| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

読心魔道士の日々

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

2話 ギルドは平常運転

 
前書き
一時の気の迷いから生まれた小説の第2話です。
 

 
 オレンジ色をした楕円形の大きな扉。これを開くと、そこに広がるのは真昼間からビールを飲みつつ、喧嘩騒ぎをしているいい歳をした大人達。掲示板に張られた依頼をチェックしているのは、何がしたいのか、四六時中そこにいるナブ・ラサロという男性を除くと、2人しかいません。魔導士を数百人規模で抱える巨大ギルドとして見ると、異常な程に少ないのです。仕事をしない駄目な大人が多いものですね。

 ギルド建物に入ってきた人物など、露程も気にする様子はありません。残念ながら、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は今日も平常運転です。このお気楽具合は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の特色と言えるでしょう。

 私は数少ない適当に空いている席へ座り、ポーチの中から数冊の本を取り出します。態々、ギルドにやって来ましたが、特にやることがあるという訳でもありません。いつものように、本を読んでいるだけ。どうせ本を読むのであれば、静かな場所でゆっくりと読みたいものです。

 しかし、ギルドは街の大通りにあるため書店が近いだけでなく、ギルドのメンバーに私と同じく読書が趣味という方も何人かいるため、そういった人達と本の貸し借りや意見交換が出来る利点があるのです。これ等の利点のためならば、五月蝿さもBGMに変えてみせます。

私はポーチに常備している耳栓を取り出しました。



暫く本を読んでいると、問題児筆頭のナツ・ドラグニルが帰ってきたようです。耳栓をしていても、少しだけ響く声と熱気、間違いありません。

 彼は昨日から漁業で栄える港町、ハルジオンまで行っていました。メンバーからイグニールらしき目撃情報があったと聞いたため、それを確認しに行ったようですが、イグニールは竜です。

 竜が私の思い描く竜、つまり、鋭い爪と牙を持ち、翼をそなえ、空を飛ぶ、しばしば口からブレスを吐くという、巨大な蛇のような怪物であるならば、目撃情報が出た時点で町は大混乱、評議員からは急遽討伐討伐部隊が編成され、各ギルドには半ば受注が義務付けられた緊急依頼が届けられると思います。大方、魔導士の二つ名か何かでしょう。

 彼に、その目撃情報とやらを渡した人物は、その情報が人のものだと知りつつ渡したのでしょう。ナツ・ドラグニルという人物は頭が悪い訳では無いのですが、少々、頭の螺子が緩んでいるため、からかうと面白いのです。

 そんなことを考えているもつかの間、耳栓越しに聞こえる罵声の数々。成果の無かったナツ・ドラグニルが暴れ、それに周りが便乗。魔力が感知出来ることから、魔法も使った大喧嘩となっているようです。早めに遠くへ避難しておいた方が良いでしょうね。被害に遭うのは御免です。

 私がのそのそと移動の準備をしていると、一際大きな音が聞こえたと思うと急に静かになり、魔力も感じられなくなりましたが、私には関係ありません。総長(マスター)の堪忍袋が切れて、暴れていた連中が説教を受けているだけでしょうから。

 さて、今日は読書仲間もチームのメンバーと話しているようで、とても声を掛ける、もしくは掛けられる雰囲気ではありませんでしたし、今読んでいる本も、まだ読み終わりそうにもありませんし、少し早いですが帰るとしましょう。遠くへの非難という立派な理由もありますしね。

そう思い、歩みを進めていると――おや?




 突然ですが、魔導士になくてはならないものとはなんでしょう。とはいえ、答えは分かりきったもので、"魔法"なのですが。魔導士ギルドに所属していることは魔法を行使することが出来るという訳でして、例えば、ナツ・ドラグニルは炎を纏い竜を滅する、炎の滅流魔法を使います。

 勿論、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に属している私は魔法を使えます。

――"読心魔法"

 私の2つの目に映した、知能ある生命体の心を読み取ることの出来るという、効果は中々分かりやすい魔法です。私が産まれたときには既に使え、この世に生を受けて11年、何故か常に展開されています。幸い、この魔法の消費魔力は非常に少なく、時間によって自然に回復する量の方が勝っているため、魔力の枯渇などといった問題は起きていませんが、本当に何故でしょうね? 

 と、まぁ、そんなことは置いておくとして、この魔法は特に意識をしていなくとも目で見た相手の心を読み取るため、ふと、何気なく適当に目をやった場所にいる相手の心も勿論、読み取っています。

 私が今、目にやったのはギルドのメンバーであるマカオ・コンボルトという男性の家です。とはいえ、家主は不在で、家の前には何かを待っているような少年、マカオさんの息子であるロメオ・コンボルトが佇んでいます。まぁ、ロメオ君が待っている何かはマカオ・コンボルトその人なのですが。

 マカオさんは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士を馬鹿にされて悔しい思いをしたらしい息子に、すっごい仕事をしてきてほしいと頼まれたからという理由で、一週間前、本当にでっかい仕事を引き受けました。

 ハコペ山という山に生息するゴリラ型の凶悪モンスター、バルカンを20匹討伐する依頼です。バルカンは人語を解す程の頭脳を持っているうえに、人を大きく上回る体格と身体能力を持ち合わせ、おまけに、体を乗っ取る魔法を使うことができます。それを20匹だなんて、妖精の尻尾(フェアリーテイル)内では中位の実力とはいえ、マカオさんでは厳しいでしょうし、随分と無茶な依頼を受けたものだと思っていました。

 本人は3日で戻る予定だったようですが、まだ帰ってきていないことを見るとバルカンに接収されたか、倒されたのでしょう。ギルドの人員が1人減ったくらいにしか考えていませんでしたが、成程、その家族ならば、そうはいきませんね。3日で戻る予定だった父親が一週間も帰ってこないなら、息子が心配するのも自然です。どうしても、父親の"死"を連想してしまいまうから。……もう遅いかもしれませんが、少し、お節介を焼いても良いかもしれません。

「困ったらギルドに依頼すると良いでしょう。彼等は馬鹿ですから、報酬が少なくても、真剣に頼めば、力を貸してこれるやもしれません」

 ロメオ君の前まで行き、そう言ってから立ち去ります。ちらと振り返ると、父親を救う希望、そして、突然話しかけられた困惑とあれは誰だとという困惑が読み取れました。

 ロメオ君からしたら、突然話しかけてくる知らない人物……ただの不審者ですね、私。 
 

 
後書き
読心魔法は数ある読心能力の中で、東方のさとりをモチーフにしたものです。しかし、容姿はその妹のこいしから。……違うねん、さとりだと髪が被るんや。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧