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宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説

作者:hebi
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第三章 五話 戦闘の序幕

 
前書き
バルフォスのSAVOS(サーヴォス)の入手ルートとか、バハシュールのボンクラがキャロりん攫ってS・G社のカルバライヤとの経済協力を邪魔しようとしたとこを掘り下げたら面白い話が書けると俺のフロム脳が叫んでいる。 

 
ユニコーン ブリッジ

白野秋人率いるユニコーンは、スカーバレル海賊団の本拠地【ファズ・マティ】を攻略するためにファズ・マティ第一の守りであるメテオストームに突入を敢行しようとしていた。
白野の弟子であるギリアスは既に先行してメテオストームに突入している。彼がまずファズ・マティの手前で派手に暴れてファズ・マティの内部にたむろしているであろう海賊船を要塞の外に引き摺り出し、後からやって来た白野が共同してそれを叩き潰しその後要塞内部に突入するという手はずである。

「……んん?後ろから船が来る」

「艦種は?」

そういう理由で突入準備をしていたユニコーンのレーダーが、後方からやってくる艦船の反応を捉えた。測定によればエルメッツァの標準的巡洋艦程度のインフラトン排出量があるらしい。

「第二種戦闘準備。指示があるまで戦闘行動には移るな」

そう指示して白野はユニコーンの後部モニターに映る艦船を見る。

「…サウザーン級か」

サウザーン級は、エルメッツァ正規軍が頻繁に利用する標準的巡洋艦である。それなりの拡張性、武装スロットも巡洋艦としては豊富な方、指揮のしやすさ、そしてなによりカタパルトがくっついているのが特徴である。これに艦載機さえ積めば小マゼランの艦船で巡洋艦の対抗馬はほとんどは涙目になる。エルメッツァが空母タイプの艦船を開発していないのはコイツがやたら汎用性が高いからである。空母が必要になるような敵国は周囲に存在しないというのも一因であろう。

「スカーバレルのようではないが…通信、繋げろ」

「了解」

ゲイケットが後方からやって来るサウザーン級に通信回線を繋ぐ。其の間、ユニコーンのプラズマ砲はさりげなくそのサウザーン級へと向けられていた。
暫くのノイズの後、サウザーン級との間に回線が繋がった。画面に現れたのは、まだ若い銀髪の少年だった。

「こちらは戦艦ユニコーンの艦長、白野秋人だ。申し訳ないが現在海賊との戦闘準備中だ。早急に去就を明らかにしてもらいたい」

白野のその問いに対して、少年は臆することなく答える。

「こちらはバルバロッサ艦長のユーリです。僕達もスカーバレル海賊団と戦っています。できることなら協力を願います」

その少年を見て、白野は内心ようやく見つけたと思ったがそれはおくびにも出さずこう答えた。

「いいだろう。人手は欲しかったところだ。俺の弟子が先行している。直ぐにメテオストームに突入して援護するが、着いてこられるな?」

「はい。いけます」

「遅れるなよ」

そう言って、白野は通信を切った。直後、ブリッジクルーに指揮を下す。

「飛び入り参加がはいったが、獲物を譲ってやることはない。狩りまくるぞ。総員、戦闘態勢をとれ」

「「「了解!」」」

クルー達の了解の声を聞き、白野は即座に指揮席に併設されたユニコーンのブースター出力調整ペダルを踏み込む。
それと同時にユニコーンは超加速をかけメテオストームへと一直線に進む。

「突入角度45度。デフレクターを展開せよ」

「了解。デフレクター展開します。出力、メテオストーム対応レベルに上昇」

ユニコーンに搭載されたデフレクターユニットが作動し、船体を青白いバリア・フィールドが覆う。コレのおかげでユニコーンのような巨体を持つ艦船でもメテオストームのような隕石の濁流を乗り越えることができるのである。

「で、そのユーリとかいうのは?」

デフレクターの調整を終えたゲイケットが後部モニターを見ながら白野に聞いた。

「着いてくるだろう。以前、酒場でスカーバレルの別の拠点を軍と協力して潰した若い0Gドッグがいると聞いたことがある。もしかすると、アイツかもしれんぞ?」

そう言って、白野もまた後部モニターを見た。後方からついてくるサウザーン級のバルバロッサもまたメテオストームに対応するためにデフレクターユニットを展開している。

「予定よりもすこし遅れた。急がねばな」

「心配なのか?」

「ああ。奴め、放っておいたら獲物を狩り尽くすやもしれぬ」

「成る程、確かに」

考えてみればもっともな考えであった。



バウンゼィ ブリッジ

一方、ギリアスは白野の危惧した通り敵を纏めて狩り尽くさんとばかりに獅子奮迅の大立ち回りを演じていた。

「遅ぇ!遅ぇ!止まって見えるぜ!」

白野との訓練を繰り返したギリアスには最早動きの遅い船の機動は数手先まで完璧に読み取れた。訓練もロクにしていない烏合の衆であるスカーバレルが相手ならば尚更である。

「…よし、向こうの艦に牽制砲撃。ビビらせてやれ!」

「アイアイサー!」

バウンゼィは海賊船で溢れた宇宙空間をまるで無人の荒野を突き進むが如く猛進していた。そもそもバウンゼィと小マゼラン艦船の間には埋められない差があるのである。相手の性能的有利を封じる戦術もロクに講じていないのでは対抗のしようもなかった。数で攻めようにも、ギリアスの白野直伝の巧妙な戦闘機動に翻弄され簡単に分断、各個撃破の憂き目に合わされておりその総数はみるみる削り取られてゆく。

「化け物め……!」

混乱する通信に、撃破した海賊船の乗組員の断末魔と思しき叫びが交錯する。

「こいつぁ、アイツが来ちまう前に全部潰せっかな?」

「油断は禁物ですよ、艦長」

「おう。わかってらい…んん?言ったそばからお客さんみたいだせ」

ギリアスが言う【お客さん】はファズ・マティからカルバライヤ製駆逐艦【タタワ級】を引き連れて重厚な布陣を敷いてやって来た。
その艦隊の旗艦にはかなり手の入れられた戦艦【ドーゴ級】がその堂々たる姿を見せつけている。
もうロートルに近いと言われており、軍からは姿を消しつつあるというのにその艦形は並々ならぬものをギリアスに感じさせた。

「大物みたいだぜ。お前ら、気合い入れろや」

「了解」

新たに現れた艦隊を正面に捉え、ギリアスは油断なくその構成を分析する。

「旗艦はあのデカ物か…データにあるな?」

「はい。カルバライヤ製戦艦【ドーゴ級】。今までの艦船とは比較にならない装甲と火力があります。データにある標準タイプからかなり改造を施しているようです。データにない行動も取るでしょう。注意してください」

「取り巻きはたいしたことなさそうだが…固そうな形してやがる」

「カルバライヤ製駆逐艦タタワ級です。レーザー防御能力の高いディゴマ装甲を採用しています。壁としては申し分ないでしょう」

「前列の取り巻きを潰すぞ。それから後ろのデカ物とガチンコだ」

「了解」

方針を定めたギリアスが戦闘を開始しようとした時、通信回線にそのドーゴ級から一方通行の通行が入り込んだ。

「 ふん、小うるさいネズミめが……フネの性能が全てを決すと思い込んでおるな?【違い】というものを見せてやろう。お主の死を以ってしてな……」

一方通行なのでギリアスがなにか言い返す前に回線は切れた。

「チッ…また爺さんかよ」

ここ最近のギリアスの戦歴における敵手は黒いファンクス級の艦長の老人などが上げられる。
グルグル回って自滅したアレである。

「今日で後進に道を譲ってもらうぜ、老害が!」

そう言ってギリアスは敵艦に突撃する。

「まずは前列!一斉射撃、用意!」

「射撃パターン入力完了。敵艦相対距離調整終了」

「ぶちかませ!……その後はさがれよ」

一斉射撃後のCTの低下も計算に入れつつ戦うのである。CT管理は単艦で多数と戦う際に必須のスキルである。
相手のCTも予測し、行動によってどの程度CTが残っているか推測し動けないと確信を持った時、必殺の最後の咆哮が炸裂するのだ。

「敵艦に着弾……耐えた!?」

耐久性で劣る駆逐艦であるタタワ級は、なんと驚くべきことにバウンゼィの一斉射撃を耐え抜いたのである。いくらか回避されたとはいえ驚きである。

「後退!集中砲火が来るぞ!」

ギリアスの指示に従い操舵手がすぐさまバックブースターを起動させて後退を行う。迅速な行動により旗艦以外の駆逐艦の射程からは逃れたバウンゼィだったが、ドーゴ級のLサイズレーザーの射程にはギリギリ捉えられていた。

「長距離レーザー、来ます!回避機動!」

「いや、体制を崩すな!立て直す前に詰め寄られる!受け止めろ!APFシールド出力最大!」

「り、了解!」

敢えて敵弾を受け止めることで体制を崩すことなく即時反撃を行おうというのである。肉を切らせて骨を断つ発想である。

「APFシールド最大出力!総員対衝撃シフト!」

レーザーが着弾する衝撃がバウンゼィを襲う。シールドを最大出力で展開したことにより被害は最小限だが衝撃はそうではない。グラグラ揺れるブリッジで、唯一ギリアスは仁王立ちしてその激震に耐え、反撃のためバウンゼィを前進させる。

「さっきのタタワ、最低限のもう一撃で沈むな?」

「はい。耐えたとはいえだいぶダメージを与えたはずです」

「そいつから沈めるぞ。侮っちゃいけねぇ…」

油断なく標的としたタタワ級に砲撃を加える。が、その砲撃がタタワ級にトドメを刺すことはなかった。

「また耐えられました!」

「こいつは……何か仕掛けてやがるな!」

最小限の砲撃といえど、ボロボロの状態で駆逐艦がバウンゼィの砲撃に耐えられるはずもない。この宇宙には魔法など存在せず万物を律する厳格な物理法則が適応されているので、何らかのトリックがあることは確実である。

「敵艦隊より再び砲撃が来ます!」

「種明かしの時間はくれねえか!仕方ねぇ、今は回避に徹しろ!」

「了解しました!」

操舵手はバウンゼィを右に左に動かしてドーゴ級を中心とした艦隊が撃ち出してくるレーザーやミサイルを回避する。完璧には避けきれず所々被弾する。が、バウンゼィの装甲を削り切るだけのダメージではない。許容範囲である。

「構わねえから撃てと言いたいがよ…どうもトリックを破らねぇとデカ物に辿り着く前に削られちまうようだぜ…」

バウンゼィが距離を取ると、敵艦隊は追いかけてこず位置を固定して完璧に迎え撃つ構えをとっている。しかも更に都合の悪いことに損傷したタタワ級が後ろに下がって応急隊によって緊急修理を受けているではないか。これでは数に劣るギリアスはゾンビアタックじみた延々と続く攻撃に晒され最後にはスタミナ切れでダウンさせられてしまう。

「そもそもなんであんな装甲の薄い駆逐艦が耐えられるんだ?」

「数発外しましたがされでも確実に有効だったはずです。恐らくは【鉄壁の布陣】などで防御力を補っているものと思われます」

「指揮関係のアレか…」

「正攻法で行ってもアレで耐えられて反撃の集中砲火が来ます。それを警戒して下がればあの様に修理し、堅陣を維持するのでしょう。集中砲火を覚悟で一隻沈めても残り三隻の駆逐艦と戦艦から袋叩きにあうとあうわけです」

「成る程な…やるなら一撃で仕留めて直ぐに下がって体制を立て直す…そんな感じになるってか。【最後の咆哮】なら一撃でやれるな」

「それで一隻ずつ、確実に仕留めて行きましょう」

「おし、決まりだな。それで行くぜ」

対策を立てたギリアスは再びバウンゼィを敵艦隊に接近させる。今度の標的も、散々バウンゼィに撃たれてまだ沈んでいないしぶといタタワ級である。
横合いに回り込まれて撃たれないよう、ドーゴ級や他のタタワ級を慎重に警戒しながらギリアスの【最後の咆哮】が炸裂する。
溜め込んだCTを全て使い尽くす勢いで放たれた一斉砲撃は、鉄壁の布陣を敷いていたタタワ級を割とアッサリと粉々に粉砕することに成功した。

「急速後退!」

すぐさま反撃を受けないよう後退をかける。しかし、それは向こうも想定済み。前進して追いかけて来る。なかなか距離を離せないでいると、反撃の砲撃が襲いかかる。

「チッ…ここまで来たら小細工は抜きだ!てめえら、ありったけのレーザーとミサイルを、奴等に叩き込め!」

覚悟を決め、足を止めての殴り合いを始めるバウンゼィ。敵艦隊も鉄壁の布陣を使う余裕があったら攻撃に回す方を選んだ様子でバウンゼィ相手に苛烈な砲撃を繰り出し始める。小マゼランの艦船としては十分すぎるほどの砲撃密度である。
レーザーとミサイルを垂れ流すように撃ちまくるバウンゼィは、更に二隻のタタワ級駆逐艦を血祭りにあげ残すはラスト一隻のタタワ級と旗艦のやたら改造されたドーゴ級のみである。
しかしバウンゼィも無傷ではなく半壊状態である。足を止めて殴り合うことで敵を攻撃せざる負えない状態に引きずりこみ実質的に鉄壁の布陣を封じることはできたが代償は大きかった。

「だがよ…これで終わりだぜ!」

更なる撃ち合いの末、バウンゼィのミサイルがタタワ級の鱗状ディゴマ装甲を食い破り内部で爆発。速やかにタタワ級をインフラトンの火球に変えてダークマターへと還元する。

「へへへ……こいつでサシの勝負だぜ」

ファズ・マティ前方の宙域はもはや酸鼻を極める状況である。いたろところで爆沈されたスカーバレル海賊船の残骸が漂っており宇宙墓場もかくやといった死の気配が濃密に漂っている。
そんな中で、未だに光芒を放つバウンゼィとドーゴ級。決着はつこうとしていた。



ファズ・マティ内部 大広間

「申し上げます!ファズ・マティ前方の宙域に襲撃がありました!」

「ホァァ!?襲撃!?それは本当かネ!?」

スカーバレルの幹部達が集うファズ・マティ最深部の大広間では、駆け込んで来た下っ端海賊がこの幹部総会を取り仕切っていたアルゴン・ナバラスカに敵の襲撃を報せていた。

「常駐していた下っ端どもが迎撃に当たりましたが一蹴され、今はロデリック様がお一人で対抗なさっています。至急救援を!」

「ええい、見張りはナニをやっていたんだ!怠慢だヨ!」

本来ならばメテオストームの近くに配置した見張りがいち早く敵の接近をファズ・マティに伝え、ファズ・マティ内部にある潤沢な戦力を周辺の隕石群に隠して不意打ちと迎撃の体制を完璧に整える手筈だったのである。
アルゴンは大急ぎで立ち上がり手下に迎撃指示を出し始める。他の幹部達もすわ一大事と各々手下を集め始めた。

「ぬうう、襲撃だとぉ!?」

アルゴンの後ろから大股でやって来たのは同じくスカーバレル幹部のバルフォスであった。老海賊ロデリックの助力によりスカーバレル内部でのメンツの確保とおニューの船を手に入れた彼にとってロデリック老人は頭の上がらない相手である。
その彼が下っ端とはいえど艦隊を一蹴した相手に一人で対抗しているとなれば借りを返す絶好の機会である。

「直ぐに出る!皆の者、集まれい!」

大声で大広間各所に散って幹部のコンパニオンを務めていた手下達を呼び集める。
ギリアスにとっていささか不都合な事態になりつつあった。



スカーバレル海賊船 ドーゴ級戦艦【ゴライアス】

先程からギリアスのバウンゼィ相手に小マゼランのロートル戦艦で善戦しているスカーバレルの老海賊ロデリックは、敵手の強さを認識しつつも後退する訳にはいかない状況に追い込まれていた。
この敵手である赤い大マゼランの巡洋艦は巡洋艦とは思えぬ性能を持ち合わせており、更に最悪なことにその艦長は紛れもない腕利きのようであった。
彼の何時もの戦法、鉄壁の布陣と応急隊を合わせて被害を最小限に止めつつチクチクと削り取るというやり方は、相手の強力な全砲斉射である【最後の咆哮】によって前列を勤めていたタタワ級駆逐艦が穴だらけにされた挙句吹き飛ばされた時点で破綻している。接近されて足を止めた回避を無視する愚直な殴り合いに引き摺り込まれたのだ。
呑気に後退や鉄壁の布陣や応急隊を使っていては回復力を上回る威力の最後の咆哮が飛んで来てロデリック自身が最後の咆哮を上げることになるだろう。

「デキる…かつてないほどに…」

老人のしわが刻まれた額に汗が張り付く。不愉快な油汗を拭い去る暇も与えず、バウンゼィからの砲撃が飛んできた。
ロデリックは回避で対応する指示を出す。

「堪えるのだ!じきに要塞より援軍が来る!」

実のところ、このままでは千日手である。此方が状況を打破すべく行動を起こせば、そこを起点に反撃で一気に形勢が決められてしまいかねない。最早要塞より援軍が来るのを耐えて待つしかない。

「ボス、来ました!」

「おお!間に合ったか!」

ゴライアスのレーダーが、ファズ・マティからやって来る幹部達率い艦隊を捉えたのと、バウンゼィのレーザーがゴライアスの船首の上下に伸びた砲塔ユニットを吹き飛ばしたのは同時であった。
激震。そして光の明滅。ロデリック老人は自分の体が床から引き剥がされブリッジの宙を舞うのを自覚した。
直後、一瞬で上に向かっていた浮遊感はかき消されしたに向かった落下の実感が取って代わる。さして床に叩きつけられた。

「グオッ!?…ゴフッ…」

しかし、叩きつけられただけの彼はまだマシだったろう。バウンゼィの砲撃の被害はブリッジにまで及んだらしく、内部の彼方此方で深刻な被害が発生していた。

「あべし!」

ある者は爆風で飛んできた何処かの設備の破片の金属板に体を真っ二つに切り裂かれ、内臓をドボドボ溢しながら上半身と下半身が別々の方向に倒れる。

「ひでぶ!」

またある者は排熱異常で赤熱したブリッジの壁面に叩きつけられ、生きたまま丸焼きにされる。
地獄絵図が現出したのはブリッジの内部だけではない。艦内各所では、閉鎖される隔壁の向こう側に逃げ込もうとして間に合わず、伸ばした腕を降りてきた隔壁に切断された者や外壁に入った亀裂から真空の宇宙空間へと吸い出される者もいた。
宇宙空間での艦隊戦だろうが地上での白兵戦だろうが、戦いから血と苦痛と死のトリオが離れることはない。



バウンゼィ ブリッジ

敗者たるロデリック老人がゴライアスのブリッジで這いつくばり、迫り来る死との追いかけっこを始めた頃、勝者であるギリアスもさして有利な状況にあるとは言えなかった。

「…やったか?」

「はい。敵艦、完全に機能停止しました。爆沈してはいませんが動けないのは確実です」

「おーし、次はファズ・マティ…と言いてえところだが、随分手酷くやられちまったな。連戦は無理か」

「状況を考えて、後退してユニコーンと合流したほうがいいでしょう。ミサイルが弾切れですし」

「仕方ねぇな。今ここで次のが来てもまともにやりあえねえし」

ボロボロの状況でファズ・マティに突撃するほど愚かにはなれないギリアスは後退を開始した。その数秒後にギリアスは自身の判断が正しかったことを知る。

「ファズ・マティより大型艦艇接近!」

「ヤッパリなぁ!お前ら、ぼさっとすんじゃねえぞ!とっとと尻尾巻いて逃げやがれ!」

「アイアイサー!」

バウンゼィは急速反転すると脱兎のごとくという表現にピッタリの超高速で逃げ出した。

「追っ手は来ないようです」

「おーし、そんなら今のうちに逃げまくれ。追いつかれた面倒くせえことになるぞ」

追っ手が無いのは相手から距離を離す絶好の機会である。白野から受けた教えの中にそんなのごあったことをギリアスは思い出していた。



ユニコーン ブリッジ

ユニコーンと、急遽その随伴となったユーリ少年のバルバロッサはデフレクターの効果により何事もなく危険地帯であるメテオストームを乗り越えることに成功していた。レーダーの反応によればギリアスは相当派手に暴れたらしく、いたるところに艦船の残骸や強烈なエネルギー兵器の残留熱反応が確認される。

「凄い…」

これをたった一隻でやったのか、という感情が通信画面のユーリ少年からありありと伝わって来る。

「ふむ、これは狩り尽くされたか?」

白野としてはこの程度は出来るだろうと思っていたが、彼の倒す敵艦がいなくなってしまったのは少々残念である。主にジャンクの売却的な意味で。
急ぎ足で遠くに見えるファズ・マティへと向かっていると、その下手人たるギリアスのバウンゼィがボロボロになって戻ってきたのを確認した。何事かと通信を繋ぐ。

「ギリアス、随分派手にやられたな。どうした?」

「いや、なかなか手強い奴がいやがってな。潰したには潰したがこっちもボロボロだぜ」

「無理はするなよ。それで、どの程度削った?」

「周りにいた奴はあらかた沈めたがよ、またぞろ要塞の中から厄介そうな奴等が出てきやがった。追ってはこねえがどうもきな臭せぇ」

「応急修理でもしながら下がっていろ。予定は変わるが後は此方で引き受ける」

「すまねえな。……それより、そこの巡洋艦はどこのどいつのだ?」

「ん?ああ、ユーリとかいうお前と同じくらいの歳の0Gドッグだ。目的が同じなので連れてきた。通信、繋ぐか?なかなか遣り手のようだぞ」

「そいつは面白そうだ。そんじゃ、頼むぜ」

ユニコーンの通信を経由してバウンゼィとバルバロッサの通信が繋がる。

「よお、ユーリって言ったか?俺はギリアス。スカーバレルを潰すってんなら手伝うぜ」

「ありがとう、ギリアス。正直一人じゃ心許なかったんだ」

「ま、気にすんな。ちゃっちゃとやっちまおうぜ」

気が合いそうで、結構なことである。
白野はユニコーンをファズ・マティへと向ける。ギリアスの話によればまだまだ敵艦はいるようで、派手な宴会が楽しめそうであった。



重巡洋艦バゥズ級

ファズ・マティより緊急発進したバルフォスのバゥズ級は、あと一歩という所で戦闘を継続していたロデリック老人のゴライアスへの参戦に間に合わず、かの戦艦は敵手の砲撃で船首を吹き飛ばされ、轟沈寸前といった風情である。

「ロデリック老がやられたとな!?」

「ハッ!現在救助隊を大破したゴライアスに差し向けておりますがあの状態では…」

「グヌヌ…ならばせめて下手人を討ち取ってくれる!追撃だ、追撃せよ!」

「了解…バルフォス様、アルゴン様のゲル・ドーネより通信が!」

「何、繋げ!」

指揮席のモニターに義兄弟のアルゴンの萎びた顔が映る。アルゴンも乗艦のミサイル艦であるゲル・ドーネ級に乗って不届きなネズミを狩るために出陣していた。

「バルフォス、追ってはならんヨ」

「止めるなアルゴン!奴を討ち取り、ロデリック老の復讐を果たすのだ!」

復讐に逸るバルフォスを、しかし狡猾なるアルゴンは引き止める。

「まあ落ち着いて考えるといい。ロデリックの爺さんがやられたほどの相手だヨ?まさか一人で行って勝てると思うのかネ?」

言うまでもない、その相手ことギリアスのバウンゼィが完調ならバルフォスどころかアルゴンと束になって手下を率いて襲いかかっても正面から馬鹿正直に攻めれば返り討ちにあること必定である。
しかし、今のバウンゼィは予想以上にロデリック老人が粘りダメージを与えたのでボロボロである。急いで追いかけ、犠牲を厭わず捨て身の攻撃すればもしかするとバルフォス一人でも勝てるかもしれない。
だが、少しでも間に合わなければ恐怖のランカーこと白野とユーリ少年の二人組という損傷無しの化け物が戦線に参加する。
そこまでのことは無論知りようもないが、アルゴンは攻めてきた一隻の巡洋艦の他に敵がいる可能性を考慮したのである。
攻めてきた赤い巡洋艦により、初期の間にファズ・マティ周辺に配置していた艦隊は原型をとどめないほどバラバラにされている。この上幹部でありスカーバレルでも一二を争う腕のバルフォスが突出して倒されてしまうとスカーバレル海賊団は集団として機能しなくなる。スカーバレル海賊団という巨大なネームバリューがあるからこそエルメッツァの内外で対した実力もない下っ端海賊達も相手を萎縮させて暴れられるのである。海賊団本拠地が潰れたとなれば、海賊問題に頭を悩ませていたエルメッツァ政府のお偉方も歓喜して思い腰を上げ、海賊殲滅に乗り出し政権の支持率を高めようとするだろう。
そうなっては下っ端の収奪してきた物資で甘い汁を吸っているアルゴン達幹部にとってよろしくない状況となる。

「今追ってはロデリックの爺さんの二の舞になるだけだヨ。ここはボロボロの艦隊を立て直して待ち伏せした方がいい」

「ぬう…」

バルフォスも恩あるロデリック老人の復仇を果たしたい気はあるものの、手下達の艦隊が完膚無きまでに叩き潰されたとあっては無関心というわけにもいかない。それに、彼の冷静な部分はアルゴンの主張の正しさを認めており今またその赤い船に押し込まれたらなにもできずに海賊団自体が瓦解するという最悪の未来図さえ浮かんでいた。

「………仕方なし、か……ええい、忌々しい!」

ゴン!と指揮席のパネルに苛立ちを含んだ拳を叩きつける。どうにもうまくいかないことばかりである。
ラッツィオでは小僧にしてやられ、中央のファズ・マティまで逃げおおせ、幹部達と我が世の春を謳歌していたら次はコレである。おまけに恩ある老人も倒されてしまった。おニューの船を手に入れたことと差し引いても収支計算で赤字になる程度の不運が彼を襲っている。
だが、いつまでも不幸を嘆いていても始まらぬ。対応策を練らねば不幸を嘆く必要もない場所に送られること請け合いであるから、アルゴンと他の幹部達の旗艦と通信を中継して作戦会議を行う。
まず第一の疑問としてどうやって迎撃体制が整う前に攻撃を仕掛けることができたのか、ということが議題に上がった。
ファズ・マティは拠点を持てぬ無頼漢である海賊達が補給や整備を完璧に行える場所を求めた結果作り出された人工惑星である。内部は手狭で唯一ある軌道エレベーターを降りた近くにある施設がファズ・マティの宇宙港以外で人間の活動できる空間である。後は酸素を生み出すための水耕プラントなどがスペースを占有している。
むさ苦しい醜男共のラストリゾートといったところだ。それ故、防御手段は無数に用意してある。
まず、外界とファズ・マティとを隔てるメテオストームの近辺に交代制の見張りを立てる。敵がやってきた際に接近を迅速に報せるため途中の航路には隕石に偽装したIP通信中継装置がばら撒かれておりエクシード航法全開で突っ込んでくる敵がいたとしても到着前に迎撃準備を整えることができる。

「どうやって気付かれずにこのファズ・マティまで接近したのだ?」

「ふムン…見張りとの連絡はついてないヨ。やられたか、逃げたか…どちらにせよ襲撃方向からしてメテオストームを通ったことは間違いない。待ち受けるならその辺りだろうネ」

幹部達の記憶するところによれば、最新の見張り担当はドミニコとかいう下っ端である。あまりやりたがらない見張りという任務を快く引き受けた辺り胡散臭く感じる。通信する時間も与えられず倒されたか、はたまた裏切り者だったのか…



海賊船デスペラード号

さて、その懸案の見張り担当ことドミニコとキトのコンビは拠点の危機に際してなにをしていたのだろうか?
幹部達の予想通り逃げたか、意表を突いてエルメッツァの回し者だったのか?
残念ながらどちらも違った。

「グオォォ……ゴガガガ……スピッ……」

「グオー…グオー…」

濃密なアルコールの臭気がデスペラード号のブリッジに充満している。体内で分解され精製されたアセトアルデヒドの匂いもキツく、そにれ隠し味のスパイスとばかりに吐瀉物の匂いがほんのりとかほる。
要するにコンパニオンの任務から解放されたのち酒浸りになったのである。だらしねぇことである。が、やって来たギリアスに余計なちょっかいを出さなかったので生き延びることができた、ともいえる。

「………だああ……もう飲めん…」

壮絶な寝言を言い、ドミニコは立ち上がった。そして、足元に転がっていた酒瓶を踏み付けて転倒。頭を床にぶつけて再び意識を闇の彼方へと旅ださせてしまった。だらしねぇ
一方、その腰巾着のキトはブリッジの隅っこの方で酒のツマミのジャーキーを食っていた。

「職務怠慢は蜜の味でゲス」

幸いにもこの二人はバウンゼィの接近にもユニコーンの接近にも気がついていない。気がついていたら功名心から攻撃するか、ネージリンスの件もあるので尻尾を巻いて逃げるかの二択であったろう。
なぜ気がつかなかったかと言えば純然たるレーダーの性能不足である。何の事は無い、積んでいるレーダー管制室がLevel1の貧弱仕様だったのだ。金がなく、最低限コレしか載せられなかったのである。かくも金欠は人類の敵である。
だが、通信は入ってきている。主にバウンゼィ襲撃後に泡を食った味方から「どうなっている」とか、「なにをしている」、とかいう内容の悲鳴が。
しかし、だらしねぇことに酒盛りに夢中で後にしとけと味方の悲鳴は黙殺されたわけである。
それが、まあ、この際は二人の命を救うこととなった。
酒瓶を踏み付けて転んだドミニコが意識を取り戻し、味方からの通信要請が百通ほど溜まっているのを見て顔を青くし、更にはファズ・マティの惨状を知ることとなったのはその十二時間後である。



ユニコーン ブリッジ

「さあ、来てやったぞ。ショータイムだ」

白野はユニコーンのブリッジで戦闘指揮を執りながら傲然とそう言った。彼の目には、並み居る海賊船が全てまるまる太った七面鳥に見える。
しかし、敵にも牙があれば相手を奸計に掛ける頭脳もある。七面鳥を狩る時でも全力を出すのが自身と敵に対する白野なりの礼節であった。

「ファズ・マティ及びスカーバレル艦隊を確認。数十隻の水雷艇と旗艦クラスの重装巡洋艦も数隻確認した」

「よろしい。相手に不足は…ややあるかもしれんがあの数だ。暇にはならんだろうよ」

そう言いながら、白野は隣を並進するユーリ少年のバルバロッサを見る。特に戦術上の打ち合わせをしたわけでは無い。お互い0Gドッグ。好きなようにやるのが一番いい。
バルバロッサはユニコーンからの並進ルートを外れ、ファズ・マティ左側へと向かっていく。
レーダーのスキャンによれば、バゥズ級が護衛を引き連れ防衛線を敷いていた。
成る程、ユーリ少年の狙う敵はそのバゥズ級であるらしい。乗っているのが誰だか知らぬが少なくとも酷い目にあうことは確定したようなものだ。

「ふむ、左をとったか。ならばこちらは右とするか」

ファズ・マティの右側空域には、ミサイル装備特化タイプの巡洋艦ゲル・ドーネ級が随伴の水雷艇共々ミサイルコンテナを全開にして歓迎式典の準備を完了させていた。感動の涙で溺死しそうな熱烈なお出迎えである。
ならば、血の匂いが濃厚に漂う物騒なパーティの招かれざる主賓である白野としてはパーティ開幕の宣言をせねばなるまい。

「オッケイ……レッツパーリーだ…ククク…」

そう言った時の白野の顔は完璧に悪人のソレであった。

「艦載機、発進せよ」

ビシッとポーズを付けて出撃指令でもだせば絵になったかもしれないが、生憎白野に戦闘指揮の最中にカッコつけて隙を晒すような趣味はない。ごく普通にカタパルトで待機している艦載機部隊に艦内通信で出撃指令を出したのみである。



ユニコーン カタパルト

「出撃指令が出た…!」

同時刻、カタパルトでジェガンに搭乗して待機していた艦載機部隊の隊長、レイアムは艦長からの指示を受けて俄かにその身を震わせた。
ネージリンスで白野に雇われてから既に数週間、行く先々で艦船同士の戦闘はあったものの搭乗機体であるジェガンの操縦経験に劣る新米達を鍛え上げていたという事情とジェガン自体のデータ不足もありそれに参加する機会はなかったもののついにその機会が巡って来たのである。

「総員、出撃だ!」

「了解!」

レイアムの招集を受けた隊員達が次々と集まりジェガンのメインシステムを待機モードから戦闘モードへと切り替える。
遂に実戦ということで隊員達も気分が逸っているのだろう。
しかし、それを厳しく嗜める者もいる。

「いいか、決して油断するな。戦場では一秒の余所見が死を招く」

と言ったのは艦載機部隊のもう一人のエースパイロットであるカトーだった。彼は特に新米達に対してスパルタ教育を施し鬼軍曹の異名を軍人でも無いのに獲得している。どちらかというと軍曹なのはもと軍人のレイアムなのであるが。
ともかく、レイアムによる簡易的なブリーフィングが始まる。

「作戦目標は敵艦隊前衛を務める水雷艇だ。情報によれば敵艦隊に艦載機及び対空兵装はない。砲門の前に出ず距離をとって攻撃をしかければ撃墜される心配はない。艦長、初仕事に白星を取れるお膳立てをしてくれたようだ。ぬかるなよ」

そう言って、コクピットに入り込みジェガンをカタパルトのレールに移動させ、脚部を射出装置に固定させる。

「レイアム・ロー、出撃する!」

「こちらカトー、出撃する!」

こうして、二人の隊長に率いられたジェガン部隊は初仕事を白星で飾るために出撃していった。

続く 
 

 
後書き
ギリアスは一時戦線離脱。
ほら、バウンゼィってゲームじゃチート極まるアレだけど小説でまでチートだったらなんかつまんないし
次回は艦載機が暴れまわる!
ユーリ少年は初めて人を斬る 
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