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101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行

作者:biwanosin
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第二話

◆2010‐05‐10T08:30:00  “Yatugiri High School 2-A Class”

「都市伝説?」
「はい、都市伝説です」

 俺の席までやってきた女の子が、『ケホケホ』と咳き込みながらそう話を切り出したので、俺は自分の席を譲って自分の机に軽く腰掛ける。
 そんな毎日恒例のことに対して申し訳なさそうにしながらも、しかしそのまま俺のイスに座ってくれる。いつも少し咳き込んでいる彼女からはそういった弱さを感じられるし、タレ目とふわっと膨らんだ髪からは彼女の持つ優しさを感じることができる。
 そんな様々な面から男子にとても人気な彼女は俺の親友、園田ティアだ。

「今日の話題はそれでいってみようかな、って思って」
「ほうほう」

 面白そうで興味のある話題だったので身を乗り出すと、ティアは恥ずかしそうにしながら軽く俺の顔を押すといういつもの流れを行う。ティアの話は何でも面白いので毎回毎回身を乗り出してしまうのだ。まあ、ティアの恥ずかしがる姿を見たい、と言うのもあるのだけれど。
 制服の上からは全然分からないし、その病的なイメージとも結びつかないのだけれど………ティアは出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるという大多数の男子にとっては理想的な体型なのだ。つい最近屋内プールに遊びに行った際に見たすばらしいビキニ姿は俺の脳内フォルダに保存されている。ついでに携帯のデータBOXとデジカメのSDカードにも保存されている。もちろん撮影許可は取ったぞ?
 その時に知ったのだが、どうもティアはその病的なイメージとは違ってプールとかそういったものは好きらしい。

 と、そんなティアとの朝のトークタイム。
 朝のSTが始まるまでのわずかな時間にティアが仕入れた面白話を聞いてから、俺の『県立八霧高校』ライフははじまるのである。

「ケホケホ………カミナ君は、何か知ってる?」
「俺の名前は神無月(かんなづき) 凪(なぎ)。風や波すら静まるような名前があるんだから、そっちで覚えてはくれまいか、ティア」
「ふふっ………カッコイイと思いますよ、カミナ君って名前」

 ティアみたいな可愛い子にそう言ってもらえるのなら、もういいか。
 と、このやり取りはもはやお約束になりつつあるんだけど。

「都市伝説って言うと、あれか?怪談の現代バージョンとか、この公園のボートにカップルが乗ると別れるとか、そんな感じの?」
「うん、そういうの。今日話すのは怪談の方なんだけど………さっきまであっちで三枝さんとお話していたんです」

 ティアがそちらを見ると、クラス委員の三枝委員長は目礼してくれた。ので、俺も『そう言えば最近コンタクトに代えたんだっけ』なんて考えつつ軽く会釈する。
 今は他の人に今日の宿題やら授業ノートやらを見せている。ポニーテールのまじめ系クラス委員長だと思っていたのだが、意外にもその手のオカルト話が好きな女の子だったらしい。

「怪談系となると、『メリーさんの人形』とか『ベッドの下の斧男』とか、そんな感じの?」
「はい、そういうのですね。他にも学校の七不思議もそうですし、とあるハンバーガーショップでミミズが入っていた、なんて言うのもそちらにカテゴリできるかもしれません」
「昔そんな話があったなぁ。『あれって食べれるの?』なんて言ってミミズを捕まえてこようとした知り合いがいたよ」

 知り合いと言うか、姉的なポジションにいる従姉弟なんだけど。その性格から年上と言う感じはしない。姉さんはホント、無邪気と言うかピュアと言うか天然と言うか、そう言うのを信じやすい人なのである。

「あれは確か、『本当は食用ミミズを入れた方がコストが上がる』からそんなことはしてません、って発表して消えちゃったんだっけ?」
「そうだったはず。それを聞いたときは、『ああ、食用ミミズを入れてるって話だったんだ………』って思ったよ」
「あー………そっか。その人が本物のミミズであること前提で話してたから、そう思い込んでたんだ?」
「どうにもそのようだ」

 まあ、だとしたら体調を崩す人がいくら出てもおかしくはなかったし、その可能性はなかっただろう。おっかなすぎる話だ。

「ちょっと違うかもしれないけど、『一富士二鷹三茄子』みたいなのもあるよ?」
「ああ、夢に見たらいいことあるよ、みたいな?」
「そうそう、『夢』が関わる物は色んな種類があったり………『夢の中の男』とか」
「色んな人の夢に登場する男の人だったっけか」

 その画像をネットで見たことがあるが、なんだか、こう………特徴のない人だなぁ、って思った。
 似たような人を見た人は多いのかもしれない。

「ケホケホ………カミナ君も詳しいんですね」
「意外とそう言うちょっぴり怖い話、っていうのも好きだったりする」
「ふふっ………ちょっと意外」
「………実は、偶然知っていただけでもあるんだけど」
「あぁ………はい、そっちの方がイメージ通り」

 口元に左手を持ってきて小さく笑うティアの姿を見れば、全国男子の五割くらいはクラッと来てしまうのではないだろうか?そう思ってしまうくらい彼女の姿は儚げであり、美しかった。現に、俺のクラスメイト男子達も俺とティアの方をチラチラと見ている。中でも羨ましそうに俺を見ているのは、銀髪に緑色の瞳のイケメン男、アレク・ビブオーリオであった。
 ティアは人気者だし、羨ましいのだろう。特にアレクは………うん、良く言えば正直者の残念イケメンだ。なので、俺はそちらに向けてヒラヒラ、っと手を振る。向こうも頷いたのを視界の端で確認する。
 あれはまず間違いなく、『後で何を話してたのか教えろ』という表情だ。もちろん、分かっているさ。話しても大丈夫そうな内容だし、美少女とのトーク内容を独占しようとは思わないさ。そう言うわけだからアレク、ぶつぶつと呪いの言葉っぽい物を呟くのをやめろ。

 ティアはこの性格から聞き上手だと思われがちだが―――事実、それもあるんだけど―――話すのが上手く、大好きな子なのだ。その知識の分野はかなり広いため大抵の話題にはついてきてくれるし、知らないことでも興味を持って話に付き合ってくれる。そして、そういう子に対してこの年頃の男子は弱いものである。
 だからまあアレクに限らず男子の中でも人気があるし、そうでなくとも病的なイメージや儚げなイメージからそれを守ろうと息巻く女子たちもティアの周りに集まってくる。
 なんだかんだ、このクラスで男女どちらの話の中心になっているのがティアなのだ。

 で、そんな彼女の朝の一時を独占しているのが俺なのだ。おかげでこの光景はクラスでも毎日の恒例となり、男女ともに視線を集める結果となっている。
 何でも『カミナ君って優しそうだし、話しててもこっちが欲しい反応を返してくれるから………』だそうだ。
 気に入ってもらえるのは何よりだし、そう頬を赤らめて言ってもらえたのだから嬉しいことこの上ない。

「それで、その都市伝説に何かあったのか?」
「うん、何かあったの」
「それはそれは」

 良くある話だと思うが、俺も小学校時代なんかはその手の怪談話にドキドキハラハラしていたものだ。夜にトイレに行くのが怖くなったり、風呂で髪を洗っていると後ろに誰かがたっているように感じたり。とはいえ、姉さんが俺以上にそう言うのを怖がっていたおかげが落ち着くのも早かったんだけど。
 もしそうでなくても、それらが作りものであると分かればどうせ落ち着いていただろうし、今ではこうして話題に出せるまでになっている。昔みたく怖がったりすることはないだろう。

 さて、今はもう五月。そろそろ暑くなり始める時期ではあるし、怪談話をするのもありかもしれない。多少のフライングも、ティアが楽しそうに話してくれるのなら気にもならないし。

「それでね………!」

 と、よほどこの話をしたいのかティアが机に手をついて身を乗り出し、その胸が少し揺れる。大変眼福であったのだが………そんな俺の視線に気づいたのか、ティアは少し顔を赤くして引っ込んでしまった。

「カ、カミナ君。今………」
「えっと………ごちそうさまでした」
「うぅ………」

 ティアはそう言いながら顔を伏せてしまったが、コホン、といつもとは違う咳をして、こちらを見る。

「話を戻します」
「はい、どうぞ」

 俺の主義として、先ほどのような場面ではある程度本音を言うことにしている。
 勿論、実行に移してしまったらそれはただの痴漢行為でしかないからしないのだが。むしろ、相手の同意があったとしてもヘタレてしまうかもしれないくらいだ。

「ふぅ………カミナ君がここで話を戻してくれる人でよかったです」
「興味があるのはそうなんだが、それと同じくらいティアが珍しく興奮していた事の内容も知りたいしな」
「ふふっ………君のそういうところ、好きですよ」
「おっ、好感度が上がったかな?」
「残念、友情度の上昇でした」
「ありゃりゃ、二つパラメーターがあるタイプでしたか。こりゃ友情ばっかり上げちゃうと後がつらいかな?」

 ここでティアが笑ってくれたので、話が戻る。先ほどのような場面が起こったら一度きっかりと脱線してから戻る、と言うのが不文律となっていた。
 時折『ケホケホ』と咳き込むのが混ざりながらのティアとのトークタイムで時間が過ぎていくのが楽しい。

「それで、ね………実は最近、出たみたいなの」

 ティアもこういった時間を楽しんでいる節があるのだが、今日は都市伝説について話したいらしい。『絶対に話す』と言う意思を感じられる。

「さて、今日話すのは怪談系の都市伝説だっけ?出た、とか言う位だし」
「うん、そうなるかな。都市伝説って怪談系が多いし」
「まあ、話していても楽しいだろうしなぁ。それで、どんなのが出たんだ?」
「さっきまでの話題にも出てた『夢』に関わるお話し」
「なるほど………夢系の話はさっきのくらいしか知らないので、詳しい説明をもらっても?」
「はい、じゃあそこから話しますね」

 自分の話を聞いてもらえるのが楽しいのか、ティアに話の主導権を渡すと笑顔を見せてくれた。それから人差し指を立て、話を始める。

「じゃあ、そうだね………夢って言うのが昔から重要視されてるのは分かる?」
「何となくそんな気はする、かな。それこそ、さっきの『一富士二鷹三茄子』がそうだし」
「うん、そうなの。『未来を視る』とか、『心の中を映す』とか『心象風景を映し出す』とか………神話によっては『夢の神様』なんてのもいるくらいだから」

 確かに、そう考えると何気なく見ている『夢』と言うものが特別なものであるように感じてくる。夢と言えばバクが夢を食べるとかいうけど、それも何か関係があるのだろうか?

「そんな感じで『未来を視る』タイプの夢が絡んでくるのが、今から話す都市伝説のお話なの。こう、夢で殺されちゃう夢を見て、次の日ふと気づいたらその時と同じ風景の場所にいるのに気づいて………みたいな感じに」
「それは………なんだか怖いな。そのまま殺されちゃうのか?」
「ううん、殺されちゃったり、殺されなかったり」

 そう言って立てていた人差し指を柔らかそうなほっぺたに当て、うーんと思い出すように首を傾げる。

「まず、殺されちゃうパターンだけど………こう、『そんなの気にしない気にしない!』みたいな感じでそのまま進んでいって、結果夢の通りに殺されちゃうの」
「前向きになったらそこで殺されるって………より一層衝撃的だなぁ」
「うん………でも、『え………』とか思ってる間に、みたいなこともあるかもよ?」
「現状を理解できていないうちに、ってことか」

 ふむ、恐怖を感じずに済むのであれば、それはそれでいいことなのかもしれない。

「もう一つの場合は?」
「うん。そっちはなんだか怖くなっちゃって別の道を通ったり、お迎えを呼んだり、予定を変えたり………なんにしても、『その夢の通りに行動しない』の。そうすれば結果として殺されずには済むんだよね」

 生き残りたければ臆病になれ、と言う事なのだろうか?言葉を選んで慎重になる、の方がいいかもしれない。

「まあなんにしても、良かったじゃないか。怖い思いもせずに済むみたいで」
「ふふっ………いつ、怖い思いをせずに済むっていったかな?」
「え?まだ続きがあったり?」
「うん。それで、夢と違う行動をとってると、ふとある人が視界に入るの」

 まあ、誰かしら視界に入るのは仕方ないのではなかろうか?街中では普通に人がいるだろうし、田舎でも人とすれ違うことくらいはあるのだから。

「前から歩いてくる人だったり、目の前にいる人だったり。で、『誰だろうな―この人、見覚えあるんだけど………』と考えていて、ふと思い出すわけですよ。『あ、私夢の中でこの人に殺されたんだ』って」

 ん?ちょっと話が恐い方向に移り始めたぞ?
 夢で自分を殺した人に現実で出会う、とは………

「それで、気づいたその人はどうするんだ?」
「その本人は何も。『そんなこともあるよなー』くらいに。夢とはもう場面が違うんだから、とかの安心感もあるのかな?なんにしても、そこまで気にしないみたい。でも、そうではないわけでして………」

 お、そろそろオチが来るのかな?

「その人のことに気付くと、そこでその人が行動をとるの。その人は夢を見た人の方を見てこういうわけです。『夢と違う事をするなよ』………って」

 本来なら多少なりとも恐怖が浮かぶのだろうけど、ティアがニコニコと楽しそうにしているのを見ると和んでくる。ティアは本当に癒し系キャラだよな、うん。
 ティアの方もそこまで驚かせるつもりだったわけでもないようで、にこにことしながらこっちを見ていた。

「で、それが出たみたいなの」
「ん?出た?」

 出た、と言うのもまた不思議な表現だ。
 『似たような場面に直面した人がいる』なら分からなくもないが、これではまるでそんな事件が発生したみたいではないか。

「うん。お隣の市にすっごい進学校があるでしょう?」
「確か………私立翠緑学園(すいりょくがくえん)だっけ?」
「うん、それ」
「俺さ、あの学校の名前を聞く度に『あの学校を開いた人はどれだけ緑色が好きだったんだろうなぁ』、って思うんだよなぁ………」
「ああ、確かに………」

 ティアがくすくすと笑ってくれているのを見ながら、俺はあの学園のことについて思い出す。
 私立翠緑学園。県立八霧高校のある八霧市の隣にある日影市(ひのかげし)にある、これでもか!と言う位レベルの高い進学校だ。我らが八霧市に比べてかなり発展したところで、八霧市では手に入らないものも手に入るので、すぐお隣と言う事もありこの学校の生徒もよく行く場所だ。姉さんも欲しい本があるとあっちまで行くことがある。
 そんな日影市で一番有名なのが私立翠緑学園で、学費も高ければレベルも高い。学年トップ十人くらいにはいる学力の持ち主であれば返さなくていい奨学金を学校からもらう事ができるようなので全員がそう、というわけではないのだが、基本的にはお金持ちで頭のいいお坊ちゃんにお嬢様。
 一つの学校分も頭のいいお坊ちゃん、お嬢様がいるのなら、日本もまだまだ大丈夫なのだろうか?

「それで、あそこの学校の生徒………確か女の子だったかな?が、被害にあったらしくて」
「被害に有っちゃったのか………と言うか、実体験なんだな………」

 都市伝説ものでよくある表現として『友達の友達が』と言う切り出し方がある。あれならなんだか少し離れた人の話に聞こえるのだけれど、学校名まで出されると………それも、すぐ隣の市の学校名を出されると、一気に身近なことに感じてしまう。あそこが有名なものである分さらに、だ。

『こういう話は適度に身近な方がいいのですよ?』と憧れの先輩から聞いたことはあったが、実際に聞くと本当なんだなぁ、と思う。

「なんでも、三枝さんのお友達が実際にそういう被害にあったみたいで」

 そう言われて反射的に三枝委員長の方を見ると、また目礼を返してくれた。
 ので、俺もまた会釈をしつつ………こっちの話も把握しているのだろうか、と考えつつ周りに先ほどよりも人が増えていることに気付いた。
 全員が何かしらのノートを写しているのを見つつ、今日は姉さんに教えてもらいながらやったし大丈夫だよな、と考えてティアとの話に戻る。いつもなら、この後で俺もあそこに加わるのだ。

「急にそんなことを言ったやつがいたって聞くと、ただの変質者なんじゃないか、って思うんだけど」
「その線もあるかもしれないけど・・・私たちからしてみると、都市伝説であった方が面白くない?」

 まあ、確かにそっちの方が面白みがある。三枝委員長の友達には悪いけど、このまま都市伝説であるという事で話を楽しませてもらおう。

「たぶん、この噂は予知夢のお話が元なんかじゃないかな?って思うの」
「ああ、未来が夢で視えるとか、そう言うの?」
「うん。予想にすぎないんだけど、元々予知夢を見たって言う人がいて、そういう事を研究する分野が生まれて、『こうこうこういうものを夢で見たらそれは死の予兆である』みたいな話が出て………で、繋がったんじゃないかな、って」

 ふむ………まあ、噂って言うのは尾ひれがつくものらしいし、そうやって大きくなっていくのだろう。

「でも、実際にそんな目にあったらそこで終われるのか?その場でその人に殺されたり、追われたり………それこそ、殺されるまで殺される夢をみそうなものだけど」
「うん、そう言うパターンの物もあるみたい。で、今回のもそうだったみたいでその夜にはまた夢を見たんだけど………なんかね、途中で起こされちゃったんだって。妹に『こわいからトイレに一緒に来て………』って」
「………え?そんなんでいいの?」

 何ともあっけない方法である。ここはこう、知恵を絞って逃れるとか、協力者を見つけるとか、なんかそう言う手段をとる物じゃないのか?

「でも、さ。こう………これからお前はこうやって死ぬんだぞー、怖いだろー、っていうのを見せようとしたところで目を覚まされちゃったら、ね?」
「あー………確かに、よっぽど殺したい相手でもないとわざわざもう一度、とはならないよな」

 相手が意図して行ったものなら、やり直したとしてもそこまで恥ずかしくはないだろう。しかし、第三者の手によってそれが途切れたのだとしたら………気まずいかもしれないな、うん。

「で、結果としてその少女はもう夢を見ることもなく、平和に暮らしているのでした。みたいな感じに」
「………意図的に夢を見せてたやつがいたのなら、そいつも空気を読んだりするんだなぁ………」
「意外と都市伝説の怪物も話してみるといい人なのかもしれないね?もしそうなら、会ってみて、お話して、お友達になりたいかも」

 ティアはそう言うと「ケホケホ」と口元に手を当てて咳き込んだ後、そのまま「クスクス」と笑う。俺もそれにつられて小さく笑った。

「ティアはなんだか、そう言う怪物的なやつらとでも仲良くなれそうだよな」
「カミナ君も、ね。そう言う『普通じゃないもの』に好かれそうだよ?」
「相手が美女美少女なら、お化けでも大歓迎かなぁ………」
「ふふっ、そうだと思った。このスケコマシさんっ」
「ティアさんや、俺は硬派ですよ?」
「はいはい。ふふふっ」

 キーンコーンカーンコーン。
 と、ティアの笑い声とチャイムの音が重なった。

「あ、時間ですね………じゃあ、また休み時間に」
「おう、また休み時間に」

 ティアはそう言いながら俺の席を立ち、その足で三枝委員長の下に向かう。
 そこで「皆も後で面白い話をしよう」と言ってから自分の席に戻っていく。意図的なのか天然なのか、本当にカリスマっ子だなぁ、と考えていると、教室前方のドアが開いた。

「ホームルームを始めるぞー」

 担任の夢路先生(通称夢じいちゃん)がいつもの眠気を誘う声で黒板の前に立った。
 俺もそこで自分の席に着き、ふと携帯を見るとメールが入っていた。

『おいカミナ、ティアたんと何を話してたんだ』

 アレクからのメール、その中のティアの呼び方に苦笑いを漏らしてからさらっとスルーして。
 とりあえず、このSTが終わったらまずは俺を睨んでいる男子連中にどんな話をしていたのかを話してやるとしよう。もう毎日のことである。あと、カミナって呼ぶな、ってのも徹底してたたき込まないとな。

 これが、俺の一日の始まり方。こんなやり取りを通して、俺のいつもの一日はスタートするのであった。
 
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