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地連のおじさん

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第三章


第三章

「自信は」
「まあそう言わずに。三曹も」
「私もですか」
「期待してますから」
 こうして彼等は地連で働くことになった。高校や大学の入り口でビラを配ったり街でこれはという若者を見ては声をかけて。そうして人が来れば。
「つまり自衛隊はですね」
「こういう組織でして」
 真面目に話すのであった。自衛隊についてだ。
「それでどうでしょうか」
「どの試験を受けられますか?」
 さりげなく人材を勧誘する。そんな日々だった。
 これまでの教育隊での隊員達との交流がなくなりそのかわりに新たに入ろうという若者と会ったりそうした若者を獲得しようと動き回る。それがであった。
「いやあ、毎日大変だねえ」
「全くですね」
 二曹も三曹も休憩で入った喫茶店の中で困った顔で話していた。コーヒーを飲んでいるがそのコーヒーがやけに苦い。
「それにしても御前のスーツって」
「何ですか?」
「やけにぼろぼろじゃないか?」
 三曹のそのスーツを見ての言葉である。確かにかなりくたびれている。
「どれだけ外を動き回ってるんだ?」
「一応勤務時間内ですけれど」
「それでもよくそんなにぼろぼろになるな」
「今言われて気付いたんですけれど」
「そうなのか」
「それに土井さんも」
 三曹の方から二曹に話す。
「そのスーツって」
「似合うか?」
「いえ、全然」
 似合わないというのである。
「っていうかスーツ着たことありました?」
「地連に来るまでなかった」
「だからですか。そこまで似合ってないのは」
「この前仕事で教育隊に行ったんだけれどな」
 このことも三曹に話したのだった。
「するとな」
「何か言われました?」
「皆から似合わないって言われたんだよ」
 実際にそう言われたというのである。
「これがな」
「やっぱりそうですか」
「そんなに似合わないか」
「それだけ見ても地連向きじゃないって思えますけれど」
「けれど今はここにいるからな」
 仕方ないと自分で言うのであった。
「むしろ剣道の斉藤さんの方がスーツ似合うよな」
「まあそうですね」
 教育隊の剣道の教官である。階級は二曹である。
「あの人なら。ただあの人は」
「殆ど剣道着ですから」
「けれど俺より似合うんだな」
「絶対に」
 まさにそうだというのである。
「そう思います」
「そうだよな。あの三尉もなあ」
「あの人なりに必死にやってますけれどね」
「自衛隊は幹部で動く組織じゃないからな」
 これはどの軍隊でも言えることだ。軍というものは実は将校では動かないのだ。これがかなり重要である。
「下士官で動くからな」
「曹で、ですね」
「それ俺達だな」
 その下士官の彼等である。
「やっぱり」
「とりあえず誰か確保しました?」
「一人な」
 こう三曹に話す。コーヒーカップを片手にだ。
 
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