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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第四話

 道中何事もなく奥州へと戻ってきて、平和ではないけれど戦もお休みでのんびりとした日々が続いております。
が、相変わらず政宗様の私への執着は留まる事を知らず……
最近はなるべく二人きりにならないよう、何かあった時は小十郎にパスをするよう心がけるようになりました。

 何で私をターゲットにするかね。もっと素晴らしい身体の持ち主はいっぱいいるでしょうに。
それでもお前が良いんだとか言われると、そんなに好きなのかと絆されそうにもなるけれども、
でもやっぱりヤダ。
族のヘッドに付き従うまでは出来るけど、一生添い遂げるとか無理。私の好みじゃないもん。

 大体この城は男ばっかで女がほとんどいないってのも問題なのよ。
僅かばかりの女も皆男勝りで、野郎共の前じゃ可愛げの欠片も無いのがいけない。
政宗様みたいな立場にもなれば、ひょいっと外に出てって適当に見繕って女抱く、ってわけにもいかないでしょ?
だから私みたいなのに目が向いちゃうわけよ。
まぁ、城の女の人達は私の事情をよく知ってくれてるから、女扱いしてはくれてるんだけど……
何だろう、時折恋する乙女の目を私に向けてくるような気がするのは何故かしら。
つか、告白も何人かにされてるし。

 そんな調子で注意深く日々を過ごしているのですが、やはり事件というのは起こるもので……。

 ある夜、私が眠っていると何か妙に重いものが圧し掛かっているような気がして目を覚ました。
俗に言う金縛りって奴か!? などと思ってもみたけど、一応身体は動く。
純粋に何かが私の身体の上に乗っかってる、そんな感じだ。

 寝ぼけながらぺたぺたと触って圧し掛かっているのが何か確かめてみれば、
何となくだがそれが人のような感じがする。
その人のようなものが私の唇に触れた瞬間、寝ぼけた頭が一気にクリアになった。

 「~~~~~っ!!!」

 思いっきり唇を奪っているその顔をぶん殴ってやれば、上に乗ってる奴が軽く悲鳴を上げて動きを止めている。
追撃チャンスとばかりにニ撃目を入れようとした途端、相手がそれに気付いて私の両手を押さえてきた。

 「ちょ、何!? 強姦!? つか、誰!?」

 「暴れるんじゃねぇよ」

 バタバタと暴れる私に冷たく言い放ったその声に酷く聞き覚えがあった。
よーく考えてみれば私を犯そうって輩は一人くらいしかいない。
ってか、その一人以外に思い当たる節が無い。

 「政宗様!? 何やってんですか!!」

 兵とか他の家臣なら小十郎が恐いからそんなことしようとはしないし、
そもそも不良の集まりみたいな伊達軍だけど、そういう曲がったことは大嫌いなのよね。
不良の方が心は綺麗だ、なんて言うけど案外そうなのかもしれない。
……でも、その不良を束ねる人間が曲がったことをやろうとしてる、ってのはどうなのかしら。
やっぱり育て方間違ったとしか言い様が無いわよね。

 「テメェが何時まで経っても俺のモノにならねぇからいけねぇんだ。
こっちは十年以上耐えてるってのによ」

 「耐えてるって……貴方がその気でも、私にその気は全くありません!!」

 「んなことは分かってんだよ!」

 分かってるって……分かっててこの状況? ちょっと、それは洒落にならないでしょうが。

 「好きなんだよ……簡単に諦められるくらいなら、とっくに諦めてる。
十年も思い続けてたりなんかしねぇ……どうにもならねぇんだよ」

 情けないくらいに弱々しく告げられたそれは、間違いなく本心だと分かった。
一瞬コロッと行きそうになっちゃったけれど、やっぱり冗談じゃない。
ここで絆されたら間違いなく抱かれるでしょ、私。本当、それだけは勘弁してもらいたいし。

 「好きな人無理矢理手篭めにして、楽しいんですか!?」

 それには答えずに実力行使とばかりに私の着物を剥いでいく。
暴れてどうにか逃れようとするものの、相手は刀三本ずつ持って戦うような常識の枠に捕らわれない人間だ。
力の強さは半端じゃない。
男よりも筋力に劣る私が暴れたところで簡単に解けるほど、その力は弱くは無い。

 どうしよう……本当に犯される。

 そう思った瞬間全身に鳥肌が立った。
生まれ変わる前も含めて、今までこれほどに恐ろしいと感じた事はなかった。
恐い、そんな風に感じてしまったら次に襲ってくるのは、動揺だ。

 「やっ……やだ! 止めて!!」

 政宗様の腕から逃れることは容易でないのは分かっているけれど、
それでも頑張って逃れようとするものの、やはり簡単には解けない。

 「こっ……小十郎! 小十郎っ!!」

 「……こんな時に他の男の名前呼ぶんじゃねぇよ」

 他の男って、弟ですよ。アンタじゃあるまいし、そんなやましい目で見るわけないでしょ!

 上半身を弄り回していた片手がいよいよ下半身に伸びてきたところで、本格的な危機感を覚える。
人に触られたくもないような場所に触れられると思うと、私をますます恐怖に陥れる。

 もう駄目だ、そんな風に諦めも混じってきたところで、
突然私を押さえつけていた政宗様が勢いよく身体を離した。
いや、離したというよりも強引に離されたと言った方が正しいかもしれない。

 私が何事が起こったのかと確認する前に、びたん、といい音をさせて政宗様は壁に叩きつけられていた。

 「姉上、大丈夫ですか!」

 その声に身体を起こせば、そこには小十郎の姿があった。

 「小十郎……」

 心配そうに見つめる小十郎に着物を乱したまましっかりと抱きついて、
子供のようにわんわん泣き出すと、戸惑いながらも私の着物の乱れを直してくれてしっかりと抱き返してくれた。
気遣うように私の背を擦る小十郎の手が暖かい。
けれど背に感じる視線は、その手の温もりとは打って変わって酷く冷たいものだった。

 「……小十郎、テメェ……何でここにいる。絶対に来るなと言っただろうが」

 低く威嚇するようなこの政宗様の声に、私は一つの可能性に気づいてしまった。
実は小十郎は今夜こうなることを分かっていたのではないのか、と。

 「……知ってたの?」

 答えない代わりに酷く苦しそうな顔をした小十郎を見て、こうなることを知っていたのだと気付いた。
考えてもみればそうだろう、小十郎と政宗様は日頃べったりとくっ付いてるってのに、
小十郎の与り知らぬところでこうなるとは思えない。
 
 「申し訳ありません……全て知っておりました。
知っておきながら政宗様をお止め出来なかったのは小十郎の咎です。
……どうか、政宗様を御恨み下さいますな。恨むのならばこの小十郎を」

 「馬鹿、どうして小十郎を恨むのよ……助けに来てくれたじゃない……」

 小十郎に縋って泣く私をじっと見ていた政宗様から殺気にも似た怒気が発せられる。
それがどちらに向いているのかは分からないけど、
とにかく政宗様にしてみれば面白くない状況であることは間違いない。
つか、強姦しようとしておいてその態度かよ、ってのはあるけども。

 「……覚悟は出来てるってことだな? 小十郎」

 「この件で腹を切れと言うのならば、甘んじて受けましょう。
……が、やはり女子を手篭めにするなどと許せることではありませぬ。
いくら政宗様が姉を好いていても、やって良い事ではございませぬ」

 「……建前はよせよ。許せねぇのは、テメェがこいつを女として見てるからだろうが」

 私を抱いている腕がぴくりと動いた。表情は珍しく青ざめて凍り付いている。

 ……ちょっと待って。それって、まさか。

 「分かってんだよ、見てりゃあ……どんなに綺麗事並べたところでテメェがやましい感情持ってるってのは」

 「……小十郎?」

 何も答えない。というよりも、何も答えられないんだと思う。
もしそれが謂れも無いことであれば、馬鹿なことを言うなと即怒鳴っていたことだろう。
けど、それがないということは紛れも無い事実だと解釈して間違いない。

 ……昔からこういうところで嘘がつけないんだよな、この子は。

 「……こんなこと許したのは、諦めをつけるためだろうが。テメェのその報われない恋心によ。
俺のモノになっちまえばお前は諦めざるを得なくなる。
まぁ、そうでなくても血の繋がった、しかも双子の姉だ。端から勝負にもなりゃしねぇ」

 カタカタと身を震わせている小十郎が怒っているのか悲しんでいるのか、
顔が見えないように抱かれているので私には分からなかった。
でも、たった一つ分かるのは……その気持ちは秘めておくつもりだったってこと。
そりゃそうだ、この無駄なくらいに真面目な弟がそんな感情許せるはずがない。

 「……政宗様、今日はもう自室にお戻り下さい」

 静かに吐き出された言葉に政宗様は何も言わずに腰を上げた。

 「……テメェが手篭めにすんのか」

 「出来る筈がないでしょう……そんなことを」

 鼻で笑って出て行こうとする政宗様を小十郎は黙って目で追っている。
静かに戸が開かれたところで、小十郎が信じられない言葉を発していた。

 「……政宗様、御恨み致しますぞ」

 それには何も答えず、政宗様はそのまま部屋を出て行ってしまった。

 ……いろんなことがあり過ぎて頭の中が整理出来てない。

 いや、政宗様が私のことLOVEだってのは知ってたよ?
知ってたけど……まさか、実の弟にまで惚れられてただなんて誰が想像するだろうか。
やっぱりドロドロに甘やかしたのがいけなかったのかしら。
一体何処で綺麗に人生踏み外させたんだろう。これも私のせい、って奴だよね。

 相変わらず小十郎の腕の中にいる私はどうしたものかと考えている。
まさか突き飛ばすわけにもいかないし、何か下手に声をかけると地雷にダイブしそうな気がして何も言えない。

 困った、なんて考えてるところで、首筋に何か冷たいものが落ちたことに気がついた。
ぱたぱたと首筋を伝うそれが、水であることに気がついたのはしばらく経ってからのことだった。 
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