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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-8 74層攻略
  Story8-2 楽しい夕食

シャオンside




第61層主街区、セルムブルグ。

階層面積の大部分を湖畔が占め、湖の上に浮かぶ城塞都市が61層の主街区だ。

中心部には高くそびえる古城が佇み、街全体が白練
の花崗岩を材質とした美しい街並みを特徴としている。
キリトの住む暗い色の割合が多いアルゲードに対し、セルムブルグや俺の住む52層ソーレンスは真逆の明るい色が大部分を占めているため、見栄えも良い。








現在アクティベートされている全階層中、住みたい街上位に入るであろう主街区なのだが、売りに出されているプレイヤーホームはさほど埋まっていない。それもそのはず、街にある家はどれをとっても値段が高く、おいそれと手出しできる金額ではない。


そんなセルムブルグに、今回食事の場を快く提供してくれたアスナはマイホームを持っていた。







アスナに招かれた俺たちは、初めて彼女の家を訪れる。

「それで、メニューはどうするんだ?」

「そうだな……アスナ、なんかいい案ない?」

「そうね……どうせならシチューにしましょう。ラグーっていうぐらいだし」

「異議なーし!!」

女子二人の意見にこれといった異論はないため、夕飯のメニューがシチューに決定した。


シチューと付け合わせのサラダをアスナが担当し、パンをフローラが担当することにした。



アスナは日頃から使っている包丁を取り出し、バットにオブジェクト化したラグー・ラビットの肉を置く。大きな塊肉の上に包丁をかざして一振りすると、細分化されて大きめの肉片に変化した。

食材の上に包丁を掲げて振るだけなので、キリト曰く「現実よりも楽そうでいいな」という感想なのだが、二人にとっては違うらしい。

「「むしろ簡略化しすぎて味気ない」」

「そっすか……」

細かくした食材を全てモスグリーンの鍋に入れ、蓋をしてオーブンに入れる。タイマーをセットして時間がくれば、自然と出来上がっている仕組みだ。
待っている間、アスナはサラダの調理を開始。

「食器の準備しとくぞ?」

「うん、お願い」

棚から食器を取り出し、テーブルに並べ始める。キリトも手伝い、あっという間に白い皿がテーブルを埋め尽くした。



それからほどなくして料理は完成し、調理台にメインディッシュの入った熱々の鍋を置いた。四人が鍋を囲んで担当のアスナが蓋を開けると、その瞬間に湯気が立ち昇る。


蓋を開けたと同時に解き放たれた香りの爆弾は、その場にいた全員の鼻孔を刺激する。

濃いブラウン色の海にはゴロゴロと大きく色鮮やかな野菜達が漂い、肉の旨味が溶けたシチューが、これでもかと染み込んでいるのがわかった。シチューもさることながら、気のせいかメインである大粒の肉が輝いてさえ見える。
皿に盛られたシチューが卓上に並ぶと、まずは手を合わせて感謝の意を示した。銀の匙をとり、シチューと肉をすくって口へと運ぶ。


俺ら四人の感想は『美味い』だが、それ以上に感じた事を言葉にして一斉に言い表した。

『生きてて良かった〜』



とにかく、忘れられない味だった。

「でも、不思議だよね」

そんな時、フローラが口を開く。

「何だか、この世界で生まれて今までずっと暮らしていたみたいな……そんな感じがする」

「うん」

アスナとフローラ。2人はそう感じているようだ。

「ああ、オレも最近、あっちの世界の事をまるで思い出さない日がある」

キリトも同じようだった。


俺も……

「同感。


クリアだー、脱出だー、とか言って血眼になる奴が少なくなったかな」

「だって、攻略のペース自体落ちてるもん。今最前線で戦ってるプレイヤーなんて500人いるかいないかだよ。

危険度のせいだけじゃない。皆、馴染んできてる。この世界に」

フローラはそう答えた。



だが、キリトは疑問に思ってもいた。

「俺は本当に還りたいと思っているんだろうか。

あの世界に」

毎日、毎朝早くに起きだし、危険な迷宮区に潜り、未踏破区域をマッピングしつつ経験値を稼いでいるのは、本当にこのゲームを脱出したいからなのだろうか。



昔は何時死ぬとも知れないこのデスゲームから早く抜け出したかった。


しかし、この世界での生き方に慣れてしまった今は……

「でも、わたしは帰りたいよ」

キリトの内心の迷いを見透かすような歯切れの良いアスナの言葉が響く。


そしてそれに続いて

「わたしも帰りたい」

フローラもそう言い、

「そうだな、約束したこともあるし、心に決めてることもある」

俺も頷いていた。

「だって、あっちでやり残したことだっていっぱいあるんだから」

アスナは微笑みながら続けた。

「そうだな。オレ達ががんばらなきゃ、サポートしてくれる職人クラスの連中に申し訳が立たないもんな」

消えない迷いを一緒に飲み下すように、お茶をキリトは飲み込んだ。
珍しく素直な気分で俺はどう感謝の念を伝えようかと言葉を捜しながらアスナを見た。


すると、アスナは顔をしかめながら目の前で手を振り。

「あ……あ、やめて」

と言うが、キリトは一体何のことなのかは判らないから、訝しんでいる。

「な、なんだよ?」

そう聞くが、次のアスナの発言で、一気に動揺してしまうのだった。

「今までそう言う顔をした男プレイヤーから何度か結婚を申し込まれたわ」

「なっ!!」

当然、そんな事言った経験の無いキリトは口をパクパクさせていた。

「ぶほっ!


何をいきなり言い出すんだよアスナ!」

俺は飲んでいたココアを吹きそうになった。

「あはは…………」

フローラも笑っていた。
そしてアスナはそんなキリトを見ると、ニンマリ笑った。

「その様子じゃ、他に仲のいい子とかいないでしょ? 君は」

「悪かったな……いいんだよソロなんだから」

「せっかくのVRMMORPGなのに、もっと友達作ったら良いんじゃない?」

アスナは終始、笑顔でそう言っていた。
















暫く4人で笑った後。

「そういえば、キリト君、シャオン君。君達はギルドに入る気は無いの?」

「……」

「うーん……」

そのアスナの問いにキリトは笑みを消した。

「Bテスト出身者が集団に馴染まないのは解ってる。でもね」

アスナの表情が更に真剣味を帯びた。

「70層を越えたあたりから、モンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきてるような気がするんだ」

アスナのその言葉。
それはキリトは身にしみている事だ。

「アスナの考え、間違いじゃない」

「やっぱり……

だから、ソロだと想定外の事態に対処できない事があるわ。いつでも緊急脱出できるわけじゃないのよ。
パーティを組んでいれば安全性が随分違うって思う」

それは、キリトの事を想っての事だ。
キリトの実力は知っているけれど、それでも……

「安全マージンは十分に取ってるよ。忠告は有難く受け止めておくけど、ギルドはちょっとな。それに……」

キリトはよせばいいのに強がって余計な事を言うのだった。

「パーティメンバーってのは助けよりも邪魔になる事の方が多いし、俺の場合さぁ」

「あら?」

アスナの反応は早かった。

キリトはそう認識したと同時にだった。
アスナの右手に握られていたナイフがピタリとキリトの鼻先にすえられた。

「言わんこっちゃねぇよ」

俺は、アスナの細剣スキルを見てカップを片手にそう呟いた。
これは、彼女達が必殺とも呼べるシロモノに昇華させた細剣の基本技。
技の軌道を目視する事が至難だと思えるほどに。
もちろん、俺は簡単に見えるけどな。


キリトは直ぐに両手を挙げていた。降参のようだ。

「にしても随分と自信家になったもんだな?」

「なーんか失礼しちゃうなー……」

フローラもアスナの様に突きつけたりはしてないけれど、ナイフをペン回しの要領で回す。

「わ、解ってるって、強がったんだよ。あんたらは例外だ」

アスナは次にはナイフをクルクル手の上で回しながら、ある提案をした。

「なら、暫く私とコンビを組みなさい。私の実力もちゃんと教えて差し上げたいし」

「ななっ!なんだそりゃ!!」

キリトはあまりの理不尽ないいように思わず仰け反っていた。
アスナは気にせずにどんどん続ける。

「だって、私の今週のラッキーカラー、黒だし?」

「はぁっ??」

「黒だったら絶対キリトだな。

俺のは藍色だし」

「よけーな事言うな!!」

だが、まだまだ反撃する材料は残っている。

「別に良いじゃん。


だって、血盟騎士団はレベル上げノルマとかないしー。

それに、パーティ組むならあの護衛も置いていけるしね?一石二鳥、それ以上!」

フローラも笑いながらそう言っていた。



キリトは反撃材料全て失ったようだ。


だが、正直、キリトにとっては魅力的な誘いではあった。アスナはアインクラッド1、2といっても良い美人だ。



そんな美人とパーティを組みたくない男など、いないだろう。

だが、そうであればあるほど、アスナの様な有名人が何故?と言う気後れが先にたつ。
当然、キリトにはアスナの心の機微なんてわかるはずも無い。





だからこそ、キリトは根暗なソロプレイヤー。憐れまれているのだろうか、と後ろ向きな思考に囚われていた。

「最前線は危ないんだぞ?」

キィィィン

そう言ったほとんど一瞬の出来事、凄まじい轟音が部屋に響いたのだ。
再びアスナの右手のナイフが持ち上がってさっきより強いライトエフェクトを帯びている。


それを見たキリトは慌ててこくこくっと頷いた。

でも思うのは、何故『自分とパーティを組みたいのか?』と言う事。

キリトは最前線攻略プレイヤーの中で特に目立つわけでもない。
……なのになんで自分なのか?と思っているだろう。



キリトはこれ以上拒否なんて出来るはずもなく意を決して言う。

「わ、解った。じゃあ、明日朝9時、74層のゲートで待ってる」

「ふふっ!」

「あはっ!」

キリトの返事を聞いて、アスナは勿論、フローラも強気な笑みで答えていた。
折角の機会だし、フローラも断ってほしくなかったから、加わったのだろうか?


未だに息がぴったりだという事はよく判る。




そしてアスナ、キリトと少し離れたところで、フローラは俺の傍へとやってきた。

「そーだっ!ね、シャオン君っ!」

「ん?」

「私達も、明日、久々に一緒にいこ?」

ニコリと笑いながらそう言う。
俺に断る理由はない。

「OK」

「うんっ!」

そして、ひとまず今日は御開きと言う事になった。
もう時間も時間で、深夜だから。

「じゃあ、今日は……まあ、一応お礼を言っておくわ。ご馳走様」

「こ、こっちこそ。また頼む……って言っても、もうあんな食材アイテムは手に入らないだろうけど」

「え?そんなの、腕次第だよ?」

「ごもっとも」

アスナは、名残惜しそうに手を振ると、キリトもそれに答えて手を振る。



帰り道、少し歩いたところで俺は呟く。

「フローラ、キリト、この状況、ホントにヒースクリフが望んだ状況なのか……?」

「なんとも……」

「……言えないね」















Story8-2 END 
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