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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百七幕 「青天の霹靂」

 
太平洋上で激突したISとゴーストの乱戦は、新たな動きを見せていた。
というのも――なんと一夏が威勢のいい啖呵を切った直後、シルバリオ・ゴスペルが怒りの二次移行(セカンドシフト)を果たして一気に形勢が逆転したのである。

唯でさえ今までも厄介極まりなかった機動力が、エネルギー集積ウィングによって更に加速、おまけに火力も飛躍的に上昇し、一夏、シャル、ラウラはさっそく押し返されていた。

「ぎゃぁぁぁーーー!?生意気言ってすいませんでした!だから撃つのやめてくれぇぇーー!!」
「言って通じる相手か、織斑!!お前もさっさと応戦しろ!!」
「何て弾幕……これ、正面から撃ち合うのは唯の馬鹿だよね」

神々しく広げられた幾重にも重なる光の翼。そこから放たれる夥しい量のエネルギー弾に、3機は懐に入り込む隙を見いだせずにいた。
連射制限なし。射角制限なし。そして広範囲というクソ武器三拍子が揃ったシルバーベルを前にして早速作戦がとん挫である。当初の予定ではシャルで足を止め、ラウラのAICで動きを封じたうえで零落白夜が止めを刺すことで終了する筈だった。だが、どっかの誰かさんがリベンジよろしく先制攻撃を仕掛けたことでゴスペルの底力を解放させてしまい、今に至るのである。

しかも一夏にはそれに加えて更なるハンデが存在した。

(ぐっ……!!歌だ!またアレが聞こえる――!くそっ、頭が変になりそうだ!)

最初にゴーストとゴスペルの戦いに出向いた時に感じたそれと同じ、頭の裏側をかき乱すような歌が聞こえる。
集音マイクやオープン回線には一切反応のないそれが、一夏の集中力を激しくかき乱していた。今もシャルから借りたアサルトライフルを撃ちながらゴスペルを迎撃していたが、その射撃は明らかに普段以上に精細さを欠いていた。

一夏が働けていない分をカバーするように射撃するシャルが、ハンドサインで避けるよう指示を出す。従ってその場を離れた瞬間、ゴスペルの射撃が僅かながら強くなった。少しずつ、向こうは狙いを絞ってきているのかもしれない。

「一夏?ひょっとしてまだ本調子じゃないんじゃないの?」
「足を引っ張るくらいなら後ろに下がった方が賢い選択だぞ」
「だ、大丈夫だ!もう少しで……」

険しい顔を隠しきれないままなんとかゴスペルの猛攻を避ける。性能的には他の二機より上であるためになんとかついて行けている。ラウラはレールガンを放ってゴスペルの体勢を崩しながら、険しい口調で一夏に問いただす。

「その発言はアテがあっての事だろうな!?いいか、奴を拘束するには捨て身で行く覚悟が必要になる!そして捨て身は一度しか使えん!お前がその調子ではカードを切れんだろうが!」
「多分だけどな!箒が相手にしてるゴースト……あれが倒れれば!」

一夏は、あの後セシリアからプライベート通信で「歌」の話を交わしていた。
セシリアにもあの歌が聞こえていたのだ。あまりに証拠がないため他のメンバーには言い出せずにいた一夏にとっては渡りに船だった。そして、セシリアの話によると「歌」はゴーストから発信され、白式が受信しているらしい。
それが何のための、どのような伝達形式で送られる歌なのかはいまだに分からないが、現に一夏はその歌によって戦闘に支障をきたしている。

ならば、撃墜するしかない。

(箒、セシリア!頼んだぞ……!)

この期に及んで他人に頼るしかない己の愚鈍さを呪いながら、一夏はそれまでに生き残るためになけなしの集中力を振り絞った。



 = =



残像が走るほどの速度で襲いくるアンノウン――ゴーストを、赤と青の光が追う。
追い立てるように次々放たれるレーザーと、それを迎撃するレーザーで空は彩られ、息をのむほどのドッグファイトは長期戦の兆しを見せていた。

BTアサルトパックは、BTを本体と連結させることでレーザー砲台として使用が可能だ。加えて箒の駆る紅椿は武装の雨月によって移動中もビーム兵器を使用できる。逆を言えば、その2人がかりで砲撃しているにも拘らずあの化物はそれを回避し続けているということだ。

皆さんに分かりやすく説明すると、ラウラ相手にノーダメージだった佐藤さんの機動より速いと言う事である。

世界のどこかで「またネタに使われた気がする!!」という悲鳴が上がったかどうかは定かではないが、その速度は文字通り人間の反応速度を超越している。それでもセシリアにはこんな得体のしれない無人機にブルー・ティアーズと自分が負けるなど万に一つもあり得ないと確信している。
寧ろ心配するのは長期戦に陥ることだ。
時間をかければあれには勝てる。だが、セシリアの見立てによるとあれは一夏の行動を阻害しているのだ。現に一夏はとても動きが悪い。

暴走状態にあり無尽蔵にエネルギーが生成されている可能性のあるシルバリオ・ゴスペルが相手となると、それを現在のバリアエネルギーで全て削りきれるかは怪しい。だからこそ、ゴスペルが二次移行などという状態にならなければ長期戦でもやれない事はなかったのだ。

だが今は違う。あれを確実に無力化させる力があるとすれば、それは白式の零落白夜を於いて他にはありえない。反バリアエネルギーによる特殊な対消滅によってエネルギーの生成を上回る速度で力を奪えば、あれの暴走も止める事が出来る。そのために一夏の動きを阻害ずるあれを何としてでも叩かなければいけないのだ。

そしてそのためには――

「それで、箒さん!?例の隠し機能の使い方は分かったんですの!?」
「も、もう少し時間をくれ!!あと少しで分かりそうなのだ!!」
「ああもうっ!わたくし、たった今から篠ノ之博士が嫌いになりそうですわ!!マニュアルくらい用意しておけばいいものをッ!!」
「同感だ!私もあの人のそう言うテキトーな所が大嫌いだからな!!」

本人の知らない所で株価大暴落中だが、この世界の兄やら姉にはよくある事なので今更気にする必要もない。

箒は相手の攻撃に晒されながら考える。
一方はなんとなく想像がついている。おそらくあの人のことだから、もしも味方が全滅しても私だけ生き残れるついでに応用も利くような機能を仕込んでいるに違いない。多分だけどバリアエネルギーを回復したり、それを譲渡させるような力だろう。
ISはバリアエネルギーなしには唯のがらくただ。逆にエネルギーさえあれば自己修復機能も動いてずっと戦闘続行が可能だ。つまり最重要であるエネルギーに関連する力を、あの身内びいきなら入れる。
(※全て箒の想像です。教えられたりはしていません)

問題はもう一つだ。おそらく攻撃方面に役立つ何かをあの人なら入れている筈だ。何故なら戦いとは相手を打倒せねばならず、その攻撃こそが身を守る術にも繋がるからだ。だからてっきりメインウェポンである剣に何かしらの隠し装備を仕込んでいるだろうと踏んで探していたのだが、一向に見つからない。

「私は剣士だ。だから姉さんなら剣に関係するものを仕込んでいる筈なのだが……」
「貴方の二刀が持つ機能とは違う物が、ですか?」
「ああ。くっ……何か手がかりがあれば……!!」

直後、ハイマニューバミサイルが2人に飛来し、緊急機動でかろうじて回避した。

手がかり――そういえば、と箒はあることを思い出す。
それは、紅椿を受け取った直後に姉と交わした会話――。


 =

『姉さん。装甲板に何か挟まってるんですが……巻物?』

『ああ、それは確かチカちゃんからのメッセージだね!広げてごらん!』

『どれどれ……『剣は抜かずに済めば無事太平』………戒めでしょうか』

『ううん、隠し機能のヒントだよ?』

『えぇー……マニュアルないんですか?……無いでしょうね、姉さんはそういうの作らなそうですし』

 =


「剣は抜かずに済めば無事太平……剣は抜かない……?しかし、剣士から剣を奪っては戦う術がない。一体何を――」

その考えに浸りそうになった箒は、ゴーストの接近を許す。

「な、しまっ……くっ!!」

仕掛けてきたのは、体当たり。あの驚異的なまでの加速度に接触でもされたら空中で錐揉みにされる。そう判断した箒は、反射的にゴーストへあるものを繰り出した。

「こんのぉッ!!」

ガリン、と音を立ててゴーストの装甲と接触しながらも直撃を免れたそれは――箒の想い人である真琴先輩直伝の蹴りだった。それによってゴーストを蹴ったことで、何とか直撃をまぬかれたのだ。

「蹴り……姉さんならそのことも知っている筈………!!そうか、そういうことか!!」
「箒さん!?掴みましたの!?」
「ああ、間違いない!!恐らくスピード勝負になる。だから、セシリアは『ヴァリスタ』の用意をしてくれ!!私があいつの動きを止める!!」

そう叫んだ時には、箒はもう前へ飛び出していた。既に確信に至っている箒は、その機能を内蔵した姉と、ヒントを残してくれたチカさんに――姉4割、チカ6割くらいで感謝しながら、呪文のように唱える。

「剣は抜かずに済めば無事太平、されど時に寄りては抜かざるもまた愚かなり……ならばッ!!」

箒は目を固く閉じて二本の剣を逆手に持ち――


――それをそのまま自分のISの脚部装甲に無理やり刺し込んだ。


「なっ……ほ、箒!?」
「箒さん、何を……!?」

その自傷に周囲が目を向いて叫ぶ中、箒だけが対照的に落ち着き払う。
やがてゆっくりと目を見開いた箒は、己の考えが間違っていなかったことを確信する

「……やはり、そうか!!」

足に剣が突き刺さる痛みなど存在せず。貫くはずの刃がエネルギーへと変換され、脚部に柄ごと吸い込まれるように寄せられ、膝付近の装甲へと組み込まれる。直後、紅椿を中心に凄まじいエネルギーの奔流が爆発した。

みしり、と空間が歪む。
バチバチと耳を刺すような雷鳴が、紅椿を輝かせる。奔る稲妻は紫電となって箒を包み、歓迎する。

ようこそ、戦士よ。よくぞ剣を捨てる覚悟をした。ならば、貴様に抜かざる力を授けよう。
そう囁くように、紅椿のエネルギーゲインが振り切れる。

奔る紫電は一気に脚部へと吸収され、脚部装甲が光と共に形を変えた。
よりしなやかに、より力強く、無駄なく、疾く、脚そのものが稲妻の一部となるような――

「紫電のように煌めき、精白な霜のように清らかなる淀みなき瞬蹴――『紫電清霜(しでんせいそう)』、解放!!」

激しいスパークを放ちながら、紅椿のもう一つの姿が世に解き放たれた。
剣に回すはずだった全てのエネルギーを脚部と速度に注ぎ込むことで短期間のみ実現する『紫電清霜(しでんせいそう)』。その実態を――ゴーストはその直後に知ることとなる。

形態移行によって発生した強力なエネルギー波が消えたことで、ゴーストは漸く紅椿に手を出せるようになった。周囲を囲んでいたあの帯電が今まで「変身中に攻撃されない」という状況を作り出していたのだ。
これでゴーストは紅椿への攻撃が可能となった。目標に瞬時に、機械的にロックオンをした。
だが、この時点でゴーストは気付いているべきだったのだ。

自分が攻撃できるようになったという事は、相手も攻撃できる準備が整ったという事を。
瞬間、紅椿の姿がゴーストのレーダーから掻き消えた。

『!?』

直後、バチィッ!!という耳を劈く爆音と共に、ゴーストを真下から突き抜けるような衝撃が襲う。

その胴体に叩きこまれたのは――電光を纏う箒の蹴り。

「直撃……取ったぞ!!」

ゴーストのどてっ腹にその蹴りを叩きこんだ箒が、冷や汗交じりににやりと笑った。

それが、本当の反撃の狼煙だった。
  
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