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尼僧

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第二章


第二章

 そこに入るとだ。彼等はすぐに空いている席に座った。その席はかなり年季が感じられるがそれでもしっかりとした造りだった。その席に座りすぐに注文した。
「団子を」
「それとお茶を」
「はい、わかりました」
 若い娘の店員がそれに応える。そうしてすぐに笹団子と茶が出て来たのだった。
 慶祐はその笹団子の緑を見てだ。まず言うのであった。
「何かこれはね」
「どうかしたのかい?この団子が」
「いや、奈良らしいね」
 微笑んで言うのだった。
「奈良にね。相応しいね」
「奈良らしいのかい」
「うん、何かそういうイメージなんだよ」
 ここで英吉利の言葉も口にしてみせたのだった。
「この緑がね」
「それは確かに」
 それは友人も認めた。
「奈良は山ばかりだからね」
「京都もそうだけれど少し違うね」
「そうだね。それはね」
「京都の山は離れたところにあるからね」
 それが京都であった。盆地であり街からは離れているのだ。京都にいると山は離れた場所から見えるものなのである。それが京都の山だ。
「ところがね。奈良だと」
「山と完全に一緒だからね」
「奈良の街とその周りはともかくとして」
「殆ど山と一緒だよ」
「だからなんだよ」
 まさにそうだというのである。
「この団子の緑はね」
「奈良に合っているというんだね」
「僕はそう感じたよ。それに」
「それに?」
「お茶もいいね」
 今慶祐は茶を飲んでみた。それは抹茶である。
「このお茶もね」
「奈良のお茶なんだろうね」
「間違いないね、それは」
 茶についても話されるのだった。
「団子と同じでね」
「そうだね。このお茶にしても」
「奈良に合ってるね」
 また言う慶祐だった。
「とてもね。それで」
「それで?」
「奈良の味かどうかはまだわからないけれど」
 その緑の団子と茶への言葉である。
「悪いものじゃないね」
「そうだね。味はね」
「うん、いいよ」
 こう話してであった。二人はその団子と茶を胃の中に入れた。それを食べ飲み終えた後で店を出た。その時にであった。
 二人は一人の尼僧と擦れ違った。丁度慶祐の横を通った。
 擦れ違ったその後で。彼は言うのだった。
「さっきの人は」
「今度はどうしたんだい?」
「いや、若い人だったな」
 まずはこう言うのだった。
「あの人は」
「そうなのかい」
「うん、若くて奇麗な人だった」
 そうであったというのである。
「尼僧には珍しい人かな」
「そういう訳でもないんじゃないかい?」
 友人はこう彼の言葉に対して返した。
「それは」
「いや、尼さんといえば世を儚んでなる人が多いじゃないか」
「それでどうなるっていうんだい?」
「悲しさの中で急に年老いて疲れた感じになるんだよ」
 そうだというのである。
 
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