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寄生捕喰者とツインテール

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次へとつながる予感

 
前書き
前の話でも書いた通り、この話で一巻目は終了となります。 

 
(『妙ダナ……エレメリアンの反応がごっそり現れたかと思ったらすぐに消えちまッタ……何じゃこリャ?』)

「あ……う……」

『オ、目ぇ覚めたか相棒(バディ)



 サーストが去ってから少しして、グラトニーは苦悶の表情を引きずりながら瞼を開いた。

 起きぬけのグラトニーが最初に聞いたのは、ラースのいつもと変わらぬ軽口調な声だった。



「……アイツは……」

『サーストの野郎カ。アイツはどうも私用中の私用で来たてらしくテ、んでこっちには興味ない訳じゃあないが特別ある訳でもないらしくテナ、何か小さく呟いてどっかいっタゼ』

「……」



 ラースが今にも溜息を吐きそうなほど呆れた声で言うが、グラトニーは何一つ返さず表情を崩さぬまま、自分の異形の左腕を見やる。

 そして、拳を力強く握った。



「負けた……」

『負けタナ。な~に相手が悪かったンダ、何せ序盤でラスボスが登場したみたいな奴だったシナ……一矢酬いれただけいいじゃねぇか』

「だから……ちょっとでも酬いれたせいで、余計に悔しい……」

『………ハ~~~~ァ』

「……ラース?」




 いやに大げさに溜息を吐いたラースにグラトニーが不思議そうな顔をする。そんなグラトニーへ、ラースはどうでもよさげな雰囲気で坦々と告げた。



『アノナ? 俺らの最終目標は“お互いの元の体を全て復元して、元あった生活に戻る事”何ダゼ。今度現れたって相手してやる義理もねェヨ』

「……けど、サーストレベルの……あんな奴がまた現れたら……」

『ラスボスがそうポンポン居てたまルカ。それに絶対数が少ないつっタロ。ここに来るんじゃないかとかそんな心配しなくていいんダヨ』

「……そう、だね」

『ソウソウ、明日から何時も通り食欲全開でアルティメギルに飛びついて行きゃいいんダヨ』




 口では軽い事をいいながらも、ラースは心の中で不安げに思っていた。それはサーストがまた現れるなどと言う、万に一つも有り得ない確率では無く、自身の目的についてである。



(『“奴” はクソったれなほど強イ。サーストの野郎も昨日今日でぶっ殺そうなんて思やしない筈ダ。普通に考えリャ、自己鍛錬は奴への対策を立てる事で大幅に時間を使うだろウシ……時間的には十分間に合ウカ。……ダガ……』)



 納得しかけて……しかしそれ以外にもまだ何かあるのか、声に出しているのなら苦虫をかみつぶしている様な顔をしそうなほど、実に嫌な雰囲気を醸し出しながら頭にもう一つの不安を浮かべる。



(『なんつーか嫌な予感がすんだよナァ……ざっと挙げても、この世界が一時別世界と俺らが移動に使う空間で繋がれた事、あれからもう既にかなり時間が経ってやがる事……そしてこの世界に広がった強いツインテール属性……キリがネェ』)



 だがラースはそれを言葉として表に出すことはせず、代わりに何時も通りな声色で、何時も通り名台詞をグラトニーへ投げかけた。



『さーて相棒、これ以上ここに居るといい加減軍隊……いやリポーターの方が確率が高いカ……リポーターとか記者とか来るだろウシ、自然破壊も甚だしいこの場所からトンズラしようぜ』

「うん……面倒臭いの御断りだから―――アレ?」



 不意にいい匂いが鼻につき、グラトニーはゆっくりと顔を上げる。その顔にボスンと何かがぶつかって、地面に転がり隆起した地面に当たって止まる。

 それは靄で出来ているかのような球体で、匂いはこれから立ち上っているらしい。

 拾い上げてしげしげと眺め、やがて彼女の頭脳では答えが出無かったか降参とばかりに、必要は無いのに胸元まで球体を持っていってラースへと問いかけた。



「コレ何?」

(『なーる程ナ、さっきの唐突な消失はサーストの奴の所為カ』)

「……ラース?」

『ハ……クッハハ……』

「? ……??」



 首を傾げるグラトニーに対し、ラースは抱いていた疑問が解決した事に、苦笑いの声を漏らす。


 感じたエレメリアンの反応は雑魚でもかなりの大群で、且つソレを率いていた将も別段弱いという訳ではないのはラースも分かっていた。

 ソレをサーストは瞬く間に倒したのだ……“渇きを癒したい”という自分勝手な理由で進路を塞いだ詫びに。


 恐らく向こうではツインテイルズが死闘を繰り広げていたか、今まさに死闘が開幕し様としていたであろう……そんな場所へ躊躇無く乱入して、実力のモノを言わせて蹂躙してしまったのだ。そりゃ苦笑いの一つもしてしまう。




「あの、ラース?」

『オオ、悪い悪イ。そいつは属性力の塊ダ。食っていい代物ダゼ』

「まさか……これ、サーストが?」

『そうなんじゃあねェノ? 他に思い付かなイシ』

「……考えてもしょうがない……頂きます」



 己の頭では明確な答えはおろか推論も出ないと判断して、グラトニーは属性力の塊を一口、また一口と齧っていく。

 何時もよりも大分遅くやっと食事を終えて、グラトニーは砂を払う動作も見せず立ち上がった。


 空を見ると、遠くにヘリコプターが何樹か飛来してくるのが見える。様々な要因が重なって結果長く居てしまったが、もう他に用は無いのでこれ以上長居は無用だろう。



『相棒ヨォ、傷が治るまではその姿で居ナ。瀧馬……人間の姿になったら傷が悪化する恐れがあるかラナ』

「わかった」



 それだけ言うとグラトニーは光も音も、そして揺らぎも無く消えていった。















 次の日の朝。


 幸い傷は粗方治った為に、グラトニーは瀧馬へ戻っていた。

 自分の左手を見つめたまま、瀧馬は静かに溜息を吐く。もう何度溜息を吐いたか、数えきれなくなっているのを瀧馬は感じていた。



『お早うさん相棒。早く学校行こウゼ』

「あのな? まだダルさが残ってんだが?」

『何言ってんダヨ、俺はあいつ等の反応が見たくて仕方ないんダヨ』

「……観束と津辺か」



 昨日の来た事を瀧馬は大まかに説明してもらっているので、自分が気絶している間に起こった珍妙な出来事も当然知っている。

 ……その説明の中には、ラースの因縁やサーストの恨み、嫌な予感などは入っていない。

 まだ話すには早いと、ラースがそう判断したからだ。最悪、何も話さず別れるという可能性も、頭に入れている。



 のっそりとか眼もかくやと言う遅さで起き上がった瀧馬は、いやいやながらもテレビを付けニュースを見始める。


 今朝のニュースで流れていたのは珍しくテイルレッドでは無く、山に起きた大規模と小規模の自然破壊の事であった。


 勿論の事ながら、大規模な方がグラトニーVSサーストの痕跡である。



「エラい騒ぎになっているかとも思ったが……割と何時も通りか」

『寧ろこの戦いを行ったテイルレッドの勇姿を見たかッタ、って感想ばっかりヤネ。マジでいつもとかわんねェナ』



 もうマスコット扱いからは抜けられなさそうなテイルレッドが愛嬌を振り撒くせいか、それともアルティメギルが小騒ぎ程度しか起こせないふざけた世界征服宣言を行ったからか……いずれにしろ、充分に危惧しなければいけない問題を、自然が減ってしまって残念だという事で片付けてしまっている。


 ソレを見て嫌な予感を感じていたラースはより一層不安になって来ていた。対する瀧馬はもう来ないと言われたからか、久しぶりに能天気で気楽な事を……実は考えていなかった。



(ラースはああ言ったが……何か隠している可能性は拭えない。仮にサーストはもうやって来ないとしても……単純感情のエレメリアンがもう来ないとは限らねえ……)



 上手く隠せてすらいない、ラースをガッツリ疑っているようだ。その疑いが敵味方ではない辺りは、信頼は一応の置ているのだろう事は……窺えるが。

 パンの欠片を口に頬り込んで次のパンが入った包装を破りながら、本当に久方ぶりな真面目なニュースの流れるテレビを、瀧馬は黙って咀嚼しながら見続ける。


 そして時間が来たのを確認して、制服に着替えて玄関から出た。





 遅刻しそうも無い時間なので通学路をゆっくりと歩く瀧馬は、途中でまたコンビニによって数個パンを買っていく。

 大きな菓子パンを一口で半分齧り取った事にラースが大笑いし、瀧馬はそれに苦々しい顔で言い訳を口にする。


 すると、そんなやり取りを行っている内に、ラースのお目当てであるテイルレッドこと総二と、テイルブルーこと愛香が、何時ぞやの銀髪の少女を引き連れて歩いているのに出くわした。

 頭を悩ませている光景に、ラースは歓喜の声を上げる。



『クハハハ! やっぱり悩んでやがるよ!! 相棒、あいつ等の会話聞いちゃワネ?』

「止めろ、趣味の悪い……聞くまでも無くサーストの事だろうが」



 瀧馬の言うとおり、まず間違いなくそれであろう。


 皆さまは知っての通り、総二達はサーストに思いっきり手がらを取られており、且つグラトニーの時以上に何者かすら分かっていないので、パンクせんばかりに悩む事必死だ。

 同時に、雰囲気もばっちりな中で覚悟を決めたのに、行き成りとんでもない実力の奴に横取りされた所為か、彼らの間に流れる空気は微妙な物となっている。


 だが、瀧馬の台詞にラースは否定で返した。



『チッチッチッ、肝心なのは話の題材じゃあ無く内容サ。どんな会話をしているのかが重要なんダヨ』

「……どうでもいい、何であろうと聞くのは御免なんだよ」

『チェ、ケーチ』

「ケチで結構、何とでも呼べ」



 そこで会話はストップした……かと思いきや、不意に瀧馬は上を見上げ、厳しい声で呟く。



「もっと……もっと強くならなきゃあな」

『別にいいだろ強くならんデモ。今の時点のグラトニーでだって、少なくとも戦闘での実力では圧倒的に上回ってんだかラヨ。余程の事が無い限りアイツらにゃ負けないッテ』

「その余程の事が今回起きたろうが。それに実力だけ挙げりゃいいってもんじゃない。グラトニーは攻撃一辺倒すぎる。サースト戦でようやく防御手段が手に入ったぐらいだからな……臨機応変に対応できるようにするためだ」

『ホント見た目に行動によラズ、意外と律儀な奴だこっテネ。まー良イゼ、そこまで言うんなら異論はねェヨ。一応のアドバイスもやるから鍛エナ』

「……おうよ」



 と、上げていた顔を戻した瀧馬は、歩幅を変えず歩みを止めず、しかし他は完璧にフリーズするという器用さを見せつけた。

 何故そんな事になっているかと言うと……目の前の銀髪の少女が突如として銃を持ちだし、ソレを愛華へ向けて熱線らしき弾を発射。しかし愛香はかなり熱そうなそれを素手で弾いて、全身を砕いてやるともいわんばかりに、銀髪少女の腕へと手を掛けていたからだ。

 ちなみに、そのやり取りの最中に大声で行われた会話で、銀髪少女の名前が“トゥアール”である事が分かったが、どうでもよかった事なので瀧馬は脳内には止めなかった。



「明らかな銃刀法違反と過剰防衛だろうが……俺が電話しと―――チッ、携帯家に置いてきたか」

『……相棒ッテ、常識人だよなホント。周りの奴等とかラブコメモノ張りにシカトしてんノニ』

「物語と現実を一緒にするんじゃねえ。ああいうのを見たら通報するのが普通なんだよ」



 常識人が非常識人の様に扱われるこの世界で、彼はもしかすると唯一の良心なのかもしれない。……他は、突き抜けたツインテール馬鹿に、言葉で説得するという事を考えられない過剰防衛娘、果てはスケールの小さい侵略者……いや変態達。

 明らかに瀧馬は別の意味で浮いているが、常識人である事に変わりは無い。


 目の前で何故だか景色がホワイトアウトしていきテロップが流れ始める謎の光景を目の当たりにした瀧馬は、目をこすり再び愛香にトゥアールが捕まって制裁を加えられているのを見て、先程のは夢であると決めつける事にした。



「……そうだラース。俺の体は?」

『聞いたのついこの間じゃねェカ。まだまだかかるッテ。暫くは聞いても同じことしか返せなイゼ』

「だが、出来てはいるんだよな?」

『あったり前ヨ。ちなみに俺の体の復元も同時進行中なんデネ』

「ハ、欲張りな奴だ」

『チッチッ、義理堅く自分を大事にするやつ、って言イナ』



 何一つ変わらない様に見える日常の中を、しかし日常では決してアリア無い言葉を交わしながら、瀧馬とラースは学校へと向かっていく。


「……ん」


 いやにまぶしく感じる空を、瀧馬は不意に見上げてみた。


 その時だった。




《ハーッッハッハァ!! ツインテイルズ! そしてグラトニーよ! ドラグギルディ隊長を倒したからと言って浮かれてはおるまいな!? もしそうならば気を引き締める事だ! ここから先は我等も本気で相手をしにいくぞっ!! まずはこの私、学校水着属性(スクールスイム)のタイガギルディが先陣をきらせてもらう!!》



 空中を切り取る様にして映像が映し出され、虎の風貌を持つ怪人が名乗りあげたのは。

 その言葉に、瀧馬は違和感を感じた。



「なんで……アイツらはサーストが倒した事を知らないんだ?」

『映像諸共いかれたんだろウナ。だからツインテイルズが倒したって判断してんだと思ウゼ。それぐらいできて不思議じゃアないノガ、俺ら単純感情のエレメリアンヨ』

「なるほど」



 前を見ると、同じ結論に至ったか慌てながらも徐々に落ち着いて行く総二と愛香が映る。一般人からも彼からも見えない位置まで移動して、瀧馬はにやりと笑った。



「それじゃあ、何時も通りの狩りと行くか……悔しい負け方をして鬱憤がたまってるんでな」

『オンヤァ? 恐怖してたんじゃなかったのカイ?』

「ふっきれた、ってことにしとけ」

『クハハハ! そうカイ! そうかいそうカイ!! それじゃあ――――』



 ラースはひとしきり笑うと、他人には見えぬ力場を作り出す。



『コネクトォッ!!』



 そして、ラースの叫びに合わせて瀧馬は拳を握り、腕を前にかざして―――――









「もちろん! ツインテール部だ!!」



「ごぶおっい!?」

『……何じゃい今ノ』

「知るかァッ!」




 珍妙な発言に転んでしまうのであった。


 
 

 
後書き
一巻終わりです。

次一つ挟んでから、二巻部分に入ります。


 
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