早目に報せたい。
犠牲者が出る前に報せるのがいいのは間違いないだろう。

「こちらに犠牲者が出てからじゃ遅いからの。地上での安全がとれるくらいまで魔力が回復したら帰還しよう」

「確かにこの状況でバジリスクと鉢合わせとか洒落にならんからな。了解した」

帰還スクロールで地上に戻るとそこはアリの巣の出入口にあたり、出入りするアリと出会ってもおかしくはない。
しかもそこは砂漠の真ん中ということもありスコーピオンやバジリスクと遭遇することもありうる。
安全性を考慮し多少余裕をもたせ全員同じタイミングで帰還するというのは今のところ危険地帯にあるアリ穴、ドラゴンバレーケイブだけのものだろう。

ウォレスは頷くと警戒態勢にあったエルフの三人にそれを伝えそのまま自分も岩場の陰からアリの動きの警戒にはいった。






それから30分程経った頃

「そろそろ完璧じゃないけど大丈夫かな?」

アーニャは8割程魔力の回復を感じ立ち上がった。
それに応じ同じく回復したことを告げるサミエルの顔には若干悔しそうな表情が垣間見えるがそれも一瞬だけで誰も気付くことはなかった。

それまでの魔力の消費量にもよるのだろうが同じ時間を回復に務め完全回復した自分に比べ、まだ完全回復に至らないアーニャとの魔力差がはっきりと解ってしまったサミエル。
これまでの戦闘から薄々感じていたものの如実に現れた差に悔しさを覚えたため面に出てしまったのだろう。
しかしそれはサミエルが一人そう感じているだけで他のメンバーは全くそんなことは考えていない。
確かにアーニャの魔法は強力で頼りになるのは間違いないだろう。
だがサミエルにはサミエルの良い所がありそれを解っているのだ。
その発想力、応用力はアーニャを凌ぎ、その能力があったからこそオーレン戦でアレンと共にイフリートを退かせることができたのだから誇っていいはずである。
サミエルが自分の路を見つけ出し長所を伸ばすに至るまでこの葛藤は続くことになる。

ウィザードの魔力回復を確認したウォレスはエルフ達と周囲の安全確認を行う。
休憩中何度かアリに見つかったが全て単独の小アリだったこともあり、ガンドやウォレスの一撃により葬り去られ仲間を喚ばれることはなかった。

「これよりカウントダウンを開始する。全員が同時に地上へ出るよう帰還準備に入るんだ。決して戦闘体勢は崩すんじゃないぞ」

各自帰還スクロールを広げカウントダウンを待つ。

5....

4....

ウォレスのカウントダウンを聞きながらアレンは周囲へと注意を配る。

3....

2....

“何か・・・・“

前方の通路へと意識を集中させるアレン。

1....

「待ってくれ!」

怪訝な表情を浮かべたウォレスはカウントダウンを止め何かあったのか尋ねるようとするが。

「静かに・・・!」

す・・・て・・れ

声?
通路の奥を睨んだまま耳を澄ませるアレン。
他のメンバー達は何が起こっているのかわからないがアレンの様子に動くことなく目線を交わしている。

「助けを呼ぶ声が聞こえる!」

アレンはそう伝えると武器を構え走り出そうとするがガンドに止められる。

「焦るな坊主!ウォレスとイオ、エレナちゃん、それに嬢ちゃんはこの場を確保じゃ!ワシと坊主、サミエル、テオの4人で様子を見てくる!」

最初はアレンを残しウォレスと行こうとしたがアレンを説得する時間が惜しいと考え、この人選に決めた。

「了解した!気を付けろよ!」

冒険者達には暗黙のルールが数多く存在する。
先程話し合ったように危険地帯の情報共有もその一つだ。
その数多くある中の一つに救助活動も含まれている。
人命救助も去ることながら物資の供給源にもなり凶悪なモンスターを討伐する。
住民税の優遇がされている冒険者が冒険者たる立場を保っていられるのは治安維持を含み民間人の生活を安定させているからなのだ。
この場所のような民間人の居ない場所でも勿論適用され、同業者間の救援はお互いが同じ立場になる可能性があることから優先されるのは間違ってはいないだろう。

ウォレス達に見送られた四人はアレン、ガンドを先頭に走り出した。

「坊主!危険だと判断した場合は撤退する!その時は救出を諦めるんじゃぞ!」

アレンは目線をガンドに移し頷くと声の聞こえる方向へ意識を集中させるのだった。

間に合ってくれ

そう、思いながら。
 
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