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ボスとジョルノの幻想訪問記

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十六夜咲夜一揆 その②

ボスとジョルノの幻想訪問記22

あらすじ

 復活を果たしたのにまたドッピオが表に出てしまったディアボロの前に現れたのは、独房に入っている十六夜咲夜だった。
 咲夜はディアボロに惹かれ、またディアボロも咲夜の能力を必要だと考えていた。
 そして、咲夜の信用を試すために、ディアボロは『レミリア・スカーレットの首』を要求したのである。

 果たして咲夜はその『要求』を満たすため、元主のレミリア・スカーレットをその手にかけることが出来るのか・・・・・・。

*   *   *

 ボスとジョルノの幻想訪問記 第22話

 十六夜咲夜一揆②

 咲夜がドッピオを連れてレミリアの部屋のドアを開けたとき、紅魔館に住むもう一人の吸血鬼はとある気配を察知した。

 何かが敵意を持ってこの紅魔館に向かってきている。そんな気がしたのだ。現状でこのことに気が付いているのは彼女だけだった。

(・・・・・・何か来る・・・・・・??)

 フランドール・スカーレットは自室で仮眠を取っていたがすぐにベッドから出て外に出た。

 現在の時刻は午前3時。夕食まではあと1時間程度だったため運動もかねて向かって来るものと遊んでこようと思った。彼女の言う遊びとは、つまるところ一方的な虐殺である。

 門番の美鈴もこの時間は仮眠のため館内で寝ている。面倒ごとになる前に遊んできてやるか、とフランドールは背伸びをして勝手に外に出ていった。

*   *   *

 舞台は再び咲夜とレミリアに戻る。二人はお互いの意を通すために闘っていた。

 咲夜は『ホワイトアルバム』を駆使してレミリアに距離を詰められないようにしていた。レミリアも『キラークイーン』を用いて咲夜の鎧を剥がそうと画策していた。

 二人が闘いを始めてからまだ3分程度。だが、その中でレミリアが『キラークイーン』の能力を使ったのはわずか一回きりである。もちろん咲夜にはその能力の正体は分からなかった。

(一度だけ・・・・・・私の『ホワイトアルバム』の鎧が砕かれた。単純な打撃ならば傷すら付かない『ホワイトアルバム』だけど、まるで蒸発するかのように一瞬で塵になった・・・・・・。やはり、『スタンド能力』と考えるのが妥当なんでしょうけど・・・・・・)

 咲夜はその攻撃を食らってから出来るだけレミリアから離れるようにして弾幕で闘っていた。

 一方レミリアは咲夜の『ホワイトアルバム』の絶対防御を唯一壊せるのが、『キラークイーン』による『鎧の爆弾化→起爆』のコンボのみであることが分かっていた。鎧の硬度は異常で、単純な打撃や弾幕では傷一つ付けられていないのだ。

 更に、鎧は爆弾化して起爆をしても通常のような爆発は起きず、不発弾のようになってボロボロに崩れ落ちるだけだった。もちろん、それでは咲夜本体にダメージが与えられない。また鎧の爆弾化のために『ホワイトアルバム』に触れなければならず、危うく全身を氷付けされそうになったのだ。

(卑怯にもほどがある能力ね・・・・・・。爆弾化以外の突破口が見つからないなんて。しかも、咲夜に直接触れるのは氷付けの危険が伴うし・・・・・・。でも鎧をその方法で剥がしてもすぐに再生してたわよねぇ・・・・・・)

 だが、レミリアが最も危惧していることは『ホワイトアルバム』の装甲の強度とか、極低温の世界だとか、そんなちゃちなものじゃあ断じてなかった。

 もっと恐ろしいものの片鱗とも言うべき、『時を止める能力』だ。時を止められてしまえばいくら吸血鬼といえど、その間は無防備になる。だから常に対策を立てなければならない。

 その対策は至極単純なもの。レミリアには咲夜が『スペルカードを用いずに』時を止める際に必要なアクションを知っていた。だが、それは客観的に止めることは不可能だ。説明するが、咲夜は心の内で懐中時計を止めるように思い浮かべることで時を止めることが可能になる。つまり、他人がどうこう干渉して止められるような発動条件じゃないのだ。

 だから、その『仕草』――――心の内で行われるその行為に付随する咲夜の『癖』とも言うべき行動をレミリアは見切る必要があった。

 お互いが距離を取り、遠距離弾幕以外攻撃手段が見受けられないこの状況。咲夜が時を止めるタイミングとしては最も可能性が高い。

 よってレミリアは咲夜を凝視する。目を離してはいけない。彼女の時を止める際の『癖』を逃さないために――――。


「奇術『ミスディレクション』」


 レミリアの注意が咲夜本体のみに集中しているその一瞬の隙に咲夜はすかさずスペルカードを切った。唱えた直後に時が一瞬(止まっている時の中で『一瞬』という表現もおかしいが)止まり咲夜の立ち位置がレミリアの注意とは正反対の方向に瞬間移動するスペルカード。つまり咲夜が移動した先は――――。

(――――私の後ろかッ!!)

 レミリアの背後に咲夜がナイフを持って現れた。かなりの至近距離であったため咲夜はナイフを投げることはせずそのまま横薙ぎにレミリアの首を切り落とそうとする。

 スペルカードを切ってくるとは思っていなかったレミリアだが、吸血鬼の超人的な勘と瞬発力により背後から迫り来る咲夜の攻撃を避ける。だが、避け方がまずかった。

「背後からの奇襲をとっさに避けるには前方向に逃げることしかできませんわ。いくらお嬢様であっても方向転換を考慮に入れる余裕はない――――」

「はッ!?」

 ナイフを振りながら確かに咲夜はそう言った。そのおかげかもしれないが、レミリアは寸でのところで前方から迫る数十本のナイフに気が付く。

「『キラークイィィーン』ッッ!!」

 彼女はスピードを緩めることはせず、『スタンド』を出してナイフを全て打撃で相殺する。一瞬の猶予も許さない、時が動き始めてからナイフが刺さるまでのおよそ10分の1秒間の行為だった。

(・・・・・・予想外。あの『スタンド』、私の鎧を崩した能力の他にもスピードも要注意ね・・・・・・)

 レミリアはナイフ突破時の勢いのまま自室の壁に激突したかに思えた。だが、比喩でも何でもなく、まさに超人的身体能力によって体をたて回転にひねり着地ならぬ着壁。自室の壁に柔らかい足取りで膝を屈折させ、一気に伸ばすことで爆発的推進力を得る。まるで競泳選手が水中でターンを切る行為を空中でやってのけたのだ。

「っ!!」

 高速の切り替えし。弾丸がそのまま向かってきた方向に跳ね返るが如く、レミリアは咲夜に肉薄する。対して咲夜は体をうまく横に曲げて回避する。レミリアは掠めるようにして咲夜の脇を通り抜けた。

 その瞬間、両者の視線が交差する。一人は驚きと冷静、もう一人は怒りと愉悦。両者が両者、相反する感情をその瞳の色に滲ませていた。

 すぐに咲夜は体勢を立て直す。再び弾丸のような速度で反対側の壁に激突するレミリア。だがもちろんターンは切ってある。

 今度は反射ではなく、別方向に切り替えした。壁、天井、床、壁、床、天井と部屋を縦横無尽に高速移動を続ける。咲夜の視覚混乱のためだ。咲夜は焦ることなくそれを目で追う。一見すると紅い線が走っているようにしか見えないが、咲夜の動体視力はレミリアの動きを点で捉えられた。

「ふふふふははははははッ!!!」

 レミリアは笑い声を上げながら弾幕まで展開し始める。縦横無尽に駆け回っているのに、どの角度からでも正確に咲夜の頭・心臓・喉の3点に集中して高速の光弾を浴びせる。

 しばらくは回避していた咲夜だがまどろっこしいと考え『防御』に手段を移した。

「『ホワイトアルバム』」

 瞬時に再び咲夜を氷のスーツが身を包む。更に部屋を冷気が覆う。

「・・・・・・ッ!!」

 レミリアの速度が寒さにより少し落ちてしまった。なおかつ、自分の急所弾幕がことごとく絶対防御の『ホワイトアルバム』により阻まれてしまっていることも彼女の心に動揺を生み出す。

 その精神的ゆらぎを咲夜が見逃すはずもない。

 先ほどよりもガクンッ、と速度を落としたレミリアに向かって落ちているナイフを拾い上げて投擲する。標的の移動先を考慮したその投げナイフは正確に足首を貫くことに成功する。

「・・・・・・ぐッ!? あ、足がッ!!」

 足の違和感に気が付き着壁したレミリアはターンを切ろうとして失敗した。正確に足首の神経が切断されている。

 どさっ、と地面に倒れ込んだレミリアはすぐに起きあがるが、視線の先にいたのは『ホワイトアルバム』の装甲を身に纏った十六夜咲夜がナイフを構えている姿だった。

「チェックメイトよ、レミリア・スカーレット」

 と、咲夜が短く述べた直後。レミリアは「呼び捨てにするなッ!!」と怒りながら『キラークイーン』を出す――――が。

「既に囲んでいますわ・・・・・・」

 既に咲夜は落ちていたナイフを全てレミリアの周囲に滞空させていた。そう、あとは咲夜だけが知る『起点の一本』となるナイフを特定の方向・特定の力で弾けば連鎖的にナイフがナイフを弾き、全てがレミリアの方向に向かう銀刃の包囲陣となる。

「メイド秘技『殺人ドール』!!」

 確かに、いくら近距離パワー型のスタンドである『キラークイーン』といえど360度全包囲を取り囲むナイフを同時に弾き落とすなんて芸当は時でも止められない限り不可能である。そんなことは少々怒りと興奮で我を忘れていたレミリアでさえ分かっていることである。

 だから、レミリアが『キラークイーン』を出したのには別の理由がある。他意がある。レミリアの口の端が「くっ」と歪んだ。

「残念ね、咲夜――――。勝ち誇るなんて愚考を犯すなんて・・・・・・」

 『キラークイーン』の右手を突き出しながらレミリアはそう呟いた。すでにその言葉の意味を聞き取るころには咲夜はナイフを投げている最中であり――――彼女のナイフ投げのモーションの中で最も手に持っている『ナイフ』と『顔』の位置が近いタイミングを見計らい――――。


「『キラークイーン』、第一の爆弾ッ!!」


 右手のスイッチを押して爆弾を起爆させる。起爆したものはなんとナイフ。

 しかも、『咲夜が投げようとしている最後の一本』だったッ!!

 ドグオオォォォォン!!! と咲夜の耳元で爆発が起こった。いくら絶対防御の『ホワイトアルバム』といえどその破壊力はすさまじく、咲夜の体は横方向に吹き飛ばされる。それから少し遅れて咲夜の制御を失った周囲に浮くナイフが音を立てて地面に落ちた。

(粉微塵にならずに『吹き飛んだ』・・・・・・? やはり、『ホワイトアルバム』は爆発の巻き込みでは壊せないのか・・・・・・)

 実際に鎧を爆弾化して起爆しなければ意味がない。

 レミリアはそう思いながら足首のナイフを引き抜いた。傷はすぐに再生し、体はいつもの動きを取り戻す。

 そして立ち上がり咲夜が吹き飛んだ方を見た。

 一方。ガシャァアン、と派手に高級そうな品物が数々飾ってある棚に突っ込んだ咲夜だが外傷はほぼ無かった。爆発による衝撃で足腰の踏ん張りが利かずぶっ飛ばされたが『ホワイトアルバム』による防御のおかげで咲夜自身に傷は無かった。

 すぐに起き上がり首を振る。爆発の衝撃で変な方向に首を突然曲げられたせいで痛みが若干残ったがそれだけだった。

(・・・・・・突然耳元で爆発・・・・・・? どういうことかしら・・・・・・)

 まだレミリアの『キラークイーン』について咲夜は完全に把握できていなかった。

(第一の爆弾、と言っていたけど空間に爆発を自由に発生させる能力? いいえ、それだったもっと前から起こしていたはず・・・・・・)

 自分のナイフが爆発したとは気付いていなかった。『ホワイトアルバム』発動状態の視野の狭さがアダになっていたのだ。

 いずれにせよ、『何らかの条件下において爆発を起こせる』という能力であることは分かった。だが、それも『ホワイトアルバム』の装甲を突き破れないのであれば問題は無い。

 咲夜は立ち上がりレミリアの方を見た。

 再び視線が交差する。距離は離れており先ほどと同じ状況――――。

 ではない。この状況は明らかにレミリアの方が有利だった。

 直後にレミリアは『キラークイーン』を出しながら咲夜に向かって一直線に飛翔する。

「・・・・・・またそれか、お嬢様・・・・・・ッ!!」

 今度の咲夜はそれをかわさないつもりだった。冷気の放出を最大限にしてレミリアの特攻を真正面から受け止めるつもりだった。そこにはレミリアの能力を正確に把握しようとする意識が大きかった。

「ぬううううううううあああああああああああッッ!!!!」

「はあああああああああああああああああああッッ!!!!」

 二人の叫びが交差する。レミリアは『ホワイトアルバム』の冷気を全身に浴び、氷漬けになりながらも咲夜への特攻を止めない。いや、止まらないのだ。

 ついにレミリアは咲夜の元まで到達する。だが、既に勢いは殆ど死んでおり咲夜がレミリアを捕らえるのは用意だった。

「全身氷漬けになりたいんですか? ・・・・・・まぁ、お望みとあれば・・・・・・」

 咲夜は体表面の半分以上が氷に覆われるレミリアを優しく包容する。すると一瞬でレミリアの体は氷漬けに――――


「・・・・・・舐めるな・・・・・・」

 なっていない。レミリアの全身に及んでいた氷は瞬時に消えてなくなった。いや、レミリアだけではない。咲夜が身に纏っていた『ホワイトアルバム』のスーツまで、ボロボロに崩れ落ちたのだッ!!

 咲夜の目が開かれた。これだ、レミリアが一回目の起爆の時に咲夜の装甲を崩したのだ。そして咲夜ははっきりと理解する。

 『キラークイーン』が自分に触れていた。おそらくそれが『発動条件』ッ!! さっきの爆発も思えば持っていたナイフが爆発したことに気がついた。そのナイフも『キラークイーン』で殴った内の一本だった。

(私が最後に投げるナイフが爆発したんだわ・・・・・・ッ!! 『それ』を引き当てたのも単なる偶然じゃあない、『運命操作』があるッ!!)

 つまり、レミリアの『キラークイーン』の能力は触れた物体を『爆弾』に変えること。しかもレミリアは運命操作によって爆弾化したナイフを咲夜の最後の一手に選択させていたのだ。

 更に咲夜は瞬時に以下のことも分析する。あの能力――――物体には有効だがおそらくスタンドを爆弾化は出来ないのだ。よってスタンドから作られる半物体の『ホワイトアルバム』の装甲は爆弾化されることにより起爆はせずただ崩れ落ちただけだったのだ。

 と、咲夜は考えを巡らしているが現在二人の距離はゼロ。しかも咲夜は『ホワイトアルバム』を出していない。『キラークイーン』を既に出しているレミリアの方が圧倒的有利だった。

「くらいなさいッ!! ぜ・・・・・・」

 レミリアが叫びながら攻撃を宣言した直後。当然咲夜が取るべき行為は決まっていた。

 慌てることなく、心の内で時計を止める。

「――――幻世『ザ・ワールド』」

 レミリアがあと数センチで咲夜の顔面を『キラークイーン』で殴り抜こうとするが――――時が止まった。

 咲夜だけの時間になった。

*   *   *

 時が止まった。

 すると当然、『彼』が出てくるわけである。

「・・・・・・やっと十六夜咲夜が時を止めたか」

 未だに紅魔館の内部を右往左往していたドッピオの中からディアボロは姿を現した。

 そして彼はすかさず行動に移る。まずはドッピオが迷っていた原因――――すなわち『ティナーサックス』の本体である小悪魔の撃破である。

(・・・・・・全く、ドッピオめ。よくよく注意すれば廊下の見た目は違っても同じ空間座標の軌跡を辿っていることに気付けるだろう。しかもこの程度の尾行にも気が付かないとは・・・・・・)

 ディアボロは咲夜がどの程度、時間を止めるかが分からないため行動は迅速だった。すぐに背後を尾行していた小悪魔の元にやってきて『キングクリムゾン』を出す。

「やれやれ・・・・・・私のドッピオが世話になったな・・・・・・」

 そして何の躊躇も無く動かない小悪魔の心臓を右腕で貫いた。

(・・・・・・もし、こいつも吸血鬼ならばこの程度では死なないだろうが、これでしばらくは邪魔は出来ないはずだ・・・・・・。あとするべきことは・・・・・・)

 と、ディアボロはふと窓の外を見た。ここからは紅魔館の中庭が見える。時間が時間なため暗くてよく見えなかったが、そこには見覚えのある少女の姿が映っている。

(・・・・・・あれは妹の方か? あんなところで何をしているんだ・・・・・・。しかも『スタンド』を出しているようだが・・・・・・)

 遠目からではよく分からない。何かと闘っているように見えなくもないがそこにはフランドール以外の姿は見受けられなかった。何にせよ動きが止まっているため把握できるはずがない。

 と、こんなことをしている場合ではない。さっさと十六夜咲夜のいるところへ戻らなくては。ドッピオとしては彼女の尻に敷かれるのは嫌だろうが、そんなことは関係ない。俺には『十六夜咲夜』という人間を見極める必要があるのだ。

(・・・・・・くそッ!! 十六夜咲夜がいる部屋はここから反対側の廊下じゃあないかッ!! 本当に面倒なことをしてくれる・・・・・・!!)

 ディアボロは悪態をつきながら心臓を貫かれた小悪魔の側を離れていった。

*   *   *

 咲夜は時を止めた。間一髪だったが、レミリアの体は表情まで固定されて動かなくなる。

「・・・・・・まさか、『ホワイトアルバム』を破る能力なんて・・・・・・」

 そう言いながらも、レミリアの『ぜ』の口で止まった表情を眺めながら咲夜はほくそ笑んだ。あとはレミリアの首を切って冷凍保存すればいい。いくら吸血鬼といえど、全身が凍っていれば何も出来ないはずだ。

「ふふふっ、お嬢様? あなたが、あなたがいけないんですよ・・・・・・。私は、咲夜は誠心誠意尽くしてきたのに、お嬢様がそんな扱いばかりするから・・・・・・」

 咲夜は笑わずにはいられなかった。あぁ、あの自分を苦しめた日々を、元凶を自らの手で断ち切ることが何と嬉しいことかっ!

 咲夜は懐から新しくナイフを取り出しレミリアの首に刃を当てた。今からこの細い首を私の無機質なナイフで切り裂くのだ。胸が高鳴る。心が躍る。興奮が冷めやらぬ。体の奥が熱く、燃えたぎる。

「ふふっ、うふふ、ふふふふふ・・・・・・お嬢様、あぁ、お嬢様・・・・・・? 分かりますかお嬢様。私のナイフが、暴力があなたの首を今まさに陵辱するところを・・・・・・うふふふふふ」

 咲夜はトン、トン、とレミリアの首に銀の刃を当てる。彼女の何も知らない白い肌がそのたびに揺れるのがどうしようもなく、そそるのだ。

 やった、私は、やった。私は。殺せる。主を、この手でぐちゃぐちゃになるまで、背徳的だ。きっと絶頂する。いままで感じたことのない幸福感だ。素晴らしい。あぁ、お嬢様。私という犬に陵辱される気分はどうでございますでしょうか。









 不肖私めは最高の気分にございます。











「いやっひゃあああああああぁぁああああッッ!!! 最ッ高!! 最高最高最高ッ!!! んッひぃぃッいいいいッ!! あっ、ははッ!! 興奮ございますでしょうお嬢様ッ!! 犬に犯される気分はどうでございますでしょうかァァアアアッ!!?? あッ、はッ!! 醜くッ!! 汚いッ!! 汚物にッ!! お嬢様の綺麗な綺麗なお体は汚されてしまいますわッ!!! 気分はいかがでしょうかッ!? いかがでしょぉおォォかァァアアッ!!!?」

 咲夜は気が狂ったかのように叫び、悶え、体を震わせて精神的及びに肉体的絶頂にあった。

「あはっ、いひはひゃあへあはっは、うききくへへはへええはッ」

 言葉にならない感情を一気に押しだし、瞳孔を完全に開放して絶頂に悶える咲夜はもはや人間とは呼べなかった。

「うひひっ、あへ、くふきっ、くふ、・・・・・・」

 と、咲夜は突然笑うのを止めた。そしていつもの表情に戻る。

「・・・・・・それではお嬢様。失礼いたします」

 言い終わるや否や、咲夜のナイフはレミリアの首を切り落とす動きに入る。咲夜自身は時を止めている最中は生物に関与出来ない。時を止める際の誓約である。

 だから、咲夜のナイフがレミリアの首に触れる直前に時を動かす。


 そして時は動き出す。


*   *   *

 ・・・・・・咲夜は再び表情を歪めた。

 嬉しさからではない。気持ち良さからではない。


 ただ単に「ヤバイ」と思ったからだった。



 第23話へ続く・・・・・・。 
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