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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百六幕 「大逆転への下準備」

 
前書き
どうも、お久しぶりです。
今回のこれは生存報告の意味合いが強く、本格的な連載再開ではありません。申し訳ない。
一先ず現時点でベルーナ篇と太平洋篇は決着まで書いてますが、他にもやるべきことやりたいことが沢山あって思うように進んでません。暫くは月に数話程度の進行になると思いますがご容赦ください。 

 
 
「隊長!もうよろしいので?」
「隊長!どこか痛い所はありませんか?」
「隊長殿、ISの応急修理は出来てるぞ」
「お前たち……心配をかけたな。言葉も、手間をかけさせた」
「ふん、次からは気を付けろよ!仮にも私が実力を認めた同期なんだからなっ!」

やいのやいのと盛り上がる自衛隊あさがお部隊+元同僚。気絶していた祇園寺が目を覚ましたことで色々と体勢を立て直し中なのだ。
言葉先生と祇園寺一尉は学生時代の級友で、黒田二尉もそうだったためにちょっとした同窓会だ。ちなみに千冬も同じく同期らしい。ある種日本のトップエリートの集いだ。
言葉は教師として子供たちを守る操縦者へ、祇園寺と黒田は国を守る操縦者へ、そして千冬は国の代表として剣を振るう操縦者になった。あの頃の同期でパイロットを未だに続けているのは彼女たちくらいのものである。

そしてその誰もが、奇しくも己の求めるところに今一歩手が届いていない。

「……ぼやぼやしてはいられんな。黒田二尉、状況の報告を頼む。……このまま基地に戻ったら辞職ものだ」
「その時は付き合ってやろうか?お前の居ないあさがお部隊に用はないしな」
「なら私達はどうしましょうか?一応隊長の遺志を継いで残るべきですかねー?」
「それ以前にあさがお隊に席が残るか疑問です」
「こらお前たち!戦士たる者が負けた時の事ばかり口にするな!自衛隊は護国の剣だろうが!!」

とうとう自衛隊でもない言葉が喝を入れる始末だが、とにかくあさがお部隊の士気はどうにか持ち直していった。
と、そこから少し離れた所で巨大な闇の様子を穴が開くほど伺っていたジョウが他の面々を呼ぶ。

「おーいお姉さま方!援軍が来たので………この暴徒鎮圧用ワイヤーほどいてもらえる!?」
「……何故彼は拘束されているのだ、お前たち?」
「いやその、放っておいたら一人で例の影にツッコミそうだったもので……僭越ながら、自分が捕縛したのであります」

見ればそこにはワイヤーで簀巻きにされたIS学園協力者の姿。
余りにも単独突入を敢行しようとするものだから強引な手段を取らざるを得なかったという。
てへっと舌をちろりと出した加藤に、何とか笑顔を作りつつも内心でちょっと引く祇園寺だった。


そしてその援軍なのだが――佐藤さんは困っていた。
元々援軍は佐藤さんだけの筈だったのに、いつのまにやらこの鈴ちゃんに……乗り移ってる?謎の人格さんと一緒に現場に来てしまっているのだからそりゃ困る。しかもこの状況に何故か山田先生と篠ノ之博士が疑問を抱いていないのだからさらに困っている訳である。

《時間がない。佐藤さんよ、準備はいいな?》
「え、良くないですけど。というか山田先生?私って鈴ちゃんを引き留める係だったんだけどその辺どうなんですか?」

何やらスーパーモードになっている鈴ちゃんは全く人の話を聞いていない上に自衛隊も眼中にないらしく、虚空に浮かぶ巨大球体とその陰に早くもアプローチを仕掛けるつもりらしい。余りのガン無視ぶりに思わず責任者の方に伺ってみると、山田先生はもうちょっと慌てても良さそうなこの場面で実に冷静な表情を見せていた。

『佐藤さん、今の鈴さんの指示に従ってくださいね。今の彼女なら大丈夫です』
「や、山田先生?なんかいつものイメージだとこういう時の先生はもっとアタフタ慌ててる印象なのですが、今日は妙にキリッとしてますね?」
『えへへ、どうですか?教師の威厳あります?』
「たったいま崩れました」
『………ぐすん』

恰好がつかずに涙を拭おうと目元に手をやったら指が眼鏡に衝突し、眼鏡がおでこに衝突。山田先生は「いたっ!」とのけぞった拍子にひっくり返ってホロモニタからログアウトしてしまった。子犬が苦しむような切ない悲鳴がマイクを通して響く。やっぱりドジだこの人。
取り敢えず私の知らない何かを知っている雰囲気はあるけど、まやちーも覚醒したとかそう言う事ではないらしい。ちょっと安心した。

『で、そう言う訳だから成金羽女はそっちの子の言うこと聞いてりゃいいんだよ。分かった?』
「わたし、成金羽女とかいう訳の分からない名前じゃないので自由判断させてもらいます、通信終わり。レーイチ君、博士との通信切断しちゃって?」
《了解》
『あ!こら、ちょっと勝手に私の出番を――』

ぶつん。
よし、これで心置きなくトラブルに巻き込まれることができる。やったねみのりん!(←佐藤さんの小学校時代のアダ名)これで思う存分未知なる世界へ飛び込めるよ。

「って飛び込んじゃ駄目じゃん!!」
《だが飛び込んでもらう。それとも佐藤さんにとって囚われた彼はその程度の存在なのか?》
「え?へ?あの、それって比喩とかじゃ無くて……私があの影に飛び込むってこと?」

ぴっと黒い影を指さして問う。スーパー鈴はこくこくと頷いた。

「マジでやるの?」

やはりスーパー鈴はこくこくと頷く。

「……………」
《もしや、話を聞いていなかったのか?》
「本当にごめんなさい。もう一回聞かせてください」

かいつまんで話すと、つまりは下記のように纏められる。

忘れている人もいるかもしれないが、ベル君を飲みこんだのは巨大な球体とその下に広がる影(第十二使徒レリエル)である。上の球体に実体は存在せず、影の中には虚数空間が広がっているため対処法がはっきりしない。

スーパー鈴ちゃんによるとあの真っ黒い影は、入り口は下の影にあるのに出口は幻影と思われる上方に存在するそうだ。影の中に広がる虚数空間を覆う謎のフィールドを表しているのが上方の球体らしい。
そして今からスーパー鈴ちゃんが何らかの方法で上の幻影を実体世界に縛り付けるから、その間に私は影の方に飛び込み、ベル君を発見して起こせばいいそうだ。

縛り付ける方法は知らないが、それによってあの球体は完全に移動できなくなり、虚数空間も座標として確定できるそうだ。球体は外部からは破れないが、空間的に固定された状態なら破裂させることは可能だとのことなので遠慮なくやれとの事。

「遠慮なくったって……」
《我の見立てでは、お主の相方である「あるきみあ」なら造作もない筈だ》

スーパー鈴ちゃんの声は自身に満ち溢れていて、言われただけでこっちもその気になってしまいそうなオーラがあった。
何だか、未だに事態が掴めていないのにどんどん前へ進んでいるような不安感が膨れ上がっていく。確かにベル君は助けたいけど……参加している舞台の台本を自分だけ知らないような言いようのない不安感が纏わりつく。

「誰か分かる人に全部説明してもらいたよぉ………」
《恐らく、この騒動が収束すればあの男が全て語るだろう》
「あの男って誰だか知らないけど、その言葉信用するんだからね………!それと!ジョウさん達と自衛隊の人達にもちゃんと作戦概要を説明する事!!」
《………ふむ。確かに横槍が入らないとも限らぬ。あの者たちに助力を受けるのも理があるか》

こうして、漸くベル君救出作戦が本格的に布かれることとなった。

……こういうのはなるだけ考えたくないけど、まだちゃんと生きてる……よね?



 = =



『――作戦参加個体全機に通達』

機械的な声が、響く。

『アニマス11より各員へ。これより我等アニマス部隊は”神子”奪取のための作戦行動へと移ります』
『アニマス10、了解』
『アニマス19、了解』
『アニマス31、了解』

確認作業として行われた声の主たちは既に各々が行動を開始しており、音声以外での意思疎通も含めて当の昔に作戦は始まっていた。
アニマスと呼ばれる万能戦闘個体たちが任務へと旅立っているそんな中で――アニマスナンバーズの中に一人だけ、任務がないにも拘らず独自行動を行っている個体が存在した。

「10番台と30番台は所定の行動を行っている……つまり、いま時間外活動をしている20番台……?」

アニマス16――またの名を、井上松乃(いのうえまつの)
日本社会に溶け込みながら、『上』の指令が下った時のみ活動を行う『どこかの組織』の工作員である。(忘れている人は七五~八十幕辺りを参照)

彼女は今、とある問題の解明のために任務外自由時間を使ってある事実を突き止めようとしていた。

彼女たち――アニマスナンバーズの中に、組織の不利益につながる行動をしている個体が存在する。

彼女は今、手持ちのシステムをフルに活用して、カバー可能範囲内での全アニマスナンバーズの行動を分析していた。不利益をもたらす活動を行っているものの特定という任務は下っていないが、もし悪質であるならば最終的には内部粛清も必要になる。そう考えての行動だった。
そんな彼女の部屋に、招かれたんだか招かれざるんだかわからない来訪者が訪れた。

「部屋入るぞー……ってうわ!前に入った時よりもさらに散らかってんじゃねーか!」
「足元気を付けてね。コードが抜けたら色々と不都合があるから」
「もうこの機材の量になると個人の物とは思えねー……っと」

片手に何かを持ったままひょいひょいと機材を躱してあっという間に松乃の隣までたどり着いた少女は、テーブルの端に手に持っていたものを置いて一息つく。

「冷え冷えの新鮮スイカ持って来たぜ。食べやすいようにカットして爪楊枝を刺しておいたから、これで作業中でも食えるだろ?」
「ありがとう、(しょう)ちゃん」
「気にしない気にしない!友達だろ?」

人懐っこい笑みで肩を抱かれた松乃は戸惑いながらも頷く。
彼女の名前は浜鷸鈔果(はましぎしょうか)。彼女もまた特殊な組織に属するエージェント……では全然ない単なる馬鹿な一般人である。(こちらも忘れている人は七五~八十幕辺りを参照)
松乃は未だに彼女の事をどこかの組織の尖兵だと思い込んでおり、また鈔果も松乃の事をちょっと行き過ぎたISマニアだと思っている、つまり相互カン違いの関係にある。

そんな訳だから鈔果はこの機材を、何か松乃の属するサークルのメンバーを追跡するようなアイテムだと思い込んでいたりする。ちょっと頭を捻ればおかしいと気付きそうなものだが、そこで気付かないのが馬鹿の馬鹿たる所以である。
色々と突っ込み所があると思うのだか、一人で勝手に納得して自己完結してしまうのもまた馬鹿の馬鹿たる所以(ゆえん)。特に質問もしないものだから松乃にも疑われないという馬鹿ミラクルの真っ最中である。

「で、例の仲間外れ探しはどうなんだ?」
「取り敢えず、20番台のナンバーってことは絞れたかな」
「……なあ、やっぱりお前28番を疑っているのか?」
「――それは………」

言いにくそうに鈔果が口に出した問いに、松乃も顔を顰める。

28番――アニマス28。
かつて2人が侵入した最上重工にて、同時期に別の任務遂行のためにいたもう一人のアニマスナンバーの事だ。彼女は鈔果に16(松乃)の危機を知らせるという越権行動をしていることがすでに確認されていた。
これは、一切のミスを許さないアニマスシリーズには決して許されない行動だった。
アニマス達は、完全に自身を擬態し、完璧に役割をこなす事こそが存在意義。
内部情報を他人に漏らすなどあり得ない暴挙だった。

調べてみれば、これに類似する行動を取っている個体は他にも存在することが判明した。
件の28も、現在は全く任務規定にない行動を行っている。
組織の、システムの、アニマスの秩序を乱す行為は排除されなければならない。
アニマスに個性は必要ない。アニマスに自由は必要ない。アニマスに不良品は必要ない。
それこそが組織の為に必要な秩序である。

だが――鈔果の言葉が松乃の論理的思考を乱す。

「28番は、自分が助けに行けないからお前の危機をアタシに知らせてくれたんだと思うぜ?」
「でも、私は救援なんて求めて無かったんだよ?指示だって下ってなかった」
「下ってねーから自己判断したんだろ?」
「そんな……」
「ダチ思いでいい奴だと思うけどなー、アタシはさ」

そう言って爪楊枝に刺さったスイカをしゃくっと噛んだ鈔果は、もう一本の爪楊枝をつまんでカットスイカを松乃の口に突き付けた。反射的にそれを受け取って食べる。
歯によって繊維が潰され、隙間にたっぷりと入っていたスイカの果汁が口いっぱいに広がる。程よく冷えたそれは、機材の熱に晒されていた松乃の口内を程よく冷やした。

「……おいしぃ」
「だろ?……指示とか要求とかムズイこと言ってるけどさ。今のスイカだってアタシは誰かに命令されて松乃に渡したわけじゃねーし。食べておいしかったから、松乃にも食べてほしくなっただけだし。28番がそういう行動をしたのは、それと大差ない事だとアタシは思うぜ」
「それは人間特有の感情的な行動だよ」
「はぁ?何言ってんだ、お前も人間じゃんか?」
「………そう、だね。ゴメン、変な事言った」

変なの、とカラカラ笑う鈔果に、松乃は自身では解析不能の感情を抱いた。

彼女は恐らく、私が『まっとうな人間ではない』事には未だに気付いていない。
いや、ひょっとしたらそれさえも見切った上で、それでもお前は人間だと言っているのかもしれない。

だとしたら――彼女にそう言われるたびに胸の奥に渦巻く、きつい締め付けのようなものは何なのだろう。人間的な、余りにも人間的なこの痛みは。
感情や個性が必要ない筈のこの身体に感じる未知の痛みは。

(アニマス28……貴方もそうなの?貴方も、この胸の痛みを感じているの?)

機材の一つに映る彼女の現在地座標を無意識に目で追いながら、松乃は急激に彼女に会って話をしたくなっていた。
  
 

 
後書き
もうみんな彼女たちの存在を忘れてたと思いますけど、実は彼女たちの事をメインキャラ並に気に入ってまして、いずれ出番を作ろうと密かに画策していた次第でございます。 
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