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大統領の日常

作者:騎士猫
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本編
  第一〇話 ハワイ諸島攻防戦

 
前書き
またしても遅くなりました。本当に申し訳ありません。
できれば感想を残していただけるとありがたいです。

3月5日
誤字や損害鑑定数と作戦が成功したあとの大統領の説明文を多少変更しました。 

 
西暦2115年 8月 23日


23日10時40分、両軍は最初の砲火を交える。

「ファイヤー!!」
とペルシャールが、
「ファイエル!!」
とルーゲル大将が号令を下す。


■ゼームスト・ルーゲル


現在我が軍は戦闘を有利に進めている。
一つ気になることといえば、敵の右翼の兵力が150隻ほどしかいないことだ。
ほかにも中央左翼も50隻ほど少ないと報告が来ている。
予備兵力として後方にいるのかと思ったが、索敵艦を出したところ敵の予備兵力はないと報告が来ている。いったい敵はどこにいるのか・・・

「閣下、敵の通信を傍受しました」
考え込んでいると参謀長のティーゲル少将が話しかけてきた。
「・・・閣下?」
「いや、すまない。少し考え込んでいただけだ。で、内容は」
「はっ、敵の通信を傍受しました。傍受した通信によりますと我が軍の補給部隊を正視艦隊と誤認して1個艦隊を差し向けたとの事です。実際に補給部隊の1つとの通信が途絶しております」
なるほど、そういうことだったのか。そして我々がここに現れたために急いで艦隊を割いて急ごしらえの艦隊を作り、右翼に配置したということか。実際に補給部隊の1つが通信途絶になっているのだから事実だろう。
「敵が戻ってくるのはいつごろになりそうか」
「補給部隊といっても護衛に30隻はつけておりますから、後方から攻撃されれば損害が出るでしょう。護衛を殲滅してから駆けつけてくるとすれば恐らく約40時間後かと」
「うむ、では35時間で敵を片付けるとしよう。全軍に攻撃を強化するように伝えてくれ」
「了解しました」

約40時間後か、こちらは3個艦隊、敵は2個艦隊。しかも1個艦隊の艦艇数はこちらの方が多い。30時間もあれば組織的な抵抗はなくせるだろう。もし万が一敵が後退しても、ジャミングのせいで味方には通信は届かない。敵が慌ててここにたどり着いたところを待ち構えて殲滅すれば最低でも1個艦隊以上は殲滅することができる。貴族たちも文句は言うまい。



■クレムトス・ラーム


現在、作戦は予定通りいっている。
こちらが故意に流した偽電もうまくいったようだ。偽電にあった補給部隊と接触したのは事実だ。しかし、その補給部隊と当っているのは予備兵力の45隻のみ。あとは別働隊だ。右翼の150隻は右翼がいないのでは不味いだろうとの大統領の指摘で各艦隊から50隻ずつ割いて急遽編成した部隊だ。当然連携はうまくいっていない・・・なくはない。偶然、3人の分艦隊の司令官が士官学校の同級生で仲が良かったため、仮司令官もあっさりと決まり、滞ることなく命令が伝達されている。何故か選ばれた分艦隊司令の顔を見たとき大統領がニヤリとしていたので、気になって調べてみると、3人とも出撃する直前に前任者のそれぞれが、病気になり、汚職をしたのがばれ、トラブルを起こして1か月職務停止と、なんとまぁミラクルなことが発生し、急遽任されていたようだ。恐らく大統領がやったことだろう。道理で分艦隊司令たちがちらちらと大統領を見ていたわけだ。

それにしても敵艦隊の両翼の動きがひどい。味方の射線を塞いだせいで同士討ちが発生し、空母が前線にいたりと言葉では表せないほどめちゃくちゃになっている。そのおかげか、わが軍の被害は想定していたよりもずっと少ない。本来喜ばしいことだが、この惨状では逆に同情を禁じ得ない。これだから貴族どもは・・・

「閣下、そろそろ時間です」
「・・・あ、うむ。わかった」
時計を見ると予定の10分前になっていた。


■ゼームスト・ルーゲル


24日17時28分、それまでロンディバルト軍を押していたガルメチアス軍をひとすじの矢が貫く。


「どうした!!何が起きた!!」
「て、敵です!9時方向から敵軍急速接近!数およそ250隻!」
なんだと・・・
「ば、ばかな。敵は偵察部隊と交戦していたのではなかったのか」
「閣下、我々は敵に騙されたのです。傍受した通信は偽電だったのです!」
「くっ!左翼艦隊を新たに現れた敵に当たらせろ。中央と右翼はこのまま前方の敵を攻撃する」
「閣下!それはいけません。敵を砲撃が激しく、左翼だけでは支えきれません。それに敵前回頭などしてはかえって混乱するだけです。ここはまっすぐ6時の方向に下がるべきです!」
「黙れ!これは命令だ!左翼部隊は新たに表れた敵に当たれ!中央と右翼はこのまま前方の敵を攻撃する!」
「閣下!それでは左翼部隊の側面を敵に見せることになります!危険です!ここは後退を!」
「くっ・・・分かった。すまない、少し興奮してしまった」
「いえ、それより早くいたしませんと」
「そうだな。全艦装甲の厚い艦を外側に紡錘陣を取ってまっすぐ6時の方向に後退しろ!」

「駄目です!両翼の艦隊が混乱状態になっていて下手に動けば巻き込まれます!」
ちっ、貴族の馬鹿どもが!
「新手の敵艦隊が左翼艦隊に突入してきます!」
「左翼艦隊んの被害甚大!指揮系統が混乱していて艦隊が崩壊しています!」
敵の突入がただでさえ混乱している艦隊をさらにかき乱して崩壊させている・・・まずいな・・・
「已むを得ん、このままでは3個艦隊が何もできずに殲滅するだけだ。中央だけでも後退して戦力の温存を図る・・・」
「しかし、友軍を見捨てるわけには・・」
「だが・・・」
「左翼艦隊を突破した敵がこちらに向かってきます!」
遅かったか・・
「全艦後退しつつ迎撃!」
「敵の砲火が苛烈で戦線維持不可能!」
「くっ、敵を無理に受け止めようとせず、あえて敵に突破させろ!その後後方から砲撃するのだ!」
「前衛と両翼は前進!本体と後衛は後退!」

「・・・何とか成功したか・・・」
「ぜ、前方の敵艦隊が両翼を伸ばして半包囲体制を築いています!」
な、新手の敵に意識を集中させすぎたっ!
「新手の敵艦隊!右翼艦隊を突破して回頭して再布陣しています!」
「防御体制を維持しろ!隙を見せればそこから食い破られるぞ!」

だめだ・・・両翼は完全に崩壊している・・・

・・・負けたか・・・

ルーゲル大将は帝国では珍しい平民の将官である。ゆえに貴族からの反発も強く、自分自身いつ貴族に殺されるかおびえる毎日を過ごしていた。今回3個艦隊を率いることとなり、ルーゲルは内心喜んでいた。しかし、率いる2個艦隊の内容はひどいものであった。
配下の2個艦隊は貴族の私兵艦隊であり、連弩は最悪なものであった。ゆえに指揮統制がバラバラでまともに戦っているのはルーゲル自身が率いる艦隊のみであり、そのせいもあってかロンディバルト軍の損害はあまり多くはなかったのである。貴族が手を回したとしか思えないことであった。ルーゲル自身もそのことはよくわかっており、何が何でも勝たなくてはならなかった。





「見たか!俺が考案した芸術的艦隊運動の粋を!」
ホーランドが指揮する第十一艦隊は彼が考案した”芸術的艦隊運動(笑)”でガルメチアス軍艦隊の中を荒れ狂っていた。唯一ほんkゲフンゲフンと違うのはこれが彼を独断ではなく、事前に決められた作戦のうちであったことだろう。17時51分にはガルメチアス軍の中央を突破し、右翼に突入していた。

一方、ペルシャールの指揮する第一艦隊とクレムトスの指揮する第五艦隊は第十一艦隊が荒れ狂っている頃、両翼を広げて半包囲体制を築きつつあった。ルーゲルはこれに気づいてはいたが、混乱するこの状況下では命令しても実行は困難でありただ全軍の指揮系統の統一を図る事しかできなかった。

18時30分には第十一艦隊はガルメチアス軍から抜け出し、回頭して包囲体制を完全なものにしつつあった。ガルメチアス軍は3個艦隊のうち二個艦隊が貴族の私兵艦隊であるため、初めから烏合の衆であったものがそれを超えてただの鉄の塊になっていた。ルーゲルの艦隊も両翼に鉄の塊がいる以上自由に動くこともできず、密集してロンディバルト軍の攻撃にただ耐えるしかなかった。

19時24分、既にガルメチアス軍は兵力のうちの7割を失い、組織的な抵抗は不可能となりつつあった。


■ ペルシャール・ミースト


作戦通り、別働隊は敵左翼から突入した。敵は混乱したようだが、その後とんでもない行動をした。敵前回頭だ。死亡フラグと同義語だ。我々は横っ腹を見せている敵左翼を攻撃し、混乱しているところにのホーランドが攻撃して敵の左翼を突破して中央や右翼を『芸術的艦隊運動』でめちゃくちゃにした。その後は3個艦隊で包囲して殲滅するだけの簡単なお仕事だ。
すでに敵は300隻以下にまで撃ち減らされ、もはや全滅は時間の問題だ。指揮席で紅茶を飲んでいるとクレムスト・ラーム中将から通信が来た。
「閣下、これはすでに戦闘などではありません。ただの虐殺行為です。敵に降伏勧告を行うことを具申いたします」
「・・・うむ。中将の言う通りだ。敵に降伏勧告をしよう。参謀長、敵に降伏勧告を・・・」
と言おうとしたその時、奴が現れた。

「閣下!閣下は甘い!我らは戦争をしているのです!敵に情けなど必要ありません!」
またこいつか・・・ラーム中将も頭を抱え込んでるよ。
「貴官は私が大統領であり、なおかつ貴官の上官である最高司令官だが、そのことを貴官はわかっているのかな」
ここは権力任せが一番だ。下手にあーだこーだ言っても面倒なだけだ。
「そ、それは・・・」
「そしてこの国は民主共和制だ。相手は憎き帝国人だが、兵士の大半は平民だ。我らが倒すべきは帝国人ではなく、平民を弾圧する貴族だ。それを忘れないでもらおうか」
「・・・申し訳ございません」
「わかってもらえればそれでいい」
「はっ・・・・」

「参謀長、全軍に攻撃中止を伝達してくれ。それと敵軍に降伏勧告を」
「了解しました。降伏勧告は閣下がなさいますか?」
「・・・そうだな。私がしよう」



西暦2115年8月23日20時40分


ロンディバルト軍からゼームスト・ルーゲルの旗艦に通信がもたらされた。

「敵将に次ぐ、敵将に次ぐ。貴官らは我が軍の完全な包囲下にあり、退路はすでに失われた。これ以上の戦闘は無意味である。降伏されたし、我が軍は貴官らに最大限尽力することを約束する。よいご返事を期待する」

「・・・閣下」
「・・・全艦動力を停止し、降伏の意思を告げよ」
「はっ・・・」

こうしてハワイ諸島攻防戦は終結した。

                  ロンディバルト軍   

        第一艦隊     第五艦隊      第一一艦隊

動員兵力    320隻     320隻      320隻

損失艦艇    23隻      18隻       31隻

残存艦艇    297隻     302隻      289隻

合計損失艦艇  72隻   合計残存艦艇  888隻



                  ガルメチアス軍

       ゼームスト艦隊    プチストフ艦隊     ハルマン艦隊

動員兵力   400隻       370隻        370隻

損失艦艇   286隻       313隻        294隻

残存艦艇   114隻       57隻         76隻

合計損失艦艇  893隻   合計残存艦艇  247隻


ガルメチアス軍の帰還艦艇はゼロであった。実際は帰還艦艇はいなかったもののゼームスト・ルーゲルを筆頭に降伏していたのだが、貴族達はこれをいいことに公式には全滅したと発表。平民達はゼームストの死に悲しんだ。
この戦闘の後、ゼームストの妻ゼームスト・フィーナと娘ゼームスト・リーナは夫の罪が及び流刑に処され、そこで貴族たちに数々の様々な暴力を振られ、2週間後に死亡した。

死因は毒による自殺であった。 

 
 

 
後書き
簡単な補足などを書いていきたいと思います。


クレムスト・ラーム

歴戦老提督で3等兵から実力で中将にまでなっており、兵士の信頼の厚いよき上官である。
しかし、士官学校を出ていないため士官学校出のエリート士官から敬遠されている。


ウィレム・ホーランド

近年、若手のホープとして有名をはせた。大分過激なことを度々発言するため、古参の将兵が注意を促している。最初彼と会ったときペルシャールは”芸術的艦隊運動とかしないでね”と真剣な表情で言い、実際にホーランドが次の戦闘ではその芸術的艦隊運動を実行する予定であったため、


ゼームスト・ルーゲル

平民の中では数少ない将官であり、平民のいわば英雄的存在。ゆえに貴族からは敵意丸出しで見られており、当人も貴族を警戒していた。家族思いのよき父親であり、今回の戦いが終わったら娘リーナの誕生日が9月2日であったため、誕生パーティーをしようと約束していた。 
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