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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  36話

 
前書き
書いててバイオハザードの映画を思い出しました 

 
私の試合が終わり、次の試合内容が中央モニターに表示された。
春野サクラと山中いの……両者とも班においては後衛役とも言うべきか。これが中忍か上忍であれば幻術合戦か、一手で勝負を決めるような術の早撃ちとなったろうが、残念ながら両者とも下忍。
恐らく、勝負としては幻術を相手にかけてそこから物理攻撃でダメージを与え、そのショックで幻術をかけられた側が幻術から外れ、泥仕合の始まりと言ったところだろう。
とはいえ、山中と言えば精神を操る一族で有名だ。あの年齢であれば、相手の身体の支配権を奪う心転身の術辺りであれば習得済みのはず。
ならば、いの側は心転身を当てればそのままサクラとしてギブアップ宣言すれば勝利。対してサクラの勝ち筋は泥試合に持ち込んでの勝利か。
幻術面では素質では並んでいるが、現時点においていのと違いサクラは術がない。幾ら勝負師の腕が良くとも、切れる札がなければ意味がないのだ。
強いてサクラの強みをあげるならば、チャクラコントロールによる単純な肉体強化か。彼女のチャクラ量で考えればせいぜいただの拳がメリケンサック付きの拳になる程度の効果だろうが、泥試合に持ち込んだのであればその強化は決して軽視できるものではない。
その辺りを考慮すれば、サクラはいのの幻術をどうにか出来ればなんとか勝ちの目が見えるか。
「ヒジリはこの勝負、どっちが勝つと思う?」
「ふむ……ほぼ五分だが、いのの方が少し優勢だな」
「じゃあ、サクラちゃんの負け?」
「いや、いのが一手勝っているだけで、その一手をサクラが凌げばサクラの方が僅かに優勢になる」
「ふーん、じゃあ引き分けっていうのは?」
「可能性はかなり高いな。両者の力量、条件がほぼ互角で勝敗が時の運で決まるような戦いであれば、順当に行けば行き着く先は引き分けなのだからな」
そして、試合が始まった。
ふむ……忍というよりは子供の喧嘩のような戦いだな。いや、直接攻撃がそういう類のものしかないのだからこうなるのは当然と言えば当然だが、なんとも毒気の抜かれる戦いだな。
やっている本人達は本気なのだろうが、私の目から見ていると微笑ましい光景にしか見えんのだ。
途中、いのが自分の長髪を切って周囲にばら撒いたものにチャクラを流し、サクラの動きを封じてから術を当てるという事をやったが、何故か術を破られた。
いののチャクラが通常時より少なかったというのもあるのだろうが……一体どうやって破ったのだ?
その後、チャクラも体力も尽きた二人はクロスカウンターを両者食らってノックダウン、試合は引き分けで終わった。



両者とも大した怪我はなく、単に森での疲労に加えて無茶な戦いによっての気絶しただけだったので、特に医務室に行く必要性もなく観客席に担当上忍は運んで終わりだった。事実、次の試合が発表される前に二人は目覚めた。
目覚めた二人はまた軽口のようなものを叩きながら、楽しげに笑い合っていたのだが……ふと、気になった事があったので聞くことにした。
「サクラ、一つ聞いていいか?」
「え?あ、はい」
「何故、君達の学年の女子は長髪の者が多いのだ?」
私の学年ではいるにはいたが、私以外は大抵結んで動きの邪魔にならないようにしていた。しかし、ヒナタの学年はやたらと髪を私のように結ぶことなく伸ばしている者が多い印象があった。
私の場合は昔からこの髪型だったのでそのままにしただけなのだが、同じような者があそこまで多くいるというのはどうにも腑に落ちない。
「えっと、サスケ君が髪の長い女の人がタイプだって聞いたんでみんな伸ばしたんです」
「サスケが?初耳だな、それは。一体何が原因でそんな噂が広まったのだ?」
「なんでだったかな……ちょっと、いの。あんた、知らない?」
「あれでしょ、サスケ君が背の高い着物姿の、黒くて綺麗な長い髪の女の子と歩いているのを見たって話でしょ?」
「そうそう、黒髪で着物姿の背の高い女の……人……って、それってヒジリさんじゃない!?」
ふむ、確か私は髪は長いし黒髪で、着物以外で出歩く事は殆ど無い、ついでに背も高い方でアカデミーの時はサスケの相手もよくしていた。条件には確かに当てはまるな。
「仮にそうだとすればその噂はなんの意味もないな」
「そうですね……なんだかこういう噂の種ってこういうのって決まってるんですよね」
「でも、サクラ。それじゃあサスケ君が好きな人って……」
「ないな」
「ないわ」
私とサクラは声を揃えていのの言葉を否定し、サクラはサスケとナルトから聞いたであろう私が何のために彼らと共にいたのか、という話をいのに説明し始めた。
説明の中に鬼やら悪魔といった一言物申したくなる単語があったものの、およその内容は正しいのでわざわざ訂正する事もないか。
そして、いのが納得するのと同時に掲示板に試合内容が発表された。
テンテン 剣ミスミ、どうやらテンテンの出番のようだ。
さて、彼女が蜘蛛の糸を扱えるのであれば、この屋内戦において負ける相手など砂の人柱力あたりか。この戦いあの剣ミスミとやらが一方的に潰される展開しかないな。
「試験官さん、一つ質問いいですか?」
テンテンは下に降りるなり試験官に声をかけた。
「はい、なんでしょう?」
「もし私の攻撃が偶然上の他の人に当たったらどうなるんですか?」
試験官である月光ハヤテは一瞬考えるような素振りを見せ、上忍達に目配せをしてからテンテンの問いに答えた。
「我々が対処しますので、故意に狙うような攻撃でもない限りは問題ありません。ゴホッゴホッ…」
「その様子だと不安だけど……まっ、大丈夫でしょ」
「何をウダウダと言っているんだ。始めに言っておく、俺が技を掛けたら最後、必ずギブアップしろ」
剣はテンテンの余裕の態度にイラつきながらも、脅しのつもりでやっているであろう警告をする。
「あーその台詞、そっくりそのまま返すよ」
彼女は彼の脅しに心底ウンザリしたような表情を浮かべ、ハヤテの方に早く合図をしてくれというように視線を向ける。彼女の要望を受けてか、ハヤテは両者の用意が整うと同時に試験開始の合図をした。
「速攻でケリをつける!!」
剣はテンテンの方に一気に距離を詰めようとしたが、その時点で彼女は試験場の天井まで跳び、そのまま両脚にチャクラを纏わせて張り付いていた。
そして、彼女は巻物からまるで槍で出来たサボテンのような忍具を取り出した。
それを見た上忍達は先程の彼女の質問の意図を察したらしく、彼女に一斉に視線を向けた。そして、これから何が起こるか知っているネジとリー、私、先生は自衛のために防御を固める。
「蜘蛛の糸、起動」
テンテンのその言葉と同時にサボテンは爆発し、周囲に鋼線で繋がれた槍を無差別にばら撒いた。上忍達は観客席に当たるであろう槍を弾き飛ばし、槍はそのまま試験場のありとあらゆる壁に深々と突き刺さった。
対戦相手である剣も何とか対応したらしく、槍による傷はなかったものの周囲に突き刺さった槍で囲まれた。
ふむ……随分と運がいいな。
「こんな子供騙しの忍具で俺を仕留められると思ったのか?」
彼は嘲るようにそう言って天井にいる彼女に視線を向ける。
テンテンは特に返事をせず、試験場の張り巡らされた鋼線の上に立って彼を見下ろす。そのまま彼女は別の巻物から極細の糸に繋がれた起爆札付きの苦無を左右の手に三本、合計六本を投げ放つ。
苦無は糸に流された彼女のチャクラによって動き、瞬時に剣を包囲する。
「さて、この鋼線は岩くらいなら簡単に切れる位の切れ味はあるよ?私みたいに爪先にチャクラを流しでもしない限り、人なんてバラバラになる。どう、降参する?」
「残念だったな、俺は肉体を改造し、全身の関節外した状態でもチャクラで体を操れるんだよ。こんな鋼線程度潜り抜けられないと思ったか!!」
剣はその宣言通りに体をタコのようにくねらせつつも、スピードを損なわぬまま鋼線の間に手を滑り込ませて、テンテンに接近しようとする。
「あーあ、言ったでしょ?君の台詞そのまま返すって」
「……えっ?」
テンテンに向けられていた剣の腕は彼女に届く前に、サイコロステーキのようにバラバラの肉塊と成り果てた。その激痛に体を操っていたチャクラが一瞬途絶えたのか、彼は体勢を崩し、そのまま岩をも断ち切る鋼線の網に落下していく。
「ここまでだね」
テンテンは即座に蜘蛛の糸を巻物に仕舞い、剣は肉塊に変わる前に何とか助かったものの、既にその四肢は無惨な状態となっていた。
「な、なんで……鋼線は避けた……筈……」
虫の息の剣に対してテンテンは説明を始めた。
「蜘蛛の糸の見えている鋼線は威嚇と注意を引くためのもので、本命はその見えている鋼線の間にランダムに張り巡らせた、もっと細くて切れ味の高い見えない鋼線。
見えている鋼線の間を潜れば終わり、動かなかったら周りの起爆札付きの苦無で吹き飛ばして終わり。唯一の安全地帯は全ての鋼線の上だけ。
ヒジリ曰く、悪意をもって糸を登り、天に害為す愚者には相応の罰を、故に蜘蛛の糸ってね」
「勝者、テンテン」
ハヤテの勝利宣言だけが試験場に響いた。
 
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