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ボスとジョルノの幻想訪問記

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十六夜咲夜一揆 その①

ボスとジョルノの幻想訪問記21

 あらすじ(時系列順)

 スカーレット姉妹来訪 ドッピオ死亡 永遠亭壊滅の危機
  ↓
 ボス、復活しアリスの家へ 悪夢1回目
  ↓
 ジョルノ・妹紅、チルノと3妖精と戦う
  ↓
 ジョルノ・妹紅、霊夢と戦う ボス、悪夢2回目
  ↓
 ジョルノ・妹紅、就寝 ボス、悪夢3回目
  ↓
 ボス、アリス・魔理沙と戦う
  ↓
 ボス・アリス・魔理沙、三人とも死亡


*   *   *

 ボスとジョルノの幻想訪問記 第21話

 十六夜咲夜一揆①

 ――――目が覚めた瞬間に彼は気が付いた。

 自分の意識では体が動かせない。この現象は最近までずっと起こっていたはずだ。

 しばらくの間、解放されていたがそれも一瞬の出来事だった。

 彼は目が覚めた。だが、それは『彼』では無かった。

 彼は内側にいたのだ。その、仮の姿の内側に押し込められていた。

 仮住まいはうつろな視線であたりを見回した。深層意識に潜む彼は今、この瞬間がチャンスだと思った。必死で彼は叫んだ。自分に気が付いてくれ、俺はお前の中にいる、と。

 ――だが、現実は非常である。

「――――俺は」

 ヴィネガー・ドッピオは自分の知らない場所で目を覚ました。

(く、そッ!!! なんてことだ、まさか復活したら再び『記憶のないドッピオ』が表に出てしまっているなんて!!)

 そして、先ほどアリスの猛攻を受けて絶命したはずのディアボロはドッピオの深層心理に再び閉じこめられていた。

 ディアボロは心拍数が速まる中、必死で自分を落ち着けて状況を整理しようとした。

(まず、あの悪魔姉妹にドッピオが殺されたおかげで俺は表に出てこれた。それによってレクイエムが再び効果を発揮し始め、死んだ。ここまではいい。だが、次に目を覚ましてみると表に出てきたのは俺ではなく、死んで消滅したはずの『記憶を失ったドッピオ』の人格だ! もしや、次ドッピオが死ぬとまた俺が表に出て、再び俺が死ぬとドッピオが出てくる・・・・・・そんなサイクルが成り立っているのかもしれない)

 普通ならばスタンド攻撃であってもあり得ない状況だったが、彼には引っかかるところがあった。

(・・・・・・だとすると、原因は八意永琳だ。奴は『セーフティーロック』だと称して俺の心臓に『指輪』を埋め込んでいた! それが何らかに作用して『俺とドッピオのサイクルレクイエム』が成立した・・・・・・その可能性は0では無い)

 実際に幻想郷では元の世界では起こり得ない現象が日常茶飯事的に起こっている。彼が永琳に対する猜疑心、敵対心からこのような考えに及んでしまうのも無理はない。

(つまり、この状況はドッピオが殺される前と殆ど進展なしッ!! しかもドッピオも俺もここがどこかは把握していない・・・・・・最悪だ)

 ドッピオの中でディアボロがそのような考えを巡らせている間、ドッピオは周りの状況を確認していた。

 暗い、まるで真夜中の森の中のようだ。だが、ここは森の中じゃあない。

 地面は固い煉瓦で出来ており、周りも通路のようになっている。明らかにここは建物の内部だった。

「・・・・・・俺は確か・・・・・・ッ!!」

 と、ようやくドッピオは死ぬ直前の記憶が戻った。幻想郷、ジョルノ・ジョバァーナ、スタンド、鈴仙、永琳、そしてスカーレット姉妹――――。

 そこまで思い出したところでドッピオは『自分は明らかに死んだ』と認識する。

「・・・・・・ってことはここが死後の世界ィ~~~~??」

 真っ暗な周囲をきょろきょろしながら率直な感想を述べる。

「辛気くさいところだな」

「・・・・・・悪かったわね、辛気くさくて」

 ドッピオの失礼な言動に背後から声がかけられる。それは最近聞いたことがある声だった。

「少年、ちょうど良かったわ・・・・・・ここから出してくれないかしら」

 声のした方向を見ると、暗がりの中・・・・・・彼は牢獄のような箇所を発見し、その中に見知った人物を認めた。

 いや、見知ったわけではない。当然知り合いでもない。

「お前は・・・・・・十六夜・・・・・・咲夜ッ!!」

「自分の名前くらい了承してるわ」

 牢獄の中にいたのは十六夜咲夜だった。

「な~んだ・・・・・・お前、あのあと殺されたんだなぁ~~~。くわばらくわばら・・・・・・」

 当然、ここを死後の世界だと思っているドッピオは勘違いを続ける。

「・・・・・・ここが地獄とでも言いたいのかしら」

 ドッピオが牢獄に近づいてみると、咲夜は服を身につけておらず、鎖を首と両手首に付けられて自由を拘束されていた。

「・・・・・・あ、ごめ」

 ドッピオは何かに謝った。

「謝るな。というかお前今、胸を見て謝っただろ。殺すわよ」

「・・・・・・げふん。まぁまぁ・・・・・・。というか、お前は鎖で繋がれてるのに俺には何も無いんだな。あれか? 生前の行いの善し悪しとかか?」

 彼はどこか得意げな顔をする。

「だから、ここはあなたが思っているような死後の世界でも無いし・・・・・・あぁ、もう。説明するのも面倒だわ」

 咲夜は呆れてため息をつく。その言葉にドッピオは「何をバカな・・・・・・」と閉口していた。

 自分が完全に死んだものと思っているようだ。話にならない。


「説明が面倒だわ・・・・・・幻世『ザ・ワールド』」


 咲夜はスペルカードを取り出しもせずにそう呟いた。彼女の時を止める能力は生まれたときから出来ることだ。スペルカードを使う必要はない。

 しかし、なぜ彼女は力が使えるのに鎖に繋がれているのか、といえば。つまり、単純にパワーが足りないのである。いまだに頭の中に残っている『ホワイトアルバム』を使っても、時を無限に止めようとも、パワーの無い彼女では鎖を引きちぎることは出来なかった。

 だからここにドッピオが突然現れたのは最大限の幸運だった。

 彼女は確信していた。時を止めれば奴が来る、と。そして咲夜の思惑通り、目の前の男は――――。

「・・・・・・何という『幸運』だ・・・・・・。俺にはまだ、ツキが残っていた・・・・・・」

 姿を変えて別の人間へと変貌した。――――底知れない悪意を携えて――――。

*   *   *

 止まっている時の中、ディアボロはドッピオの体を変形させながら表に出てきた。

「・・・・・・久しぶりね。・・・・・・何と呼べばいいのかしら?」

 その姿を見取り、咲夜は彼に話しかける。一度殺したはずの男、さらに自分の絶対的空間であるはずの『止まった時の世界』に干渉できるただ一人の男に対して、少なからず彼女は恐れを抱いていた。そのためか、若干声が震えていたが――――。


 それ以上に、この男に対して惹かれていた。


 十六夜咲夜は時を止めることが出来る、だがその『世界』は彼女だけの世界。孤独な世界。これまで十六夜咲夜はその孤独を延々と味わい、いわゆる『お嬢様』という奉仕対象に頭を垂れてきた。言うなれば単なる飼い殺し。

 咲夜の痛みは誰も分からない。

 だが、この男は違う。私の世界にこうやって確かに存在している。息づいている。

 彼は私の理解者たる人物だ。

 彼女がディアボロに対して『運命』を感じるのは当然の流れだと言っていい。

「・・・・・・命拾いしたな。普通ならこうして俺の姿を見てきた奴は全員殺してきたが――」

 と、彼の脳裏にジョルノの顔が浮かんだ。己の汚点を思い出し、自己嫌悪に陥るが頭を振って忘れる。

「ここはどこだ?」

「・・・・・・ここは、ご存じ私の『元』主のレミリア・スカーレットお嬢様の御邸宅――――の地下牢獄ですわ」

 咲夜は若干の皮肉を混ぜて答えた。『元』ということは今は違うのだろう。

「今は・・・・・・絶賛私がストライキ中よ。ストライキを起こしている従業員に対してこの仕打ち(牢獄行き)はあんまりよねぇ」

「そんなことはどうでもいい。つまり、俺はドッピオとしてここに生き返ったわけか」

 止まっている時の中、ディアボロに襲いかかる死の危険は存在しない。この空間では全くの、微塵の恐怖さえも感じないのだ。

「・・・・・・聞いてきたくせに冷たいわね。というか、『生き返った』ってあなたは一体何者なの? そんな変な黴が生えた頭をして・・・・・・」

「おい、最後の一言は余計だろう・・・・・・。これは生まれつきだ。黴じゃあない、地毛だ」

 ますます変よ、と咲夜は顔をしかめる。

「まぁ、いい・・・・・・。俺は貴様にはまだ名乗らないし、何故? という質問にも答えない。俺のこの状況は貴様に言ったところで何の解決にもならないからな」

「いいじゃあないの。減るものでもないし」

「時間が減るだろう。却下だ」

「――――協力する、と言ったら?」

 ディアボロは顔を上げた。時を止められる人間が協力する、と申し出ることは滅多にないことだ。そもそも、分母が少ないのだが。

 だが、ディアボロの性格上、もちろん答えは

「NO、だ。貴様に対する『信頼』は現状一切ない。そんな奴を手元に置いておくことが出来るわけ無いだろう」

「連れない男ね・・・・・・。今の私を好きにしても良いと言ったら?」

 ――現在咲夜は服を着ていない。鎖で体の自由を奪われている。プロポーションも一部を除けば完璧だ。男であれば大半は彼女に欲情するに違いない。

「俺にその手はきかない。だが・・・・・・」

 ディアボロは迷っていた。それは別に咲夜に気があるわけではない。ただ、『時を止める能力』は今の彼には必須だったからだ。

 咲夜が味方であれば、時を止めている間ディアボロはドッピオと交代が出来る。更に、レクイエムの効果も及ばないため限定的ではあるが自由に動くことが出来る。

 利点は大きかった。

「確かに、俺には貴様の能力が必要だ。味方になってくれるというなら願ってもないことだ」

「じゃあ!」

「――――なら、俺を『信頼』させて見ろ。そうすれば貴様を側に置いてやってもいい」

 ディアボロは言い終えるとスタンドを出す。『キングクリムゾン』は咲夜の閉じこめられている牢屋の檻に手をかけ、無理矢理人が通れるように広げた。

「・・・・・・ッ!! 何てパワー・・・・・・!」

 牢獄の中に入り、鎖で繋がれている咲夜の顎を掴む。

「うっ」

「何の意図があるのかは知らんが、他人に取り入る時はそれ相応の『誠意』が必要だ。それはすなわち『信頼』とイコール。貴様が信用に足る人物かどうか、試してやろう・・・・・・」

 咲夜の目を睨みつける。負けじと咲夜も「ふん・・・・・・一体何をしろって言うの?」と言い返した。

「簡単だ。『元』主がいるのであれば貴様はいつ寝返るか分からん。つまり――――『元』主の首を俺の前に持ってくるんだ・・・・・・」

 咲夜にとってそれはこれまで最も犯してはならない罪だった。

 つまり、レミリア・スカーレットの首を取ってこい、とのことだった。

「・・・・・・そ、それは・・・・・・」

 咲夜の視線が一瞬下に落ちた。――――だが、すぐに視線をあげて

「・・・・・・分かったわよ。了解したわ・・・・・・だから、この鎖も壊してくれないかしら」

「安心しろ。もう壊しておいた」

 既にディアボロは咲夜が繋がれていた鎖の首輪と手枷を『キングクリムゾン』で粉砕していた。

「・・・・・・ありがとう。あと、一つ、いいかしら?」

「・・・・・・なんだ? 早く行け・・・・・・おい、何してる」

 と、咲夜が突然ディアボロの足を掴んで――――。

「あと、1秒で時が動くわ」

「――――はっ!?」

 直後にディアボロの意識はどこか奥に押し込められるように――――。

 3分。

「――――そして時は動き出す」

 咲夜がそう言うと、ディアボロの意識は完全にドッピオと交代される。それと同時に体がドッピオに戻っていくが、その間に咲夜は掴んでいた足を引いてドッピオを倒した。

 どさっ、と倒れたドッピオは「――な、何だ? これは――」と、何故自分が転んでしまっているのか分からない、という風に辺りを見回すと――――。

「いやん」

 ――――自分の下に誰かいた。

「なっ、えっ!? ハァァーーーーッ!?!」

 ドッピオは驚愕の声を上げる。当然だ。気がついたら女性を押し倒していたなんて驚くに決まっている。誰だってそーする、俺だってそーする。

 咲夜がうまくドッピオの足を掴んだことによって、ドッピオは咲夜を押し倒す形で倒れたのだ。

「あらあらあらあら、積極的ね。私の裸に欲情して我も忘れて、文字通り無我夢中で押し倒すなんて」

「いや、ちょ、待てよ! いや、俺はだなっ! その、というか牢獄の中だろ! どうやって・・・・・・」

 ドッピオは牢屋の檻を見る。するとそこには誰かがまるでこじ開けたようにひしゃげた鉄柵がある。

「・・・・・・まさか」

「そのまさかよ。あなた、もんのすんごい力で檻を突き破ってきたのよ?」

「・・・・・・」

 言葉を失う。いや、そんなはずはない。と言い聞かせるが、どうも確証がない。と、ここで咲夜がとどめに入る。

 なんとッ! ぎゅっ、とドッピオの体に抱きついてきたのだ。

「ふふっ、でも気に入ったわ。セキニン、取ってくれるんでしょう?」

「・・・・・・いや、あの」

「言葉で断っても体は正直よ。現にあなたの思考を越えてあんなことやこんなことまで・・・・・・」

「・・・・・・っ!!」

 ドッピオは急いで咲夜から離れる。顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。

「あぁん、乱暴ね・・・・・・」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!! 俺は何もしてない・・・・・・ぞ・・・・・・」

 再びドッピオは咲夜の体を直視してしまう。確かに、我を忘れて欲情し、押し倒してしまいたいほど美しい女性だ。だんだん自分の行動に自信が持てなくなってきた。

「・・・・・・ここまでしておいてヤリ逃げなの?」

「しらねぇよ!! というかアンタはそれでいいのかッ!?」

「私は全然構わないわ・・・・・・。むしろタイプよ」

 ドッピオは更に顔が赤くなる。女性にこんなことを言われて嬉しくない奴はいない。

「・・・・・・おいおいぃ~~~~・・・・・・。冗談は止めてくれよ・・・・・・」

「冗談じゃあないわ。真剣よ」

 ドッピオはその場にうずくまり頭をかきむしる。その様子を見て咲夜は薄く微笑み――――。再び背後からドッピオを優しく抱き込んだ。

「私を貰ってくれるかしら・・・・・・?」

 まさに悪魔の囁き。

「・・・・・・ちょっと、待て。待ってくれよぉ~~~・・・・・・」

 ドッピオはそんなはずはない、と再び頭をかきむしる。体全体が暑くなっていくようだった。

 だが、ついに咲夜は痺れを切らしたのか――。

「回答はYES、それ以外認めないわよ?? それとも、200年後まで冷凍保存されたい?」

 『ホワイトアルバム』を出してドッピオの背中に寒気を走らせた。

「――――っ!! す、すみませんでした・・・・・・」

 自分一人ではかなわない。ドッピオは遂に観念して咲夜の要求を受け入れることになった。

「・・・・・・これから、よろしくお願いします・・・・・・」

「うん、よろしくね」

 咲夜の笑顔とは逆に、まるで詐欺にでもあったような顔だった。

*   *   *

 こんにちは、ドッピオです。目が覚めたら目の前に美しい女性がいました。おそらく俺より10歳くらい年上の大人のお姉さんです。

 そして、気付いたらその女性を押し倒して、しかも取り返しのつかないことまでしたそうです。

 それから、責任を取って付き合うことになりました。詐欺に会ったような気分です。それから彼女は紹介する、と言って全裸のまま俺の手を引いてどこかに連れていきます。

 天国のどこかにいる顔も知らないお母さん。俺、初めて彼女ができたよ。

 ほら、喜べよ。記念日だぜ。

*   *   *

(・・・・・・ドッピオに対する扱いをどうするか見物だったが、まさかの方法だったな・・・・・・。これでドッピオは十六夜咲夜の尻に敷かれる駄目彼氏の立場となったわけだが・・・・・・面白い作戦だ・・・・・・)

 自分でさえコントロールが出来ないドッピオを咲夜はわずか数分間で完全に支配下に置いた。

 ドッピオ状態の制御も問題の一つではあったが、咲夜が味方となればこの問題も同時に解決されるわけだ。

(案外、このままの方が使えるかもしれないな。適当に駒として使うつもりだったが・・・・・・)

 ディアボロがそんなことを考えている間、咲夜はドッピオの手を引いて階段を上っていた。

「ほらほら、早く歩いて」

「・・・・・・うぅ・・・・・・」

 ドッピオは何故か泣きそうだった。可哀想に。

「まず、私の部屋に行くわ。服を着なきゃ」

「・・・・・・そりゃ、全裸で家の中を歩くのは・・・・・・というか、広いな」

 階段を上りきり廊下にでる。ドッピオは屋敷の広さに驚いていた。

「こっちよ」

 呆然とする彼の手を引いて咲夜は一直線に自室を目指した。しばらく歩くと、ようやく部屋にたどり着いた。

「しかし、これだけ広い屋敷なのに・・・・・・咲夜以外には使用人とか誰もいないのか?」

「いるけど・・・・・・きっと今は台所ね。全員で食事の準備をしてるわ」

 咲夜はドッピオを部屋に入れると適当に座ってて、と命令する。ドッピオは命令通り、座ろうとするが、部屋の中は簡素で座る場所が見あたらない。仕方がなく、彼は普通のベッドの上に座ることにした。その間咲夜はいつものメイド服に着替えるようだ。

 その前にシャワー室に入った。

「・・・・・・実は死んでなかったんだよなぁ・・・・・・」

 ドッピオは天井を見上げた。ここは死後の世界ではない、と言われ一人で『爆殺されたのではなく、ぶっ飛ばされ、気が付いたら地下にいた』と解釈していた。

 頭の中が混乱している。整理しようとしても断片的な記憶とおかしな状況から、更にこんがらがっていく。

 と、咲夜がいつのまにか着替え終わって出てきた。

「待たせたわね」

「・・・・・・やっぱりそのメイド服なのか」

「これしか持ってないのよ」

 十六夜咲夜はメイド長だと言うが、私服を持つことさえも許されないのだろうか?

 ブラック企業だと言われても仕方がない。

「さて、主の元に行くわよ」

「ちょっと待て、その主って一体誰なんだ?」

「ふふ、まだ秘密よ」

 咲夜は微笑むだけで答えてくれない。

 だが、どこかドッピオの心は落ち着かないでいた。

*   *   *

 二人はしばらく歩いてようやく目的の部屋にたどり着いた。ここまで来るのに使用人に一度も会わなかったのは、やはり食事の準備に追われているからだろう。と、咲夜はコンコン。とドアをノックした。

「失礼します」

 返事が返ってくる前にドアを開けるとは・・・・・・と思ったがお構いなしに咲夜は中に入った。中にはいるのを渋っていると、咲夜が小声で「入って」と言うのでドッピオも中に入る。

「・・・・・・咲夜?」

 部屋の奥から少女の声がした。

 もちろん、ドッピオは聞いたことがある。

「・・・・・・まだ私は――――独房から出て来て良いなんて一度も言った覚えは無いのだけれど?」

 声の主はこちらに背中を向けて座っていた。

 もちろん、ドッピオはその後ろ姿を見たことがある。

「お嬢様、実はお話があります――」

「おい、待ってくれ」

 と、咲夜の言葉をドッピオは切った。

「俺は突然の出来事に翻弄されてここまで来ちゃったが、今一つ、はっきりと断言できる。――――咲夜がここで何と言おうと、俺ははっきりと断言しなくちゃあならないことがあるんだ」

 そして、ドッピオは声の主を指さした。

「・・・・・・また会ったな、レミリア・スカーレット」

 その座っている人物の名前を呼ぶ。

 そう、彼女はレミリア・スカーレット。

 ドッピオのいた永遠亭を襲撃した張本人。

「・・・・・・」

 ふぅー、とため息をついたレミリアはパタンと本を閉じて立ち上がる。

「人の名をッ! 随分と気安く呼んでくれるじゃあないか・・・・・・」

 レミリアが紅い眼孔を二人にギロリ、と向ける。

「てめぇ・・・・・・覚えてるぜ・・・・・・! よくも俺たちを・・・・・・ッ!」

「・・・・・・あぁ、誰かと思えば未来予知君じゃあないか。どうして死んでいないんだ? ――――まぁ、もう一度殺せばいい話か」

 さして疑問を持つまでもなく、今更不死など幻想郷では珍しくはない、と言いたげにレミリアは両の手を広げる。

「あのー、ちょっといいですか?」

 そんなぴりぴりした空気に割って入ったのは十六夜咲夜だ。

「・・・・・・咲夜、あなたがどうしてこんな男を連れてきたのか聞くつもりはない。いいから私が許可をするまで独房に入って・・・・・・」

「いいえ、そういうわけにはいきませんわ。ねぇ、お嬢様――。私、十六夜咲夜は――――」

 レミリアの回答に喰い気味で話し始める咲夜。ドッピオもレミリアも咲夜の言葉を聞いて――――1人は呆れた顔をして1人は眉をつり上げた。

 咲夜の話した内容はこうだ。

「この男、ヴィネガー・ドッピオと結婚を前提にお付き合いいたします」

「・・・・・・いや、だから・・・・・・」

 当然、呆れ顔で「またか」とため息をついたのはドッピオ。ならば、眉をつり上げ怒りを露わにしたのは――――

「・・・・・・何ですって・・・・・・?」

 レミリア・スカーレット。

「――――咲夜、あなたの先日からの暴言・暴行の数々。全てが目に余り罰することも当然過ぎるものだったわ。そして当然、あなたも私もそれを受け入れた――――。でも、『結婚』・・・・・・? 結婚なんて・・・・・・認めないわよ・・・・・・。結婚なんて、絶対に絶対に、私は認めないわ・・・・・・」

 ドッピオは「おい、これやばいんじゃあないか?」という風に咲夜とドッピオを交互に見る。

 ドッピオの予感は予知するまでもなく、正しい。レミリアの『独占欲』は強く、咲夜を手放したくないという思いは誰よりも強かった。妹のフランドールよりも、理解者である紅美鈴よりも。

 レミリアは換言すると『十六夜咲夜』に溺れていた。

「私はッ!! 結婚なんて絶対にゼッタイに認めないィィーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 レミリアは翼を大きく羽ばたかせ、即座にスタンドを出す。

「『キラークィィィーーーーーーンッッ』!!! その咲夜をたぶらかす男を消し炭にしてしまえッ!!」

 俺かよッ!! というドッピオの表情を見て咲夜はその間に入る。

「大丈夫よドッピオ。あなたは私が守るわ・・・・・・」

「・・・・・・咲夜(俺関係ないよな・・・・・・)」

 咲夜のその言葉を聞いたドッピオは心底帰りたいと思った。

 一方、レミリアはその言葉に更に怒りを押し上げるッ!

「私の目の前でイチャコラしてんじゃあ無ぇぞクソ餓鬼ィィーーーーーーーッッ!!!」

 瞳を深い紅の宝石のように光らせながらドッピオを殺さんとするレミリアに向かって咲夜は『ホワイトアルバム』を発動させ――。

「駄目、だと言うのでしょうか・・・・・・お嬢様。私はこれまでお嬢様に誠心誠意尽くしてきたつもりです。そろそろ私も報われてもいいんじゃあないでしょうか?」

 氷の衣装を身に纏い窘めるように話しかける。しかし、猪突猛進を体現するかのように猛スピードで距離を詰めるレミリアは「否ッ!!」と短く答え、キラークイーンを前に出す。

 その瞬間、レミリアの顔面にカウンターの氷の拳が突き立てられた。

「さ、くやッ・・・・・・!?」

 攻撃するはずがない、と思っていたレミリアの予想はあっさりと打ち砕かれる。

 咲夜はここで初めて、本気で主を殴ったッ!


「――――お嬢様、いえ、レミリア・スカーレット。でしたら私は私の意を通すだけです。そろそろ『子離れ』の時期ですよ――――」


 殴られた箇所が――――凍る。レミリアが右頬を触ると酷く冷たかった。

 だが、それ以上に愛する自分の娘のような十六夜咲夜に反抗され、手を上げられたことに対し彼女の心は酷く傷つき、冷めきる。

「・・・・・・咲夜・・・・・・。そう、あなた・・・・・・死んでも文句は言えないわよ??」

 吸血鬼は娘を捕食対象として認識した。

「27歳独身、結婚願望有り十六夜咲夜。『親離れ』のため、いざ」

 かつて悪魔の狗と呼ばれた人間は親を退治対象として認識した。

 絶対に起こり得ないと言われていた闘いが幕を開ける――――!

*   *   *

 ――――と、若干テンションに置いてけぼりのドッピオはふと気が付いた。

(あれ? これって今逃げるチャンスだよな・・・・・・?)

 レミリアと咲夜はいがみ合っていてこちらに気が付いていない。逃げるなら今がチャンスだ。ドアも開いているし屋敷の中(紅魔館だっけ?)も使用人は夕食の準備中でいないと言っていた。

 しめしめ、と思い部屋を出て屋敷の廊下に出るドッピオは『墓碑名(エピタフ)』を出して未来を確認する。

 ・・・・・・誰にもバレていないようだ。というか、屋敷に他の人物がいるような気配もない。

(よし、さっさと逃げよう)

 ドッピオは足音を殺しながら廊下を隠れながら進んでいく。咲夜が案内した道を逆に辿れば一階に着くと思い進んでいく。

 ・・・・・・だが、いつまでたっても階段が見つからないのだ。

「・・・・・・あれ? おかしいな・・・・・・」

 まさか道に迷ってしまったのでは、と思い再び来た道を引き返そうとすると――――。

 道がない。

 そこはなんとッ!! 廊下の突き当たりだったッ!!

「こ、これは一体ッ――――!?」

 ドッピオはさっきまで通ってきた道だったはずの廊下が突き当たりとなっていることに驚きを隠せない。

「いやッ、これはスタンド攻撃だッ!! あの二人から離れたからッ! 恐らく進入者扱いされているんだッ!!」

 狼狽する進入者を見ていたのは一人。名前は無い。

 黒い服を着て長い赤髪をしており、頭からコウモリの羽が生えている女性だった。

(ふっふっふっ・・・・・・図書館秘書兼進入者探知係、小悪魔こと・・・・・・名前は無いんですけど・・・・・・。いいや、小悪魔参上ッ!!)

 ドッピオが気付かないかなり遠くから彼を確認していた。名前がないことにコンプレックスを抱えている小悪魔だ。

(さてさて、進入者をまんまと罠にハメることが出来ましたよ~~っ! あっとっは~♪ パチュリーさまでも呼んでとっちめてもらいましょ!)

 にやにやとする小悪魔はスタンド『ティナー・サックス』を使って紅魔館を幻覚で迷宮に変えていた。

 進入者を逃がさない為の能力だ。

 そんな事情を知らないドッピオは仕方が無く通れる廊下を進む。だが、小悪魔がうまく『ティナー・サックス』を操作しているため同じ場所をぐるぐると徘徊しているだけだった。

 だが、そんな時。小悪魔は思った。

(・・・・・・これって私、あいつから目を離さないようにしないと報告に行けなくない??)

 幻覚をいちいち変えるために小悪魔は常にドッピオを監視していなくてはならなかったのだ。そのため小悪魔もその階をぐるぐると一緒に回っていた。

 10分後。

「ちくしょォーーッ!! 何なんだよこの館はァーッ!!」

(ちくしょォーーッ!! 私も馬鹿みたいじゃあないですかァーッ!!)

 二人はお互いにもどかしさを覚えながらぐるぐると廊下を走り続ける・・・・・・。

 22話に続く・・・・・・

*   *   *

後書き

 咲夜 V.S.レミリアが見てみたい人いますか? これぞ二時創作の醍醐味でしょう。
 キャラ崩壊の著しいこの作品ならではのカードだと思います。
 それに個人的に題名が超お気に入りです。『十六夜咲夜一揆』とか、声に出して言ってみたくなりますよね(なりません)。

 いまいちおぜうがキラークイーンを使いこなせてない感が否めませんが、彼女はここぞ! という時以外能力は人に見せないという『奥義は隠すもの』主義なので了承してください。おかげでレミリアはロクなスペルカードも切ってませんよ。グングニールくらいです。

 あと、・・・・・・小悪魔ェ・・・・・・。いや、もう何も言うまい。

 ここまで読んでくださってありがとうございます。では、22話でまた。 
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