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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第011話 灼炎のゼロ

 
前書き
どうも蛹です。
今回も情報を提供します。
スピーカー‥‥‥施設内ほぼ全域にある放送用機器。今とほぼ同じフォルム。
       (四角くて、正面をぽつぽつ穴の開いたのが覆っているあのまま)
       施設中枢部から全体に放送を入れている。
       耳があまり良くない人でも聞こえるように
       特殊な工夫が施されている(特許出願中ww)。
       スイッチ一つで簡単操作だが、それ故に電源が入ったまま
       施設中枢部での会話がダダ漏れになる場合があるので
       注意されている(今のところ前例はない)。 
       

そろそろ情報提供のネタが尽きそうです。

それでは第011話、始まります!! 

 
 
 ー地下2階 廊下ー

「はっ、はっ、ハクシュッ!」
『拍手?』

ハトのくしゃみを聞いてセキレイは心の中でつぶやいた。
鼻からハナミズが垂れていた。

「あ、あう~~‥‥‥」
「あらあら、はいティッシュ」

カツコはポケットからティッシュを取り出して渡した。
ハトは手を伸ばしてそれを貰った。

「あ、ありがとーおばちゃん」

そして、ハナミズを拭いた。

「ハクションッ!!」

セキレイも大きなくしゃみをした。
鼻をすすりながらつぶやいた。

「ズズ‥‥‥‥‥誰かおれらの噂でもしてんのかな?」

カツコはティッシュをポケットにしまいながら言った。

「あり得るわね。セキレイちゃんもハトちゃんも
 今は施設を脱走中の有名人だもの」
「ハハ、そうだった」

セキレイは軽く笑った。
脱走中という実感がまるでないからである。


 ブツッ


〖ハイ、注もーーーーーーーく〗

突然、廊下のスピーカーから声が聞こえた。
明らかに戦国博士の声だった。

〖まさか予想より10分も早く来るなんてね。
 早速だけど、今から君たちを捕獲させてもらうよ。
 すぐに投降するなら命は保障するけどー?〗

とても軽快な声が廊下に響いた。
言い方はアレだが中々押しのあるものだった。
セキレイはとりあえずスピーカーに向かって叫んだ。

「どうせ、おれ達が投降しても殺すつもりなんだろ?」

少しの笑い声の後、答えが返って来た。

〖ご明察!なら話が早いね。一応もう一回聞くけど投降する?〗
「するわけねぇだろッ!!」

セキレイは大声で叫んだ。

〖だろうねぇ、そう言うと思ったよ。じゃあ後は頼んだよ〗


 ブツッ


戦国の声の後、スイッチを切るような音が聞こえた。

「‥‥‥‥‥誰に何を頼んだんだ?」

セキレイがそうつぶやいた瞬間に異変が起こった。


 ジュウウウゥゥゥゥゥッ!!


スピーカーが何かの熱によって溶けていたのである。
それに伴って、壁も爆発しそうなほど膨らみ赤くなっていた。

「離れろッ!!」

カイエンはセキレイを後ろに引っ張った。そして。


 ドパアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアンッ!!


ついに壁が炸裂した。熱せられて柔らかくなった壁が
爆発した時に周りに飛び散った。

「うおあぁぁぁぁッ!?」

それを少し浴びてしまったセキレイだが
超重堅鋼(ヘビメタ)″を使っていたために怪我はないようだ。

「い、一体何なんだ!?」

セキレイは後ろに勢いをつけて転がり、立ち上がって言った。

「熱源を直接当てて物体を膨張させて炸裂させたんじゃ!
 ワシもたまにああいうことをするから分かる!!」

カイエンがその後ろに立って言った。

「ああいうことって敵もケッコー物騒なことやるなぁ!」

セキレイは吹き飛んでいる壁を見ながら叫んだ。
そして、そこから人影が現れた。
煙にうまく隠れて見えないが、確かにそこに立っていた。

「だ、誰だッ!?」

人影はしばらく動かなかったが、煙が少しずつ晴れていき
立っていた者の姿がついに露わになった。
そこには一人の男が長剣を携えて立っていた。

「お、お前は‥‥‥‥‥‥ッ!!」

カイエンはそこに立つ者の顔を見て叫んだ。
明らかに普段と様子が違っていた。

「オレは‥‥‥‥‥‥‥‥‥ゼロだ」

その男、ゼロはそう言うと長剣をゆっくりと持ち上げた。
刀身が少しずつ赤くなると剣先から発火し始めた。

 ボボボボボボボッ‥‥‥‥‥

炎は全員の瞳の中に飛び込むかのように燃えさかっていた。

 ブンッ!

ゼロが剣を横に振ると、刀身の炎が鎮火した。

「貴様がここにいたとはな‥‥‥‥‥‥
 あの時の恨み、晴らさせてもらうッ!!」

 シャキンッ!

カイエンは懐から剣を取り出し、引き抜いた。
赫い刀身がゼロの命を断つと言うかのように輝きを発した。

「無駄だ‥‥‥‥あなたでは勝てない」

その言葉と同時に二人の剣がぶつかった。


 ガキイイイイイィィィィィィィィィィィィィィイイイイイインッ!!


凄まじい衝撃に全員は体勢を崩した。

「こ、この剣圧‥‥‥‥‥やはり彼が‥‥‥‥‥‥‥」

カツコも何かを理解したらしく、唇を噛みしめた。
口からは鮮血が顎を伝い、ポタポタと床に流れ落ちた。

「彼は一体何者なんですか?」

ジョンは冷静にカツコに訊いた。

「そうだ!一体誰なんだよアイツはッ!!」

セキレイは臨戦態勢に入ったまま
カツコに向かって叫んだ。

「彼は‥‥‥‥‥私たちの大切な人を‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥殺したの」

彼女の目には涙が滲んでいた。
過去の悲しみが甦って来ただろうか。

「カイエンッ!おれも一緒に戦うぞッ!!」
「ならんッ!お前はサバキとの戦いで
 すでに体力を消耗している!今すぐに逃げろッ!!」

セキレイの言葉に、カイエンはつばぜり合いの状態のまま叫んだ。
そして、一言こう付け加えた。

「ワシはこれ以上コイツに奪われたくないんだ!!
 カツコと一緒に逃げてくれェッ!!」

そう言ってゼロの剣を弾き、拮抗した状態を解くと
ゼロに向かって剣を振り下ろした。


 ガキイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィイイイイインッッ!!


再び衝撃波が巻き起こった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥退け」
「退かんッッ!!」


 ガキンッ! ガキガキンッ! ギャギャギャッ! ガキイィィィンッ!!


まるで二つの台風が衝突したかのような
莫大なエネルギー同士が激突していた。
韋駄天の如き剣撃が二人の間で起こっていた。

「急いで逃げるぞセキレイ!」
「セキレイお兄ちゃんッ!」

ジョンはハトの手を引きながら、セキレイに向かって叫んだ。

「あなたでは勝つことはできないわッ!!」

カツコも覚悟を決めたらしく戦場に背を向けていた。
そんな中、彼は悩むことなどできなかった。

「‥‥‥‥‥‥‥くッ!」

荒れる戦場を背にセキレイは三人と共に、この場を走り去った。



    **********



「〔癒しの棘環(ヒーリングローズ)!!〕」


 シュルルルルルルルッ!!


棘をセキレイの周りに展開した。

「おわッ!?おばちゃん何すんだよ危ねぇな!!」

セキレイはそう言って立ち止まろうとしたが
棘の少ない面で後ろから強く押された。

「立ち止まる必要はないわ!私がセキレイちゃんの体力を
 回復させながら走るから、みんなもそのまま走ってて!」


 ポウウウウウウウ‥‥‥‥‥‥!!


カツコの腕の棘が突然、発光を始めた。
セキレイはこの光に見覚えがあった。
先程、彼の頭の傷を治すために使用した
彼女の″超技術″、″治療光線(リカバリーレイ)″だった。

「これって掌からしか出せないんじゃなかったけ?」

セキレイは眩しさに目をしぼめながら訊いた。

「植物に掌はないから、この状態なら棘が全部私の掌よ。
 というより、私の腕なんだけどね」

言われてみれば確かに。
植物は掌も二の腕も上腕もないように思えた。
(元々、ツタはそんなに細かく分けて使うようなものでもないのだが)

「変身して戦うときや、″超技術″を使う時には多くのエネルギーを使うわ。
 その為のエネルギーを生産するのが、身体にある″増殖器官″だけど
 その器官そのものを使うためのエネルギーが“体力”よ。
 つまり、体力は最も大事な物なの。だから
 これから先、″超技術″をすぐ使うのは、やめておいた方がいいわ。
 体力はこの後の戦いの為に温存しておいて」

カツコは走りながら言った。
先とは、万が一ゼロがここに現れても
体力に余裕をもって戦えるようにしているのだろう。

「大丈夫、あの人は‥‥‥‥‥‥ジスタは強いもの。
 絶対に負けるハズがないわ」

カツコはおそらく無意識だろうか。
このような事をつぶやいていた。
彼女もやはり不安なのだろう。

「あのゼロって奴は具体的に熱とか火を
 どのようにする能力なんだろうな?」

あえて話題を与えることで、一時的に彼女の不安を
消し去ることに決めたセキレイはこう訊いた。

「え、あぁ‥‥‥‥そうねぇ‥‥‥‥‥
 あの人は“熱を纏った剣”を生成する能力だけど」
「えッ!?カイエンの″超技術″なのかアレって!!」

セキレイは彼の持っていた長剣を思い出していた。

「剣出すところから!?」

確かに直すたびに懐に入れてて見えなかったけど
まさか剣を生成する能力だとは、とセキレイは思った。

「武器が出せて、かつそれに能力まで付いてるとは
 本当に便利な″超技術″だな」

ゼロの炎を出すか何かの能力に対応できたのは
おそらく同系統の能力を持つ彼だけだっただろう。

「ゼロはおそらく炎を生成する能力、もしくは
 触れているものに熱を加える能力よ」

実際にはわからないが、ある程度の仮説を立てておけば
後にカイエンと共に現れてもある程度対策が出来るだろう。

「それだったら大量の水か、もしくは耐熱素材の何かを
 用意する必要があるだろうな」

ジョンが会話に加わりながら言った。

「さっき壁を壊すのに少しだけかかってから
 壁を使えばいいと思うよ?」

ハトはさっきの光景を鮮明に覚えていた。
少しずつ膨らんで破裂した壁。彼は何故あえてこうしたのか?
熱を使うなら焼き切ればいいのではないだろうか?
しかし、あえてしなかった。小手調べだったのかもしれないが
もしかしたらそう言う可能性もあり得るのだ。

「ここ付近の壁は融点の高い“特殊強化アイロン”で出来てるわ。
 さらに表面をコーティングされていて‥‥‥‥‥耐熱性が高い!
 そうよ、何で今まで忘れてたのかしら!!」

そう言うと、カツコは全員に立ち止まるように言った。

「セキレイちゃん!壁を縦横2mの大きさに壊せるかしら?」

壁を睨みながらセキレイはうなずいた。

「とりあえずダメ元でもやってやるぜッ!!」


 ガンッ!


一発殴ってみたが、壁がやや変形しただけで
大した損傷は見られなかった。

「か、硬ェ~~~ッ!!」

セキレイは手に息を吹きかけながら叫んだ。
″鎧骨格″にも損傷は見られなかったが
このままでは拳が壊れるのは確実だろう。

「それでも、やってやらぁッ!!オラアアアァァァァアァァ!!!」


 ガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!


セキレイは大声を上げながら殴り続けた。
少しずつではあるが、確実に壁は砕け始めていた。

「ハトちゃんはちょっとこっちに来て!」

カツコはセキレイが必死で殴っている所より
少し離れた場所にハトを呼んだ。

「うん、分かった」

ハトは急いでそこに走って行った。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥俺は?」


ジョンは廊下の真ん中で立ち尽くしていた。
しばらく待機ということなのだろうか。

「最近、俺の扱い雑だな」

ジョンは地面を見ながらぼやいた。



    **********
 


 ガキガキッ! ガキィンッ!

上から振り下ろした剣を弾き返して、すかさず反撃。

 ガガガッ! 

しかし、それも受けられて互いにつばぜり合いに。

 ガキャァァンッ!!

そして、二人とも剣を弾いて後ろに下がった。

二つの刃が交わるたびに衝撃が広がり
壁には少しずつ亀裂が入り始めていた。
莫大なエネルギーのぶつかり合いゆえの現象だった。

「ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥‥‥」
「熱量はほぼ互角、か‥‥‥‥」

二人は互いに向き合い、構えたまま息を整えていた。

「ハァ‥‥‥‥ハァ‥‥‥‥オレの″灼炎生成(パイロキネシス)″と
 あなたの″灼蓮厄災(ブレイズディザスター)″とでは決着がつかないようだ」

二人の炎を操る能力は、出力、温度、共に拮抗していた。
こうなって問われる最後の要素は“剣技”なのだが
それについてもほぼ互角の状態が続いていた。
老人と青年の戦いとはとても思えないものだった。

「ふぅ、やれやれ、行かせない予定だったが
 こんなにも移動させられるとはのぅ」

先程まで交戦していた場所は、地下2階のほぼ中心部分だったが
廊下を伝って移動していき、ついにはほぼ端にまで到達してしまった。

「彼らはきっとこの先にいるでしょうね。
 そうなれば、この戦いは終わりだ。 
 おれは彼らの処分を最優先にさせてもらう」
「ワシがそんなことを許すと思うか?」

二人は再び会いまみえた。
その時、カイエンはゼロの後ろにいる影を見た。

『あなた!』

カツコが口をパクパクしているが、カイエンは読唇術の心得があるため
彼女が今、後ろで何を言っているのかが理解できた。

『あともう少しだけ、彼をこっちにおびき寄せて!』

カイエンはうなずくとゼロにばれてしまうので
剣も持つ手の親指を左右に素早く動かした。
昔に合意のサインとして、よく使っていたものである。

『頼んだわ!』

カツコはそれを理解したらしくすぐに去って行った。
ゼロは彼女には気付かなかったようだ。

「どこを見ている?」

彼の問いにカイエンは答えた。

「希望の光を‥‥‥‥‥‥眺めとった」

意味深な一言にゼロは少し眉をひそめた。
だが、すぐ剣に熱を加え始めたことから
あまり深く受け取らないことに決めたのだろう。
その点はカイエンにとっては好都合だった。


 ボウウゥゥゥウゥゥウッ!!


鋼の刀身は赤く染まり、ついに発火を始めた。
紅い炎がユラユラと禍々しく揺れていた。

「今は‥‥‥‥‥続きだ」
「望むところじゃよ」


 ガキイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィイインッッ!!!


二つの刃が激突し、再び施設内を大きく揺らした。



    **********



「本当にあれでいいの?」

ハトは目の前にある鉄塊を見ながら訊いた。

「えぇ、これだけあれば十分よ。
 ありがと、セキレイちゃん」

セキレイは息を切らしたまま右腕を上げた。
彼はようやく頑丈な壁を破壊することに成功したようだった。

「手がすごい痛いんですけど‥‥‥‥‥」

だが、やっぱり拳も壊れてしまったようだ。
変身を戻すと更にズタズタな状態になっていた。

「ごめんねセキレイお兄ちゃん。無理させて」

ハトは少ししょんぼりした顔で言った。
それを見たセキレイは急いで笑顔を作った。

「ま、まぁ、おばちゃんがいるからすぐに治るさ」
「そ。今日は私は回復役だからね」

カツコが会話に入って来てから言った。
そして、拳付近に〔癒しの棘環(ヒーリングローズ)〕を再び展開した。

「今は緊急だから全開で行くわよ!!」


 ピカアアアァァァァァァァァアン!!!


太陽を直視しているかのような強烈な光に
セキレイは両目を強く閉じた。

「眩しすぎだろこれはッ!」

彼は目を強く閉じたまま叫んだ。
ハトもあまりの眩しさに目を両手で押さえていた。

「あなたの力がまだまだ必要なのよ!!」

全開の″治療光線(リカバリーレイ)″は少し熱く感じられた。
だが、同時にそのパワーの程をセキレイはすぐに知ることが出来た。

「お、手の痛みがどんどん引いてく‥‥‥‥‥」

細胞に光子がどんどん付着して、手の筋肉、真皮、表皮と
早送りで再生している様子を見ているようだった。
(もちろん、二人には眩しすぎて見えないが)
この高出力も彼女が″植物人(プランター)″ゆえのものだろうか。

「‥‥‥‥‥ふぅ、はい!出来たわ」

セキレイの拳はいつも以上に肌がつるつるに見えた。
これも彼女の″超技術″の効き目だろうか。

 クラッ‥‥‥

「あら‥‥?」

カツコはバランスを崩し、そのまま床に倒れかけた。
しかし、セキレイが急いで腕を伸ばして彼女を受け止めた。
そのまま倒れていたら、頭を打っていたかもしれない。

「ごめんなさい‥‥‥ちょっと疲れちゃったみたい」

彼女は笑顔を見せてはいるが明らかに疲労していた。
呼吸が少し荒くなっていて、顔色も優れなかった。

「おばちゃんは休んでなよ。ここからは――――――」


 ガキンッ! ガキィッ! ガンガンッ! ガキィィンッ!!


遠くで二人が剣を受け合っている光景が見えてきた。
セキレイはそれを確認すると言葉を続けた。

「おれ達の番だ」

二人の剣士が、互いに少しずつ移動しているため
彼らがここに付くのも時間の問題だろうと思われた。 
 

 
後書き
ついに現れた第Σ章のラスボス、ゼロ。驚異の剣使いです。
しかも″超技術″まで使っています。″灼炎生成(パイロキネシス)″、よく聞きますよね。
カイエンと互角に打ち合えるほどの実力者です。果たしてどうなるのか?

方やカイエンも″灼蓮厄災(ブレイズディザスター)″という″超技術″の使い手です。
二人の炎の騎士の対決の結末とは!
カツコの考えた作戦とは一体どのようなものなのか!

次回、第012話 執念のゼロ お楽しみに! 
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