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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第二話 承知済みの初対面

/Fay
 水路から研究所の外に出たわたしとパパは、建物の隙間から隙間を縫って慎重に、イラート海停まで行った。
 行った、つもりだったんだけど。


『そこの二人、待て!!』

 ……パパと仲良く兵隊さんに見つかって、囲まれちゃいました。

 どうしよう。船乗り場はすぐ目と鼻の先なのに。

(ジュードとミラさま、ここで捕まっちゃったなんて事)
(ないだろう。でなければあのジュードとミラの関係が成立するはずない)
(だよね……じゃあ)
(強行突破する。付いて来い、フェイリオ)
(はい)

 パパとわたし、同時に動いた。

『両名にはSランク級の逮捕状が出ている。軍特法により応戦許可も出ている。抵抗しないでほしい』
「フェイリオ、防げ」
「はい、パパ」

 衛兵さんが持ってる仕込み杖から炎の算譜法(ジンテクス)が放たれた。わたしは水の術式陣を垂直展開して炎を全部消火した。

 煙が晴れる。パパが武器に選んだのは銃。両手に構えるや、衛兵さんたちの武器を持った手元だけを正確に打ち抜いた。
 やっぱりパパはスゴイ。一族で一番強い〈ヴィクトル〉になるだけの事はある。

 次はわたし。パパが稼いだ時間はほんの数秒。でも、フェイには充分。だって、フェイは〈妖精〉だもん。
 パパの狙撃で怯んだ衛兵さんの前に、電気で出来た大剣を落とした。
 電気の剣は電磁波のドームになって、衛兵さんみんなを感電させて気絶させた。

 パパが船に向かって走り出す。決してわたしを呼んだりとかしない。わたしも何も言わないでパパを追っかけた。

 積み荷の木箱の上をぴょんぴょん行っちゃうパパ。フェイにはできないから風の微精霊に押してもらって木箱の上を走る。もうパパは船に飛び移ってっちゃった。


 はぁ、はっ――待ってパパ、フェイをおいてかないで。


 ぐわし。……ふぇ!?

「しゃべるなよ、舌を噛む」

 あわわ。口を両手で塞いだ。
 その人はわたしを肩に担いだまま、モモンガみたいに跳んだ!
 ~~~~~~~っっヒメイ、でも、ガマンだわたし!

 ダン!! わたしとその人は無事に船のデッキに着地した。

「ま、こんなもんかね」

 す……すごいすごいすごーい! この人、自分のジャンプ力だけで出航する船に飛び移っちゃった。一体どんな、ひ、と……

「ん? 何だお嬢ちゃん。今ので俺の魅力にヤラれちまったか?」

 アルヴィン、だ。
 わたしが知ってるアルヴィンより若いし髪短いしおヒゲないけど、分かる。この人はアルヴィンだ、アルヴィンだよ!

「フェイリオ」
「っ、ぁ」

 アルヴィンがいてくれなきゃ離れ離れだったのに、パパはわたしを引っ張ってくれなかった。
 もちろんパパは〈妖精〉のチカラ知ってるから、大陸と大陸に隔てられたって、わたしがパパを追っかけて行けるって知っててそうしたんだろうけど。胸、ちくって、するよ。

 ひゃ!? アルヴィン、何するのっ。急に押さないでよ。パパにぶつかるとこだったよ。

「親父さん、ダメでしょー、娘さん置き去りにしちゃ。可哀想に。すっかり萎縮しちゃってるぜ」
「君、は」

 あ、パパも気づいた。アルヴィンがアルヴィンだって。気づいて、一瞬でキモチ全部、お面の下に隠しちゃった。

 そういえば、パパにとっては2回目なんだ。トモダチだったみんなの昔に出会うのは。

 お姉ちゃんと家に帰った時、パパはこれっぽっちも揺れたりしなかった。でも今は、ちょっとだけど、アルヴィンを見て揺らいだ。

「俺はアルヴィン。しがない傭兵だよ。おたくらは?」
「ヴィクトルだ。こちらはフェイリオ。フェイリオ=マクスウェルだ」
「……へえ」
「それで、傭兵のアルヴィン。私たちに何の用だ。あの状況では普通助けないだろうに」

 フツウ、タスケナイ。

 息が詰まって何も言えなかった。何も言えないで、わたしはパパとアルヴィンから逃げ出した。






/Victor

 フェイリオはいつのまにかどこかへ消えたので、アルヴィンと二人、船長の尋問を受けるハメになった。

 それが終わってからも、しばしアルヴィンに声をかけあぐねた。

 こんな早くに、ジュードはアルヴィンと出会っていたのか……

 歳が若くとも見紛うはずがない。背格好、声、笑い方。もう一人の兄さんだとさえ想っていた、「俺」の大事な――私が殺した友人の一人。


「おたくら、ひょっと訳アリ? さっき船長に父娘って言ってたけど、あれウソ?」
「想像にお任せするよ」

 かつてはフェイリオとの繋がりを憎らしくしか感じなかった。今は、同じ血が流れてるものはしょうがない、程度には割り切っている。元はといえば私が蒔いたタネなんだ。あれだけを責めるのも筋違い――か。

「それより質問に答えたまえ。何故あれを助けた。私たちが軍に追われていたのを見ていないとは言わせないぞ」
「だからこそよ、ダンナ。あんたらみたいなのが軍に追われてるってのは相当ヤバイ境遇だ。そいつを助けたとなりゃ金をせびれるだろ?」

 そういう謳い文句で逃亡中のジュードたちに言い寄ったわけか。

「すまないが急な出立だったのでね。傭兵を雇えるほどの金はない」
「じゃあ『値打ちもん』があればそいつでもいいぜ」

 ふむ。値打ち物、か。

「こういう品なら持っているが」
「? 懐中時計? いやにテカテカしてんな」
「純金製だからな」
「はあ!? ……あんた、どこのボンボンだよ」

 エレンピオス市場最大手、クランスピア社元社長だ。

「価値は保証しよう。ただし、報酬ではなく雇用契約の証文代わりとして受け取ってもらいたい。父親の形見なものでね。報酬自体は工面でき次第支払おう」
「んな大事なもん、よく会ってすぐの流れ者に渡せるな」
「君なら問題ないと判断する」

 アルヴィンの掌に黄金の時計を落とす。

 ――己の実力は己がよく知っている。魔物や兵士なら私は骸殻を使わずとも退けられる。これを手放しても問題はない。

「ま、確かに。ほんじゃヨロシク、新しいご主人様」
「期待しているよ。アルヴィン」
 
 

 
後書き
 アルヴィンとの2度目の出会い。ヴィクトルとしてなので、話はさくさく進みます。 
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